閉じる

報告書&レポート

2014年8月21日 ロンドン事務所 森田健太郎
2014年35号

南アフリカにおける鉱業法改正の動向と課題~Access Africa Mauritius 2014参加報告(3)~

 2014 年6 月24 日~25 日、モーリシャス・バラクラバにてMines and Money主催の「Access Africa Mauritius 2014」が開催された。本稿では、南アフリカにおける鉱業法改正の動向と課題に関する講演について、概要を紹介する。

講演「南ア・鉱業法改正の行方について」

(南ア鉱業協会、Michael Solomon氏)

【鉱物石油資源開発法の改正の経緯】

 南アフリカには、世界のベストプラクティスに合致しつつ国内の政治・経済的優先事項に順応できる先進的な鉱業法の体系がある。今や国有化の議論はないが、労使関係のような深刻な課題が投資家の注意を引いている。

 2012 年12 月27 日、南ア政府は鉱物石油資源開発法(The Mineral and Petroleum Resources Development Act : MPRDA)の改正法案を承認した。同改正法案は2014 年4 月に国会及び各州評議会によって承認された。ただし議論の余地が大いに残っているため施行日が決まっていない。

【ラマスホディ新鉱業大臣が改正鉱業法の留保を要請】

 同法案は、もともとは2004 年に公布され鉱物石油資源開発法の表現上のミスや公布以降の実務的な不具合を解消するためのものだったが、いくつかの劇的な修正が産業界に深刻な影響を与える恐れがあり、未だ大きな未解決事項が残っている。新たに着任したラマスホディ鉱業大臣は同法に個人的な懸念を表明し、それらの懸念が解決されるまで施行を留保するよう、ズマ大統領に要請している。鉱業税については2014 年内に見直される予定である。

【先願主義条項の削除】

 第9 項の先願主義条項が削除されている。現時点では、既に受理された申請書に基づいて先願主義が適用されている。したがって、先に来た申請が受理されるまでの14 日間は先願主義に空白が生じている。この間に第三者が申請し受理を要請することができる。

【許認可スキームが大臣招聘スキームに変更】

 第9 項の許認可スキームが大臣招聘スキームに置き換わっている。この条文は、ある企業がリモートセンシング等の技術によりポテンシャルを有する鉱区を特定した場合、第三者が大臣にアプローチして同者を招へいするよう要請できるようにしている。

【鉱業権の移転には大臣同意が必要】

 第11 項で、あらゆる鉱業権の移転に大臣同意が必要となっている。この改正により、上場企業の支配的持分の変更に当たって大臣同意が必要となるため、証券取引所の規制と齟齬をきたす。この条文において、鉱業権の定義は何か、上場企業と非上場企業の区別、持分とは上場企業のものか非上場企業のものか、一株でも手放すためには大臣同意が必要なのか、明らかにはなっていない。大臣が当該大臣同意の諸条件(terms and conditions)を策定することとなっているが、あまりにも多くの裁量が大臣に委ねられている。

【寡占の恐れがあれば許認可されない】

 第17 項で「権利の集中」と「資源の集中」を規定している。この条文は、特定の申請者が既に鉱業権を保有している場合、追加的な権利を与えることが申請者の寡占(dominant)を招き、ひいては競争を阻害する状況を想定している。そのような競争を阻害する状況に至ることが明らかな場合、大臣は新たな権利を与えることを拒否しなければならない、とされている。この条文は、もともとは探鉱権(prospecting rights)だけに適用されていたが、鉱業権全体(mining rights)に適用されることとなっている。そのため、探鉱段階で費用と努力を傾注するほどに鉱業権を取得できない懸念が高まる。また「特定の申請者」「独占禁止行為を構成」の定義が明らかでなく、既に寡占となっている事業者のうちどこまでが適用されるのかも明らかではない。

【特定地域の社会経済的事象への注力を指示】

 第23 項で、大臣は鉱業権の保有者に特定地域の社会経済的事象に注力するよう指示する、となっている。この条文については、明らかに解釈上の問題が生じている。特定地域とは何かが明らかでなく、あまりにも多くの裁量が鉱業権を付与する大臣に委ねられている。

【高付加価値化を再定義】

 第26 項で、高付加価値化(beneficiation)を「鉱物石油資源を大臣が別に定めるベースラインよりも価値の高い製品に変形・高付加価値化(beneficiation)すること」と再定義している。この条文は、大臣が特定の鉱物あるいは石油について高付加価値化されていると判断する付加価値の割合を決定できることを意味する。また大臣が国家発展の責務に鑑みて地域の高付加価値化に必要な原材料の価格の権限がある(has jurisdiction)ことを意味する。この条文は市場原理と相反する。また変形や価値付加が具体的に何を指すのか、例えば石炭の洗浄は変形か価値付加か明らかではない。

【国内の安定供給が必要な鉱物資源を指定】

 第26 項で、大臣が国内の戦略的目的及び地域の高付加価値化のため供給の確保を図るべき鉱物資源を指定できる、とされている。そして指定鉱物資源にかかる全ての生産者はその生産物の一定割合を工場出荷価格で地域の高付加価値化業者に提供しなければならない、とされている。この条文は、指定鉱物資源に適用されるのか生産者に適用されるのか、明らかではない。

【石炭を指定鉱物資源として宣言】

 第26 項で、大臣には石炭を指定鉱物資源として宣言する優先権があるが、その量や価格については石炭生産業者と協議しなければならない、とされている。そして地域消費のために残しておくべき石炭の量について生産者と大臣が合意に至れば、鉱業権を順守して第三者による輸出をしない限り、輸出のための追加的な許認可は不要とされている。

【残渣堆積物の定義を改正】

 「残渣堆積物」(residue stockpile)」の定義が改正され、鉱物石油資源開発法が公布された2004 年以前に発生した過去の鉱山や残渣の山が含まれることになっている。これは、探鉱権・鉱業権の申請者が、例え既に操業されていなかったとしても、過去の鉱山に係る全ての原状回復、安全・健康の義務を負うことを意味する。

【主産鉱物と随伴鉱物を概念整理】

 同一鉱床で異なる鉱物資源がそれぞれ法的許認可を得ているケースが数多くある。改正法では、主産鉱物(primary mineral)と随伴鉱物(associated minerals)に概念整理し、随伴鉱物とはそれを生産することなしに主産鉱物を生産することが不可能な鉱物資源と定義している。しかし、同一鉱床について異なる鉱物資源の鉱業権が同時に申請された場合を想定していない。同一鉱床について二次産物の方が先に権利を有している場合について想定していない。異なる鉱床にあっても、それを生産することなしに主産物を生産することが不可能な鉱物資源について想定されていない。

【閉山証書は無意味に】

 第26 項で、閉山証書の発行にかかわらず、鉱業権の保有者は永久に法的責任を有し閉山証書の発行から20 年間は原状回復のための資金提供をしなければならない、とされた。閉山証書の発行は今や無意味となった。

ページトップへ