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報告書&レポート

2014年11月6日 ロンドン事務所 竹下聡美
2014年45号

ニッケル需給予測、2015年に2.6万tの供給不足に転じる-2014年秋季国際ニッケル研究会(INSG)報告-

 2014 年10月13日~14 日、リスボンにて国際ニッケル研究会(INSG)の秋季定期会合が開催され、INSG加盟国や産業団体、企業、専門家等の約60 名が参加した。第49回目にあたる統計委員会では、世界のニッケル鉱石生産、一次ニッケル生産及び一次ニッケル消費に係る2014 年見込み及び2015 年の予測値について、加盟国から提出された数値をベースに参加者により検証が行われた。本稿ではINSGによる2015年までの需給見通しについて報告する。

1. 需給バランス―2015年に供給不足へ転換―

 表1のとおり、一次ニッケル生産量と一次ニッケル消費量との差分である需給バランスについて、2013年の供給余剰幅16.3万tは2014年には1.1万tまで縮小し、2015年には2.6万tの供給不足に転じると予測した。インドネシアのニッケル鉱石禁輸を受けて、最大輸出相手国であった中国は十分な鉱石原料を確保できず、中国のニッケル銑鉄(NPI)生産が落ち込むと見通した。一方で、中国では相当量の鉱石を在庫として積み上げていること、またフィリピンからの鉱石調達により、インドネシアの影響は当初想定よりは小さいと見られる。

表1:世界のニッケル需給バランス(2012~2015年)

(単位:千t)

区分 2012年実績 2013年実績 2014年見込 2015年予測 増減
2015/2014
ニッケル鉱石生産 2,380.3 2,631.1 2,058.9 2,130.5 3.5%
一次ニッケル生産(供給) 1,750.3 1,942.6 1,928.8 1,947.6 1.0%
一次ニッケル消費(需要) 1,655.6 1,779.7 1,917.8 1,973.8 2.9%
需給バランス 94.7 162.9 11.0 ▲ 26.2  

(出典:INSG会議資料より作成)

2. ニッケル需給動向

 2012年から2015年にかけて地域別の数値を表2に掲げ、図1では当該数値をグラフ化し需給バランスを示す。

表2:世界のニッケル鉱石生産・一次ニッケル生産及び消費(2012~2015年)

(単位:千t)

区分 2012年実績 2013年実績 2014年見込 2015年予測
鉱石
生産
一次Ni
生産
一次Ni
消費
鉱石
生産
一次Ni
生産
一次Ni
消費
鉱石
生産
一次Ni
生産
一次Ni
消費
鉱石
生産
一次Ni
生産
一次Ni
消費
中国 103.7 519.2 770.0 107.2 693.5 900.0 100.0 660.0 970.0 105.0 565.0 1010.0
アジア
(中国除く)
970.8 208.8 332.0 1,154.4 227.4 333.6 567.0 233.1 372.4 547.0 282.0 379.9
米州 491.2 293.9 166.4 500.9 277.6 174.8 484.0 264.6 183.1 498.0 274.2 188.1
オセアニア 380.6 174.2 2.7 409.5 189.9 2.7 428.7 211.5 2.3 484.8 253.4 2.8
欧州 342.5 513.2 359.9 339.0 495.4 345.7 349.2 483.6 364.3 356.2 493.0 367.3
アフリカ 91.5 41.0 24.6 120.1 58.8 22.9 130.0 76.0 25.7 139.5 80.0 25.7
世界計 2,380.3 1,750.3 1,655.6 2,631.1 1,942.6 1,779.7 2,058.9 1,928.8 1,917.8 2,130.5 1,947.6 1,973.8

(出典:INSG会議資料より作成)

図1:世界のニッケル鉱石生産・一次ニッケル生産及び消費(2012~2015年)
図1:世界のニッケル鉱石生産・一次ニッケル生産及び消費(2012~2015年)

(出典:INSG会議資料より作成)

 世界のニッケル鉱石生産量、一次ニッケル生産量及び消費量の動向については次のとおり。

(1) ニッケル鉱石生産量―フィリピン等増産により2015年はわずかに増加―

 世界のニッケル鉱石生産量について、2014年は前年比21.7%減の205.9万t、2015年は前年比3.5%増の213.1万tと推定した。2014年の生産落ち込みは、同年1月からインドネシアが鉱石禁輸に踏み切ったことで、同国の鉱石生産量が2013年83.4万tから2014年には18万tまで8割近く減産するとの見通しが影響している。2015年については、インドネシア生産が14万tとさらに減産すると予想されるが、代わってフィリピン及びニューカレドニアの増産がこれを補い、前年比で3.5%増とさらなる減産は食い止められる見通し。これまで最大生産国であったインドネシアの減産により、2014年以降生産国順位は大きく入れ替わり、2015年の生産見通しでは、フィリピンが38万tと最大生産国に台頭し、次にロシア26.5万t、ニューカレドニア23万t、カナダ23万t、豪州22.4万t、インドネシアは14万tで第6位となる。

(2) 一次ニッケル生産量―中国減産により、ほぼ横ばいで推移―

 世界の一次ニッケル生産量については、2014 年は前年比0.7%減の192.9万t、2015年は前年比1%増の194.8万tとほぼ横ばいとなると予測した。2015年は、世界生産の3割を占める中国について、インドネシアから鉱石調達ができないことが影響してNPI生産が2014年以降減少するとし、2015年についても前年比14.4%減の56.5万tと推定した。一方、ニューカレドニア、インドネシア、日本等においては増産が見込まれ、中国減産分を相殺する形となっている。2015年の生産見通しは、上位から中国56.5万t、ロシア24万t、日本19.4万t、豪州13.8万t、カナダ13.2万t、ニューカレドニア11.4万tである。なお、2013年及び2014年には新規生産分及び既存拡張分の相当量の在庫が積み上げられていると予想される。

(3) 一次ニッケル消費量―中国需要減速に引きずられ2015年は3%成長に―

 世界の一次ニッケル消費量については、2014 年は前年比7.8%増の191.8万t、2015年は前年比2.9%増の197.4万tとし、2015年に需要の伸びは減速すると予測した。2014年については、上期に米国、欧州及び日本で経済状況の改善が見られ、ニッケル需要は持ち直すと見込んだが、2015年については、毎年2桁成長を記録してきた世界消費の5割を占める中国の需要が4%程度に減速すると予想し、これに引きずられて世界全体の伸びも前年比2.9%となった。2015年の見通しは、消費国上位から、中国101万t、日本15.7万t、米国15.6万t、韓国8万t、ドイツ6.9万tで、中国の消費量が他国に比して圧倒的に大きいことが分かる。

おわりに

 世界のニッケル需給は、最大生産国であるインドネシアの禁輸政策の行方と一次ニッケルの最大生産国で消費国でもある中国の動向に大きく左右される状況が続いている。インドネシアに代わって台頭したフィリピンについても2014年9月にインドネシアに追随する政策を行う恐れがあるとしてLME価格は一時高騰し、本会合でも引き続き注視が必要であるとコメントがあった。また統計に関しては、中国を始めとして各国で数値の精度にばらつきがあるとの指摘もあり、専門家の意見をどこまで取り入れるべきなのか等、改善に向けて検討が行われていく見通しである。なお、本会合で行われた講演については追ってカレント・トピックスで報告する。

(注記) 国際ニッケル研究会(INSG)

 国際非鉄研究会(銅、鉛亜鉛、ニッケル)の中では国際鉛亜鉛研究会(ILZSG)に次いで2 番目に古い歴史を持ち、世界のニッケル市場の透明性の強化を目的に1991 年に国連の招請・勧告によって発足した国際機関である。現在、ニッケル生産国、消費国及び貿易国からなる14 か国及びEUが加盟している。事務局は、設立当初はオランダ・ハーグに、2006 年からポルトガル・リスボンに置かれている。同研究会は、ニッケル市場の需給予測分析を始め、国際的なニッケルの貿易取引に係る課題について研究するとともに、それらの課題に関して政府・産業界の利害関係者が定期的に話し合う機会を設ける機能を担っている。通常、定期会合は春季、秋季の年2回開催されている。

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