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報告書&レポート

2014年12月11日 金属資源技術部 大久保 聡  北京事務所 森永 正裕 報告
2014年50号

10th International Rare Earths Conference参加報告-将来を模索するレアアース業界-

 International Rare Earths Conference(国際レアアース会議)は、世界のレアアースの探査から、生産、精錬、素材、販売、消費まで幅広い分野の企業等が集結する代表的なレアアースの会議である。2004年に初めて開催され、2006年以降は毎年開催されており、第10回目となる今年は、会場を香港からシンガポールに移し、2014年11月12日~13日の日程で開催された。本稿では本会議の概要について報告する。

1. 概要

 15件の講演があり、講演テーマは多岐にわたり、市場動向3件、中国関連3件、リサイクル・生産技術3件、レアアース磁石の動向2件、世界の消費動向(各用途毎の消費動向含む)4件であった。参加登録者は前回の183名に比べやや減少して168名となっており、一時期のレアアース市場の過熱からの落ち着き、停滞を反映したものと考えられる(2011年第7回会議の参加者は約400名)。レアアースに係る探鉱ジュニア企業、生産企業、非鉄金属生産企業、素材メーカー、素材ユーザー、商社からの参加が多く、また、エンジニアリング会社やリサーチ会社も含まれ、上流から下流まで多岐に渡った。日本からの参加者は約20名であった。今回は中国企業からの発表が4件あったことに象徴される様に中国からの参加も目立った。

 また講演と同時にブース出展もあり、Avalon Rare Metals、Frontier Rare Earthsといった探鉱ジュニア企業やレアアースを含む素材系の分析会社EAG、Roskillによるプロモーションが行われていた。なお、前回は探鉱ジュニア企業の出展が6社あったが、今回は2社に留まっており、昨今の市況の冷え込みを表していると言えよう。

会場の様子
会場の様子

2. 主な講演内容

 1講演プログラムとしては、①市場動向、②焦点:中国情勢、③リサイクル・生産技術、④レアアース磁石(風力発電、ボンド磁石)、⑤世界の消費動向の5つのセッションに分かれ、これまでと違い最終ユーザーの講演もあった。各セッションの概要を述べる。

① 市場動向

 Lynas、Molycorpといった中国以外のレアアース生産者や調査会社Roskillによる今後の需給見通しについて講演があった。概略は以下のとおり。

・ Lynasからは、磁石に用いられるNd/Pr需要は2014年の約25千tから年率9%程度で増加し2020年には約45千tとなるという予測が示された。磁石、ニッケル水素電池及び自動車排ガス触媒向けの伸びが大きいと予測される一方、蛍光体向けはLEDの普及に伴い減少する見込みである。元素毎でみると磁石向けのNd/Pr、Dyが2020年に供給不足気味になりCe、Yが供給過剰になると予測する。最後に、レアアース供給者・消費者双方にとり、価格・供給の安定性が重要であるとして講演は締めくくられた。

・ Molycorpの見通しとしては、レアアースの用途で2つの大きな変化がある。1つはNd-Fe-B磁石中のDy/Tb使用量削減で重希土類の供給不安を和らげ、Nd-Fe-B磁石の様々な分野での利用を推し進める動き。2つ目は蛍光灯からLEDへの置き換えによるY、Eu、Tbの需要の大幅な減少。磁石向けレアアースの需要は2014年~2017年の期間に8~12%、レアアース合金向けは6~10%の成長が見込まれるのに対して、ガラス添加剤、セラミック、触媒向けは4~6%と比較的低い成長、蛍光体は0%成長が予想される。

・ Roskillの見解は次のとおり。供給面において、中国が依然として全世界の80%以上のレアアース供給源であるが、国内での高付加価値化政策や生産者の整理・統合、輸出税賦課による国内外での二重価格制度といった統制を行っている。今後の中国の動向に注目が必要である。他方、中国外の生産者も増え始めている。一方、2018年の需要予測では、触媒向け、磁石向けがともに約35千t程度で最も多く、合金向けが20千t強、研磨剤向けが20千t弱、ガラス、セラミック、蛍光体向けがそれぞれ10千t程度と予想。2018年までの成長率は、セラミック向けが年率7%、磁石、触媒向けが年率6%を見込んでいる。

② 焦点:中国情勢

 米国の中国専門家(Meyer Unkovic & Scott LLP)より反汚職政策、新対外政策指示、軍備拡張等の中国の政策全般の変化、Fanya Non-Ferrous Metal Exchange(泛亚有色金属交易所)によるレアメタル取引の概要、中国の金属素材系シンクタンクSMM(Shanghai Metals Market)による中国のレアアース需要動向について講演があった。Fanyaは2014年10月31日にDy、Tbの酸化物の取引を開始している。

 SMMの講演「中国のレアアース消費と用途」概要を以下に示す。

・ 過去5年間の中国のレアアース需要(全酸化物ベース)は80千t前後で推移。磁石、自動車排ガス触媒、研磨剤向けの需要は伸びているが、水素吸蔵合金(ニッケル水素電池の負極用途)向け、蛍光体向けは減少している。

・ 今後2014年~2018年の間に、レアアース磁石の生産は年率7%の伸びが予想され、その結果Nd/Prの消費は大きな伸びが期待されるが、Dyは高価格・供給の不安定性さから、Nd/Pr程の需要の伸びはないと予測される。

・ 水素吸蔵合金は、過去5年間で年率14%の減少を記録したが、今後はハイブリッド車及び電気自動車の普及が寄与して、年率3%の減少に収まると見込む。その結果、La、Ceの消費はやや減少すると予測される。

・ 蛍光体は年率8%の減少が見込まれ、2018年の照明全体のシェアは、LEDが75%、蛍光灯が25%になると予想。その結果、Y、Euの消費は大きく減少すると予測される。

・ 自動車排ガス触媒は自動車生産の伸びにより9%の伸びが見込まれるが、研磨剤は技術革新により使用量が減るため3%の伸びに留まる。この2分野でのLa、Ceの需要は増加すると予測される。

・ 以上を総合すると、2018年には磁石向け元素(Nd/Pr)は供給不足が、その他用途向け元素(Ce、La、Y)は供給過剰が予測される。

③ リサイクル・生産技術

 Lynasのマレーシア・レアアース精製工場(LAMP)で排煙設備を設計・施工したエンジニアリング会社ATEAから「レアアース精鉱の硫酸焙焼施設での排煙処理技術」について、ベルギーの金属リサイクル企業HYDROMETALから「レアアースリサイクルに向けた取り組み」について、米国にレアアースプロジェクトを保有するUcore Rare Metalsから「分子認識技術(MRT)を用いたレアアース分離技術」についての講演があった。

 HYDROMETALの講演概要を以下に示す。

・ HYDROMETALは2005年よりレアアースのリサイクルに着手した。始まりは欧州のレアアース素材メーカーで発生する様々なレアアース残渣からのレアアースのリサイクルであった。講演では2つのケーススタディが披露された。1つは使用済み研磨剤からのリサイクル、2つ目がレアアース、鉄、コバルトを含む複合酸化物(切削屑)からのリサイクルである。

・ 使用済み研磨剤にはCe(含有量40~65%)、La(含有量1~6%)の他、不純物として亜鉛、鉄、鉛が1~2%程度、シリカが5~10%含まれる。これに対して、イ)硝酸と過酸化水素水の混合液で浸出して不溶性のシリカを取り除き、ロ)浸出液にシュウ酸を添加してレアアースのシュウ酸塩を回収する。シュウ酸塩中の不純物濃度はそれぞれ0.1%未満に抑えられる。

・ 複合酸化物の切削屑はNd2O3、Sm2O3、Pr6O11を5~10%、Dy2O3を1~2%、Fe、Coを10-20%、シリカを5~10%含む。使用済み研磨剤からのリサイクルと処理工程は類似しているが、硝酸の代わりに硫酸を利用する。2005年のリサイクル開始からこれまでに約6,000t(レアアース含有量約1,600t)のリサイクル原料を処理した。

④ レアアース磁石(風力発電、ボンド磁石)

 風力発電を手掛けるSiemensから、特に洋上でのDD型(直接駆動型)風力発電のこれまで及び今後の成長の展望について、中国の磁石メーカーからDy使用量を削減したNd-Fe-B等方性ボンド磁石の他の磁石との性能の比較についての講演があった。Siemensの講演概要を以下に示す。

・ Siemensは、風力発電、特に洋上でのDD(直接駆動)型風力発電の開発・導入実績を持つ。DD型はギア駆動型に比べ信頼性、発電効率に優れる。また、部品点数が約半分になることでメンテナンスが軽減されるとともに、重量も30%減となるなど利点が多い。

・ DD型風力発電にはネオジム磁石が不可欠である。そのため、事業の成功のためにはレアアースの安定供給体制を構築しなければならない。SiemensがRE業界に期待するのは、10年単位の長期に亘り安定した価格で供給してもらうこと。Lynas、Molycorpという中国外の供給源が出てきたことは重要である。Siemensとしては、生産者が継続して事業が行えるような価格で購入する考えである。これまでの中国が動かす市場は市場ではない。一方、重希土(Dy)については使用量の削減に努めている。Dyを探している探鉱ジュニアには悪いが、将来的にはDyをそれほど必要としない。

・ 今後もSiemensは1機あたり6MW規模の風力発電設備(回転体の直径154m)を始め、効率的な風力発電を追及していく。その際には、技術革新により重希土の使用量を削減すること、供給・価格の安定性、中国以外からのサプライチェーンを確固たるものにすることが重要となる。

⑤ 世界の消費動向

 中国のレアアース化成品メーカーから顔料、ゴム添加物、モノマー電子部品添加物、特殊研磨剤向けに消費されるレアアース硫化物の消費動向について、GEからLEDの進展と蛍光体向けレアアース(Y、Eu、Tb)の需要減少(2030年には65%減と予測)について、日本メタル経済研究所から日本でのレアアース需要・輸入・リサイクル・代替の現況と自動車向けのDy(磁石)、Ce(排ガス触媒)の今後の需要動向について、最後にRoskillから触媒(自動車、FCC)向けのレアアース(La、Ce)の2020年までの需要のトレンドについての講演があった。

 日本メタル経済研究所、Roskillの講演概要を以下に示す。

<日本メタル経済研究所>

・ 日本のレアアース需要は2013年に2007年の半分以下の水準となっている。研磨剤用途ではジルコニアが代替として使われるようになっており、磁石用途ではDyの使用量削減の取り組みが進んでいる。また、蛍光体用途については、そもそも蛍光灯からLEDへの置き換えが進んでいることから、需要が減少している。一方、リサイクルについては、磁石の工程スクラップ以外では十分に進んでいない。

・ 今後の見通しとしては、悲観的な見方として供給不安が解消されず自動車メーカーがレアアース離れを起こすケースと、楽観的な見方として供給源の多様化が進み、さらに軽希土類の新用途が見つかりレアアース全体の需要が拡大するものの、価格は安定するというケースの2つが提示された。

<Roskill>

・ 2013年の触媒向けのレアアース需要は全体の23%の25.5千tであり、最大の用途である。地域別に見ると中国が約50%、米国が約20%となっている。用途別でみると、自動車排ガス触媒が34%、FCC(石油精製向け)が60%となっている。触媒向け世界需要は2000~2013年に年率3%で増加しており、特に中国では年率14%の伸びとなっている。

・ FCCでのレアアース消費は15,250tで94%がLa、6%がCeであった。この用途のレアアース消費は原油の生産量に依存しており、原油の生産量増加(2011年に90百万バレル/日→2035年に100百万バレル/日と予測)に伴い今後も増えると見込まれる。ただし2011年のレアアース価格高騰以降、他の触媒への代替が進んでいる。

・ 自動車排ガス触媒でのレアアース消費は8,750tでCeが80~90%でその他La、Ndも含まれる。レアアース価格高騰の際も、Ceなどの触媒全体の原料費に占める割合が低く(触媒ではPGMが原料費の大半を占める)、使用量も多くなかったことから代替は進まなかった。今後も自動車生産の伸びに伴いレアアース使用量は増加する。

・ 以上のような状況を勘案するに、触媒向けレアアース需要は2013年の約25千tから2020年に約37千tとなる見込みである。レアアース需要全体でみると、用途別の需要内訳は大きく変わらない。レアアース全体の需要は酸化物ベースで2020年に168,250tで、そのうち120,750tが中国の需要になる。

おわりに

 今後のレアアースの需要については、磁石材料のNd/Pr(Dy)の需要は増加するものの、蛍光体向けの需要(Y, Eu, Tb等)は減少すると見られている。また、特にLa、 Ceの新規用途開発が望まれており、レアアース業界全体としては将来を模索しているような印象を受けた。この様な状況下、生産を開始した新規プロジェクトの動向を含め、今後の供給面の動向に注視していきたい。

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