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近年の鉛・亜鉛市場の動向-2014年秋季国際鉛亜鉛研究会(ILZSG)報告(2)-
2014年10月16~17日、リスボンにて、国際鉛亜鉛研究会(ILZSG)の秋季定期会合が開催された。ILZSGは、1959年に国連により発足された国際機関で、現在はリスボンに事務局を置いている。鉛・亜鉛市場における透明性確立を目的とし、需給調査や経済動向など鉛・亜鉛市場に影響を与える分野の情報収集、分析、統計を行っており、春季、秋季の年2回定期会合を開催している。今回、第59回となる定期会合では、統計予測委員会の他、鉱山および製錬所プロジェクト委員会、経済環境委員会が開催された。同会合に出席する機会を得たことから、本稿では講演内容について報告する。 なお、ILZSGにて発表された需給見通しについては、カレント・トピックス 14-44号「ILZSG鉛亜鉛需給予測、供給不足継続も2015年不足幅縮小」を参照されたい。 |
1.基調講演『Zinc-A New Reality』 (Bob Katsiouleris氏, Nyrstar)
Katsiouleris氏は、亜鉛市場について最近の動向を踏まえながら、需要、在庫及び製錬、供給、の3つの側面から、その特徴及び性質の変化について述べた。
まず、需要については、経済的な観点及び産業分野におけるトレンドの観点から分析がなされた。同氏の説明によれば、世界経済は、中国経済・欧州経済に対する不安を主な要因として今後景気後退に向かうと見通されているが、アジアやアフリカ地域においては今後予想以上の成長を期待でき、ユーロ安の進行状況によっては欧州においても経済が回復する可能性がある。また、建設分野や一般消費財における需要も未だ多く、工業分野における需要も今後の拡大が見込まれるため、亜鉛市場含む産業分野は短期的には成長できる可能性がある。さらに今後、中国に続くインドの鉄鋼需要の伸びに従って亜鉛需要も伸びると期待できる。軽量化技術の発展に伴う自動車産業等における高張力鋼板(AHSS;Advanced high-strength steels)需要の高まりも、亜鉛めっき需要を加速させる要因の一つとなるとしている。
次に、世界の需給バランスの指標となる在庫の側面からは、LME倉庫ルールの変更や中国・青島不正在庫問題を背景に、構造的な変化が生じている点を同氏は指摘した。これまではLME倉庫からの金属の受け渡しの待ち時間が長く、高いプレミアムが負荷される等の問題が発生していた。しかし、最近はLME倉庫ルールの改革が間近になったことや亜鉛需給のタイト感からLME在庫及びSHFE在庫が減少し、倉庫に求められる役割が変化してきた。以前は、在庫搬出までに時間がかかり、需要家にとって使いづらい状況が続いていたものの、ルール改革によって倉庫運営の透明性が高まり、待ち時間が減少し、在庫入手までの時間が計れるようになったため、キャンセル在庫が減少し、プレミアムやスプレッドが下がる結果を得た。LME倉庫の新ルール(LILO; linked lord-in/lord-out rule)適用は、2015年2月に開始される見通しだが、既に倉庫の役割が変化しつつあるため、市場に対する影響はさほど大きくないとの見解である。
最後に、供給面については、同氏は、鉱石生産量は2016年から2018年の間に深刻な供給不足になると見込んでいる。中国の動向によっては、この不足分が補われる可能性もあるが、亜鉛価格や溶錬費によって左右される。鉱石生産量は、製錬所の有する製錬能力によって決まるため、鉱石生産量の増加が亜鉛の供給不足を解決するものではない。一方、亜鉛地金生産は、需要の増加スピードを超える勢いで伸びるものの、2019年までは供給不足が続くであろう、と予測する。さらには、鉱石不足が続いた場合、地金生産の成長スピードが鈍化すると考えられるため、供給不足はさらに持続する可能性もある、とのことである。
亜鉛は世界的な供給不足だが、需要の半分は中国が占めている。図1-1に、同氏講演資料より2014年から2019年までの世界(中国を除く)と中国需給見通しを示す。世界では、需要の上昇が比較的緩やかであるのに対し、中国は今後も急成長を続けると予測される。また、世界における亜鉛の余剰分も中国に輸出して不足を賄えるほどは多くは無い。今後亜鉛需要が高まる一方、LME倉庫の在庫も減少する中、鉱石生産量は十分でなく、鉱石生産量の急な増加に対応できる製錬能力も不十分であることから、亜鉛は構造的な供給不足に陥っている、と言える。
(出典:BobKatsiouleris氏講演資料、Nyrstar社資料)
図1-1.世界(中国を除く)と中国における亜鉛需給予測推移
2.『亜鉛の長期見通し』 (Claire Hassall氏, CHR Metals)
Hassall氏は、亜鉛の特徴を説明しながら、その需要がさらに高まっていくだろうと主張した。過去20~30年間の中国の急成長を除けば、長期に亘って産業が亜鉛需要を牽引してきた。近年における亜鉛の主な用途は、亜鉛めっき(51%)、ダイカスト(20%)、真鍮(12%)で、これらはインフラや建設、一般消費財、エンジニアリング等向けに使用されているが、今後、自動車・インフラ・建設向けのめっき需要のさらなる拡大が期待でき、肥料用途の需要も伸びると予想している。
亜鉛需要拡大の背景として、まず、アジア需要の伸びが挙げられる。21世紀に入り、アジアは急成長を遂げてきた。そのほとんどが中国によるものではあるが、その他のアジア諸国も中国の成長の恩恵を受け、工業分野で大きな成長を遂げた。今後もさらなるインフラ整備や鉄鋼等建築資材の需要がある。また、自動車産業の成熟した北米や欧州、日本等と比較して、中国やインドは、人口当たりの自動車保有率が低い。市場の大きさを鑑みれば、自動車販売の拡大を十分に見込め、亜鉛需要は高まるものと期待できる。しかし、景気のサイクルは一般的に8~9年であり、2008-2009年に世界的な金融危機に陥ったことを踏まえると、2017-2018年に再び世界的な金融危機が起こる可能性がある。実際、中国の経済成長は減速していることから、中国経済バブルの崩壊を警戒しなければならない、と同氏は警告する。
また、亜鉛は様々な面で他金属に比べて優位性がある点も需要拡大に寄与する、と同氏は述べており、例えば、亜鉛は薄く加工しやすい金属であり、コストパフォーマンスに優れている。環境規制等から資源量を削減する傾向にある昨今においては亜鉛ダイカストが優れている。また、風力発電設備等の電力インフラにめっきが使われるが、再生可能エネルギー需要の高まりから、こうした需要の伸びも期待される。重工業向け用途のみならず、先端機器等にも需要が多い。携帯電話や近年ブームとなっているタブレット端末等に多く使用されており、亜鉛ダイカスト特有の軽さや生産効率の良さが好まれている。その他の商品についても、小型化が進むものについては同じく亜鉛ダイカスト板が使用されることが多い。さらには、亜鉛は健康に欠かせない成分であるが故、サプリメントや農業用の肥料にも使用される。
亜鉛の用途は広く様々であり、需要先が多岐に亘る一方で、需要を決める主な要素は新興国の成長である。つまり同氏は、今後の亜鉛需要は拡大の方向に進んでいるものの、最終的には世界的な経済の動向に左右されると述べた。
3.『中国における一次鉛、二次鉛製錬について』 (Zhang Weiqian氏, 安泰科)
Zhang氏は、中国における鉛製錬産業の特性を示しながら、今後の課題を語った。
中国の鉛産業は、過去20年間で急成長を遂げ、2003年には世界最大の鉛地金生産国となった。さらには、世界の44%の鉛地金を生産するまでに拡大した。中国国内で生産される鉛地金の多くは、鉱石から生産される一次鉛である。一方、二次鉛(再生鉛)は、年々生産量は増加しているものの、一次鉛の生産量を下回っている。中国国内の一次鉛の製錬能力のおよそ6割は、製錬能力年産10万t超の大規模製錬プラントを有する国内21社が占めている1。これらの製錬所は河南省、湖南省、雲南省に多く位置する。2013年の一次鉛の全生産量360万tのうち、河南省、湖南省、雲南省から生産された一次鉛は282万tにも及び、国内の一次鉛生産のおよそ8割はこれら3省で生産されている。国内需要の高まりとともに、国内生産量は増加しているものの、鉛地金の自給率は76%に留まっている。参考として、図3-1に中国の鉛鉱石輸入量推移、図3-2に中国の鉛需給推移を示す。
(出典:JOGMEC)
図3-1.中国の鉛鉱石輸入量推移
(出典:ILZSG)
図3-2.中国の鉛需給推移
一方、二次鉛は、全鉛地金生産量の29.4%しか占めておらず、世界平均54.2%(日本63.2%、韓国42.3%)を下回っている。しかし、2000年から2013年にかけての年平均成長率においては、一次鉛12.5%、二次鉛23.9%と今後シェアが広がるポテンシャルを有している。同氏は、鉛に対する環境規制が強化されている所以から、一部の二次鉛製錬所が閉鎖に追い込まれており、二次鉛製錬業の拡大を阻害していると指摘する。また、二次鉛製錬最大の問題は、72%の製錬所が不法に操業している点である。これら不法操業による生産量は二次鉛地金全体の25%を占める。鉛スクラップのほとんどは、個人事業主によって回収されており、大手製錬所よりも高値で購入する不法製錬所に鉛スクラップが流れやすい状況となっていると分析している。
4.『自動車バッテリー市場における最近の動向』 (Geoffrey May氏, FOCUS Consulting)
May氏は、自動車バッテリーに焦点を当て、電気自動車市場の動向を分析することで、鉛バッテリーへの影響を明らかにした。
同氏によると、自動車バッテリーのニーズは、欧州を中心に世界で拡大している。近年の自動車のトレンドは、「micro- hybrids(マイクロハイブリッド)」「mild- hybrids(マイルドハイブリッド)」「full-hybrids(フルハイブリッド)」「plug-in hybrids(プラグインハイブリッド)」「battery electric vehicles(バッテリー式電気自動車)」「fuel-cell electric vehicles(燃料電池電気自動車)」である2。これらの電気自動車用バッテリーのニーズの高まりは、鉛蓄電池市場に大きな影響をもたらしている。
表4-1.電気自動車のタイプ
タイプ | Micro-HEV | Mild-HEV | Full-HEV | PHEV | BEV |
アイドリングストップ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
エネルギー回生3 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
電気走行 | ○ | ○ | ○ | ||
Battery voltage(V) | 14 | 14-100 | 200 | 200 | 200-300 |
Battery capacity(kWh) | 1 | 1 | 2 | 10 | 25 |
Fuel Saving(%) | 4-6 | 10-15 | 25-40 | 40-70 | 100 |
Extra Cost(US$) | 500 | 2000 | 5000 | 12000 | 12000 |
(出典:Geoffrey May氏講演資料)
同氏は、電気自動車市場は、CO2排出量削減規制が強化されていることを背景に拡大傾向にある点を強調した。例えば欧州では、CO2排出量を2015年までに130g/kmまで低減させる事を義務付けている。また、米国では162g/km、日本では125g/km、中国では160g/kmが2015年までのCO2削減目標に設定されている。2013年のハイブリッド車売り上げ180万台の内、トヨタが78%、ホンダが12%、フォードが4%を占めており、電気自動車市場についてはトヨタが支配していると言っても過言ではない。また、電気自動車バッテリーの種類については、ニッケル・水素電池の自動車が85%、リチウムイオン電池が15%となっているが、性能の良さにおいてはリチウムイオン電池が優れているため、今後ニッケル・水素電池からリチウムイオン電池へ切替えが進むと同氏は予測した。また、ハイブリッド車の普及は、既に市場も拡大しており、バッテリー技術開発が進んでいるため、今後10年間で鉛蓄電池市場に大きく影響を及ぼすだろうと主張した。一方、プラグインハイブリッド車(PHEV)及びバッテリー式電気自動車(BEV)については、ハイブリッド車に比べて市場が小さい。2015年の売り上げ目標は、PHEVが15万台、BEVが37万台である。PHEVについてはGM、BMW、トヨタ、またBEVについては日産ルノー、BMW、テスラが開発に積極的であるものの、PHEV・BEVは高額であり、充電可能な施設数によって利便性が左右され、またCO2削減規制の動向によって需要の大きさが決まると思われるため、今後中期的な見通しにおいては、市場が急成長する可能性は低く、鉛蓄電池市場に与える影響は大きくないと述べられた。
鉛蓄電池は、エンジンの作動に欠かせないものであるが、現在既にフルハイブリッド車には使用されておらず、その他電気自動車においても今後使用量は減少するとMay氏は述べた。一方、現段階においては鉛蓄電池が電力密度に優れており、安価であることが電気自動車に比べて優位である。こうした点を克服するためにも、トヨタとパナソニック、日産とNEC、のように各社アライアンスを締結しながら電気自動車向けバッテリーの開発を押し進めている。
おわりに
本会合では、2日間でILZSG事務局による統計の発表等を除き、16の講演が行われた。鉛・亜鉛については、銅やニッケル以上に製錬所との結びつきが強く、構造的・慢性的な供給不足が予測される中、その需給構造を変化させる必要性を訴える発表が多かった印象である。
次回のILZSG春季定期大会は、2015年4月22日にリスボンにて開催予定となっている。
1 中国国内の一次鉛の製錬能力合計は、4,877千t。うち、年産100千t超の大型製錬プラントによる製錬能力は2,770千t、年産50~100千tの中型プラントによる製錬能力は1,437千t、年産50千t未満の小型プラントによる製錬能力は670千tである。
2 ハイブリッド車は、内燃機関のエンジンと電気モータを併用した自動車を意味するが、「Micro-HEV」はモータを搭載せず、車両の消費電力に回生エネルギーを再利用するもの、「Mild-HEV」はエンジンを主要動力源として使用し、停止時や発進時などエンジン駆動時に比較的小型の電池とモータでアシストするもの、「Full-HEV」は、エンジンと同程度の出力を持つ大型モータを搭載 して、回生エネルギーで走行駆動力の半分程度を補えるもの、と電気モータを使う程度によって種類が異なっている。なお、「PHEV」は、フルハイブリッドに加えて、大容量蓄電池を搭載し、外部給電で充電した電力を使って走行可能としたものである。モータの使用が多いほどガソリンの使用を抑えられる。「BHV」も大型蓄電池を搭載するが、充電された電力だけを使って走行するタイプであり、「FEV」は、天然ガス自動車や水素自動車など、電気やガソリン以外を使用するものを指す。
3 エネルギー回生とは、自動車のブレーキ動作によって発生する熱エネルギーを電気エネルギーに変換し、再び動力源として蓄積する仕組みのこと。