報告書&レポート
ニカラグア鉱業に関する最近の動き
ニカラグアでは、Daniel Ortega Saavedra大統領が2012年1月から2期目の大統領を務めており、現在のところ比較的安定した状況を示している。 こうした中、現政権が特に力点を置いている案件としては、外国投資の呼び込みと観光産業の促進であり、鉱業に関して言えば、この外国投資の呼び込みが結果として鉱業企業による投資の増加として顕れているとも考えられている。また、近年、従来の主要輸出産品である農産物に加え、鉱業(特に金)の輸出が顕著に増加しており、ここ数年における鉱業投資の伸びが影響しているものと考えられている。 今般同国鉱業の最近の動向について、関係者から関連情報を得ることができたため、鉱業を取り巻く状況とともにこれら情報を報告する。 |
1.ニカラグア鉱業を取り巻く状況
(1)政治
ニカラグアは、Daniel Ortega Saavedra現大統領が2007年1月に大統領に就任し、当時、最大の懸案事項であった貧困の削減を主要政策課題とし低所得者向けプログラム等を積極的に推進したが、必ずしも政権運営が順調ではなかったと考えられていた。このような状況の中、2011年11月の大統領選挙において、大統領の連続再選を禁止するニカラグア憲法に違反するとの批判を受けつつも現大統領は出馬した結果、再選され、翌2012年1月から引き続き大統領を務めることとなった。
現大統領は、先の任期期間中における政権運営を踏まえ、今回の任期においては並々ならぬ決意で臨んでいるとの見方がされている。現時点で野党勢力には現与党政権に対抗するだけの力は無く、一説によると、2016年11月に予定されている次期大統領選挙においても、現大統領の3選又は少なくとも現大統領が支持する候補者の当選が囁かれる等、現与党の勝利が確実視されている。
(2)経済
2013年における人口は608万人(世銀発表)、主要産業はコーヒー、牧畜、穀類等を中心とした農産業である。マクロ経済は、2013年における国内総生産(GDP)が112.6億US$、GDP成長率が4.6 %、1人当たりGDPが1,831.3 US$、年平均インフレ率7.135 %(以上、統計値は世銀発表)である。
現政権では、経済成長を促進するため、外国投資の呼び込みと観光産業に力点を置いた政策を推進している。
パナマ運河への対抗手段として世界から着目されている「ニカラグア運河」建設プロジェクトに関しては、投資総額500億US$、2019年の完成を目指し、2014年12月に着工式が執り行われた。一方、現時点において未だ環境・社会影響調査が終了していないことや、一部運河建設予定地の土地収用問題が解決していない等が影響してか、当初計画していた2019年完成予定時期が2020年に修正される等先行き不透明な状況にある。
2.ニカラグア鉱業の現状
(1)鉱業生産
ニカラグアの金属鉱業は、1960年代まではベースメタルの生産が盛んであったとされているが、近年は主として金及び銀の生産が行われている。理由としては、金又は銀以外の鉱種に関しては鉱床規模が小さいため、採算が取れないと判断されていることによる。また、銀に関しては、あくまでも金生産の副産物程度としか考えられておらず、銀のみを生産することはない。また、探鉱に際しても銀のみを目的に行われることはなく、金の付随として発見されれば、将来の金生産の一環として生産されることとなる。
生産量に関しては、2010年以降急激な増加を示しているが(図1.参照)、このように急激な増加に転じた主な要因としては、新たな探鉱による成果と、既存鉱山における設備・機器の近代化による生産量の増加や生産効率の向上によるものと推察されている。
なお、今後の生産量に関しては、5年間で年間5~10 %程度の割合で増加するとの見方がなされている。
出典:エネルギー・鉱山省
図1 主な鉱物生産量の推移
ニカラグアにおける金属の輸出は、概ね金及び銀のみと考えることができ、中でも金属全体の輸出額に占める金の割合が突出しており、金額ベースでは金と銀の割合は概ね98:2となっている(図2.参照)。
出典:エネルギー・鉱山省
図2 金・銀の輸出額合計の推移
2015年2月現在、ニカラグアにおいて鉱業権を付与されている企業数(個人を含む)は60社、鉱業権の件数は172件(内訳は、採鉱・開発4件、探鉱8件、探査1件及び未活動159件)。
現在採鉱を行っている鉱山は、加B2 Gold社(本社:バンクーバー)がChontales県に保有するLa Libertad金鉱山(ⅰ)、及び、León県に保有するLimon金鉱山(ⅱ)、並びに、Hemco社が北Atlántico自治地域に保有するBonanza金鉱山の合計3鉱山のみである。
また、同国内には、金精製工場は個人事業者を除くと4社あり、年間1万ozの金を生産している。
今後新たに操業開始を予定する鉱山としては、英Condor Gold社(本社:ロンドン)が保有するLa India金プロジェクト、加Golden Reign Resources社(本社:バンクーバー)が保有するSan Albino金プロジェクト及びMurra金プロジェクトが挙げられている。特にLa India金プロジェクトに関しては、2014年12月にFSが終了し、3~4年後を目途に年間金生産量10万oz規模の生産を開始する予定である。
その他としては、2015年と2016年にそれぞれ2社ずつが鉱山操業を開始する予定であるが、これらは何れも零細採掘企業からの権利買収案件である。
(2)鉱業投資
鉱業投資に関しては、2010年以降急激に増加しているが、その大半が新たな探鉱に対する投資と、既存鉱山における設備・機器の近代化に対する投資である(図3.参照)。2015年に関しても新たな探査と設備・機器の近代化に対する投資が進めば、鉱業投資全体として増加するとの見方がされている。
こうした状況において、2001年に鉱業法が制定されて以降、政府としては、特段改めて鉱業政策を立案し実行に移しているわけではなく、当該鉱業法による鉱業権の付与等行政手続きを着実に実施するとともに、外国投資を保護するための投資促進法や、現政権が掲げる外国投資の呼び込みにより、結果として、鉱業投資が促進されているとの見方を政府及び鉱業界ともども示している。
ただし、ニカラグア鉱業協会(CAMINIC)(ⅲ)としては、鉱業企業に対し鉱業権取得のための各種行政手続きに関するオリエンテーションを行ったり、鉱業企業が当該行政手続きを行う際にサポーターとして付き添う等の法的手続き面に対する支援を実施するほか、政府が投資を促進するために設立した「投資振興機構(プロニカラグア)」と連携して鉱業企業の投資を支援している。
出典:エネルギー・鉱山省
図3 鉱業投資額の推移
3.ニカラグア鉱業のトピックス
(1)国際鉱業大会開催
ニカラグアの経済と社会の発展に貢献する鉱業に対し、更なる投資誘致と鉱業プロジェクト開発の継続・発展を実現することを目的として、同国としては初めてとなる国際鉱業大会をCAMINICが主催者となり2014年8月に開催した。
同大会においては、鉱業における生産や技術、鉱業と環境との調和、地域コミュニティや先住民との協調、零細鉱業企業対策等幅広いテーマに関し議論を行うフォーラムを実施した。CAMINICによると、同大会の開催により中米諸国の団結を図ることも狙いであった。
なお、次回は2016年の開催を予定。
(2)鉱業労働者賃金
ニカラグアにおける鉱山労働者の賃金は、同国における平均賃金の2倍で、全業種中一番の高額賃金であると言われている。例として、B2 Gold社の場合、管理部門を除く所謂現場作業員に対しては、月額給与のほか、ボーナス、住宅手当、医療手当、社会保険、奨学金、食料品等を支給しており、これらを1人当たりの月額平均支給額に換算すると1,500 US$に相当するとのこと。
同国では歴史的に見て鉱山労働者に対する賃金が高い状態が長い間維持されてきており、また、賃金に関する労使間交渉は概ね2年に一度実施されているが、労使間において良好な関係が構築されているため、行政はもとより民間企業やCAMINICですら現状に関し何ら問題が生じているとは考えていない。特にCAMINICによると、この状態はニカラグア鉱業にとって国際競争力の観点から長所であるとの認識を深めている。
(3)NGO・先住民問題
ニカラグアでは、鉱業活動に対して、小規模な反対運動が一部存在するものの、他国において散見されるようなNGOや先住民等による大々的な反対運動は殆ど見受けられない。特にニカラグア国内では欧米系NGOによる活動は殆ど見られないとのことであるが、一説には、政府がNGOの活動をコントロールしているのではないかとの見方もされている。なお、一部の小規模な反対運動に対する活動支援として、欧米系NGOから資金供与が行われているとの噂もある。
しかしながら、何れにしても鉱業界としては、NGOや先住民による反対運動に関して特段問題にしていないとのことである。
(4)鉱業事故問題
2014年にニカラグアにおいて比較的大きく報道された鉱業事故としては、8月28日にNorth Atlantic自治地域Bonanza市の鉱山で発生した大規模な地滑りによる鉱山労働者27人が坑内に閉じ込められた事故と、11月24日にRincón de Los García金鉱山で発生した坑内崩落による鉱山労働者4名が死亡した事故がある。何れの事故も既に廃鉱とされていた鉱山を個人事業者が無許可で違法な採鉱を行っていたもので、通常考えられる安全対策等はされていなかったとのことである。
関係当局としては、鉱業企業に対し鉱業関連法令の遵守を指導するとともに、各鉱業企業が従業員に対して実施する安全訓練等を支援する等安全対策に乗り出しているが、個人事業者等による無許可で違法な採鉱全てを監視するには至っていない状況である。
なお、関係当局から正式な許可を得て然るべき規模で操業している鉱山に関しては、最近目立った事故は発生していない。
(5)その他課題
現在ニカラグアには鉱業に関する詳細な地質図及び地質データが整備されておらず、したがって国内に賦存する鉱物資源に関し正確に把握されていないのが実態である。これは、同国において本来地質図を管理すべき行政機関が存在しないことに起因している。
現在、エネルギー・鉱山省が限られた僅かな予算により毎年2,000㎡ずつ地質調査を実施しているが、同省関係者によると、このペースでは国内全土に関する地質図を完成させるために今後20年は掛かるとの見通しを示している。
4.おわりに
本レポートで記したとおり、近年ニカラグアは、金を主要鉱種として鉱業生産量と鉱業輸出額を大幅に伸ばすとともに、鉱業投資も飛躍的に増加させている。また、労使間交渉も比較的円満に行われているため従業員によるストライキも無いことや、NGOや先住民による大規模な反対運動も殆ど見受けられないことから、ニカラグア政府関係者は元より外国企業が多く参画する鉱業団体としても、ニカラグア鉱業への投資の可能性を示唆している。
一方、ニカラグアにおける現在の主要鉱種は金であるため、ベースメタルを狙う企業にとって同国は関心から外れてしまうものの、抑も地質データが殆ど整備されていないことを起因として、同国でのベースメタル開発が進展していないとの見方もされている。
以上の点を踏まえ将来における同国の鉱業開発の可能性を見据えると、同国に対しては今後もある程度定点的な観測を行うことも必要ではないかと考えられる。
(ⅰ) 首都マナグアの東178㎞に位置し、2009年3月に操業開始、2014年の金生産量は149,763 oz。設備近代化のために70百万US$の投資を行ったのを皮切りに、その後年間20~40百万US$の投資を実施。この結果、粗鉱処理量が6,050 t/日にまで増加したとともに、金回収率が94 %を上回るに至った。同鉱山の周辺には多くの鉱床が存在しており、既に探鉱が終了し現在鉱業当局からの採鉱許可を待っている案件があるほか、現在も同地域において探査を実施中。なお、直近2年間において同鉱山近郊のSanto Domingo市で新たな鉱山の操業を開始、同鉱山までの鉱石運搬路約12㎞を整備し同鉱山において鉱石の一括処理を行う等効率的な操業に努めている。
(ⅱ) 首都マナグアの北100㎞に位置し、1941年に操業開始(同社としての操業開始は2009年)、2014年の金生産量は48,045 oz。2010年以降、年間20万US$の投資を実施し、採鉱から抽出に至る全工程の改善を実施した結果、生産量が増加。2014年は高温(70~80℃)の地下水が大量に噴出する問題が発生したため、プロジェクトに大幅な遅延が生じたが、地下水除去ポンプの据え付けも完了したため2015年は生産量6万ozを計画。
(ⅲ) 鉱業発展の推進、鉱業の近代化を図ることを目的として、鉱業政策と戦略の実現、鉱業における官民コーディネートを図るとともに、鉱業企業に対し関係法令を遵守させるために1995年に設立。会員企業数は32社(2015年2月現在)、内訳としては金属企業が15社、非鉄金属企業が8社、鉱業関係サービス企業9社で、金属企業の約9割、非金属企業の5割が外国企業。会員企業のうち、金属生産企業の全ては金又は銀を生産。