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ジャマイカ鉱業に関する最近の動き

ジャマイカは、同国初の女性首相となるPortia Simpson-Miller首相が2012年1月から2期目に就任しており、財政面の不安は抱えつつも、治安を含め比較的安定した状況を示している。 鉱業に関しては、日本で言うところ秋田県の面積よりやや小さい国土にもかかわらず、ボーキサイトの生産量世界第7位、輸出量世界第3位を誇り、その豊富な鉱物資源を求め、外国企業による鉱業活動が見受けられる国である。一方、近年の国際金属市況の下落・低迷等の影響を受け、同国鉱業の成長に陰りが見えている。 今般同国鉱業の最近の動向について、関係者から関連情報を得ることができたため、鉱業を取り巻く状況とともにこれら情報を報告する。 |
1.ジャマイカ鉱業を取り巻く状況
(1) 政治
ジャマイカでは、Portia Simpson-Miller現首相が同国では初めてとなる女性首相としてPercival Noel James Patterson前首相を引き継ぐ形で2006年3月に首相に就任、翌2007年9月の総選挙において再選を目指すも野党ジャマイカ労働党に敗れ、政権を手放した。しかしながら、2011年12月の総選挙にて前回選挙で野党に下った人民国家党が勝利し、再び翌2012年1月に2期目となる首相に就任した。
同首相率いる政権としては、雇用と持続的経済成長の達成や、社会的平等を踏まえた生活水準の向上等を重点とし各種政策を展開しつつ、治安面に対する政策を推し進めている。
(2) 経済
2013年における人口は271.5万人(世銀発表)、主要産業は観光等を含むサービス業、コーヒー、バナナ、砂糖等を中心とした農業、鉱業等である。マクロ経済は、2013年における国内総生産(GDP)が143.6億US$、GDP成長率が0.6 %、1人当たりGDPが5,290.0 US$、インフレ率が9.3 %(以上、統計データは世銀発表)である。
現在、同国経済で最大の懸念は、2013年時点で対GDP比135 %(ジャマイカ中央銀行)となる債務残高である。政府としては、IMFと協調する等最優先課題として取り組んでいるが、先行きは不透明と言える。
その他として、恒常的に大幅な貿易赤字であること、後述するとおり電力料金が高額であること等解決すべき課題が山積している。
2.ジャマイカ鉱業の現状
(1) 鉱業生産
ジャマイカにおける金属鉱業は、従前、金採鉱を行っていた実績もあるが、1960年代からボーキサイトの採鉱が盛んに行われるようになり、現在ではボーキサイトを主として採鉱しており、世界第7位の生産量、世界第3位の輸出量を誇るに至っている。
ボーキサイトの生産量に関しては、2011年まで順調に増加してきたが、近年の国際金属市況の下落・低迷等の影響を受け、2012年からは減少に転じている。また、同国では、ボーキサイトの生産のみならず、自国産のボーキサイトを利用したアルミナの生産も行っているが、その生産量はここ数年概ね横ばいである(図1参照)。
なお、鉱業関係当局である科学技術・エネルギー・鉱業省としては、より多くの外貨獲得を目的として将来的には付加価値が高いアルミナの生産量を飛躍的に高めることも視野に入れているが、後述するとおり、同国は電力料金が非常に高額である一方、政府として電力料金を引き下げる見通しが立っていないため、現時点において実現の可能性は低いと考えられる。

出典:Planning Institute of Jamaica
図1 ボーキサイト及びアルミナの生産推移
(2) 鉱業輸出
ジャマイカで生産されるボーキサイト及びアルミナは、ほぼ全量が輸出にまわされているため、輸出額の推移は生産量に連動した動きを見せている(図2参照)。
なお、これらボーキサイト及びアルミナの輸出額は、同国輸出総額の実に40 %以上を占めるに至っており、同国における外貨獲得の重要な柱となっている(図3参照)。

出典:Planning Institute of Jamaica
図2 ボーキサイト及びアルミナの輸出額推移

※伝統的農産物(バナナ、シトラス、ココア、香辛料)
出典:Planning Institute of Jamaica
図3 2013年ジャマイカ輸出額内訳
(3) 操業状況
2015年2月現在、ジャマイカにおいてボーキサイトの生産・輸出を行っている企業数は4社、うち採鉱を実施している企業は露Russal社及びJamalco社のみであり、Normanda社は輸出のみを行っている。
現在ジャマイカにおいてボーキサイトの採鉱を行っている鉱山は、Ewrton地域とJamalco社が操業する地域の2地域のみである。この他に、現在、以前閉鎖した鉱山を政府が入手し再度操業を開始すべく検討・準備を進めているものが1件存在する。
なお、現在開発中のプロジェクトとしては、Trelawnyボーキサイトプロジェクトが1件存在する。
3.国家鉱業政策の策定
(1) 経緯
ジャマイカでは、1950年代に外国企業によるボーキサイト生産が開始され、1960年代から生産量が徐々に拡大、現在は世界第7位の生産量を誇るにまで発展した。
一方、ボーキサイト鉱山を有する地域やこれらボーキサイトからアルミナを生産する工場が立地する地域においては、ボーキサイトやアルミナの生産が拡大し鉱業企業もそれに伴い利益を獲得してきたにもかかわらず、これら地元地域には何も還元されてこなかった。また、鉱業等の開発による利益を地元地域に還元することを目的として設立された「地域開発ファンド(CDF:Community Development Fund)」も、上手く機能せず、企業が開発等で得た利益が地元地域に十分に還元されていないのが実態である。
こうした状況を踏まえ、外貨獲得の重要な柱となっている鉱業の持続的発展を促進しつつ、地域の活性化と周辺環境の保護を図ることを目的として、2012年に同国では初となる「国家鉱業政策」の原案を策定し、同国議会に提出した。
(2) 概要
本政策には、鉱物資源の高付加価値化、雇用促進、環境管理等のほか、CDFを機能させること等により地元地域に対する利益還元を促進させることが盛り込まれる予定となっている。
具体的には、鉱物資源の高付加価値化としてボーキサイト生産よりアルミナ生産に重きを置いた政策を検討すること、専門技術の教育・訓練を実施することにより鉱業企業が欲する人材を育成し雇用促進につなげること、鉱業投資を促進するため行政手続きの簡素化を進めるほか、燃料インセンティブ(ボーキサイト鉱山のみを対象として、同鉱山で使用する燃料購入における優遇措置)の付与を創設すること等が検討されている。なお、当初原案には、鉱業企業に対するTAXインセンティブの創設も盛り込むことを検討していたが、IMFから租税収入を高める旨の勧告が出たため、TAXインセンティブについては削除することとなった。
(3) 策定状況
前述のとおり2012年にジャマイカ議会へ本政策の原案が提出されたが、2015年2月現在においても未だ同議会において審議中であり、今後の審議及び成立の見通しに関しては不明である。
4.ジャマイカ鉱業における特記事項
(1) 注目すべき鉱種
ジャマイカで注目すべき鉱種は、金属に関して基本的にはこれまで同様にボーキサイトのみであると考えられている。なお、従前金採鉱も行われていたが、現在操業している企業・鉱山は存在しない。
一方、賦存の可能性がある鉱種として挙げられているものは銅であり、現在豪州企業による探鉱が実施されている。
なお、従前は米国やカナダの企業が探鉱、探査に積極的であったが、最近では中国やロシアが目立っている。
参考として、非金属鉱物資源に関して言えば、これまで石灰石の生産が盛んに行われてきており、今後も引き続き生産が拡大する見通しが示されている。
(2) NGO・先住民問題
ジャマイカでは、鉱業の環境や社会への影響を懸念するNGO等による目立った反対運動はこれまでのところ見られていない。
一方、同国は、その歴史においてスペインの征服によって先住民が排除されたことにより、現在先住民と呼ばれる者は存在していないため、必然的に先住民との問題は生じない。また、これまでのところ地域住民とも上手く対話ができているようで、地域住民による鉱業操業に対し特段支障を来すような反対運動は見られていない。
なお、同国において鉱業は、反対運動の標的になると言うよりも、失業率が15%(2013年)を超える同国では、特に産業が乏しい地域において雇用を促進する産業としてむしろ積極的に受け入れられている。
(3) 労働者賃金
ジャマイカにおいて鉱山労働者の賃金は、概して同国における平均賃金より高いため、特段労使間による紛争は無い。鉱業関係者においては、NGO等による鉱業に対する反対運動が見受けられないことと合わせて、賃金に係る労使間問題も無いことが、同国鉱業への投資の魅力として捉えている。
(4) 電力料金問題
ジャマイカにおける問題点の一つとして、高額な電力料金が挙げられる。主な要因としては、発電設備の殆どが燃料を輸入に頼る石油火力発電であることと、当該発電設備や送電設備の多くが旧式であることから発電・送電効率が悪いこと、その上、既存送電設備に対し違法に電線を接続し電気を使用する所謂盗電によるものと考えられている。
このような中、政府や電力会社としては、設備の改修、入替等を検討、推進しているものの、電力会社においては資金繰りが悪いこと等により改善が進んでいないのが実態である。
2-(1)のとおり、同国ではボーキサイトの生産とともにアルミナの生産も行っているが、ボーキサイトからアルミナへの精錬過程においては電力を大量に消費することから、鉱業企業各社にとっても高額な電力料金問題への対応は同国で操業する上で大きな課題となっている。
(5) レアアース抽出プロジェクト
前述までのとおりジャマイカではボーキサイト及びアルミナの生産が盛んに行われているが、ボーキサイトからアルミナを精製する工程において生成される残渣中にレアアースが含有することに注目したところ、同国は他国に比べレアアースの含有率が高いことが判明した。
こうした状況を踏まえ、同国政府は、2013年2月に、アルミナを精製する工程において生成される残渣である赤色泥からレアアースを抽出するパイロットプラントを建設し、事業化の可能性を探るべく経済性等を評価する実証実験プロジェクトを行う旨を発表した。本プロジェクトに関しては、当初予算3百万US$で日本軽金属が建設を担当、日本軽金属とJamaica Bauxite Institute (JBI) とのパートナーシップにより同パイロットプラントを設計することとし、最終的に日本企業の5百万US$の投資により2014年秋に完成した。
本プロジェクトの契約では、日本軽金属がオペレーションコストも受け持つとともに、日本企業とジャマイカ側との共同でパイロットフェーズ中におけるレアアースの生産(抽出)も盛り込まれていたほか、商業化のための交渉も後日発生することが予定されていた。特に本プロジェクトの結果、事業化が決定されれば、年間1,500t程度のレアアースを抽出するための工場建設も視野に入れていた。
しかしながら、昨今の国際金属市況の悪化により、本プロジェクトの方法によりレアアースを抽出する際のコストが経済性に見合わないと判断されたため、日本軽金属とJBI両者の間で本プロジェクトを中断することが合意され、2014年10月に正式に本プロジェクトの終了に関する契約が署名されるとともに、本パイロットプラントの所有権をJBIへ完全に移転することとなった。
ジャマイカ政府としては、現在審議中である「国家鉱業政策」の目的にもある鉱業の持続的発展を進めていく上で、鉱物資源の持続可能な開発により鉱物資源利用のメリットを最大限享受することは「国家鉱業政策」に合致すると考えており、こうした点を踏まえると本プロジェクトの継続は必要と認識している。
このため、科学技術・エネルギー鉱業省は、本プロジェクトを継続させるため、改めて本プロジェクトに関する問題点を明らかにし、それを政策に反映させた上で同政策を公表、実施に移す旨を同年12月に明らかにした。
現在、JBIは、将来の事業化を目指し、今後2年間において日本軽金属からレアアース抽出に係る技術的専門知識を導入するほか、2年間の研究開発プログラムに関する共同契約を締結し、また、同プログラムにおいて発生する特許権を両者で各50 %所有する等の契約を行う等本プロジェクトを独自に推進している。
おわりに
人口、国土、経済規模等全てにおいて小国ながらも世界のボーキサイト生産、輸出の一翼を担うジャマイカは、良くも悪くも鉱業の発展が同国経済に相当程度影響を与えるものと考えられる。現在、我が国は、同国との間でボーキサイトの取引は殆ど行われておらず、両国間における鉱業に関する結びつきは薄いものの、一部民間企業による技術交流等は進められている。
こうした中、資源確保の多角化を進める上で、同国の鉱物資源ポテンシャルを認識することは必ずしもマイナスにはならないと考えられることから、今後も同国に関しある程度定点観測を行うことは、将来の可能性を見落とさない観点からも必要ではないかと思われる。

