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需要の下降局面にある鉱業界の現状と対策(2)~『Mines and Money London 2014』参加報告~
本稿では、2014 年12月1日から5日の5日間にわたってロンドンで開催されたMining Journal誌主催の『Mines and Money London 2014』のうち、2日から4日の間に行われたメイン会合での講演のなかから、鉱業を取り巻く投資環境に関する主なものを取り上げる。なお、本会合での講演資料等は、以下のリンクからご参照いただきたい。 |
アフリカ鉱業プロジェクトで何が変わったか
2004年以降の10年間にわたるコモディティのスポット価格を見てみると、銅や亜鉛が過去10年間でほぼ横ばい(銅:110 %、亜鉛104 %)の伸びであるのに対して、金価格は166 %、さらに鉄鉱石は352 %の値をつけている。一方で、鉱業分野の新株発行は、過去3年間で急速に冷え込んでいる。この1年間で鉱業主要取引所(TSX,FTSE,JSE,HSBC,ASX)における鉱業株価指数がいずれもややマイナス基調であったことも見て取れる。2014年末になって回復の兆しが見えてはいるが、2013年11月からの1年間で最も株価指数を下げたのがオーストラリア証券取引所で、株式指数が17 %下落した。現在の市況では、鉱業事業者が新株発行による資金調達を行うのは非常に困難であるが、社債の発行による資金調達オプションはまだ増加傾向にある。なおアフリカでのプロジェクトを対象とした社債取引のうち主要な8件を表 1にまとめた。
このような現状にあって、生産者がとりうる対策は主に次の4つである。
1) コスト削減と資本統制
コスト対策はすでに常識化。配当を増やす傾向が増え、レバレッジ解消も進む。
2) 収支の立て直し
収益性の低下に伴いレバレッジ解消は必須。但し、株価低下で新株発行や資産売却には逆風が吹いている。主な対策に、キャッシュフロー対策、新株発行による資金調達、子会社の新規株式公開、資産売却など。
3) ポートフォリオの最適化
低コストかつキャッシュフロー対策に有効な資産に注力し、投資の優先順位を決めて、管理体制を強化しつつレバレッジ解消を実施すると、投資家に投資戦略の選択肢を与えることが可能。主な対策に、資産売却、買収によるポートフォリオのアップグレード、事業分離化、など。ただし、M&A件数は2011年に156件だったものが、2014年には56件と減少傾向にある。とはいえ下降サイクルでM&Aを実施すると、評価額が減少しているためリターンがよい可能性が高い。つまり資産を「建てるより買う」戦略が有望。2014年現在、金属関連で中国によるグローバルM&A占有率は20 %であった。アフリカ関連のM&Aは2011年がピークで、このうち中国によるM&A占有率は30 %であった。なお、中国のアフリカ鉱業投資の主な事業については表 2を参照のこと。
表 1:過去12か月間の主要なアフリカ向け社債取引
社名 | 取引日時 | ファシリティ | 使途 | 金額 (US$m) |
Anglo Gold Ashanti |
2014年 7/17 |
RCF(Revolving Credit Facility) | 一般企業活動、 借換 |
1,000 |
Gold Fields | 2014年 6/14 |
期限付貸付 | 借換、 運転資本、 一般企業活動 |
1,440 |
First Quantum Minerals |
2014年 5/2 |
期限付貸付、RCF | 一般企業活動、 債務返済 |
3,000 |
Optimum Coal Mine |
2014年 2/26 |
RCF | 運転資本、 債務返済、 一般企業活動 |
232 |
Aureus Mining | 2013年 12/17 |
PF(Project Finance) | New Liberty金プロジェクト開発 | 100 |
Sibanye Gold | 2013年 12/10 |
RCF | 一般企業活動 | 242 |
London Mining | 2013年 11/28 |
期限付貸付、RCF | Marampaの拡張 | 200 |
Sishen Iron Ore Company |
2013年 11/26 |
RCF | 一般企業活動 | 1,082 |
(出所:会議資料より作成)
表 2:中国による主なアフリカ鉱業投資
年 | 対象社名/資産 | 対象国 | 鉱種 | 入札者 | 金額 (US$m) |
2014 | Eastern Platinum | 南ア | プラチナ | Hebei Zhongbo Platinum |
225 |
2014 | Soremi Investments | 台湾 | 銅 | China National Gold Group |
– |
2014 | Langer Heinrich (25%出資) |
ナミビア | ウラン | China Uranium Corporation |
190 |
2012 | Palabora Mining | 南ア | 銅 | Hebei Iron & Steel コンソーシアム |
338 |
2012 | Discovery Metals | ボツワナ | 銅 | Cathay Fortune | 873 |
2012 | Extract Resources (57%出資) |
ナミビア | ウラン | CGNPC | 1,250 |
2011 | Sundance Resources (*2013年4月に破談) |
カメルーン | 鉄鉱石 | Hanlong Mining Investment |
1,048 |
2011 | Anvil Mining | DRコンゴ | 銅 | Minmetals Resources | 1,300 |
2011 | Gold One International | 南ア | 金 | Baiyin Non-Ferrous Group コンソーシアム |
536 |
2011 | African Minerals (25%プロジェクト出資) |
シエラレオネ | 鉄鉱石 | Shandong Iron and Steel |
1,700 |
2011 | Metorex | DRコンゴ | 銅 | Jinchuan Group | 1,320 |
(出所:会議資料より和訳作成)
4) 代替的資金調達手段
鉱山会社は、新たな資金調達先として、①JVや戦略的パートナーシップ、②プライベートキャピタル(ソブリン債、未公開株式投資ファンド、個人富裕層、トレーディング会社等)、③ストリーム・ファイナンスやロイヤルティ・ファイナンス、④転換社債の4つを活用している。アフリカ鉱業界においては、プライベートキャピタルが株式資本を部分的に補完する役割を担っているほか、ストリーム・ファイナンスも上限はあるが資金の穴を埋める役割を果たしている。
鉱業は周期性を伴う事業である。中期的には、投資削減や投資家の意欲減退から資金不足となり供給を圧迫して厳しい状況が予測されるが、これも将来への布石である。高品位で長寿命の資産がサイクル全般を通して利益につながるのは確実で、中期的には買収も企業価値を高める戦略となりうる。資本は余っているが、より精鋭な案件に集まっている状況である。
実践的な借り入れ:その構造と財源、そして利用の可能性
負債には、文字通り負債と呼べるものと、負債とは呼べないものとの2種類がある。前者は貸手が借手企業のキャッシュフローからの返済を求める負債、さらに貸手が借手企業やその資産の所有権を有することを嫌がるタイプの負債のことである。一方で後者は、借手が所有権を有するために組むローンや、仮に不履行があった場合に貸手が企業や資産の所有権を入手する負債のことをいう。
資金調達の際に、なぜ負債にこだわる必要があるのか。それは、株式だけで資金調達を行うと、株式の希薄化が起こるからである。さらに借入を行うと、銀行家が儲かるのはもちろん、レバレッジ効果が期待できて資金の多様化を図れるという利点がある。さらに負債は破たん処理の際に株式より上位であるほか、一般的に定期・固定利率である。
負債の中でも上位債務には、定期借入が通常の「企業債務」や、特定プロジェクトに有効で貸手のデューデリジェンスが詳細な「プロジェクトファイナンス」、高リスク諸国との取引に有効な「輸出金融」、出荷待ち商品の安定確保に有効な「貿易金融」、設備取得に活用する「設備融資」などがあり、貸手には、銀行や保険会社、ファンド、輸出信用機関、金属トレーダー、設備供給業者、産業パートナーなどが挙げられる。
一方社債には、確定利付で市場レートの配当がつく。このなかには、格付けが一般的で取引条件が似通った「取引債」、店頭公開で取引される「高利回り債」、スカンジナビア市場なら、域外からも資金が得られるスカンジナビア取引所の「スカンジナビアンマーケット」、利子の受け払いを排除したイスラム法に基づく「イスラム債券」などがある。
鉱業分野での資金調達における負債利用の状況として、2014年は落ち着いた年であった(図 1)。
(出所:会議資料より)
図 1:三大取引所(Big3:豪州・トロント・ロンドン取引所)上場の鉱業企業と
その他取引所上場企業による負債調達額推移
(出所:会議資料より)
図 2:三大取引所(Big 3:豪州・トロント・ロンドン取引所)上場の鉱業企業の株式による
資金調達額(上図)と各取引所上場企業の資金調達に占める負債の割合(下図)
図 3:転換社債の仕組み
新株発行による資金調達も2014年は落ち着いた年だったが(図 2上図)、負債利用においては、2014年にはトロント取引所でも豪州取引所のような社債中心の資金調達スタイルが優勢を極めた年となり、取引所の性質に変化が見られた(図 2下図)。
社債の中でも「転換社債」とは、株式に変換することができる社債で、株価が上がると株式に転換したほうが利回りはよい(図3)。
「ロイヤルティ」の利用料は、収益の定率で決まるが、金属1種類のみに限られている場合があり、金属価格によって直接の影響を受けやすい。返済は金属生産で対応可であるため、ジュニア企業にとっても使いやすい。
「ストリーム」は使途が多様で使いやすく、金属価格に左右される金属ローンと言ってよい。金属の生産量で返済できるが、仕様によっては返済量が固定量である場合もある。ストリームは、2013年のSilver Wheaton社と伯Valeとの19億US$の取引を契機に、一気に取引額が増えた経緯がある。
「金属ローン」は固定量取引で、一定の金属量を持って返済するが、返済期間が決まっており、定額の金属先物価格ヘッジが利用できる。
図 4に資金調達種別と利用額の変遷をまとめた。傾向として、鉱山会社の株式が不調な現在、社債が比較的魅力ある資金調達方法となっている。銀行や貸手にも流動性があり、投資を呼び込んでいる。社債は生産者にとっては調達しやすいが、開発者にとっては新株発行との兼ね合いで限度がある場合がある。いずれにしても、業績良好な生産者や開発者にとっては、資金調達のしやすい市況である。
(出所:講演資料より)
図 4:資金調達種別と利用額の変遷
貴金属ストリーミング:資金調達の画期的解決策
鉱業は非常に資本集約的である。鉱山会社の資金調達の財源には主に負債(銀行ローンまたは社債発行)、新株発行、ポートフォリオの最適化などがあるが、負債は返済方法に柔軟性が乏しくヘッジの利用が求められる場合が多いうえ、現在の市況では容易に利用できない。一方新株発行は、返済方法は柔軟だが、既存株主にとっては株の希薄化を意味するため、こちらも現在あまり容易に利用できない。ではポートフォリオの最適化はというと、ポートフォリオの再構築で予測可能な利潤を最大化することができ、鉱山開発者にも比較的利用しやすくなっている。2014年の鉱業資金は500億US$であったが、そのうちの6割が負債で賄われている。なかでもポートフォリオの最適化戦略は、年を経るごとに鉱業資金の中核を成すまでに至った。
ポートフォリオの最適化には、「資産売却」、「ロイヤルティ」、「ストリーミング」の3つがある。このうち「資産売却」は、鉱山又はプロジェクト生産全体の売却あるいはJV権益の一部売却を通じて資金を得る方法であるが、鉱山会社や開発者が売りたがるのは往々にして何らかの問題がある資産である。また「ロイヤルティ」は、資産収入の特定割合を売却して資金を得る方法だが、生産鉱物全種類の売上全体に対して一律の割合で売却するため、一次金属の販売もそのうちに含まれ、鉱山会社にとっては制約となる。一方で「ストリーミング」は、一資産の単一金属の販売割合に応じて資金を調達できるうえ、非中核鉱物を対象とするため、一次金属生産に係るコントロールはひき続き鉱山会社が掌握できる。このことからストリーミングは鉱業資金調達の注目を集めるようになり、現在ではロイヤルティに比べても優勢で、資本の9割を占める事例もあるほどである。
ストリーミングの歴史は2004年にさかのぼり、もとはメキシコのSan Dimas鉱山から産出される副産物の銀を、適正価格で市場取引したいとの目的で始まった取り組みである。当社では、鉱山から将来的に生産される副産物の金や銀に対して、前払い金を支給して運営資金を提供し、生産後の貴金属の現物と引き換えに残額を支払うという資金調達モデルを開発した。鉱山寿命全体の金・銀生産量について、当社が特定の割合を受け取るという仕組みである。ある意味、当社が操業・生産リスクを負う「コモディティJV」と言い換えることもできるが、JVとの違いは、鉱山会社が操業上・財政上・法制上のコントロールを握る点である。
鉱山会社がこの仕組みから得る利点は多い。従来鉱山からの貴金属生産は、市場価格よりも廉価で取引されていたことから、鉱山会社にとってはストリーミングの利用で非中核資産の価値を高めることができ、リスクを減らしつつ経済的な柔軟性を高めることが可能となる。金価格が下落している現在、鉱山会社にとってはレバレッジをかける妥当性がないことも、ストリーミングの優勢に寄与している。このようにストリーミングはまさに貸手・借手の両者にとって「価値の裁定取引」を可能とするWIN-WINの仕組みとなった。
2014年にストリーミングを利用して鉱業界に支払われた前払い金は、総額100億US$に達し、そのうちの5割以上が当社の融資分である。一般的に、前払い金が資本支出に占める割合は、ストリームが収益に占める割合よりも大きいため、財務上の圧迫感も少ない。
この新たな資金調達構造は、新株発行による株価の希薄化を避けつつ資本支出を得られるため、資金繰りに奔走するジュニア企業にも有益で、プロジェクトの進展を促進している。また当社の技術班(投資家からすれば第三者機関)がプロジェクトを評価することから、資産価値が高まり、投資家の信頼につながって、結果的にジュニア企業の株価があがる効果もある。
(出所:会議資料より)
図 5:Silver Wheaton社の資産分布図とパートナー企業
当社が抱えるストリーミング資産は、図 5に示すとおりであるが、2018年までには銀換算生産量で4,800万oz相当が予測され、生産量は今後最高35%の伸びが期待されている。Pascua Lama鉱山からの生産量はこの予測値に加味されていないが、今後5年間うちに同鉱山からの銀年産量900万ozが追加される見込みである。
当社のサービスは、既存の鉱山会社に操業や資本コストの固定化という利点をもたらす。操業コストは4US$/銀ozで計算し、生産開始から3年後以降は年に約1%のインフレ修正を行っている。当社はストリーミングの先駆者として創業してから約10年になるが、徐々に買収を重ねて一株当たりの埋蔵量・資源量を増やしてきた。現在では、ストリーム業者の株価の伸び率は、金・銀価格はもとより北米生産者を上回るまでに成長した。
鉱業界におけるストリーミングを活用したポートフォリオの最適化は、鉱山会社にとっては柔軟かつ株の希薄化を伴わない資金調達方法であると同時に、投資家にとっては貴金属取引の形態に新しい選択肢をもたらす投資方法といえる。
結び
株価の下降、コモディティ価格の下降、需要の減退 ― 鉱業界においては負の要素が鮮明となった2014年のMines and Money London は、スーパーサイクルの下降曲線(ベアサイクル1)に直面する鉱業界とロンドンの投資家とのニーズマッチングの場であった。鉱山会社や探鉱ジュニアにとっては、資金繰りや運営戦略といった事業対策を学ぶ場であり、投資家にとっては、投資環境や鉱業界の現状、そして有望な探鉱ジュニアのプロジェクトを知る機会となり、多様な参加者が各々何かを手にして会場を後にした様子であった。
1 ベアサイクル:市況が下降曲線にある状況。金融用語では投資が弱気な様をいう。ベア(熊)・マーケット、Bearish Marketなどともいう。「熊」を市況に当てはめるようになった由来は諸説あり、熊が攻撃の際に手を振り下ろす様から言われるようになったという説と、かつて熊の皮の取引で、仲介人が現物のない状況で空売りし、市況が下向く中でも生き延びていたことに由来するという説がある。熊に対して上昇機運にある市場は「ブル(牡牛)・マーケット」という。