報告書&レポート
~強気崩さぬアフリカ各国政府、鉱業関係大臣が語る鉱業のこれから~Mining Indaba 2015参加報告(その1)
アフリカ最大の鉱業投資会議「Mining Indaba 2015」が、2015年2月9日から12日の4日間、ケープタウン国際会議場にて開催された。今年で21回目を迎えた本会議は、Tony Blair元英首相の基調講演で盛り上がりをみせたものの、コモディティ価格が低迷する中、全体の参加者数は昨年の約7,800人から約6,800人に減少し、若干のトーンダウンがみられた。 日本政府からは、山際大志郎経済産業副大臣を代表とし、廣木重之駐南アフリカ共和国日本国大使、萩原崇弘経済産業省鉱物資源課長らが出席し、アフリカ各国の鉱業関係大臣との二国間会談を実施した。また、「非アフリカ政府セッション」において、アフリカ諸国との関係強化に向けた取り組みについての講演を行った1。日本企業からは、商社、非鉄会社の参加があり、その他、日本貿易振興機構(JETRO)、国際協力銀行(JBIC)、国際協力機構(JICA)、秋田大学からの参加があった。 今年で12回目の参加となるJOGMECは、JBICと共同でのブース出展と、辻本崇史金属資源開発本部長による講演を通し、JOGMECのアフリカにおける活動をアピールした2。 「Mining Indaba 2015」での主な講演について、その概要を4回に分けて取り上げる。本稿では、その1として「強気崩さぬアフリカ各国政府、鉱業関係大臣が語る鉱業のこれから」を報告する。 |
はじめに
2015年2月10日、「Mining Indaba 2015」のホスト国である南アの Ramatlhodi鉱物資源大臣がメイン会場にて基調講演(写真)を行った。また、世界銀行、アフリカ開発銀行、国際通貨基金、そしてJOGMECの主催による「アフリカ鉱業大臣フォーラム」が10日と11日の2日間にわたり開催された。このフォーラムにおいて、コートジボアール、ウガンダ、ギニア、ガーナ、DRコンゴ、ザンビア、ケニア、アンゴラ、ニジェール、ナイジェリア、スーダン、ガボン、マダガスカル、タンザニア、エリトリア、ナミビア、リベリア、ルワンダ、ブルキナファソ(講演順)の各政府代表者が自国の鉱業の概要と鉱業政策に関する講演を行った。以下に、南ア、DRコンゴ、ザンビアの講演概要を紹介する。
1. 南アフリカ共和国 Ngoako Ramatlhodi鉱物資源大臣による基調講演
(1) 講演の背景
度重なる労働ストと電力問題により、2014年の南ア経済は、2009年の景気後退以降、最低の成長率を記録した。22万人を動員した白金鉱山での5ヶ月間に及んだストは、年間成長率を1.5 %押し下げ、第4四半期には持ち直したものの、年間としては前年比2.2%のマイナス成長であった。電力問題について、政府は国営電力会社(ESKOM)に対する200億ランドの資金投入を表明するなど対策に乗り出しており、2015年の経済成長率は2.5 %~2.8 %に好転すると予測。しかしながら、大方の予想ではこの数値は楽観的であり、また、達成したとしても拡大する貧困の克服には不十分な値とみられている。
(2)講演の概要
●拡大する格差
急速な格差拡大は国内のみならず、先進国と途上国、特に資源豊富なアフリカ大陸との間にみられる。南アとジンバブエの2ヵ国で、世界生産量の8割にあたる白金を生産している事実に反し、アフリカはその恩恵を享受していない。この状況を打開するため、アフリカ連合はMining Vision for Africaを採択し、採掘と生産の当時国が利益を受けるべきであることを強調してきた。
南アは投資への準備はできている (South Africa is ready for investment)。過去20年間かけて打ち立てた立憲民主主義は、強い金融と財政統治、独立性を有する中央銀行によって強化され、我が国は浮き沈みの激しい世界経済を生き抜いてきた。しかし、依然として貧困は存在し、多くの国民が社会から取り残されている。
●鉱業セクターの今
これまでになく低迷するコモディティ価格など、鉱業は厳しい局面にあるが、この逆境をチャンスに変えたい。南ア経済の中心である鉱業の成長のため、あらゆる手段を尽くし、安定した(stable)ビジネス環境を提供していく。その一環として、政府は「MIGDETT」を設立した。「MIGDETT」とは、「鉱業・成長・開発・雇用タスクチーム (Mining, Growth, Development and Employment Task Team)」の頭文字をとったもので、異なる利害関係者の協議の場である。ここでは、労働者とコミュニティーによる経済活動への参加、人材育成、安全衛生といった内容が協議されるだろう。鉱業の発展のためには、労働者、ビジネス、コミュニティーといった、幅広い利害関係者による確固たる支持が必要である。
●鉱業関係法の整備
鉱業憲章で制定された目標の達成度をレビュー中であり、結果は今年3月末までに公表される。
ズマ大統領による、鉱物・石油資源開発法(MPRDA)改正法案の国会差し戻しの決定を支持する。これにより、鉱物資源と石油・ガスを分けて取り扱うことになる。MPRDAは、今後とも南ア鉱業と国内経済成長の指針となる法である。(筆者注:MPRDAの4原則 ①鉱物資源への公平なアクセス、②女性を含む歴史的に差別を受けてきた人々に対する鉱物・石油資源への参画機会の拡大、③経済成長及び鉱物・石油資源開発の促進、④全ての国民に対する雇用の促進と社会経済の成長)
現行の草稿では、鉱山出荷価格(mine gate price)が開発に関する価格(developmental price)に設定されており、議論がなされているところであるが、業界と話し合いつつ、合法性を鑑み、政府としての最終決定を下したい。(筆者注:開発に関する価格とは、鉱山出荷価格より安価な国内産業育成のための優遇価格のようなもの。鉱山出荷価格が開発に関する価格に設定されると、鉱山会社の利益の一部を毀損することとなる。2014年に鉱山会社と政府間で、改正案に開発に関する価格についての条項を入れ込まないことで一旦合意に至ったものの、2015年に入り、政府が一方的に石炭と鉄鉱石について方針を転換した。これに対し鉱業協会は「合意の反故」として強く反発している。)
●ビジネス環境整備
昨年末、鉱物資源省、環境省、水資源省はワンストップライセンス体制の導入を発表した。これにより、鉱業、環境、水使用のそれぞれのライセンスが300日以内に同時発行されることとなり、手続きが簡略化された(筆者注:従前は3年を要した)。この体制下では、鉱物資源省が鉱業活動に付随する環境と水管理のライセンスを発行する機関となり、環境省が上訴機関となる。
●インフラ整備
電力問題の解決は国全体の責務である。鉱山会社間、鉱山会社とコミュニティー、鉱山会社と政府といった、相互の協力が求められる。価値と運命を共有し、Win-Winな関係の実現の好機となるだろう。
政府はインフラ開発の重要性を認識しており、開発事業に1兆ランドを拠出した。鉱業にエネルギーは不可欠であるため、ESKOMへの支援を継続している。政府は発電能力増強のため、太陽光など再生可能エネルギーの導入と、民間資本の石炭火力発電所に関する法規則のとりまとめをすすめており、原子力発電開発についてはパートナー候補との間で協定締結に向けた協議を行っているところである。特筆すべきはインガプロジェクト(筆者注:DRコンゴとの水力発電共同事業。南アがDRコンゴから電力を購入。)で、これにより、年間2,500MWの電力供給が可能となる。
写真: Ramatlhodi大臣による基調講演
2. コンゴ民主共和国 Martin Kabwelulu 鉱山大臣による講演
(1)講演の背景
DRコンゴはアフリカ大陸の中央に位置する、世界有数の資源国である。同国経済は、2015年の成長率9.1 %と、鉱業生産量が前年と同水準に維持される場合、コモディティ価格の下落にも耐えうる力を持つと評される(IMF)。一方で、精鉱輸出禁止措置、鉱業に対する諸税の引き上げなど、顕著な資源ナショナリズムの動きが投資家の懸念材料となっている。2013年から議論が続く鉱業法改正の行方が業界の耳目を集める中、本講演が行われた。
(2)講演の概要
●透明性向上に向けた動き
昨年、東部のゴマで「第2回鉱業の統治と透明性に関する国際会議」を開催した。紛争鉱物については、大湖地域国際会議(ICGLR)と経済協力開発機構(OECD)による8回目のデューデリジェンスを終え、引き続き、特に国際錫研究所(ITRI)プログラムを通して解決に取り組む。
その他、アフリカ商法調整機関(OHADA)への加盟、採取産業透明性イニシアティブ(EITI)では遵守国に認定されるなど、透明性向上へ向けて積極的な取組を推進中である。
●鉱物資源ポテンシャル
DRコンゴは、銅・コバルト、錫、ダイヤモンド、金をはじめ、高い鉱物資源ポテンシャルで知られる。加えて、近年では鉄鉱石の探査がMbomo地域ですすめられている。講演中に紹介されたコモディティの資源量と生産量を下表に示す。
表. DRコンゴ コモディティの資源量・生産量
コモディティ | 資源量 | 2014年生産量 |
銅 | 7,500万t | 100万t |
コバルト | 600万t | 76,000 t(※) |
錫 | 80万t | 7,100 t |
コルタン | ― | 500 t |
金 | 750t | 24 t |
鉄鉱石 | 100億t | ― |
(※)筆者注:バルクt
●投資機会
我が国鉱業発展のための3本柱は、①探鉱の推進、②高付加価値化の推進、③インフラの整備、である。現状、ポテンシャルが明らかになっているのは国土の18 %程度に留まり、未探鉱地域への投資を期待する。高付加価値化については、製精錬のみならず、最終製品の生産までを範囲と捉えている。インフラ整備については、特に、供給が追い付いていない電力と、運輸・交通といった基礎インフラへの投資を歓迎する。
●鉱業法の改正について ※質疑応答セッション内での発言
新鉱業法の草案を政府へ提出した。鉱業協会の懸念には配慮した内容で、3月中旬に始まる次の国会で審議されることになる。(本講演前日、鉱業協会が発表した「政府は一方的に交渉を停止し、業界の同意なしに改正案を国会に提出した」との声明に対し)そのようなことはない。交渉は停止されていない。
3. ザンビア共和国 Margaret Mwanakatwe 商務・貿易・産業大臣による講演
(1)講演の背景
2015年1月、サタ前大統領の逝去にともない実施された大統領補欠選挙で、与党のエドガー・ルング氏が大勝し、同月25日に大統領に就任した。新大統領がロイヤルティ引き上げを推し進める中、注目された鉱山・エネルギー・水開発大臣の人事については、講演のあった2月10日時点で明らかにされていなかったが、Christopher Yaluma大臣の続投が12日に正式発表された。10日の講演には、Margaret Mwanalatwe商務・貿易・産業大臣が登壇し、ロイヤルティ、鉱業法の改訂等について、政府の見解を示した。
(2)講演の概要
●一般概況
8ヶ国と国境を接するザンビアは、地域一帯の工業活動のハブになりつつある。経済の中心は、鉱業、農業、観光で、GDP成長率はここ10年、毎年 5%以上を記録している。最近では道路建設等、建築分野への投資が増大している。
鉱業は独立後に一旦国有化されたものの、その後民営化され、現在は完全に民間主導である。生産量、新規事業数ともに成長を続け、2012年以降は3つの大規模鉱山が操業し、本年中には新たに2つの鉱山で商業生産が開始される。その他、First Quantum社のKalumbilaプロジェクト、Blackthorn Resources社のKatumba プロジェクトなど、2020年迄に商業生産が見込まれる開発段階のプロジェクトが進められている。
●ロイヤルティの引き上げ
新たなロイヤルティ制度では、30 %の法人税をゼロにし、代わりにロイヤルティを8 %(坑内掘り)、20 %(露天掘り)に引き上げた。この14年間、法人税を支払った鉱山会社は銅関係の2社のみで、その他の企業は法人税を支払っていない。鉱業収入が国庫歳入に結びついていない現状は、(国にとって)非常に不公平なものだ。政府は業界との相互利益を目指しており、これまで同様、オープンに議論していく。企業が何かしらの理由でロイヤルティ支払ができない状況にあるならば、政府は支払猶予に応じる準備がある。対話のドアは常にオープンだ。
●鉱業法の改正
現在、ザンビア鉱業の基本法「2008年の鉱山・鉱物開発法(Mines and Minerals Development Act)」を見直し中である。鉱業権付与と鉱業活動に係る規則は、業界の競争力と持続可能な成長、国益とのバランスをとりながら、同時に投資家の利益に適う内容に改訂されるだろう。その他、①鉱業権付与に係る行政手続き、②探鉱権(Prospecting License)の面積・期間、③加工権(Mineral Processing License)の期間、④小規模鉱業についての制約、⑤経済状況や技術的制約によって事業継続が不可能になる場合の対策、について見直しがなされている。
●政府の描くザンビア鉱業の将来
鉱業を国の成長に大きく資するものにし、2030年までにザンビアを中進国にしたい。そのため、(1)新規大規模プロジェクトの立ち上げと促進、(2) 高付加価値化の推進、に取り組む。金属の新規プロジェクトの立ち上げに加え、石炭、ウラン、石油・ガスのポテンシャルも追及する。高付加価値化推進については、選鉱から製錬まで、全てのプロセスにおいて、キャパシティ拡大を目指す。現在、国内の製造業に供給される銅は、全生産量の1%のみで、他は未加工のまま輸出されている。
おわりに
一連の講演で「対話(dialogue,communication,conversation,discussion)」という単語が頻出し、投資家、鉱山会社、コミュニティーに対する政府のオープンな姿勢が強調されていたものの、一方では政府のイニシアティブの下、国益重視の法案、政策が着々と進んでいることが明らかになった。コモディティ価格が下落する中、シャフトの閉鎖や採掘活動の規模縮小が進み、鉱山会社の体力持続が不安視される中、追い打ちをかけるようなこれらの政府の動きに対し、各企業はどう対応していくのだろうか。国とコミュニティーへの一層の寄与が求められるいま、ERNST&YOUNG社による2014年の鉱業ビジネスリスク分析で3位にランクインした社会的操業認可(Social License to Operate)3への取り組みが一層重要になりそうだ。
1 2015年2月12日 経済産業省ニュースリリース「山際経済副大臣が南アフリカ共和国及び英国に出張しました」
http://www.meti.go.jp/press/2014/02/20150212005/20150212005.html
2 2015年2月19日 JOGMEC ニュースリリース「アフリカとの更なる関係強化へ~マイニング・インダバにてJOGMECの活動をアピール」
http://www.jogmec.go.jp/news/release/news_10_000193.html
3 3.平成27年1月8日 JOGMECカレント・トピックス「ERNST&YOUNGによる鉱業におけるビジネスリスクの分析」キャロル涼子