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報告書&レポート

2015年3月26日 ワシントン事務所 村松秀浩
No.15-16

Magnetics 2015参加報告

 2015年1月21日~22日、Magnetics 2015カンファレンス・展示会が米フロリダ州オーランドで開催されたので、カンファレンス・展示会の概要を報告する。

1.概要

 ①カンファレンス及び②永久磁石製品の展示会を合わせて、参加者は約200名であった。レアアースの上流・サプライチェーンから、レアアース利用永久磁石の製品・設計・製造技術、再使用・リサイクルに至るまで磁石に関する広範囲な内容であるが、換言すれば若干散漫な内容であった。

 2日間にわたるカンファレンスの主なプレゼンは以下のとおりである。

2.主要なプレゼン項目

 (1) レアアース・サプライチェーン

 Technology Metals Research社Gareth Hatch創業者兼社長による、レアアースのサプライチェーン及び2014年の中国の動向に関するプレゼン。

 (2) 磁石産業における原材料需給バランス

 Arnold Magnetic Technologies社Steve Constantinides技術部長による、永久磁石の製造に必要な原材料の需給に関するプレゼン。

 (3) レアアース永久磁石の最終寿命戦略

 デンマーク工科大学Stig Hogberg電気工学科研究者による、レアアース使用永久磁石の再使用及びリサイクル方策に関するプレゼン。

 (4) NdFeB磁石の設計及び特性の現状

 Thinova Magnet社Randolph Callihan技術担当副社長による、NdFeB磁石の設計及び適性温度に関するプレゼン。

 (5) NdFeB磁石製造の精密成型プロセス

 Alpha Magnet社Michel Odle副社長兼GMによる、NdFeB磁石の従来型成型プロセスと精密成型プロセスの比較対照に関するプレゼン。

 (6) 新型電力用柔軟磁石

 Imfine社Patrick Lemieux技術部長による、新型電力用柔軟磁石に関するプレゼン。

 (7) 電磁熱効果

 国立標準技術研究所(NIST)Robert Shullフェローによる、電磁熱効果プレゼン。

 (8) 日立金属のNdFeB磁石特許及び米国市場における特許適用に関する中国の課題

 HPMG社Joanne Jia副社長及びWalter Benecki社Walter Benecki社長による、日立金属が所有するNdFeB特許を巡る中国の磁石メーカーとの係争に関するプレゼン。

 (9) 結合磁石材料の進歩

 MagnetoDynamics社James Bell首席コンサルタントによる、結合磁石材料の理論及び実用に関するプレゼン。

 (10) 電力用磁石設計に対するソフトウェア支援

 Mauricio Esguerraコンサルティング社長による、磁石設計ソフトウェアに関するプレゼン。

 (11) 二極挿入鋳造磁石

 Max Baermann社Thomas Schliesch研究開発部長による、二極挿入鋳造磁石に関するプレゼン。

 (12) ジスプロシウム供給

 Northern Minerals社George Bauk CEOによる、世界のジスプロシウム需給及び豪州Browns Rangeレアアース・プロジェクトに関するプレゼン。

3.豪州Browns Rangeレアアース・プロジェクト

 世界のレアアース市場における重希土類の供給に関しては、中国がほぼ全量を供給している現状であるが、将来にわたって中国による重希土類供給独占は基本的に不変であると予測されている。

 Northern Minerals社の旗艦プロジェクトである豪州Browns Rangeレアアース・プロジェクトは、重希土類ジスプロシウム(Dy)8.79 %という高い含有量を誇る。Molycorp社の米Mountain Passレアアース鉱山は、セリウム(Ce)やランタン(La)といった軽希土類の含有量が高いものの、Dy含有量は僅かに0.05 %と微量に過ぎない。

 再生可能エネルギーや防衛・軍需等の分野で不可欠な永久磁石の製造に使用されている希土類の中では、ジスプロシウム(Dy)、テルビウム(Tb)、ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)の希少性及び重要度が高い。

 世界の希土類需要に関しては、①運輸分野における2020年までのDy需要は年平均+15~20 %の伸び、②再生可能エネルギー分野における2020年までのNdFeB永久磁石の需要は年平均+12~14 %の伸び、③電力分野における2020年までのDy需要は年平均+6~10 %の伸びを示すと予測している。

 米国のレアアース鉱山の代表格であるMountain Pass鉱山は、国防総省の抽出試験プロジェクトに選定されている。また、米連邦政府が進めている「重要鉱物戦略(Critical Minerals Strategy)」の3本柱は、①供給源の多角化、②代替材料・代替技術開発、③リサイクル・再使用であり、米連邦政府はレアアース政策に対して多額のR&D予算を投入している。

 中国以外の世界各国からの重希土類の供給不足は、地質データ・既設インフラ・投資資金の不足により今後も不変であろう。かかる現状において、Northern Minerals社は、ジスプロシウム(Dy)の新規供給源として期待できる。

 中国のレアアースの顧客としては、日本が第1位(59 %)で、米国が第2位(14 %)を占めている。レアアースを取り巻く環境としては、①米国を中心としてレアアースの代替材料の研究開発が行われているが、実用可能性は依然として低い。②レアアースの供給不確実性は高い。③経済のファンダメンタルズからレアアースの長期的需要は増加する。

 Northern Minerals社は、豪州ウェスト・オーストラリア(WA)州政府から既にBrowns Rangeレアアース・プロジェクトに関する支持を得ている。Northern Minerals社は、2006年10月に豪州株式市場に上場し、Browns Rangeレアアース・プロジェクトを100 %所有し、2010年7月以降7,500万ドルを支出してきた。Northern Minerals社は、中国以外では世界第3位のレアアース企業であり、現在の市場価値は1億1,100万ドルである。Browns Rangeレアアース・プロジェクトは、2010年に高品位Dyの52,372 tの含有を確認しており、279 tの生産が可能となる。

 今2015年から来2016年にかけて、資機材調達及びプラント建設工事を行い、来2016年に採掘・生産を開始する計画である。Browns Rangeレアアース・プロジェクトは、世界の永久磁石サプライチェーンの不可欠のパーツとなる。

4.日立金属のNdFeB磁石特許を巡る日中係争

 日立金属のNdFeB永久磁石に関する特許は、2029年まで有効である。日立金属は、2012年に中国メーカーに関する337件の不服申し立てを米国特許庁に提出した。日立金属は多数の特許のうち4特許のみを鍵となる特許としている。日立金属は、2012年8月17日付けで、米国際貿易委員会(USITC)に対して、中国永久磁石メーカーの特許権侵害を提訴した。

 世界市場におけるNdFeB永久磁石の生産では、中国が圧倒的なシェア70 %超を占めている。中国におけるNdFeB永久磁石メーカーは300社超を数えるが、中国メーカーの永久磁石生産は、供給過剰である。中国の永久磁石メーカーの平均設備稼働率は、総供給能力の60 %を下回っている。

 2013年、中国の主要7永久磁石メーカーが、自社の技術を保護するため、日立金属を相手取って逆提訴した。

 中国の永久磁石メーカーは、業界内の協力関係を強固にするため、昨2014年、中国レアアース産業協会磁石部会を創設した。同協会磁石部会には、中国の永久磁石メーカー200社超が加盟し、San Huan会長が務めている。勿論、HPMG社を含めた主要な永久磁石メーカー7社も同協会磁石部会に加盟している。

 中国のレアアース永久磁石産業同盟は、中国の永久磁石メーカーは日立金属のNdFeB永久磁石に関する特許権を侵害していないと主張している。

 現在係争中の日立金属と中国永久磁石メーカーの特許権係争は、①日立金属の勝訴、②中国永久磁石メーカーの勝訴、③分割決定の3通りの結論が想定できる。分割決定の場合には、①優良品位と②低品位の品位分けをした決定がなされる可能性があると考えられる。仮に中国の永久磁石メーカー勢の勝訴となれば、①他の前提条件が不変であると仮定して、NdFeB永久磁石の価格が10~15 %下落し、②永久磁石のユーザーの選択幅が拡がることとなる。

 日立金属の特許ライセンスの利用者は、永久磁石メーカーの70~80 %を占め続けるであろう。米国際貿易委員会の決定が下されるまでに平均5年~6年間を要するため、今後更に長期間を要することとなり、日中企業両方の裁判費用が嵩む。提訴から5年間で決定が下されれば、早い方である。

おわりに

 永久磁石は中国で大部分が製造されており、日本で製造されている永久磁石は一部の高級品・精巧品のみで少量である。また、米国では永久磁石を製造しているメーカーは無い。

 米国で永久磁石を使用した部品・機器を製造するメーカーは、設計・試作するが、製品化を米国ではなく中国の部品メーカーに委託生産させる「ファブレス化」が進展している。永久磁石の原材料となるレアアースのほぼ全量が中国の鉱山で採掘されているので、サプライチェーンの上流から下流まで中国が占めるような状態となっている。Magnetics 2015の永久磁石製品の展示会では、中国企業以外に、多数の米国企業がブースを出していたが、工場が米国内に存在していない企業が大部分であった。

 軽希土類は供給過剰による市況安により、重希土類は放射性のトリウム処理により、いずれの種類のレアアースも、中国以外における採掘・生産が困難な状況に追い込まれている。米国内で複数のレアアース・プロジェクトが動いているが、Mountain Pass鉱山を除けば、いずれもF/S段階のものばかりであり、採掘・生産まで漕ぎ着けるまでには今後相当時間を要する。現在進行中のレアアース・プロジェクトの大部分はF/S止まりとなるのではないかという見解がある。中国国内でさえ、レアアースのみを採掘・生産する鉱山は無く、鉄鉱石やベースメタルにコストをアドオンすることにより、採算を確保している状況である。

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