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報告書&レポート

2015年4月9日 ロンドン事務所 キャロル涼子
No.15-17

~資源メジャーのアフリカ事業、Amplats、Rio Tinto、Anglo Gold Ashanti及びLonminの取り組み~Mining Indaba 2015参加報告(その2)

 アフリカ最大の鉱業投資会議「Mining Indaba 2015」が、2015年2月9日から12日の4日間、ケープタウン国際会議場にて開催された。今年で21回目を迎えた本会議は、Tony Blair元英首相の基調講演で盛り上がりをみせたものの、コモディティ価格が低迷する中、全体の参加者数は昨年の約7,800人から約6,800人に減少し、若干のトーンダウンがみられた。

 日本政府からは、山際大志郎経済産業副大臣を代表とし、廣木重之駐南アフリカ共和国日本国大使、萩原崇弘経済産業省鉱物資源課長らが出席し、アフリカ各国の鉱業関係大臣との二国間会談を実施した。また、「非アフリカ政府セッション」において、アフリカ諸国との関係強化に向けた取り組みについての講演を行ったi。日本企業からは、商社、非鉄会社の参加があり、その他、日本貿易振興機構(JETRO)、国際協力銀行(JBIC)、国際協力機構(JICA)、秋田大学からの参加があった。

 今年で12回目の参加となるJOGMECは、JBICと共同でのブース出展と、辻本崇史金属資源開発本部長による講演を通し、JOGMECのアフリカにおける活動をアピールしたii

「Mining Indaba 2015」での主な講演について、その概要を4回に分けて取り上げる。本稿では、その2として鉱山会社20社の講演の中から、資源メジャー企業による講演を中心に概要を報告する。なお、本鉱業大会の情報やプログラムについては、以下のリンクからご参照いただきたい。https://www.miningindaba.com/ehome/indaba/event_schedule

1. Amplats: 南アの持続可能な鉱業界構築に向けた現代化へのステップ

講師:Anglo American Platinum, CEO, Chris Griffith氏

 これまで私が培った25年間の業界経験とCEOとしての7年間の経験から、南ア鉱業界の現代化に向けた課題と、国や投資家、従業員、地域といったステークホルダーから寄せられる様々な、そして時には相反する要望に応えられる体制づくりについて述べる。

(1) 南ア鉱業を巡る厳しい状況

 世界経済不安と経済成長停滞のなかで鉱業界は過去6年以上厳しい経済状況下にある。コモディティ価格は全体的に下落し、特に鉄鉱石については3年前にはトン当たり180 US$だったものが、今日では60 US$と最たる例となった。銅価格も2015年の初めから価格が10 %下落した。白金はさらに厳しい状況で、2008年の世界金融危機当時の価格よりも低い水準にある一方で、操業コストは消費者物価指数を上回る上昇ぶりである。

 南アが鉱業ブームに乗り遅れた要因には、電力不足、労働問題、政策や税制の変更などが挙げられる。鉱業界にも非はあり、いくつかのコモディティでは生産過剰により供給過剰を引き起こし、過度に借入資本に頼って収支のバランスを欠いた。その結果、投資意欲を減退させ、株主や地域の信用を失った。この反省から、当社では安定した政策策定や人材育成、地域開発にむけて国と企業、そして地域が協力する場を設けている。政府も市況に危機感を感じ、鉱業振興と投資促進に向けて早期の状況改善に努めている。南ア鉱物資源大臣の講演にもあったように、政府は鉱物・石油資源開発法の数か月内の策定を確実に進め、南ア鉱業界の安定をアピールし、投資を呼び込む必要がある。

(2) Amplatsによる南アでの取組と今後の展望

 Anglo Americanは、20年前の民主化当時から、Johannesburg Consolidated Investment社やExxaro社、DeBeers社のダイヤモンド鉱山等の買収を通してBEE企業の支援にも積極的に関与し、南アの現代化の一助となってきた。労働問題の早期解決と、地域や労働者の人材育成を通した経済効果についても、今後も引き続き注力し、鉱業界の活性化に資する所存だ。

 白金生産に関しては、Amplatsの運営を始めとして中核事業を強化するために鉱山資産の再構築を進めている。現在Rustenburgプロジェクトを5鉱山から3鉱山へ、Union Mineを2鉱山から1鉱山へ削減して資産の最適化に向け移行中で、収益の向上に向けて見直しを断行している。Union Mineでの労働問題については、2014年からパートナーや関連団体と協力して解決に向けた話し合いを継続中である。Amplatsの現代化戦略は、①株主への継続的な配当の確保、②資本と労働力のバランスを見出し労働問題を現代化、③操業現場での地域との関係性の向上、④採鉱段階における機械化と労働環境の向上の4点である。なかでもストライキの歴史は繰り返されるべきではない。そして機械化は労働力の削減につながるとの声もあるが、事業が拡大すれば別の領域で人員が必要になるのは明白で、社会的かつ経済的効果も見込まれる。

(3) 技術革新の積極的導入

 現在鉱業界が直面する苦境を乗り越えるには、機械化・自動化のイノベーションが欠かせない。鉱業界は次の5年間で20年分の進化を遂げなければならないと考える。薄い鉱層にアクセスするためには、最先端の技術を大胆に導入するイノベーションが必要だからである。なかでもPGMを効率的に回収するため、硬石破砕のDisk cutting技術について関連企業を巻き込んだ技術開発を促進している。レーザーを利用した切り出し(Cutting)や鉱石軟化(Softening)技術の導入を進める計画も、生産性及び持続可能性の向上、安全強化につながると信じる。他産業との技術交流により技術間ギャップを穴埋めし、さらなる革新技術の促進を図っていく。

 政府や、従業員、労働組合、さらにはNGOとの連携を進め、従業員とその家族が鉱山の近くで安全に、しかも十分なインフラ設備に囲まれて暮らす現代的な鉱山経営を目指す時代が来ている。設備のサービス産業が雇用創出の主流となるだろう。またこの業界では直接雇用が減少する代わりに、高技術力・高収入の労働力を要するようになる。

2. Rio Tinto: 長期的視野に立った画期的なパートナーシップの構築

講師:Rio Tinto, Chief Executive Diamonds & minerals, Alan Davis氏

 コモディティ価格やエネルギーは、現在変動期にある。しかしこのような変動も、エボラ出血熱による人道的被害の比ではない。この被害を食い止めようと奮闘する当社のギニアチームや、被害地域で事態収拾に尽力する方々にまず心から敬意を表したい。

(1) アフリカと世界の経済成長予測と鉱業の重要性

 世界の人口は、2050年までに3分の1増加し、100億人を突破する予測である。2015年だけで中産階級と言われる人口が新たに7,000万人増えると言われている。中国では今後10年間で1億7,000万人が都市部に移住すると予測され、インドでも過去10年間にわたって8 %台の経済成長が続いている。特にインドは2030年までに世界のGDPの1割を占めるようになるといわれ、IMFの統計によると、来年にはインドの経済成長率が中国を抜くと予測されている。

 アフリカでも過去10年間に年5 %台の成長を続けており、大陸人口も2050年までに24億人に達するとの予測で、サブサハラアフリカだけでも10億人の人口増加が予測されている。地球全体でこのように成長が予測される中、鉱業界を待ち受ける未来は明るい。もちろん短期的には厳しい状況だが、長期的には今後の成長は確実と考える。この意味で鉱業は、アフリカの経済成長の多様化において中心的な役割を果たす。建設に欠かせない鉄鉱石、電気関連で欠かせない銅、その軽さで交通の要となるアルミニウム、中産階級の生活を彩るチタンやダイヤモンドは、今後の経済成長と都市化に必要である。

(2) Rio Tintoのアフリカにおけるプロジェクト

 当社は過去50年間にわたってアフリカでプロジェクトを実施してきた。これまでに南ア、ギニア、ナミビア、マダガスカル、モザンビーク、ジンバブエ、ガボン、ザンビア、ボツワナでプロジェクトを展開し、ボーキサイトやウラン、チタン、ダイヤモンド、鉄鉱石を生産している。代表的なプロジェクトとして、当社が権益の80 %を有するマダガスカルのQIT Madagascar Minerals(QMM)のミネラルサンドプロジェクト、ジンバブエのMurowaダイヤモンドプロジェクト、ギニアのSimandou鉄鉱石プロジェクト、モザンビークのMutambaチタンプロジェクトなどがある。我々は鉱業こそがアフリカの成長に向けた基礎(Corner stone)であると考え、22世紀にもこの地で操業をする心づもりでいる。

(3) 大規模インフラ投資に不可欠な支援体制

 先日、先に挙げたマダガスカルのQMMプロジェクトを視察した。都心からプロジェクト現場へのアクセスは飛行機のみで、生物多様性の高い地域にある。当社が開発を始めた当初、同国は2007-08年の国連人間開発指数で177ヶ国中143位に位置しており、電力や水のアクセスが十分ではなく、プロジェクト推進のためにはインフラ開発に10億US$を投じる必要があった。この地域では前代未聞の投資規模である。開発当初は、同国の財力・技術力や、当社の長期的投資の正当性という点で、当惑するほどの責務であった。

 この時の経験から、法令順守だけではアフリカのポテンシャルをフルに発揮できないと考える。開発途上国における操業で地域に変化をもたらしたいならば、開示された透明性の高い長期的パートナーシップが成功の鍵となる。このパートナーシップとは、パートナー全員がプロジェクトの利点を見据え、共有し、把握できる関係である。

 その点で世銀のIntegrated Growth PolesプログラムがQMMプロジェクトに経済的・法的基盤をもたらした役割は大きい。同プログラムから同国政府に5,300万US$が融資され、港湾や道路、電力、保健設備を整備したほか、観光業支援や研修活動も実施された。整備されたインフラは、漁業や農業の振興に生かされ、同地の観光業等の振興にも活かされる。閉山後の港湾経営は、政府が実施する予定である。もちろんマダガスカル政府が権益25 %を有しているからこそ可能となったプロジェクトであることは言うまでもない。

(4) プロジェクトによる雇用創出と人材育成の重要性

 現在ではこのパートナーシップが政府と企業の枠を超えて発展し、直接雇用700人(うち地元出身者は、プロジェクト管理責任者を含め96 %)と、契約社員1,000人、間接雇用5,000人、調達取引先400社(うち200社は現地企業)という広がりを見せている。ギニアのSimandouプロジェクトにおいても、この経験から世銀とのパートナーシップを活かして取り組んでいる。

 南アの子会社Richards Bay Minerals社と行うミネラルサンドプロジェクトでは、2015年に建設を開始し2017年の生産開始予定であるが、建設関連の研修事業は2014年から数年間にわたり300人を対象に実施している。研修事業で鉱山会社が果たす役割は重要だ。短期的な視野で事業にあたれば政府とのパートナーシップは築けず、長期的な実行可能性が脅かされて利益が見込めない。鉱業を通して社会経済的利益を求めるならば、政府と共通の視野を持つことが重要であり、このような方向性がグッドプラクティスであると考える。

(5) アフリカにおける資源開発の役割

 2014年のユニセフ人口推計によると、21世紀末までに世界の子供の半数をアフリカ人が占めることになる。鉱業従事者やリーダーもそこから輩出されるだろう。次世代の成長を支えるインフラ、教育、保健事業等の経済的環境的整備を行うには、信頼に基づく投資と政府の法整備や高度のガバナンス、そして責任ある資源開発が必要である。ICMMの報告によると、鉱業の恩恵を受ける国は低所得国に多く、上位70位にはアフリカ諸国が多く含まれる。このような国々では、海外直接投資の9割と輸出の6割が鉱業関連といわれ、鉱業が地域産業支援に与える影響の大きさを示している。

 当社ではRichards Bay MineralsミネラルサンドプロジェクトとSimandouプロジェクトの一環で地域産業のインキュベーションセンターを設立して現地調達を通した地域産業育成を行い、中には1~2年で取引先として軌道に乗った企業もある。またSimandouプロジェクトは、高品位の鉄鉱石を数十年単位で生産する予定だが、港から鉱山までは650kmの距離がある。大水深港の建設をはじめとして、この間をつなぐ鉄道や道路、WiFiブロードバンド、電力等のインフラを民間投資で整備するが、この恩恵は、農業や観光業にも波及することは間違いない。協力的・画期的かつ長期的な協働体制さえ整えば、この次の一世紀はアフリカの世紀になるだろう。当社は今後アフリカにおいて鉱業と地域の触媒的役割を果たし、変化を推進する主体となる所存である。

3. Anglo Gold Ashanti: 長期的に持続可能な金事業の創造

Anglo Gold Ashanti, CEO, Srinvasan Venkatakrishnan氏

(1) 企業概要と当社の5大戦略

 当社は年間440万ozの金生産者で、副産物としてウランと銀も相当量生産している。直近2年間でDRコンゴKibali金プロジェクトと豪Tropicana金プロジェクトの2件を立ち上げたほか、急進的な最適化を断行して2012年の生産量比で12 %の成長を遂げた。現在は無駄のない操業を徹底し、資産の生産性を高めて利益獲得に努めている。さらに1つの鉱種に偏らず世界10か国で20プロジェクトの多角的操業を行い、多様な通貨(ランド、ペソ、豪ドル等)を用いた投資と、ディーゼル採用で石油価格や通貨の変動に耐性がある。運営面ではキャッシュフローを向上させ、収益性を確保している。

 当社では5つの戦略のもとに運営に務めている。第一に、安全性の向上と優秀な人材の登用で持続可能性を追求する。第二に、財政上の柔軟性を高めて戦略の実行に努め、常に先見性のある事業運営を行う。第三に、金の価格下落が進む中、コスト削減を徹底する。直接経費、間接経費、設備投資を含む全体で取り組む必要がある。第四に、ポートフォリオの管理を通して将来的にその質の向上に努める。第五に、鉱業は長期の事業活動であるため、長期的な選択性(Optionality)を確保する。この五大戦略を土台に、着実なキャッシュフローとリターンを実行していく。

(2) 安全性の向上とその実績

 当社にとっての最優先事項は安全性である。当社は世界最大深度の坑内採掘鉱山を数件操業中で、現在無事故を目指して安全性の向上を徹底している。2014年度における100万時間あたりの負傷率は、全事業を通して7.36 %であるが、2013年8月に発生した地震による負傷を除くと7.15 %であった。2009年の同負傷率は12.88 %であったことから年々着実に低下している。死亡事故については取組を強化した結果、年間死亡者数が過去2年間で67 %低下した。2014年8月の地震の際には、坑内採掘鉱山で作業中の従業員3,200名が地下に閉じ込められたが、5時間以内に全員が無事救助された。一方、操業10か国中7か国で、2年連続の無死亡事故記録を樹立した。2014年10月には南アの操業で無事故だったほか、2014年には当社全グループの事業を通して半年間、無死亡事故記録を達成した。

(3) 投資戦略と今後の重点プロジェクト

 資本支出も年々無駄を省いており、2014年は設備投資ピーク時の2012年比で45 %減であった。この限られた設備投資の中から、米国Cripple Creek & Victor金鉱山における高品位鉱石に対応可能な選鉱場の導入と回収率の向上、鉱山延命化を実施し、南アのプロジェクトでも採掘自動化に関する研究開発事業のフェーズ1を完了し、フェーズ2に移行中である。またDRコンゴのKibali金プロジェクトやガーナのObuasi金プロジェクトへの投資も継続中である。探査費用は2014年にはピーク時の2012年比で6割減だが、探査対象地域を既存鉱山の周辺とし、可能性の高い鉱床にターゲットを絞っている。今後は、2014年末に公表したコロンビアのNuevo Chaquiro銅・金プロジェクトへの投資に注力する。

(4) コスト削減目標と実績

 金価格が下落する中、2013年から実施している「プロジェクト500 イニシアチブ」においては、費用ベースから年5億US$の継続的な削減を目標としている。過去2年間の実績は目標を上回り、2012年比で16 %の削減に成功した。

(5) ポートフォリオの見直しを断行し採算性を向上

 豪Tropicana金プロジェクト及びDRコンゴKibari金プロジェクトの2件の低予算ポートフォリオを独立系鉱山会社とのJVにより実施している。いずれも予算内で工程を前倒しして進捗しており、JVパートナーとの良好かつ長期的な関係を築いた好例といえる。前述の米Cripple Creek & Victor金プロジェクトにおいては、選鉱場建設と鉱山延命化へ投資し、豪Sunrise Dam金プロジェクトにおいても、画期的な坑内採掘技術の革新(Bulk Underground Mining Method)による生産性の向上にあたっている。

 当社では資産への感情移入は一切しない。採算性の乏しい事業には的確な見直しを行っており、2014年にはナミビアのNavachab金鉱山の売却を完了して収益化を図った。採算性の低いYatela金鉱山とObuasi金鉱山については、Yatela金鉱山を操業停止し、Obuasi金鉱山は機械化計画が進捗する間、人員削減と操業縮小を断行し、現代的な長寿命鉱山として今後の返り咲きを図って生産性の向上に努める。

(6) コスト削減による収益性確保と今後の重点課題

 ビジネスの最たる挑戦は、収益性の管理である。特に下降線をたどる市況にあってはなおさらチャレンジングだが、当社はその取り組みに注力し、意志があれば実績を上げられることを証明した。費用制約、ポートフォリオ及び生産性の向上を通して、収益性も2012年Q3から継続的に維持している。2014年Q3の金1ozあたりの費用は1,036 US$で、ピーク時の2012年と比較して500 US$/ozの削減に成功した。

 財務上の柔軟性には貸借対照表の向上で対応し、負債についてはバランスよく管理している。

 2015年の優先事項は、ガーナObuasi金プロジェクトの機械化計画FSを通した高生産性の回復、継続的な操業及び探鉱事業の費用削減、JV探鉱事業の促進と資産の売却の検討、コロンビアでのパートナー候補探し、経費削減と選択性の向上、キャッシュフローの改善である。当社では今後も投資先として有望な体制作りを断行する。金の価格低下で事業には逆風が吹いているが、個人的に当社は今後2-3年の間は堅実に実績を伸ばせると確信している。

4. Lonmin:コラボレーションと意思のある行動が成功の鍵

Lonmin, CEO, Ben Magara氏

(1) 従業員への支援拡充と地域経済への貢献を強化

 当社は2014年のIndabaで約束したLonmin実行計画をすべて実行した。従業員の雇用については、関係構築憲章(Relationship Charter)を策定し、労働組合と合意した。労働問題については、長期間のストライキが生じ予想に反した結果となったが、改善策はすでに着手済みで、従業員の直接雇用を促し、文化向上事業も実施中である。従業員の住環境の整備については、政府からの4億6,200万ランドの拠出を受け、ホステルの整備や用地内へのアパート建設などを進めた。

 さらに当社は南アでは初の快挙となる1年3か月の死亡事故発生件数ゼロを達成し、従業員への当社株の支給や、操業地域での基金の創設などを通して地域に寄与した。2億ランド相当の調達を通して地域経済へも貢献し、当社事業への地域参加を促進している。

(2) 企業戦略「Lonmin投資ケース」の4本柱とその効果

 当社では、「Lonmin投資ケース」と称して、すべてのコモディティサイクルに適応できる体制づくりに取り組んでいる。機会の最大化に適応するため、①操業エクセレンス:機械化、技術革新の促進、②人材:地域貢献を中核においた協力的な従業員との関係構築、③企業戦略:事業に則した財務戦略で事業計画の最適化と収益性を向上、④コーポレート・シチズンシップ:生活の向上にむけ、法令順守を超えた取組、IR・広報を『4つの柱』と位置付け、責任ある持続可能な鉱山操業を目指してきた。その結果、安全、保健、環境面での「害のない操業(Zero Harm Operation)」を達成できた。中でも技術の革新を取り入れることで、従業員の技術力向上につながった。

 この戦略の奏功で、生産面では2014年Q4の勢いを持続し、2015年Q1も好調である。死亡例は5四半期継続してゼロで、坑内採掘に関しては2011年以降の最大の生産実績となった。2015年Q1の採掘量は280万tと2014年比で7 %上昇する見通しである。ただしコモディティ価格低下と市況を考慮し、設備投資については当初予定額の2億5,500万US$から1億8,500万US$に縮小した。安全面に関しては、鉱業協会(Chamber of Mines: COM)が主催するCEOによる死亡事故ゼロ運動(CEO elimination of fatalities team)や、南アの鉱山健康安全協会(Mine Health and Safety Council: MHSC)、ICMMといった鉱業界のベストプラクティスを適切に採用して、今後も継続して強化していく所存である。

(3) ストライキを機に経営と資産の見直し、さらなる企業価値創造へ

 2014年のストライキ中は、どのサイクルにも対応し生き残れるLonminづくりに注力し、プロジェクト投資回収率15 %を目標に経営と資産の見直しを徹底した(下表)。Marikana白金鉱山のSaffyシャフトについては好調に増産計画が進捗している。Hossyシャフトについては、労働組合との合意のもと、人員削減をしない方向で見直しを行い、結果として生産性を向上させた。生産性とは労働力だけの問題ではなく、従業員と管理側の利益追求に向けた技術向上策によって向上する。当社では次の3年間で、20億ランド超の企業価値創造に向けて尽力している。幸いわが社は有望な鉱床に恵まれているため、鉱石の低品位化など地質上の課題に阻まれた場合は、有望な鉱床へ注力して損失を避けることが可能だ。

表:生産性向上とコスト削減に向けたMarikana白金鉱山資産の見直し一覧

分類 シャフト名  
長寿命、大規模、低コスト、収益性の高いシャフト K3
Rowland
4B/1B
将来性あり
長寿命、大規模だが高コスト Saffy
Hossy

K4
古く枯渇傾向だが収益性の高いシャフト E1
E2
E3
W1
Newman
検討余地あり
閉坑に向けて管理 露天採掘鉱山

(4) 今日の白金市況と今後の見通し

 市況を支配する投資家感情が、市場原理に反して価格の低下を招いている。こと白金需要に関しては、ディーゼル車が大半を占める欧州市場をターゲットとするため、欧州経済の回復が白金価格の将来を左右する。中国やインドでの宝飾向け白金需要も伸びているとはいえ、欧州の回復がなければ依然として厳しい状況に変わりない。

(5) 今後の重点分野

 事業の持続可能性を重視するうえで、労働者の安全管理と地域の保健事業は、取り組むべき重要な分野である。環境関連法令の規制強化への見通しや水と電力へのアクセスについては引き続き対策が必要である。当社はこれからも基本戦略に沿って、コスト削減の実行と収益並びに企業価値を創出するべく、チーム一丸となってその遂行にあたり、操業の信頼性を向上していく。それこそが地域社会を含めた全ステークホルダーの意思に応えうる持続可能なLonminを形作ることであり、我々の活動を取り巻く社会環境の向上に貢献しながら建設的な地域関係を再構築するための道しるべである。企業の社会貢献については、市況が回復した時に晴れて利益を従業員や地域と共有できるよう尽力する。そのためには、事業拡大(Glowing pie)に取り組まねばならない。

5.結び

 アフリカで鉱山操業を行う資源メジャーの講演で共通して聞かれるキーワードは、政府や地域住民、投資家をはじめとする全ステークホルダーとの「共通の価値の創造」である。鉱山会社の事業目的は、資源を世界市場へ供給することであるが、鉱床の奥地化・深部化が進むなか、ことアフリカでは、インフラ整備、地政学的状況、法制度整備から操業地域における社会貢献や労働者・住民対策等の多くの課題を克服しなければ、その事業目的を達成しにくい状況にある。政府や地域社会の期待に応えつつ、市況低迷下でも投資家に結果を出し、円滑な事業運営を行うためには、共通の価値を見出して協力する関係が有効である。世界需要と生産拡大が一段落し、企業の生き残りに向けて厳しい状況が続く中、今回のIndabaでは、鉱山会社が資源国政府へ向けて「共存」に向けたパートナーシップ構築を呼びかける場面が多く見られた。

 Randgold ResourcesのCEO、Mark Bristow氏は「現在の鉱山会社は、負債と機能障害を抱え、絵に描いた将来の成功を追って無残な状況に陥っている。(中略) 政府も鉱業政策を変更してすでに見込みのない利益を享受しようとしている。破たん寸前の企業から金を取り上げようとしているというのが正直な感想だ。」と鉱山会社の実情を訴え、「鉱業界と政府が協力して共に利益を享受できるパートナーシップの再生・強化を図る必要がある。企業は四半期の実績、次の任期のみに着目することなく、長期的な操業から着実な利益を上げ、持続的にステークホルダーに見返りをもたらすことのできる鉱業界の再興を図らなければならない。今日この場で、政府と鉱山会社との同士愛の再構築(Re-bonding Process)を始めたい。」と呼びかけた。

 この呼びかけに、アフリカ各国政府はどのように応えるだろうか。今後はその行方に注目したい。


  1. 2015年2月12日 経済産業省ニュースリリース「山際経済副大臣が南アフリカ共和国及び英国に出張しました」
     http://www.meti.go.jp/press/2014/02/20150212005/20150212005.html
  2. 2015年2月19日 JOGMEC ニュースリリース「アフリカとの更なる関係強化へ~マイニング・インダバにてJOGMECの活動をアピール」
    http://www.jogmec.go.jp/news/release/news_10_000193.html




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