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報告書&レポート

2015年7月16日 シドニー事務所 矢島太郎
No.15-35

豪州の鉱物資源探鉱費の推移と政府の探鉱支援策

 豪州の資源エネルギー分野の輸出額は全輸出額の58.6 %を占め1、豪州経済に大きく貢献している。輸出額の1位と2位を鉱物資源である鉄鉱石と石炭が占めているため、特に鉱業が重要な産業として認識されている。豪州は資源国として世界有数の地位を築いているが、それは広大な国土と地質的な恩恵だけによるものではなく、過去から探鉱が継続的に実施され、経済性を有する鉱床が次々に発見されてきたことによるところが大きい。しかし、鉱山は開発されればいずれ枯渇する性質を有するため、積極的に探鉱を継続し、新たな鉱床を発見していくことが豪州の持続的な発展のために重要である。豪州政府が公表している鉱物資源探鉱に関する統計データを用いて近年の豪州の探鉱費の推移や探鉱の特徴についてはじめに紹介する。

 豪州では歳入において、鉱物の生産量に応じて納められる資源企業からのロイヤルティが大きな割合を占めており、鉱業が盛んなWA州ではロイヤルティは州の歳入の22 %にも上る2。政府は探鉱活動の重要性を認識しており、探鉱活動を促進するための支援を実施している。連邦政府及び各州政府が実施している探鉱支援策についてあわせて紹介する。

1. 豪州の探鉱費の推移

 豪州統計局3(Australian Bureau of Statistics: ABS)は豪州国内に投じられた探鉱費を四半期ごとに公表している。ABSは「探鉱費」を豪州国内の鉱物探査及び鉱床評価に関する全ての支出と定義しており、可採埋蔵量の決定、技術面及び経済面のフィージビリティ・スタディ(F/S)、埋蔵資源へのアクセス、パイロットプラントの建設費用及びこれらの技術面/事務面での間接費も含めている。探鉱費は具体的には衛星データ解析、航空調査、地震探査、物理探査、機器の使用、地化学探査、マップ作成、鉱業権取得・維持、土地アクセス、法務、地質調査、化学分析、ボーリング掘削などに掛かる費用、被雇用者やコントラクターへの賃金などの費用から構成されている4。ABSが発表している探鉱費は上記費用の合算値であるため個々の費用に関する内訳までは知ることはできないが、ベースメタル(銅・鉛・亜鉛・銀・ニッケル・コバルト)、金、鉄鉱石、ウラン、石炭、ミネラルサンド、ダイヤモンド等の鉱種ごとに投じられた探鉱費がデータとして提供されている。ABSが提供する鉱種別の探鉱費データに基づく1989年から2013年までの探鉱費の推移を図1に示す。本グラフでは四半期ごとに提供されるデータを一年単位に合計して示している。なお、ミネラルサンドとダイヤモンドの探鉱費は他の鉱種と比較して大きくないため、その他の鉱種に加えた。

図1 豪州における鉱種ごとの探鉱費の推移

図1 豪州における鉱種ごとの探鉱費の推移

 図1のグラフは豪州における各鉱種の探鉱費の25年間における推移を示している。探鉱費の推移と社会情勢の関係について以下に示す。

・金とベースメタルは長期間にわたり継続的に探鉱が実施されてきている。1992~97年に金の探鉱が盛んになったが、OECD諸国の経済減速などの影響により1997年以降は金の探鉱費が低下した。

・鉄鉱石、石炭の探鉱が積極的に行われるようになったのは2000年以降である。鉄鉱石の探鉱費は過去10年間で大幅に増加した。この間に鉄鉱石の探鉱を積極的に行ったフォーテスキュー・メタルズ・グループ(Fortescue Metals Group)が新勢力として鉄鉱石生産世界第4位に躍進している。石炭の探鉱費も過去10年間で大幅に増加した。

・2004年以降は中国の工業化によって各鉱種の需要が増加し、各鉱種の探鉱が活発化して探鉱ブームとなる。

・2008年の世界金融危機により、探鉱費は低下したが、中国の経済刺激政策や、同国をはじめとする他新興国でのコモディティ需要の伸びへの期待感から、探鉱活動は再び活発化した。

・探鉱費は2012年3月まで増加し続けたが、中国の成長減速や、それまで記録的な高値だったコモディティ価格の値下がりにより、2012年6月以降探鉱費は急激に下降した。

・ウランは2004年頃から探鉱が活発化したが、2011年の福島原子力発電所の事故及びウラン価格の低迷の影響を受け、探鉱費は減少している。

2. 豪州における探鉱の傾向

 ABSは探鉱費について、「New deposits exploration (green field exploration)」及び「Existing deposits exploration (brown field exploration)」に使われた探鉱費データをそれぞれ提供している。一般に、鉱床や鉱徴地が確認されていないエリア(green field)で経済性を有する鉱床を発見できる可能性は低く、ハイリスクである。一方、鉱量を増加させるための既存鉱床周辺(brown field)の探鉱は鉱化作用が鉱床の周辺にも及んでいる可能性が高いため、green fieldと比較してローリスクとなる。ABSの統計データを用いてgreen fieldにおける探鉱の過去10年間の傾向を示す。図2は2004年以降の全探鉱費及びgreen fieldの探鉱費を示している。全探鉱費は10年前より増加し、green fieldの探鉱費も全探鉱費とほぼ同様な傾向に増減しているが、近年はgreen fieldの探鉱費が全探鉱費に占める割合が徐々に減少している傾向が認められる。

図2 探鉱費の推移

図2 探鉱費の推移

 2004年の全探鉱費とgreen field探鉱費を1とし、その後のそれぞれの探鉱費の増減について調べた。全探鉱費とgreen field探鉱費は2012年に最大となり、全探鉱費は2004年の4.50倍、green field探鉱費は3.57倍に増加した。しかし、その後探鉱費は下降を続けており、資源ブーム以降の2014年の全探鉱費は2004年の2.24倍、green field探鉱費は1.65倍まで減少した。

 全探鉱費におけるgreen field探鉱費の占める割合の推移を図3に示した。全探鉱費におけるgreen fieldの探鉱費の割合は2004年には40.3 %であったが、2014年には29.8 %まで減少した。豪州の過去10年間で全探鉱費に占めるgreen field探鉱費の割合は10年間で顕著な減少傾向が認められる。

図3 全探鉱費中のgreen fieldにおける探鉱費が占める割合の推移

図3 全探鉱費中のgreen fieldにおける探鉱費が占める割合の推移

 ABSは探鉱費だけではなく、探鉱で実施されたボーリングの掘削メートル数をデータとして提供している。2004年以降の総掘削メートル数と、green field探鉱の掘削メートル数の推移を図4に示す。掘削メートル数は探鉱費とほぼ同様な傾向で増減している。2014年の総掘削メートル数は10年前と同じ水準まで減少している。一方、green field探鉱の掘削メートル数は10年間を通して緩やかに減少している傾向が認められる。

図4 ボーリング掘削メートル数の推移

図4 ボーリング掘削メートル数の推移

 2004年の総掘削メートル数及びgreen field探鉱の掘削メートル数をそれぞれ1としてその後の増減について調べた。総掘削メートル数は2004年以降2008年と2012年をピークとして増減しているが、2014年の総掘削メートル数は2004年の総掘削メートル数と同等(1.01)になっている。一方、green field探鉱の掘削メートル数は2014年には0.48となり、2004年の半分以下にまで減少している。

 総掘削メートル数におけるgreen field探鉱の掘削メートル数の割合の推移を図5に示した。Green fieldの掘削メートル数の割合は2004年に47.3 %であったが、2014年には22.3 %にまで減少している。逆にbrown field探鉱におけるボーリング掘削メートル数の割合は増加したことになる。

図5 総掘削メートル数におけるgreen field探鉱の掘削メートル数の割合の推移

図5 総掘削メートル数におけるgreen field探鉱の掘削メートル数の割合の推移

 Green field探鉱費は10年間で増加しているのにボーリングの掘削メートル数は減少している。かつては鉱化作用を捉えるボーリングが探鉱費の大部分を占めていたが、ボーリング以外の探鉱手法の利用が増加していること、探鉱費自体がコスト増により高額になっているためであると推察される。既存データの少ない新規エリアにおける探鉱では、航空調査による物理探査を行うことが多い。露頭の認められない被覆域での調査も増加し、鉱床の胚胎深度も深部化する傾向にあるため、各種物理探査(空中電磁探査や地上電磁探査等)の利用も増加している。ボーリング以外の探鉱手法の利用が増え、green field探鉱におけるボーリングの減少を招いている可能性がある。一方、探鉱に関連するコストの増加も探鉱費を圧迫していると考えられる。近年のgreen field探鉱の対象エリアは遠隔地が多くなり、アクセスに要する時間と費用が増す傾向にある。また、資源ブームの時期に技師の人件費も大きく上昇している。さらに環境や先住民に対して必要となるコストも増加している。

3. 豪州の探鉱の課題

 豪州では10年間で探鉱費が増加したにも関わらず、世界全体において豪州の鉱物生産が占めるシェアは顕著な増加が認められていない(図6)。鉄鉱石と石炭の世界生産シェアは増加しているものの、鉄鉱石と石炭以外は減少している。豪州のシェア低下は近年、豪州国内で新規鉱床の発見がなされていないことが一要因である。豪州では新規鉱床の発見が減少傾向にあるという報告もされており5、その原因はgreen field探鉱がbrown field探鉱と比較して減少しているためと説明されている6。ABSの統計データからも豪州ではリスクの高いgreen field探鉱よりもリスクの低いbrown field探鉱が積極的に実施される傾向が認められる。また、前述のとおりgreen field探鉱におけるボーリング掘削メートル数の減少が近年の豪州における探鉱の顕著な特徴として挙げられる。新規鉱床の発見が減少しているのは、green fieldでの探鉱費の減少に加え、ボーリング調査の実施量が減少していることも影響している可能性がある。

図6 豪州の鉱物資源生産における世界生産シェアの推移

図6 豪州の鉱物資源生産における世界生産シェアの推移

 豪州では一般にgreen fieldの探鉱をジュニア企業が行う傾向があるが、green fieldの探鉱が減少しているのは資源ブーム以降、豪州ジュニア企業が十分な探鉱資金を確保できないことが要因である。2015年2月9日に豪全国紙は豪州証券取引所(ASX)に上場しているジュニア探鉱企業の約35 %が資金難により探鉱を実施できない状況にあると報じた7。豪州のgreen fieldにおける探鉱がこのまま減少し、新規鉱床の発見も減少し続ければ、豪州国内の資源産業の衰退を招く可能性がある。今後豪州で新鉱床が継続的に発見されていくためには、1) ジュニア企業によるgreen field探鉱の活発化と、2) Green field探鉱におけるボーリング調査を促進することが必要であり、この2点について連邦政府や州政府の支援が重要となる。

4. 連邦政府による探鉱促進支援策

 連邦政府は2012年12月に「国家鉱物探鉱戦略(National Mineral Exploration Strategy)」 を発表した8。本戦略は今後の鉱業政策の方針を示すものであり、有識者等によって構成された豪州政府間評議会(Council of Australian Governments)エネルギー・資源部局(Standing Council on Energy and Resources; SCER)が連邦政府に提示した内容をもとに策定されたものである。本戦略はこれまでに調査や探鉱が十分に行われていないgreen fieldにおける探鉱の促進、新鉱床の発見、資源産業の発達を目的としており、その実現のために、1)地球科学データの提供(information)、2)鉱物資源探鉱への投資の促進(attraction plan)、3)地球科学分野の研究推進(research)を主要な施策として掲げている。各施策について紹介する。

4.1 地球科学データの提供

 豪州では岩石が地表に露出している地域(露岩域)は20 %程度と少ない。露岩域では地質に関する情報が直接得られるため、各種の探査手法を用いて効果的に探鉱を行うことができる。一方、岩石の露頭が認められない砂や堆積物に被覆された地域(被覆域)では地質に関する情報を直接得ることが困難であるため、探査手法が物理探査等に限定される。被覆域における探鉱を促進し、新鉱床の発見を推進するために、連邦政府は広域的な空中物理探査及び重力探査を行い、被覆層下の地質に関する情報提供を行っている。取得された物理探査データは豪州地質調査所(Geoscience Australia; GA)のホームページから無償で提供される。2014年に連邦政府が実施した物理探査を表1に示す。

表1 連邦政府が2014年に実施した物理探査一覧

Location State Survey Complete % Gravity Stations Flight Lines Spacing Ground Clearance
Southern Thomson Orogen NSW/QLD Airborne electromagnetic 100 % N/A 4 198 line km 5000 m TBA
Dunmarra NT Airborne magnetic and radiometric 100 % N/A Estimated
103 909
line km; 36
280 km2
400 m 80 m
Thomson Gravity NSW/QLD Gravity 100 % 3 660 N/A 333 m N/A
Gippsland Gravity VIC Gravity 100 % 1 213 N/A 500 m N/A
North McArthur Basin NT Gravity 100 % 7 315 N/A 4km regular
with areas of
2 km infill
N/A
Coompana SA Airborne Magnetic and Radiometric TBA N/A Estimated
249 600
line km;
400 m &
200 m
80 m
(豪州地質調査所ホームページから引用)

4.2 鉱物資源探鉱への投資促進策

・ Exploration Development Incentive (EDI)

 連邦政府はgreen fieldにおける探鉱を促進することを目的とした探鉱開発奨励措置(Exploration Development Incentive; EDI)を実施している。EDIはジュニア探鉱企業に対する投資を促進し、ジュニア探鉱企業によるgreen field探鉱の実施を促進することを目的とした措置である。EDI関連法案は2014年7月1日から施行されている。

 一般的に、鉱山操業企業は鉱物生産による定期的な収益があるのに対して、探鉱を中心に実施しているジュニア探鉱企業は定期的な収益がないため、多くのジュニア探鉱企業は市場から資金を調達して探鉱を行っている。EDIは豪州のジュニア探鉱企業に投資を行う在豪の投資者を対象とした税額控除措置であり、ジュニア探鉱企業への投資を活発化させ、ジュニア探鉱企業によるgreen field探鉱を推進することを目的としている。EDIは各年度ごとにジュニア探鉱企業がgreen field探鉱に支出した探鉱費に対して適用される。

 連邦政府はEDIに3年間で1億A$(2014/15年度は25百万A$、2015/16年度は35百万 A$、2016/17年度は40百万 A$)の予算を措置する予定である。

 EDIの対象となるジュニア探鉱企業の条件は、1)豪州の企業であること、2)大企業の子会社ではない企業であること、3)課税収入がないこと、4)鉱山を操業していないこととされている。EDIの対象となるgreen fieldの探鉱費は、鉱物の探鉱費であり、石油、ガス、シェールオイル、炭層ガス、地熱、採石の探鉱費は対象とならない。

 EDIの申請手続きは以下の手順で行われる。1)ジュニア探鉱企業が年度内に支出した探鉱費を豪州国税局(ATO)に申請を行う。2)ATOが税控除額を算出してジュニア探鉱企業に提示する。3)ジュニア探鉱企業はATOから提示された税控除額の範囲で投資家に対し「税控除クレジット」を与える。4)投資家は「税控除クレジット」を用いて次年度の収入に対する課税額から「税控除クレジット」分の控除を受ける。なお、ジュニア探鉱企業は投資を受けた全ての投資者に税控除クレジットを与えることも可能であり、一方、新規の投資家に対してのみ税控除クレジットを与えることも可能である。これら判断はジュニア探鉱企業がATOに探鉱費の額を申請する時点で決定することが求められている。

4.3 政府の共同研究プログラム

 CRC(Cooperative Research Centre)は豪州の研究開発を効率的に推進することを目的に1990年に策定された共同研究プログラムであり、連邦政府産業科学省が実施している。CRCは連邦・州・準州政府機関、CSIRO、豪州地質調査所等の研究機関、大学、民間企業等による強力な研究協力を図るものである。参加者も小企業、多国籍企業、大学、連邦・州・自治体政府、海外協力者、非営利団体、地域社会の団体など、多岐にわたる。CRCは産業界の技術開発ニーズから発生するテーマについて研究を行い、その成果となる知識や技術を産業界にフィードバックする。CRCは現在は36の産業分野で実施されている。鉱業分野に関連したCRCについて、その概要を以下に示す。

・ DET CRC (Deep Exploration Technologies Cooperative Research Centre) 9

 DET CRC(深部探鉱技術CRC)は深部に胚胎する鉱床の探鉱を促進することを目的に2010年から開始された研究プログラムである。連邦政府、資源企業、研究機関が共同出資している。本プログラムは、より低コストで安全性の高いボーリング掘削技術の導入に関する研究とボーリング掘削サイトで分析データを取得するための分析手法の研究を実施している。予算は8年間で合計145百万A$。DET CRCで実施されている研究の概要は以下のとおりである。

(1) 石油分野の掘削技術の導入に関する研究
ボーリング掘削コストの低減と掘削労働者の安全性向上を目的として、石油分野で利用されている硬岩掘削用のコイルチュービング(Coil Tubing: CT)リグを金属資源探鉱に活用する研究を実施している。CTリグのコイルチューブには接続部がないため、従来のボーリング掘削で時間を要するロッドを繋ぐ作業が発生しないことにより、安全性と作業効率の向上並びに掘削コストの低減が期待されている。また、本研究プログラムでは、CTリグの活用研究に加え、掘削ビットにステアリング機能とセンサ機能を追加する研究も行っている。

(2) ボーリング掘削サイトでの分析手法に関する研究
ボーリングサイトで迅速に地下の情報を取得するための分析手法に関する研究である。通常の金属資源探鉱のボーリング調査では、ボーリングにより得られた岩石試料を分析ラボに輸送して試料の調整と分析を行うことから、掘削を行ってから分析結果を得るまで1~2カ月のタイムラグが生じる。本研究によってボーリングサイトで金属の濃度に関する分析値を即座に取得することが可能となれば、探鉱期間が短縮されるだけでなく、ボーリング各孔の結果に応じて探鉱計画を修正することによる効果的な探鉱の実施も可能となる。

5. 各州・準州政府の探鉱促進支援策

 州及び準州政府はgreen fieldにおける探鉱を促進するため、以下の探鉱促進策を実施している。

5.1 ニューサウスウェールズ州 (NSW)
・ New Frontiers Cooperative Drilling Program10

 New Frontiers Cooperative Drilling ProgramはNSW州政府が民間企業の鉱物資源及びエネルギー資源の探鉱を推進することを目的として実施している探鉱促進策である。支援対象は未探鉱地域及び地質が明らかでない被覆域において、地質・鉱床コンセプトを明らかにするために実施するボーリング調査であり、ボーリング調査費用の50 %が補助される。補助限度額は1件当たり20万A$である。補助対象となったボーリング調査で得られたコアはNSW州のコアライブラリに保管され公開される。2014年度の当該施策の予算は2百万A$である。

5.2 北部準州 (NT)
・ CORE (Creating Opportunities for Resource Exploration) 11

 COREはNT準州政府が鉱物・石油資源の探鉱と資源発見を推進することを目的として実施している探鉱支援策である。当該施策はNT準州地質調査所による地球科学データの提供及び民間企業の探鉱プロジェクト(ボーリング調査)に対する補助である。当該施策の2014年度の予算は0.75百万A$である。

 COREは地球科学データとして地質図及び空中磁気・放射能調査データを提供している。空中磁気・放射能データの取得面積はNT準州の面積の30 %以上に及んでいる。

 民間企業の探査プロジェクトに対する補助は、green fieldで物理探査もしくはボーリング探査を行う費用の50 %を補助するものである。上限額は1社あたり10万A$である。補助対象となった探鉱プロジェクトは調査の完了から6ヵ月以内に探査結果を公開する必要がある。取得されたボーリングコアに対しNT準州がボーリングコアの可視~短波長赤外域反射スペクトル測定器(HyLogger)を用いて連続的にスペクトルデータ測定を行い、当該測定結果はNT準州地質調査所のホームページ(National Virtual Core Library)に掲載される。

5.3 クイーンズランド州 (QLD)
・ Future Resources Program 12

 Future Resources ProgramはQLD州政府が2013年6月に発表した探鉱支援策である。本探鉱支援策はQLD州における鉱物及び石油資源の探鉱・開発支援を目的とした7つの施策から構成されており、QLD州地質調査所が実施している。7つの施策は以下のとおりである。QLD州政府は当該施策の実施に際し2014~2016年度までの3年間で合計30百万A$の予算を計上する予定である。

(1) Industry Priorities Initiative
資源産業が必要とするテーマを研究するプログラム。QLD州探鉱評議会(Queensland Exploration Council; QEC)、鉱業探鉱企業協会(Association of Mining and Exploration Companies; AMEC)、豪州石油探鉱開発協会(Australian Petroleum Production and Exploration Association; APPEA)がテーマを選定し、QLD州地質調査所が研究を実施する。スピニフェックス草を利用した植物地化学探査に関する研究が2014年2月から実施されている。予算は3年間で7.5百万A$である。

(2) Mount Isa Geophysics Initiative
マウントアイザ地域の探鉱の促進を目的とした調査プログラム。2014/15年度及び2015/16年度にマウントアイザ周辺のCloncurry地域、Julia Creek地域、Dajarra-Boulia地域において弾性波調査とMT法調査が実施される予定である。当該調査プログラムは被覆層厚の調査及び被覆層下の地層の物理特性の解明を行うものであり、調査・解析結果は公表される。予算は3年間で9百万A$である。

(3) Geochemical Data Extraction Initiative
QLD州の既存の地化学データをデータベース化する事業。各企業がQLD州天然資源鉱山省に対して提出した探鉱報告書に記載されている地化学データ(地表サンプリング及びボーリング孔から得られたデータ)のデータベース化を行う。データベースは外部からのアクセスが可能となる。予算は3年間で9百万A$である。

(4) Collaborative Drilling Initiative
民間企業が実施するボーリング探査費用に対する補助事業。補助上限額は1件のプロジェクトにつき15万A$である。予算は3年間で3百万A$である。

(5) Core Library Extension Initiative
QLD州天然資源鉱山省のコアライブラリーの拡張事業。予算は3年間で5百万A$を予定している。

(6) Cape York Mineral Resource Assessment Initiative
QLD州北部のヨーク岬の鉱物資源評価を行う調査事業。同地区の沢砂地化学探査、航空機ハイパースペクトル調査によってデータを取得し、地質図を作成するとともに、ヨーク岬の鉱床胚胎ポテンシャルを明らかにすることを目的としている。対象となる鉱床はCu-Au、Sn-W、REE、U、重砂等の鉱床である。予算は3年間で1百万A$である。

(7) Seismic Section Scanning Initiative
QLD州が保管している地質断面図等のアナログデータのデジタル化事業。具体的にはQLD州の地下堆積盆に関するデータの整理保存を行うもの。予算は3年間で1.5百万A$である。

5.4 南オーストラリア州 (SA)

 PACEはSA州の探鉱と鉱山開発を促進することを目的とした支援策である。PACEは初代PACE、PACE 2020、PACE Frontiersへと探鉱促進策が2004年から継続して実施されている。

・ PACE Frontiers13

 PACE FrontiersはSA州の探鉱と鉱山開発を促進することを目的とした施策である。本施策は2014年から2年間の計画で開始された。総予算は4百万A$であり、2014/15年の予算は2百万A$である。当該施策は3つの施策から構成されている。

(1) Mineral Systems Drill Program(Eyre半島北部IOCG鉱化システム解明)
SA州地質調査所がEyre半島北部の酸化鉄銅金型(IOCG)鉱化システムの性状をボーリング調査を行うことにより明らかにする事業。

(2) DET CRC core drilling technology(深部探鉱技術開発)
深部鉱物資源探査のための新しいボーリング機器の技術開発等事業。SA州政府、研究所、企業が共同で技術開発を行う。

(3) PACE discovery drilling 2015(ボーリング補助事業)
企業が実施する探鉱プロジェクトのボーリング調査に対する補助事業。上限額は1件のプロジェクトにつき10万A$。補助率は50 %である。

5.5 ビクトリア州 (VIC)
・ TARGET14

 TARGETはVIC州政府が2014年5月に発表した鉱物資源の探鉱促進策である。VIC州内における企業の鉱物資源探鉱を促進するとともに、VIC州内の地質及びベースメタル等に関する鉱化作用を明らかにすることを目的としている。当該探鉱促進策は企業に対する探鉱費の補助と地球科学データの提供である。VIC州政府は2014年度から総額15百万 A$の予算で4年間実施する予定である。

 探鉱費補助事業はgreen fieldにおける探鉱プロジェクトの探鉱費用の50 %が補助される。補助費用の上限は定められていない。探鉱費用はボーリングだけではなく、各種物理探査、地化学探査、分析費も対象となる。鉱種は銅、鉛、亜鉛の探鉱プロジェクトが優先されるが、錫、モリブデン、ニッケル、タングステン、アンチモン、白金、ミネラルサンド、金、レアアース、銀、マンガンの探鉱プロジェクトも対象となる。共同探鉱による調査結果は、VIC州地質調査所ホームページ(GeoVic)上で公表される。探鉱費の補助事業の予算は12百万A$である。

 地球科学データの提供はVIC州地質調査所等が実施する地質調査及び地科学データ取得調査によって取得されるデータの提供である。2014/15年度は銅及びその他のベースメタル鉱床の胚胎が期待されるVIC州南西部のStavely地域が調査対象となっている。

5.6 西オーストラリア州 (WA)
・ Exploration Incentive Scheme (EIS)15

 WA州鉱物石油省(Department of Minerals and Petroleum; DMP)が実施している探鉱支援策である。Green field探鉱の促進、鉱物・エネルギー資源の発見、州の資源産業の持続的な発展を目的としている。実施期間は2009~2017年であり予算総額は約130百万A$である。2014年7月から2017年6月までの3年間の予算額は合計30百万A$である。当該施策は以下の5つの施策から構成されている。

(1) Exploration Facilitation
鉱物・石油の探鉱に関する鉱業権のマネジメントシステムのアップグレード事業。当該マネジメントシステムはオンラインで鉱業権の申請を行うためのものである。アップグレードにより、申請者が鉱業権認可の進展状況を把握することが可能となる。

(2) Innovative Drilling Promotion
民間企業のボーリング掘削費用の補助及びWA州地質調査所(GSWA)による地質構造ボーリング調査。
民間企業のボーリング掘削費用の補助は、WA州のgreen fieldエリアにおける地質構造を明らかにすること及び新鉱床発見を促進することを目的としており年2回実施されている。補助率は50 %であり、1孔のみのボーリング調査に対する補助は20万A$/件を上限とし、複数のボーリング調査を行う探鉱プロジェクトに対する補助は15万A$/件を上限としている。補助額に違いがあるのは、基本的には新規鉱床を発見するために民間企業の探鉱を補助する施策であるが、WA州のgreen fieldエリアにおける新たな地質情報を取得するための地質構造調査ボーリングの実施を重視しているためである。ボーリング掘削費用の補助以外にも初期探鉱プロジェクトについては、探鉱費に対する補助が行われる。上限額は3万A$/件である。2014年後期は41の探鉱プロジェクトに対し合計4.7百万A$分が交付された。年間予算額は10百万A$である。

(3) Geophysical and Geochemical Surveys
WA州地質調査所による以下の物理データ及び地化学データの取得を目的とした調査。

・WA州の空中磁気・放射能データ取得。
・弾性波調査データと重力調査データ取得。
・Yilgarn Cratonにおける地化学データ取得。

(4) 3D Prospectivity Mapping
地質の三次元モデルの作成事業。三次元モデルにより被覆層の厚みが視覚的に把握され、これによって鉱床胚胎ポテンシャルの高い地質層準の予測が可能となる。当該三次元モデルはHP上に掲載される。

(5) Promoting Strategic Research with Industry
WA州政府の研究者と探鉱企業との連携強化事業。green field探鉱を実施している企業に連邦科学産業研究機構(CSIRO)の研究者を派遣して、新しい探査技術をWA州の探鉱に適用することを推進している。また、企業や大学等に対してWA州政府の研究機関である鉱物研究機構(Minerals Research Institute of WA; MRIWA)が研究費用の助成を行っている。

6. まとめ

 豪州における探鉱費は10年前と比較して増加しているものの、リスクの高いgreen fieldにおける探鉱費が減少し、さらにgreen fieldでのボーリングの掘削メートル数が半減していることがABSの統計データから示された。これらの変化が近年指摘されている豪州国内における新鉱床発見数の減少の原因につながっている可能性がある。ABSの探鉱費に関する統計データから、green fieldの探鉱とボーリング調査を活発化させることが課題として示される。

 連邦及び州・準州政府は既にgreen field探鉱とボーリング調査を促進するための支援策をそれぞれ発表して探鉱を支援する姿勢を示している。連邦政府は投資家に対するジュニア探鉱企業への投資家に対する投資促進策(EDI)を発表し、green fieldの探鉱を行うジュニア探鉱企業への投資を促進する計画である。多くの州・準州政府は、物理探査データの取得・提供及びgreen fieldにおけるボーリング費用補助等の探鉱支援策を提供している。連邦及び州・準州政府が主導するこれらの支援策により、豪州国内のgreen fieldの探鉱とボーリングの実施が促進され、新鉱床の発見が増加することが期待されている。


(注記)

  1. 豪州連邦政府工業科学省 Resources and Energy Statistics 2014 Resources and Energy Statistics 2014
  2. WA 州財務省 2014-15 Budget Fact Sheets
  3. 豪州統計局(ABS) Mineral and Petroleum Exploration,Australia – Category No.8412.0
  4. ABS ウェブサイトの Cat.No.8412.0 におけるGlossary 参照
  5. Schodde RC and Guj P, “Where are Australia’s mines of tomorrow?”, Research Paper for the Centre of Exploration Targeting, The University of Western Australia, September 2012.
  6. National Mineral Exploration Strategy (2012)
    https://scer.govspace.gov.au/files/2012/12/National-Mineral-Exploration-Strategy.pdf
  7. ASX has ‘zombie’ juniors in sights (The Australian 2/9/2015)
  8. National Mineral Exploration Strategy
    https://scer.govspace.gov.au/files/2012/12/National-Mineral-Exploration-Strategy.pdf
  9. DET CRC
    http://detcrc.com.au/
  10. NSW 州政府 New Frontiers Cooperative Drilling Program
    http://www.resourcesandenergy.nsw.gov.au/miners-and-explorers/geoscience-information/news/new-frontiers-cooperative-drilling
  11. NT 準州政府 CORE (Creating Opportunities for Resource Exploration)
    http://www.core.nt.gov.au/
  12. Queensland 州政府 Future Resources Program
    https://www.dnrm.qld.gov.au/our-department/policies-initiatives/mining-resources/future-resources-program
  13. SA 州政府 PACE Frontiers
    http://minerals.dmitre.sa.gov.au/initiatives/pace/pace_frontiers
  14. VIC 州政府 TARGET
    http://www.energyandresources.vic.gov.au/TARGET
  15. WA 州政府 EIS
    http://www.dmp.wa.gov.au/EIS

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