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報告書&レポート

2015年12月10日 調査部金属資源調査課 新井裕実子
No.15-53

非鉄金属市場におけるEUとラテンアメリカの相互関係

 2015年10月、ポルトガル・リスボンにおいて国際非鉄研究会の秋季定期会合が開催され、国際銅研究会、国際ニッケル研究会、国際鉛亜鉛研究会合同のJoint Seminarが行われた。本セミナーは今回「ラテンアメリカの鉱業:最近の動向と展望(Mining and Metals in Latin America: Current Status and Future Prospects)」というテーマで開催され、EU政府を代表してMattia Pellegrini氏が、「原材料対話(Raw Materials Dialogue)を含む非鉄金属市場におけるEUとラテンアメリカの相互関係」について報告を行った。本稿ではその講演内容を紹介することとしたい。

1. ラテンアメリカとEUの関係

1-1. 輸入量と輸入先

 ラテンアメリカにとってEUは、米国に次いで2番目に大きい貿易相手である。EUにとって主な貿易相手国としてはブラジルやメキシコが挙げられ、商品貿易額は2004年以降の10年間でおよそ2倍となり、2,092億€に達している。EUはラテンアメリカに対して主に鉱業機械、輸送機器や化学製品を輸出しており、ラテンアメリカからは農業製品や原材料を輸入している。

 EUは年間300万t以上の銅の消費がある。EU域内の鉱山で賄っている量は3分の1以下に過ぎず、リサイクル分を加えても需要分には満たないため、輸入する必要があり、輸入先のほとんどはラテンアメリカである。鉛、亜鉛、ニッケルについても同様の事情で、鉛はメキシコとペルーから、亜鉛はボリビアとペルーから、ニッケルはブラジルとコロンビアから主に輸入している。

1-2. 鉱業関連会社の活動にみるEU・ラテンアメリカ間の関係

 Pellegrini氏によれば、原材料分野におけるEUとラテンアメリカの関係は大変良好であり、特に、EUからは投資や鉱業セクターにおける技術・サービスの提供を行っている。例として、ポーランドの鉱山会社であるKGHMが チリのSierra Gorda鉱山(日本企業では、住友金属鉱山、住友商事が出資。JOGMECもファイナンス分野において支援を行った)で2014年に操業を開始した際には、6億ドル以上もの借り入れ(20億ポーランドズウォティ)が欧州投資銀行(European Investment Bank)から行われた。また、スウェーデンのAtlas Copco社はラテンアメリカに対して鉱山機器や技術を提供しているEUの大企業であり、パナマ・Minera Panama社やベネズエラ・Minerven社と取引を行っている。

2. 原材料分野におけるEUの方針

2-1. EUの「原材料イニシアティブ(Raw Material Initiative)」について

 EUの「原材料イニシアティブ」は、原材料の持続可能な供給確保を目的に2008年に採択された。このイニシアティブを支える3つの柱とそれぞれのもとで具体的に取り組む項目の例は、表1のとおりである。原材料におけるEUとラテンアメリカの間の対話は、「①世界市場からの原材料の公正で持続可能な供給」という方針に基づき実施されている。

表1:EU原材料イニシアティブにおける3つの柱

 3つの柱  具体的取組み項目
①世界市場からの原材料の公正で持続可能な供給 ・原材料に関するEUの貿易戦略
・原材料に関する外交
・途上国への補助
②EU域内における持続可能な供給の促進 ・EU加盟国間での知見の交換
・EUのサポート情報の拡大
・調査および技能の促進
③資源効率の増大とリサイクルの促進 ・資源効率およびリサイクルを促進するための、より良い実施とより厳しいEUの廃棄物の法規
・EUの廃棄物輸送法(EU Waste Shipment Regulation)実施の強化

(出典:Pellegrini氏講演からJOGMEC作成)

2-2. 戦略

 Pellegrini氏によれば、EUの原材料分野における貿易戦略は、交渉や対話を通じて重点的に行われている。その背景の一つとして、とりわけ近年では資源ナショナリズムの動きが高まっており、世界において輸出制限は2013年6月~2014年7月の1年間で39 %も増加していることが挙げられる。原材料へのアクセス確保はEUの貿易戦略上重点目標(Core Objective)となっており、交渉や対話を行うことによって、経済発展、環境上の優先事項、異なるアプローチを考慮しながら、輸出制限に対抗し原材料市場を開放することが目指される。

 交渉に関してEUは、輸出制限(税、ライセンス、量、禁止事項)、部品の一定比率以上の現地調達を義務付けるローカルコンテントの要求(local content requirements)といった他の潜在的な貿易制限措置、あるいは国家貿易企業に焦点を当てている。多数国間交渉に関しては、これまで、中国、ロシア、タジキスタン、アフガニスタン、カザフスタンと行っているが、ラテンアメリカ諸国とはまだ行っていない。二国間交渉については、ラテンアメリカの国では、メキシコ、チリ、コロンビア、ペルー等とこれまで既に行い、MERCOSURとの交渉が継続中である。

3. 原材料分野におけるEUの外交的取組み

 EUとラテンアメリカは、「原材料分野におけるEU・ラテンアメリカ間対話(EU-Latin America dialogue on Raw Materials)」という取組みを行っている。この外交的イベントは昨年2014年にも開催されており、本年も9月に開催された。ラテンアメリカ諸国の参加国は、アルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、メキシコ、ペルー、ウルグアイである。下記のようなトピックスに焦点が当てられている。

・管理、政策、貿易

・マイニングポテンシャル及び投資の概要

・調査、技能及びイノベーション

・EU及びラテンアメリカにおける鉱山会社の現状

・技術面、環境保護面、健康及び社会的問題についてのベストプラクティスの共有と協力

 その他鉱業分野に関するワークショップとしては、「EU・鉱山先進国間対話(EU-Advanced Mining Countries dialogue)」が2014・2015年に開催されている。本対話には、ラテンアメリカからブラジル、チリ、メキシコ、ペルーが参加している。なお、その他参加国は、豪州やカナダ、南アフリカや米国である。

4. EU パートナーシップ制度(PI/EU Partnership Instrument)

 EUパートナーシップ制度(PI/EU Partnership Instrument)はEUが対外的活動を行う際の資金提供制度でありii、EUにとって重要な関心事項である分野の活動にファイナンスを行う。EUとラテンアメリカの原材料外交対話(EU- Latin America Raw Materials Diplomacy Dialogue)も対象である。2015年は原材料に関する提案2件が承認され、2016年はラテンアメリカに関する提案は2件検討が予定されているとのことである。

表2:2015年・2016年(検討中)の EU Partnership Instrument

 2015年

・バイプロダクトの回収に関する国際会議

・EU-カナダ間の鉱物資源投資機能

 2016年(検討中)

・環境管理を含めた鉱業セクターに対するコペルニクスリモートセンシング技術に基づくサービスの発展を目的とする、ラテンアメリカ諸国(ブラジル、メキシコ、チリ、ペルー、コロンビア)とのパイロットプロジェクト

・鉱業セクター(特に、技術、投資、管理、サービス及び技能)に関するEUとラテンアメリカとの間の継続的で確立された協力を支援するための、ラテンアメリカ・EU間発展プラットフォームについての実施可能性検討

(出典:Pellegrini氏講演からJOGMEC作成)

まとめ

 以上、原材料分野におけるEUの取り組みを軸に鉱物資源分野におけるEUとラテンアメリカ諸国の関係を紹介した。ラテンアメリカから多くの鉱物資源を輸入している日本もまた、ラテンアメリカ諸国にジョイントベンチャー探査や金融支援を通じて投資を行い、また、技術発展支援や鉱害防止措置支援も提供する等して協力関係を築いている。とりわけチリに関しては2003年から2012年の10年間、日本は同国にとって最大の投資国であった。資源国であるラテンアメリカと良好な関係を継続することは、鉱物資源を輸入に頼らざるをえないEUや日本にとっては必須であり、多角的なアプローチから、より一層関係を強固なものにしていくことが求められる。


(注記)

  1. EUにおいては、鉱物資源セクターは「原材料(rawmaterial)」の分野に属する。
    http://ec.europa.eu/growth/sectors/raw-materials/
  2. 参考URL:http://ec.europa.eu/dgs/fpi/what-we-do/partnership_instrument_en.htm

※本稿はEU政府 Mattia Pellegrini氏の了解を得て記載しています。

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