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報告書&レポート

2016年1月7日 調査部 金属資源調査課
No.16-1

2015年 金属鉱物資源を巡る動向

 世界の金属鉱業界全般にとって、2015年は金属資源価格低迷の影響により様々な事がらが引き起こされた年だったと言える。JOGMEC調査部では、2015年の金属鉱物資源分野における主な出来事を時系列に振り返り、その動向を以下のとおり取りまとめた。

【3月】

・3月以降:ストライキや反鉱業運動が中南米で拡大

 待遇改善を要求するストライキや地域住民による反鉱業運動が中南米、特にチリやペルーで発生。ペルーでは3月、Tia Maria銅プロジェクトで地域住民による反鉱業運動が再燃し、地元住民と警官との衝突により3名の死者が発生(うち1名は警察官)。これを受け、エネルギー鉱山省鉱山総局長が引責辞任(4月)。Southern Copper社は5月、Tia Maria銅プロジェクトを60日停止することを発表した。その後、Southern Copper社は地元対策費として100百万N.Soles(約37億円)の資金拠出を8月に発表したが、今回の騒動により当初Q2と目されていた建設許可の発給が遅延している。チリでは7月、Salvador銅鉱山とMinistro Hales銅鉱山で待遇改善を要求する請負労働者が鉱山施設を占拠しストライキが発生。Salvador鉱山では22日間、Ministro Hales鉱山では11日間に渡りストライキが行われ、操業停止によりCODELCO は8千t銅生産を失い、損失額は約20百万ドルとなった。

 ペルーにおける反鉱業運動は社会環境問題を原因とするものが多く、特に水資源の汚染、減少・枯渇を訴える場合が多いとされている。同国エネルギー鉱山省は、自治体やコミュニティ代表者を招聘して、社会・コミュニケーション能力開発、鉱業に関する基礎知識、鉱業・環境関連法規、鉱山見学などの研修事業を実施し、地域住民の鉱業に対する理解促進を図っている。JOGMECにおいても、鉱害防止政策アドバイザーをペルーに派遣し、エネルギー鉱山省職員に水量水質測定、鉱害発生源の位置・規模測定等や取得データの解析評価方法について、現場を中心とした技術指導の協力を行っている。チリにおける労働協約は有効期間36~48か月のものが多い。2014年前半までの改定では賃上率3~5 %程度であったところ、同年後半以降に妥結した労働協約では賃上率1 %台であったり、操業成績や消費者物価指数に連動した給与体系をとるなど、金属価格下落の影響が表れている。

 両国については本邦企業による鉱山分野への進出も多く、我が国の金属資源の主要輸入相手国となっている。両国の鉱業分野の安定は、我が国及び世界への金属資源安定供給に不可欠であり、今後の展開に引き続き注視が必要である。

【5月】

・日アフリカ鉱業・資源ビジネスセミナー(J-SUMIT2)および日アフリカ資源大臣会合の開催

 2015年5月28~29日に経済産業省とJOGMECの共催の元、「日アフリカ鉱業・資源ビジネスセミナー2015」(J-SUMIT2)が開催された。前回2013年(J-SUMIT)に続き、今回が2回目の開催。本セミナーでは、アフリカ15か国の資源担当大臣等の政府代表者、および国内外の資源関連企業や国際機関、関連団体など計42件の講演のほか、計30の関係企業、大学、機関のブース展示が行われ、資源開発における技術紹介や意見交換、商談等が行われた。2日間合計で全32か国から延べ2,000人以上が参加した。

 また、引き続いて5月30日には「第2回 日アフリカ資源大臣会合」(JAMM2)が開催された。宮澤経済産業大臣(当時)と南アフリカ共和国ラマトロディ鉱物資源大臣(当時)が共同議長を務め、アフリカからは全16か国の代表団が参加した。同会合では、2013年に採択された「日アフリカ資源開発促進イニシアティブ」の進捗状況についての報告がなされたほか、アフリカにおける資源開発に関する議論が交わされた。さらに、日本とアフリカとの関係を一層発展させるため、今までのようなマルチな関係構築から、次のステップとして2国間同士の関係強化に取り組む「日アフリカ資源大臣パートナーシップ」(Japan-Africa Ministerial Partnership for Resource Development:JAMP)の段階に進めることを宮澤経済産業大臣が提案し、共同議長総括として採択された。JAMM2の成果は次回のTICAD VI(アフリカ開発会議)の際に報告される予定。

※日アフリカ資源開発促進イニシアティブ

2013年5月、第1回 日アフリカ資源大臣会合(JAMM)の際に取りまとめられた日本アフリカ間の関係強化に向けた具体的な取り組み。主な内容は次の4項目:①アフリカにおける資源投資促進とインフラ整備に向けた取り組み、②アフリカの資源産業基盤の強化、人材育成に向けた取り組み、③環境保安面で持続可能な資源開発に向けた取り組み、④地域社会との共生に向けた取り組み。5年間で20億ドルのリスクマネー供給、1000人の人材育成協力を目標に掲げている。

写真2点「左:J-SUMIT2講演会場の様子」と「右:J-SMIT2ブース会場の様子」

・中国WTO敗訴により、輸出規制他を撤廃

 2014年8月、WTO紛争解決機関会合において、中国のレアアース、タングステン及びモリブデンに関する輸出規制がWTO協定違反であることが正式に確定した。これを受け中国では、2015年1月に輸出数量制限(EL枠)を撤廃、5月に輸出関税を撤廃、併せて5月に資源税の徴収方式と税率を変更(従量徴収方式から従価徴収方式へ)した。これらの対応により、レアアース等の中国国内価格と輸出価格の差は解消へと向かった。また、この一連の動きにより、WTOの有効性が確認されるところともなった。

 その後の中国の新たな動きとして、2015年5月、中国は国際標準化機構(ISO)での専門委員会(TC)設置を提案し(太平洋地域標準会議にて表明)、レアアース国際基準の策定を要望した。要望内容は、①用語、定義、表示、保管などの基本規格、②試験・分析規格、③再生資源を含む希土類濃縮物から材料に関わる製品規格を策定する、というもの。これについて、ISO加盟国による投票の結果、2/3以上の賛成を得たことにより9月にTC設置が承認され、レアアース国際標準規格作りが開始される運びとなった。専門委員会は日本を含む6カ国(日本、中国、米国、豪州、韓国、インド)で構成され、幹事は中国が務める。国際標準化への取り組みを通じ、レアアース違法採掘の根絶やレアアースに関する国際連携の推進が期待される。

【6月】

・レアアース価格低迷、米Molycorp社が米破産法第11条適用申請

 2010年のレアアース・ショック以降、レアアースを取り巻く状況は一変し、供給源多角化の重要性の高まり、省レアアース、リサイクルの進展などにより、2012年までにレアアースは世界中で供給過剰傾向となり、価格は大幅に下落した。

 このような状況下、2015年6月25日、米Molycorp社が米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請した。レアアース価格の下落により当初想定した収益を得られず資金繰りが悪化したことから、約17億ドル(2,100億円相当)の債務再編を実施するもの。同社は併せて事業再生融資2億2500万ドルも確保しており、2015年末までに再生期間を終了したい考えを示した。同社の操業する米Mt.Passレアアース鉱山は10月までに操業休止予定と発表された。

 現状、レアアースについては中国以外の供給源は限られているところ、中国以外の鉱山がなくなることにより中国依存度が再度高まり、供給リスクが増大する可能性が考えられる。また、レアアースの中でも重希土の産出は未だ中国の南方域のみであり、中国外プロジェクト存続の重要性は益々大きくなったと言える。

【8月/11月】

・豪州及びアイルランドの大型亜鉛鉱山が閉山

 2015年、亜鉛生産量世界3位のCentury鉱山(豪)及び世界13位のLisheen鉱山(アイルランド)が閉山を迎えた。両鉱山の閉山により、675千t(世界消費量のおよそ5 %)の亜鉛供給が失われることとなる。

 Century鉱山は、豪州Queensland州北部に位置する露天掘り鉱山で、Minmetals社(中国)傘下のMMG社が全ての権益を保有している。2015年8月を以って採掘が終了し、採掘済みの鉱石を出荷するために選鉱場が稼働している状況。操業停止後から鉱区保有期限の2047年までは、最小限の人員にて閉山処理が行われる予定である。Lisheen鉱山は、アイルランド中央部のTipperary州に位置し、1999年操業開始、現在はインド系資源大手のVedanta社(英)が2011年にAnglo Americanから権益を取得して操業を行っている。同鉱山も既に2015年11月に採掘を終了し、選鉱場も年内に操業を終える予定。こうした亜鉛鉱山閉山による生産減を補うため、MMG社は2018年操業開始予定のDugald River鉱山(豪)の開発を進めており、Vedanta社もScorpion鉱山(ナミビア)のマインライフを2017年から2019年へ延長することを明らかにしている。

 近年の亜鉛価格低迷等を背景に、Wolverine亜鉛鉱山(加)等複数の鉱山で、操業停止状態が継続している中、10月にはGlencoreが亜鉛500千t減産を発表、Nyrstar社も追加で亜鉛鉱山と製錬所での減産を予定、さらに中国亜鉛製錬各社も500千tの減産計画を発表しており、2016年の亜鉛需給は供給不足に転じることが見込まれている。

【9月】

・グレンコアの株価急落、資源メジャー各社とも効率化及び合理化を推進

 資源価格低迷の中、メジャー各社の業績が軒並み右下がりとなっていたところ、9月28日、米国株式市場において、スイスの資源大手グレンコアの株価が1日で29 %も急落、上場以来の最安値をつけた。同時に同社のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の保証料率は急騰し市場を騒然とさせ、のちに「グレンコア・ショック」と呼ばれる騒動となり、ダウ工業株30種平均を前週末比で312ドル下落させ、さらには日米欧の株式市場など世界の金融市場にも連鎖を引き起こした。

 この株価の急落は、同社の財務状況に対する懸念が急速に広がったことが原因だが、当然のことながら、資源価格の止まらぬ下落が背景。中国が牽引してきた資源ブームが終焉した今、グレンコアの株価時価総額は年始に比べ一時約400億ドルを超えて減少し、現在はやや持ち直しているものの、依然として投資家は慎重な姿勢を崩していない。主に鉱山権益などのM&Aによる約300億ドルの有利子負債が、今後同社の経営を強く圧迫するだろうという懸念が投機筋から集中的に売り浴びせを受けた最大の要因である。加えて他の資源メジャーとは異なり、源流がトレーダーである同社については、以前よりトレーディング部門の取引に不透明性があることも、市場での不安を払拭できない原因(簿外債務などの懸念)となっている。また、資源企業としては後発でもあったことから、各アセットも他メジャーと比べるとコスト面などで良質とは言えないことも要因の一つとして挙げられる。

 同社の2014年度売上高は2,211億ドル、主に南米、豪州、アフリカ地域で石油、亜鉛、銅、石炭などの権益を多数保有している。この危機以来、CEOであるIvan Glasenberg氏は「配当の見送り(24億ドル相当)」「新株発行(25億ドル相当)」「オペレーションコストの削減(15億ドル相当)」「資産売却(20億ドル相当)」「設備投資の抑制10億ドル相当」など次々と財務改善計画を発表することで信用回復に努めている。

 他の資源メジャー各社においても、事業見直し、コスト削減等による効率化及び合理化の動きが続いている。BHP Billitonは鉄鉱石、銅、石炭、石油・天然ガス・肥料の4分野に絞った事業を展開し、鉛・亜鉛、ニッケル、マンガン、アルミ等の非中核事業はSouth32に移管、2015年5月に分社化が完了した。Anglo Americanでは大幅な雇用削減を立て続けに発表、Rio Tintoにおいても事業部門の再編成によるコスト削減が図られている。

図1.資源メジャー各社の株価(インデックスチャート)

【10月】

・安倍内閣総理大臣、モンゴル及び中央アジア5か国歴訪

 エネルギー・鉱物資源の大宗を輸入に頼っている日本にとって、資源の安定調達は重要な課題の一つであり、資源国との二国間関係の強化及び供給源の多様化が求められる。安倍内閣総理大臣は、2012年12月の就任以降、中東・アフリカ・中南米等、資源外交に積極的に取り組んできたが、今年も資源の安定供給確保を狙いとして、2015年10月、モンゴル、トルクメニスタン、タジキスタン、ウズベキスタン、キルギス、カザフスタンを歴訪し、活発な資源外交を展開した。

 中央アジアは天然資源が豊富であり、ユーラシアの中心に位置する地政学的に重要な地域でもある。金属鉱物資源については、銅、亜鉛、金、タングステン、ウラン等、様々な有用金属を産出する。JOGMECも今回の資源外交に同行し、金属資源分野では、ウズベキスタン地質・鉱物資源国家委員会との間で、レアメタル鉱床の共同探査に係る実施合意書、ウズベキスタン・ナボイ州の有望鉱区におけるウラン鉱床の共同探査及び開発に関する協力関係に係る覚書を取り交わした他、カザフスタンにおいても同国国営探鉱会社kazgeologyとの間で同国内での鉱物資源分野における共同調査のための覚書を締結した。政府間交流に加え、こうした技術面での支援・協力を通じ、日本の存在感を高め、資源国との一層の関係強化への貢献が期待される。

【11月】

・資源価格の下落・低迷続く、ニッケル価格は12年半ぶりの安値

 2015年の資源価格は、軟調な2014年の値動きからさらに下落し、総じて記録的な安値を付けた。2015年のベースメタルLME価格の概要は表1のとおり、ニッケルは12年半ぶりの安値を付け、銅は6年ぶりに5,000 US$/tの大台を割り込んだ。貴金属市場においては、金は米国利上げ時期を見計らう中で軟調な値動きを見せ、白金族市場は一時10年ぶりの安値を付けた。鉄鉱石についても、12月初旬に中国向けスポット価格が40 US$/tを割り込むなど価格は引き続き低迷している。

表1:2015年ベースメタルLME価格概要

  年初価格
(US$/t)
12月11日時点価格
(US$/t)
増減率 2015年最高値
(US$/t)
2015年最低値
(US$/t)
 銅 6,309 4,667 -26.0 % 6,448 (5月12日) 4,515 (11月23日)
 鉛 1,845 1,718 -6.9 % 2,140 (5月 5日) 1,555 (11月23日)
 亜鉛 2,183.5 1,533 -30.0 % 2,405 (5月 6日) 1,487 (11月19日)
 ニッケル 14,880 8,655 -41.8 % 15,455 (1月 7日) 8,160 (11月23日)

 価格下落の最も大きな要因と考えられているのは中国経済の減速感である。8月に行われた人民元切り下げをきっかけに、同国経済の鈍化があらためて強く意識され、さらにGDP成長率は2015年第3四半期には公表値6.9 %増と、ついに7 %増のラインを割り込んだ。これはリーマン・ショックの影響を受けた2009年第1四半期(6.2 %増)以来の低い数字であり、同国経済の低迷が確実視される材料となった。

 その他の要因として、堅調な米経済を背景にドル高基調が続いたことも相場の下方圧力となったと考えられ、さらに5~6月にかけてのギリシャのデフォルト懸念の発生、11月下旬のフランスでのテロなど経済不安を加速させる出来事が相場を一層冷え込ませた。白金族市場については、9月に発覚したVW社の排ガス不正問題が下落傾向にあった相場をさらに押し下げることとなった。

・ブラジルの鉄鉱石鉱山、廃さいダム決壊事故発生

 2015年11月5日午後、Samarco鉄鉱石鉱山(伯Minas Gerais州)の廃さいダムが決壊、流出した廃さいを含む大量の泥水が氾濫し甚大な被害が発生、同国鉱業界における史上最悪の事故の一つとなると目されている。同鉱山に出資するBHP Billiton(以下BHPB)の発表によると、11月30日時点で13人が死亡、6人が行方不明、ダムの7キロメートル下流に位置するBento Rodrigues村(人口564名)全域で浸水あるいは水没被害を受け、泥水はさらに下流の村へも到達、最終的にはDoce川を経て大西洋に流れ込む大惨事となった。

 同鉱山はBHPBとValeが50:50で出資しており、両社は鉱山や関係当局とともに被災者支援等の対応にあたっている。原因はまだ特定されていないが、2015年7月にダムを対象とする当局の検査が行われ安全が確認されていたこともあり、原因が究明された時点で当局の責任問題に発展する可能性もある。

 同鉱山の2014年生産量は26.2百万t、Valeの2014年鉄鉱石生産量全体の4 %、同じくBHPBの6.4 %にそれぞれ相当し、2014年6月時点での可採年数は39年。一部の新聞報道では、同鉱山の操業は数年間停止するものと見られており、ドイツ銀行では操業再開は早くても2019年6月期以降と予想、モルガン・スタンレーも「合弁会社は操業許可と環境許可を再申請する必要があるかもしれない」とし、操業停止は長期に亘ると見込まれている。

 ブラジル政府は同鉱山を操業するSamarco Mineracao社とその親会社であるBHPB及びValeを相手取り民事訴訟を起こし、202億レアル(約6,400億円)の損害賠償を請求する。また、BHPBとValeはSamarco Mineracao社のホームページを通じ「DO THE RIGHT THING(正しいことをやろう)」と銘打ち、事故の対処に努めている。

 なお、BHPBのCEOは、同鉱山のように他パートナーと最大かつ同権益比率を有しながらもオペレーターを第三者に任せている案件について、見直しも含めた検討を行いたいと11月の投資家向け電話会議で発言しており、今後ジョイントベンチャー事業への対応に変化がみられる可能性もある。

おわりに

 金属資源価格の低迷が続く厳しい状況の中、資源関連各社は難しい経営判断を求められている。一方、長期的な周期で変動を繰り返す資源業界において、中長期的視点に立った対応が金属資源の安定供給には不可欠である。このような状況下にこそ、継続的な資源確保への取り組みが必要であり、JOGMECとしても様々な支援を進めて行く必要があるとともに、調査部においては、2016年も安定供給確保に資する情報提供に引き続き努めて参りたい。

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