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報告書&レポート

2016年1月14日 シドニー事務所 矢島太郎
No.16-3

オーストラリアIMARC鉱業大会参加報告―鉱業分野のイノベーションは他産業との連携が重要―

 2015年11月9~13日、オーストラリアのビクトリア州メルボルンにおいて、第2回International Mining And Resources Conference(IMARC)が開催された。オーストラリア政府は資源価格が大きく下落して資源ブームが終焉した今、これからの鉱業分野は「生産性の向上」が課題であることを示した(カレント・トピックスNo.15-39)。現在、多くのオーストラリアの資源企業が様々な方法で生産性向上に取り組んでいる。IMARCでは企業、研究機関や政府等が生産性の向上を実現するための具体的な取り組み及び政策について紹介を行った。

 本鉱業大会では、オーストラリアの鉱業業界が今後も世界のトップクラスを走り続けるには、新しい技術を開発し、鉱山におけるコスト削減や安全性向上の追及と共に、鉱業技術の輸出が重要となることが示された。また、新しい鉱業技術の開発とイノベーションを実現するには、一社単独による技術開発には限界があり、他産業と連携して共同で技術開発に取り組むことで、新しい技術の発明や既存技術を鉱業分野に適用することが可能になることがメジャー企業や政府等から紹介された。

1. IMARCについて

 IMARCは、大洋州鉱業冶金協会(The Australarian Institute of Mining and Metallurgy; AusIMM)とオーストラリア鉱業機器・技術・サービス協会(The Australian mining equipment, technology and services association; Austmine)が毎年主催する国際的な鉱業大会である。IMARC事務局の発表によると、2015年のIMARCには47カ国から2,100名以上が参加し、資源価格の低迷によりオーストラリアの鉱業分野が不況にあるにも関わらず、昨年よりも参加者が6 %増加している。

 IMARCは大会場での基調講演を中心に、「鉱業全般」「鉱業技術」「投資(探鉱・開発)」3つのセッションが会場を分けて同時に行われる。講演は資源探査~鉱山操業技術、資源経済、資源政策といった鉱業全般に関するトピックスを対象としており、メジャー企業や政府関係者によるプレゼンテーションも多く行われた。IMARCが他の鉱業大会と異なる特徴として、鉱業分野の技術開発に関する「鉱業技術」セッションを有し、産学官各分野からの発表者が鉱業技術に関する最新テーマについて発表を行うことが挙げられる。本レポートでは特に鉱業分野の「技術開発・イノベーション」に関する取り組みについて紹介する。

2. 「鉱業技術」に関する主な講演内容

 オーストラリアの鉱業業界は資源価格の低迷する中でも競争力を維持するため、コストを削減するための生産性向上に取り組んでいる。メジャー企業等が生産性を向上させるために行っている技術開発に関する発表について紹介する。なお、BHP BillitonもIMARCで発表予定であったが、11月5日にブラジル・ミナスジェライス州で発生した鉄鉱石鉱山の尾鉱ダム決壊事故への対応のため、同社関係者の全ての講演がキャンセルされた。

(1) Tony O’neill, “Open and collaborative innovation: Key to unlocking value in a new, lean mining world”, Anglo American, Technical Director

2013-14を100%とした場合の鉱業分野の生産性

 オーストラリアの鉱業分野の生産性は2004年以降低下を続けている。鉱山の遠隔地化による用水確保の難しさや鉱石品位の低下などが主な原因とされているが、その改善が課題となっている。鉱業分野の技術革新は、他分野、特に石油分野に比べて遅れている。現代の資源ビジネスでは、新たな技術を導入して効率化を行わなければ勝者になれない。鉱山トラックの無人運転やビッグデータ解析による効率化、探鉱データの三次元モデリング、採鉱におけるロボット技術などが鉱業分野にも導入され始めているが、さらに新しい技術が必要とされている。

 新しい技術を生み出すためには、他産業との連携が必要であり、それらの技術を導入することは一つの近道だからである。Anglo Americanは他産業との連携によって得られるアドバンテージを特に重視している。現在約60社と共同で鉱業技術を向上させるために300ものプロジェクトを実施しているが、相手となる企業は宇宙産業、F-1業界、IT業界、輸送業界のように多様であり、これらの企業と共同で技術開発を行うことで全く新しいアイディアを得ることが可能となる。今後、鉱業分野に導入可能な技術としては、ナノマテリアルや3Dプリンティング、クラウドコンピューティング等がある。Anglo Americanは鉱山ビジネスに新たな技術を導入することを目指して日々前進している。


(2) Warrick Ranson, “Driving productivity through strategic partnerships”, Rio Tinto, Head of Productivity Development, Technology and Innovation

 Rio Tintoの4大商品はアルミニウム、銅、石炭、鉄鉱石、次いでウラン、ダイヤモンド、塩の生産も行っている。Rio Tintoが抱えている課題は「コストの削減」と「安全性の向上」であり、それらを解決するために鉱山機器の自動化を推進している。現在、3つの鉄鉱石鉱山で合計69台の無人トラックを運用しており、鉱山業界で最大の無人トラック数を保有している。鉄鉱石を運搬するための無人列車と7台の無人ボーリング機械も運用している。主に鉄鉱石鉱山で無人機器を運用しているが、今後は石炭鉱山でも導入を進める予定である。無人機器による自動運転によって人間が運転するよりも信頼性が高く、効率的な操業を行うことが可能となった。また、以前よりも鉱山内の安全性が向上し、労働者の事故も減少している。

 クラウドコンピューティング技術により、パースのデータセンターでピルバラ地区の管理だけでなく、カナダのプロジェクトの管理も行っている。さらに、2014年3月にはブリスベンにビッグデータ解析を行うためのExcellence Centreを開設した。鉱山や鉱石処理施設の機械に多くのセンサを搭載して運転状況をリアルタイムに管理し、さらに各センサから得られた大量のデータを解析することで操業上のボトルネックを取り除き、操業の効率化を実現している。

 技術開発はリスクの高い事業であるため、戦略的なパートナーシップが重要である。新しい技術を開発し、導入するためには、パートナー企業との連携が必要である。共同で研究し、共同で学び、共同で開発し、共同で成長することが重要である。これらを実現するには、適切なパートナー企業、適切なプロジェクト、適切な人間、適切な技術が重要である。Rio Tintoは無人トラックに関してはコマツや日立、無人ボーリング機械に関してはAtlas CopcoやCaterpillar、科学技術に関してはCSIROやシドニー大学と提携している。様々な専門技術と実績を有するオーストラリアのMining Equipment, Technology and Services (METS)企業も重要なパートナーである。学術分野や他産業分野との連携はますます重要になる。新しいアイディアの多くは学術分野から生まれている。また、資源産業にとって重要な技術は製造業、宇宙産業、物流分野、IT分野から見つけることができる。

 Rio Tintoは2016でDampier港から鉄鉱石を初出荷してから50年目を迎えるが、オーストラリアの経済成長に大きな貢献をしてきたと自負している。そして現在も生産コストを下げるための新しいアイディアと技術を追求している。

(3) Andrew Logan, “Mining Innovation”, Newcrest Mining, Technical Director

 オーストラリアの鉱山業界は50年間で大きな進歩を遂げた。果敢に、執拗に新しい技術の導入を推進する企業は成長することができる。しかし、新しい技術を追及しない企業に成長はない。50年間で鉱石処理技術、露天採掘技術、坑内採掘技術は大きく発達した。今後、進歩が必要とされる鉱業技術は以下の分野と考えている。

  • 鉱石/尾鉱の分別技術
  • 高精度な爆破技術
  • 乾式鉱石破砕技術
  • ベルトコンベヤーの効率化技術
  • 鉱石の微粒破砕技術
  • 粗粒浮選選鉱技術

 技術開発を実施するには一社単独ではなく、他社と連携することが重要と考えている。また、技術開発の実施者が鉱山現場を良く知ることは重要であり、また鉱山従業員が技術開発の実施者に対して改善点を指摘する相互の関係も重要である。オーストラリアの鉱業分野は生産性を向上させるためには新しい鉱業技術を必要としているが、資源企業、コンサルタント企業、研究者、政府が提携して技術革新に取り組むことが必要である。

(4) Kok Leong-Lim, “Change the game”, McLaren Applied Technologies, Regional Director

F-1のMcLarenは多くの最新技術を利用する中で、走行中に多くのデータを取得し、データ解析を行い、データに基づいた判断を行うことを重視している。

 F-1には多くの最新技術が導入され、レースが行われている。レース中は数百ものセンサーから情報を取得し、短いタイムスケールの中で解析を行い、最大のパフォーマンスを発揮することが重要となる。さらに、得られた多くのデータを利用してシミュレーションを行い、次のレースにおける効率化を追及している。

 現代のF-1ではデータマネジメントが重要となっている。F-1レース中の作戦はロンドンで立てられており、レース中の戦略はロンドンからサーキットに送られてレースに反映されている。石油の海上でのボーリングもF-1レースと似ている。離れた場所から指揮が行われ、最大の能力を発揮することが必要とされている。マクラーレン・グループ(英国のレースチームで有名な企業グループ)は北海油田開発にも関与しており、自社の技術で海上ボーリングのパフォーマンスの最適化を支援している。

 多くのデータを取得し、モニタリングし、解析を行うことで、今まで無視されてきた多くの部分で効率化を達成することが可能となる。データマネジメントによるデータ主導(Data driven decision making)のアプローチが重要となっている。

(5) Hon Josh Frydenberg MP, “Mining and the Australian economy: the Australian Government’s priorities for the mining sector”, Minister for Resources, Energy and Northern Australia

 オーストラリアの鉱業機器・鉱業技術・鉱業サービス(Mining Equipment, Technology and Services; METS)分野は多くの鉱業技術を輸出しており、METS分野の総収益のうち、輸出分が約30 %を占めている。鉱量計算や鉱山の設計・採掘を管理するソフトウェアの60 %はオーストラリアで開発されている。オーストラリアは鉱業機器・鉱業技術に関して世界トップクラスであるが、鉱業分野の技術を引き続き向上させていく必要がある。

 政府は以下の6つの重点分野の技術を向上させるための産業成長センター(Industry Growth Centres)を開設している。

  • 先端的製造業(Advanced Manufacturing)
  • ネットワークセキュリティ(Cyber Security)
  • 食料農業技術(Food and Agri-business)
  • 医療技術・薬学(Medical technologies and Pharmaceuticals)
  • 鉱業機器・鉱業技術・鉱業サービス(METS)
  • 石油・ガス・エネルギー資源(Oil, Gas and Energy Resources)

 鉱業分野に関してはMETS成長センター(METS Ignited)を開設し、企業と研究機関の連携強化を推進する。現在は資源価格が低迷して鉱業分野にとっては苦しい時期だが、産学官が協力して技術革新を進める機会としてとらえたい。

(参考) 新政権が示したイノベーションに関する政策

 2015年9月14日に、自由党・国民党等からなる保守連合の党首選が行われ、マルコム・ターンブル通信大臣がアボット首相に勝利して新首相に就任した。ターンブル新首相はオーストラリアの持続的成長のためにイノベーション・科学分野の強化を重視しており、12月7日にオーストラリアの国際的競争力を向上させるための「イノベーション・科学計画(National Innovation Science Agenda; NISA)」を公表し、今後4年間で11億A$を予算化することを発表した。具体的には、産業と研究機関の協調を進め、先端技術分野の強化、理数分野の教育強化等の支援を実施する計画である。鉱業分野に関しては、CSIROやAMIRA Internationalなどの研究機関や研究実施者に補助金が配賦される予定である。

おわりに

 オーストラリアの鉱業は、他国と比較して高コストであるため、資源ブーム後の低迷する資源価格で競争力を維持するためには、徹底した生産性の向上に取り組むことが必要な状況となっている。本会議では、生産性向上を実現するためには新しい技術の導入が重要であり、技術開発の手段として「他産業とのパートナーシップ」を行う事例が多く認められた。今後、鉱業分野が新しい技術を導入して成長するためには「他産業との連携」が重視される潮流が感じられた。本会議では他業種であるF-1のマクラーレンがプレゼンテータとして参加し、多くのパートナー企業と効率化を追求しているプレゼンテーションを行った。イノベーションを行うためには、研究機関や他業種企業との連携の重要性が強く示された鉱業大会だった。

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