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報告書&レポート

2016年2月25日 ロンドン事務所 キャロル涼子
No.16-5

アフリカ鉱業界、資源価格低迷下におけるこれからの展望―Mining Indaba 2016参加報告―

 2016年2月8日から11日の4日間にわたって、今年で22回目となるアフリカ最大の鉱業投資会議「Mining Indaba 2016」がケープタウン国際会議場で開催された。原油安や中国の経済成長の鈍化に伴い低迷するコモディティ価格の影響から、大手鉱山会社の損失計上や減産計画がニュースをにぎわす中で開催された本会議であったが、会場はアフリカ鉱業界の最新動向や苦境の打開策を求めて世界中から情報共有に集った鉱業関係者の熱気に包まれていた。事務局によると、全体の参加者数は6,000人と昨年の約7,000人を下回った。

 日本政府からは、北村経夫経済産業大臣政務官が出席し、アフリカ諸国との関係強化に向け、中・長期的視野に立ったアフリカ支援策に関する講演を行った。また、アフリカ各国の鉱業関係大臣との二国間会談を実施した。

 今年で13回目の参加となるJOGMECは、経済産業省及びJBICと共同でジャパン・パビリオンの出展を行ったほか、アフリカ鉱業大臣フォーラムにおいてJOGMECセッションを主催した。同セッションでは、ボツワナ・地質リモートセンシングセンター大岡所長が司会を務め、辻本崇史金属資源開発本部長がアフリカにおけるJOGMECの活動を紹介し、それに続いて、マダガスカル・ケニア・ナミビア・ザンビア・スーダンの鉱業大臣が自国の鉱業政策及び投資環境について講演を行った。

 本稿では、南アZwane鉱物資源大臣の基調講演並びに経済産業省及びJOGMECによるアフリカにおける資源確保の取組、さらに話題を集めた白金のパネルディスカッションの概要について報告する。なお、本鉱業大会の情報やプログラムについては、以下のリンクからご参照いただきたい。

1. 南アZwane鉱物資源大臣の基調講演

1.1 南ア鉱業最新動向の注目点

 現在同国の鉱業動向で大きな注目を集めているのは、鉱物石油資源開発法改正案(MPRDA)の見直しである。同法案は2014年4月に国会承認後、Zuma大統領によって2015年1月に国会に差し戻され、その後鉱物資源ポートフォリオ委員会において見直しを実施中であるが、11か月後の現在も全国州評議会(上院)へは報告されておらず、こう着状態が続いている。国内では州伝統的指導者議会(House of Traditional Leaders)へのヒアリングが十分ではないため、採択には時間がかかるものとの見方が主流である。法案の焦点は、鉱業界の行動規制や鉱山労働者の住環境向上対策、広範囲にわたる社会経済エンパワメント憲章の法規制化であるが、法案の内容が国際協定や条約に抵触する可能性があるとの懸念もある。

 また、鉱物資源省の権限拡大・手続きの明確化・効率化についても、その改革動向に注目が集まっている。

1.2 基調講演の概要

 初日幕開けの基調講演で、Zwane鉱物資源大臣は、「大臣就任後4か月で、冬の時代に突入した鉱業界について学んだ。最盛期に犯した失敗から学ぶべき課題は、ステークホルダーにとって持続可能な鉱業界を実現するため、政府による政策支援が重要ということ」と前置きしたうえで、以下の課題を認識していると述べた。

Zwane大臣による基調講演
  • MPRDA改正案の国会における迅速な審議
  • 鉱業憲章の見直し
  • 労働者の人権保護と地域社会への貢献支援
  • 政策の安定化、とりわけ財政政策(税制)の安定化
  • グローバル経済に見合う法規制の整備
  • インフラ・交通網の整備を通して投資環境を向上
  • 鉱業の安定化と持続可能な成長を実現する労働環境の充実と雇用の安定化


 同大臣は、2014年の大規模ストライキ以降、労働者との関係は安定したが、再発防止に向けてさらなる努力を継続すると強調し、ネガティブな労使関係のイメージを払しょくする意向を表明した。また、南アフリカ開発計画(South Africa Development Plan)に従って、鉱山労働者の就労環境の充実や失業対策に従事し、失業問題のインパクトを緩和するよう研修事業などで支援すると同時に、業界のエンパワメント、インフラの充実、女性の登用、新たな人材開発に着手すると述べ、全ての南ア国民が鉱業の恩恵にあずかれるように、高付加価値化を促進し、国家経済の安定につなげると明言した。

 さらに企業へのメッセージとして、鉱山労働者の生産性向上、労働者の尊厳を守る労働環境を提供するよう要望したうえで、2015年の鉱山での死亡事故発生数は史上最低であったことから、好事例企業名を紹介し、その他の企業に対しては死亡事故回避に向けて一層努力するよう求め、さらなる効率的な鉱山操業にむけて支援を行う旨強調した。特に、鉱業における健康安全法(Mine Health and Safety Act)を導入して操業にレビュー過程を設け、政府においても鉱山事故回避に向けて無事故環境の達成に尽力するほか、企業と協力して鉱山周辺地域を対象に、鉱山従事者のスキル向上に向けた研修を共同実施すると表明。アフリカの鉱業ビジョン(African Mining Vision)の達成に向けて尽力していく姿勢を明確に示した。また南アの石油・ガス、シェールガスのポテンシャルについても認識し、その円滑な開発に向けて法整備を進めていく意向を示している。

 さらに大臣は、同国において国際地質会議(IGC)が2016年8月27日に開催される予定であることから、今後一層の鉱業活性化に向けて、国民・労働者に対してもオープンに意見を募り、環境向上を目指すと述べ、課題の克服と労働の平等化、雇用の安定に向けて努めていく意向をアピールした。

2. 北村経夫経済産業大臣政務官による講演「新たなアフリカ支援パッケージ」

2.1 日本の鉱物資源政策の五本柱とアフリカにおける事例紹介

 北村政務官は「新たなアフリカ支援パッケージ」と題して講演を行った。アフリカ諸国からの資源供給が「ものづくり国・日本」の産業維持に不可欠であるとし、日本のサプライチェーンの出発点たるアフリカ諸国に対して、鉱業国ジパングの歴史を有する経験と資源開発にとどまらない包括的な支援を行う意向をアピールした。また、具体的な日本の鉱物資源政策として①海外鉱物資源開発、②リサイクル、③レアメタル備蓄、④代替材料開発・使用量削減、⑤海洋鉱物資源開発の5本柱があることを紹介したうえで、対アフリカ諸国へ展開する海外鉱物資源開発政策の基本パッケージとして、政府と関係機関で行う地質調査、探鉱、開発、生産、閉山後の後処理に至るまでの財政的・技術的支援のほか、探鉱・鉱山開発に係るインフラ整備や人材育成の取り組みを紹介した。さらに日本企業がアフリカで展開する事業として、モザンビーク最大のモザール・アルミニウム製練所とマダガスカルのアンバトビー・ニッケルプロジェクトの名を挙げ、アンバトビーにおける日本企業職員と現地職員の交流による現地職員の成長に関する逸話を交えながら、日本企業の投資による現地への貢献の事例を披露した。

2.2 アフリカ資源開発に係る日本政府の基本方針

 日本政府は2013年6月に開催されたアフリカ諸国51か国の首脳・開発パートナー等との政策対話の場となっているTICAD Ⅴにおいて、2013年から5年間で320億US$規模の支援と産業人材育成を通してアフリカの成長を支援すると表明している。なお2016年8月には、アフリカ大陸で初の実施となるTICAD Ⅵが、ケニアの首都ナイロビで開催されることから、北村政務官は、同会議開催を通して日本がアフリカの成長に一層貢献する取り組みをまとめるよう準備を進めていると発表した。

 さらに、2013年5月に開催した日アフリカ資源大臣会合において取りまとめた日アフリカ資源開発促進イニシアティブについて、アフリカ諸国で協力事業が進んでいる状況を紹介した。アフリカにおける資源投資促進のために、JOGMECを通じて実施するJV事業を拡大しつつ、アフリカ諸国への官民ミッションの派遣を通じてアフリカへの理解を深め、20億US$の資源案件に係る金融支援を通して、日本企業とともに今後の成長に向けて協力を惜しまないと述べた。JICAを通して実施されるナカラ回廊整備事業や、OSBP(One Stop Border Post:ワンストップ国境通関システム)などのインフラ整備についても紹介した。

 また、持続可能な資源開発を支援する目的で、日本の高い環境保全技術や保安技術、リモートセンシング技術等の技術移転を行うほか、教育環境の整備や、5億US$規模の保健医療の推進を通してアフリカ諸国の自立へ向けた協力を進めると表明した。

北村財務官による講演

3. 白金に関するパネルディスカッション

モデレータ: Stephen Forrest, Director & Chairman, Principal Consulting Analyst & Engineer, SFA (Oxford) Ltd

パネル: Paul Dunne, Chief Executive Officer, Northam Platinum Limited
Ben Magara, Chief Executive Officer, Lonmin
Gerick Mouton, Vice President and Executive Head: Capital Projects, Ivanplats
Steve Phiri, Chief Executive Officer, Royal Bafokeng Platinum
Andrew Robert Hinkly, Executive Head: Marketing, Anglo American Platinum limited
Paul Wilson, Chief Executive Officer, World Platinum Investment Council

 本会議では、鉱山会社やアナリスト、専門家が集って鉱業界で話題となっているトピックについて議論するパネルディスカッションが数多く実施され、参加者からの評価が高かった。なかでも、コモディティ価格低下の話題が多い中で、最も回復が早い可能性があるとの議論で来場者の注目を集めた白金族に関するパネル討論の概要を紹介する。本パネルディスカッションでは、主に価格低迷が著しい白金の見通しについて議論が繰り広げられた。

3.1 白金価格の見通し

 現在白金は世界市場で5 %の供給不足に陥っているといわれるが、2015年9月に価格が900 US$/oz台を割り込んでからは需給面でのファンダメンタルをよそに安値が続行している。世界白金投資協議会(World Platinum Investment Council, WPIC)CEOのPaul Wilson氏は、南アからの白金供給が過去5年間で15 %減少している実態を示し、「2020年にかけて供給不足傾向が予測されているにもかかわらずこの安値というのは、何かがおかしい」と発言、市場が白金の強みを理解すれば価格は上昇するとした。一方で英白金コンサルティング会社であるSFA Oxford社会長のStephen Forrest氏は、白金価格が960 US$/ozを下回ると白金生産者の5割が採算割れとなるが、新興市場が需要を後押ししない限り、価格がこの水準まで回復するのは難しいとの厳しい見方を示した。

3.2 需要サイドの見通し

 需要サイドについては、中国経済の減速による白金の個人消費の冷え込みが価格低下に影響している事実は少なからずあるものの、同国におけるブライダルジュエリーの5割を白金が占めることから、需要増の余地はまだあるとする意見があった。さらに今後はインドにおける個人消費にも期待が寄せられる。パネラーの間では、宝飾品の価格は産業用利用に用いる白金のファンダメンタルズとは別の方法で設定されるため予測が難しいが、白金消費の多様化が価格上昇の切り札となるとの見解で一致していた。

 自動車触媒向け白金消費については、トヨタMIRAI等のエネルギー蓄電池に使用される白金需要は今後5~10年は堅調であるとの意見があったほか、Anglo American Platinum(Amplats)のAndrew Hinkley氏によると、インドの自動車産業界においても、欧州排ガス規制の強化に伴い、白金需要は好調に推移するとの見方があると報告があった。

 またWPICは、30年単位の長期的視野に立てば投資目的の金属として白金需要は伸びるとし、投機筋でポートフォリオの多様化の一助として白金の存在感が増していると報告した。さらに日本において白金の購買意欲が高いことを挙げ、Platinum Japan Fundと協力して白金塊の販売促進を展開しているとの紹介があった。

3.3 白金生産者から見る今後の白金業界

 Amplatsと同様、2014年のストライキで生産に影響が出たLonminは、近年5,100人の人員削減をストライキなしで実現した実績に触れ、労働者との関係向上について言及し、2012年のMarikana事件以降、賃上げ闘争の解決策として導入した労働者との対話プログラムが奏功していると報告した。同社は、鉱山操業効率化に向け、生産性の高い4から5つのシャフトに絞って操業を継続する計画である。

 Ivanplats副社長のGerick Mouton氏は、同社が開発を進める新規鉱山について紹介し、インフラ整備に今後4~5年要する間に白金市場は回復するとの見方を示した。大手鉱山会社が白金事業の経営難に直面する一方、将来の需要回復に向けて多様化と投資を継続する企業こそ、白金価格回復時に恩恵を受けることになるのは間違いないと強気な姿勢を見せた。

4. JOGMEC主催アフリカ鉱業大臣フォーラム

 JOGMECのINDABA参加は今年で13回目となる。今年は前年同様、経済産業省、JBIC及びJOGMECの3社合同でジャパン・パビリオンを出展し、日本によるアフリカ鉱業投資について展示を行ったほか、世銀、アフリカ開発銀行と並びJOGMECがアフリカ鉱業大臣フォーラムを主催した。冒頭でJOGMEC辻本崇史本部長がJOGMECのアフリカでの資源確保への取組について講演を行ったほか、ボツワナ・地質リモートセンシングセンターの大岡所長が司会を務め、マダガスカル・ナミビア・ザンビア・ケニア・スーダンの鉱業大臣を壇上へ迎えて、日本との共同事業やボツワナ・地質リモートセンシングセンターにおける研修活動を通した協力事例を紹介し、各国との連携をアピールした。

 同フォーラム以外の場においても、JOGMECと南アでの白金プロジェクトでパートナーを組むIvanhoe Mines社及びPlatinum Group Metals社が講演等でJOGMECとの事業展開を事前に紹介していたことも奏功し、JOGMECの支援事業に関心を寄せる聴衆が熱心に講演に耳を傾けていた。

4.1 辻本金属資源開発本部長による講演「Exploring the Future in Africa」

 本講演においては、アフリカ諸国でJOGMECが実施する取り組み事例について発表した。なかでも、ボツワナ・地質リモートセンシングセンターを拠点としてSADC諸国の地質専門家を対象に実施する研修・技術移転事業を通して、これまでに650人以上の卒業生を輩出した実績を示し、卒業生が各国リモートセンシング技術の向上に向けて活躍しながら日本との懸け橋になっている事例を披露した。また、研修事業で習得したリモートセンシング技術を用いて有望地を抽出し、JOGMECとのJV事業に発展する可能性についても触れ、探鉱事業が進展した場合はJOGMECのファイナンス支援スキームを活用した継続的な支援施策が利用可能であると紹介し、JOGMECが日本企業の直接投資を呼び込むための橋渡しの役割を果たし、また開発・生産・閉山に至るまでのフルサポート体制を有していることをアピールした。

写真2点「左:JOGMEC辻本本部長による講演」と「右:ジャパン・パビリオン」

5. 結び

 南アはアフリカ鉱業界の先駆者であるだけに、その直面する問題はアフリカ鉱業界全体が抱える課題の縮図ともいえる。とりわけ白金の世界生産において南アの存在感は大きく、2015年9月には金生産者のSibanye Gold社がAmplatsのRusetnburg白金鉱山を77億ランドで買収し、世界規模の白金生産者に名を連ねるなど、市況が厳しいさなか、南ア企業の躍進も記憶に新しい。

 しかしながら、アフリカを代表する鉱業国としての南アの位置づけは、一層の厳しさを増している。加シンクタンクのフレーザー研究所が、鉱山会社を対象に毎年鉱業国世界122か国・州における鉱業投資環境に関する意識調査を実施し、その結果を世界的にランク付けする「鉱山会社調査(Survey of Mining Company)」の最新報告書(2014年版)によると、アフリカでもっとも鉱業投資環境が優れていると評価されているのはナミビア(世界ランク25位)で、続いてボツワナ(26位)、ザンビア(37位)、モロッコ(40位)、ガーナ(47位)、ブルキナファソ(50位)と続き、南アフリカはそこからさらに引き離された世界64位に位置している。マダガスカル(55位)やDRコンゴ(62位)に比較してもさらに低い。

 投資環境の不安定さを助長しているのが、先行きの見えないMPRDA改正法案の見直し問題である。同法案は2015年1月からZuma大統領の意向により見直し中で、その成り行きを多くの関係者が見守っている。そのほかにも、2014年に5か月もの長期間続いた白金鉱山労働者のストライキや、労働環境問題をはじめとする労働組合との関係、高付加価値化政策、行政手続きの迅速化に向けた課題など、南ア鉱業界が抱える問題は山積している。

 このような現状にあって、先に紹介したZwane大臣は、Ramathorodi前大臣の後任として2015年9月に鉱物資源大臣に就任し、国際舞台にその手腕を披露する場となった今回のINDABAでは、その新大臣の発言に注目が集まった。本会議の講演中、Zwane大臣はMPRDA改正案の見直しについて進捗を共有したうえで、Ramathorodi前大臣の姿勢を一層強化して、迅速な法整備と企業・地域支援を通した人道的な鉱業の発展を支援する土壌づくりを促進するとアピールした。

 低迷する南アの鉱業に投資を呼び込むには、アフリカ地域の安定性、法令順守と法令違反の取締りを徹底することが不可欠である。現在のような厳しい市況にあって、南アは国際投資家や鉱業界からの信頼を回復し、アフリカ鉱業界のけん引役として信用確保につながる法整備と取締り体制を実現し得るか。INDABA開催国として、その取り組みを国際的にアピールしたが、今後の実現に向けて世界が注目している。引き続き今後の先行きを注視していきたい。

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