報告書&レポート
TMS2016参加報告―蓄電池リサイクル、レアアース利用技術の動向―

TMS2016はThe Minerals, Metals and Materials Society(TMS)が主催する鉱物・金属・材料に関する科学的・技術的な専門家が集まる国際会議で、例年参加者が約4,000人集まり、技術的な意見交換を行う場である。年一回開催で、今回は145回目で、ナッシュビルのMusic City Centerを会場に2016年2月14日から18日の期間で開催された。本会議ではREWAS2016と題して、蓄電池の持続可能性、レアアース使用技術等に関するセッションが開催された。今般、レアアースを含む非鉄金属全般の生産技術などの知見を深めるため、本会議に出席し、情報収集を行ったので報告する。 ![]() TMS2016受付 |
1. REWAS 2016について
REWAS2016は、「原料・資源の持続可能性に向けて」との副題が付けられたセッションで、持続可能性の理解と有効化をテーマに鉄・非鉄金属精製、蓄電池、レアアース使用技術、建築材料・スラグの有効利用、教育・研究の革新等を対象とした議論の場であった。そのうち2つの小セッション「Understanding & Enabling Sustainability – (Rechargeable) Batteries」と「Enabling & Understanding Sustainability – Rare Earth Element Applications」に参加した。その詳細について以下に記す。
2. Understanding & Enabling Sustainability – (Rechargeable) Batteries
蓄電池のリサイクルに関して3件の発表があった。
まず「米国の蓄電池リサイクルに関するR&Dプログラム」と題してRSR Anode Groupより発表があった。
蓄電池において、閉回路内のライフサイクルと循環経済が重要で、リサイクルにより原料である金属の採掘や廃電池の埋め立て処分の必要性が削減される。現状では米国での電池に使用される鉛のリサイクル率は95%で、ニッケルの88%、コバルトの68%、亜鉛の60%、銅の53%を上回っている。蓄電池リサイクルにおいてライフサイクルコストは重要な視点で、鉛蓄電池のライフサイクルコストは低水準であり、リサイクル業者は利潤を生んでいる。
蓄電池リサイクル方法の選択肢としては乾式製錬、湿式製錬、直接リサイクルがあり、乾式製錬が主流となっている。乾式製錬は製錬所に直接原料を投入できることが長所であるが、消費エネルギー・環境負荷が大きいという短所がある。湿式製錬は乾式製錬でスラグとして失われた金属の回収に役立つが、乾式製錬の工程も含めると、環境・衛生・安全の法規を順守するためのコストが高くつく短所がある。直接リサイクルは、選鉱など物理的分離方法により電池製造に直接戻せる原料を分離するもので、まだ開発段階であるが、環境負荷が低く、金属原料を化合物にする手間を省けるという大きな利点がある。リチウムイオン電池は正極材に含まれるニッケル、コバルトなどの乾式製錬を利用したリサイクルは進んでいるものの、リチウムはスラグとして失われている。
先進的な電池リサイクルへの道のりとしては、ゴールとして閉回路ライフサイクルの確立があり、手段として循環経済に合致した電池に関する研究開発があり、そのための戦略としてライフサイクルの維持管理と電池に関する研究開発を統合させることが考えられる。
次に「電気自動車廃電池からLiを回収する試み」と題してスウェーデンのDept. of Materials Science and Engineering, Royal Institute of Technology等から発表があった。2015年には130万個の電気自動車用電池が製造され、そのうち80%がリチウムイオン電池と見積もられるが、2022年には約50万個の寿命を終えた電池について再生処理が必要となる。この研究ではリチウムイオン電池の材料としてLiNiCoAlO2に焦点を当てアルミニウムリサイクルプロセスを用いて、含有される金属で、特にこれまでは回収されてこなかったAl、Liを回収することを試みた。
現状ではリチウムイオン電池からの金属リサイクルはUmicoreのみが商業規模での乾式製錬プロセスで実施している。このプロセスでは1,200~1,450℃まで加熱され、Li、Al、Si、Ca、MnとFeの一部が含まれるスラグと、Co、Ni、Feの残りを含む合金(マット)が生成される。他方、本発表のプロセスは予熱工程(300℃)→アルミニウムリサイクル工程(750℃)→①ブラックドロス(黒い浮滓)処理(1,250℃)と浸出、②アルミニウム溶融製錬(800℃)という段階を経る。
ブラックドロスは不均一であるため、各元素の回収は困難かつコストが高い。そのため、Li分を溶融メタル相に入るようにして、回収率を高める。また、ドロスに有価金属が混入した場合、どのように回収するか理論的な評価を行った。その結果、LiNiCoAlO2を615℃で溶融するとLiが溶融メタル相からドロス相に移行することが分かった。また1,000KでのAl-Cu-Li平衡状態図を算出したところ、Alを余分に加えることによりLiが溶融メタル相に分配されることが分かった。また溶融塩としてアルミニウム生産で一般的に用いられるNaCl-KClはNaClが飽和状態をもたらさないためNa分が溶融メタル相に捕捉されLi分がスラグ相(ブラックドロス)に移行し、Li回収には望ましくない。そのため、溶融塩としてのNaCl-KCl混合体の組成を工夫する必要がある。また条件を整えることによりリチウムは溶融メタル相に止まり、Fe、Ni、Co等がスラグ相を形成する。
最後に「リチウムイオン電池のライフサイクル分析」と題したEnergy Systems Division, Argonne National Laboratoryからの発表で締めくくられた。この発表では、原料入手から製品出荷まで(cradle to gate)のライフサイクル分析を行い、具体的には各種の正極材毎に寿命の間のエネルギー消費量(energy intensity)と温室効果ガス(greenhouse gas)の排出量を評価している。正極材として、コバルト酸リチウム(LCO)と三元系(Ni、Mn、Coを使用:NMC)、リン酸鉄リチウム(LFP)を想定した。
コバルトなどの金属の採掘から正極材を経て電池を組み立てるまでのエネルギー消費量を勘案すると、LCOやNMCが最もエネルギー消費が大きいと算定された。正極材用金属の生産に係るエネルギー消費を熱-湿式精錬及び乾式製錬で比較すると、乾式製錬の方が消費エネルギーが少ない結果となった。例えばLCOの場合、熱-湿式精錬では320MJ/kg、乾式製錬では180MJ/kgとなった。乾式製錬でNMCを生産した場合は140MJ/kg、乾式製錬でLFPを生産した場合は40MJ/kgとなる。ただし、エネルギー密度で見るとNMCによるリチウムイオン電池はLFPによるものに比べ3倍となっている。
次にガソリン車とプラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(BEV、走行距離110km)で温室効果ガスの排出を算定し比較した。PHEV、BEVはガソリン車に比べ排出量が低い結果となった。ガソリン車では温室効果ガスの排出が300g CO2e/kmとなったのに対し、PHEVでは225g CO2e/km、BEVでは175g CO2e/kmとなった。ただし、原料入手から製品出荷までのSOx排出量を勘案すると、Co、Niを硫化鉱から生産する場合に排出量が多くなることには注意が必要である。そのために、電池のリサイクルが、硫化鉱からCo、Niを生産することに比べSOx排出を減少させる可能性について強調していた。例えば、鉱山からの採掘の場合LCOを生産するのにSOxが25千g/t排出されるが、乾式リサイクルでは8千g/t、湿式リサイクルでは3千g/tと排出量の削減につながる。
3. Enabling & Understanding Sustainability – Rare Earth Element Applications
レアアースの利用技術に関して7件の発表があった。主なものの詳細につきここに記す。
まず豪州のCSIROより「モナザイトからレアアースを抽出する際のライフサイクル分析」と題して、ミネラルサンド→モナザイト→混合レアアース→分離されたレアアース元素といった一連のレアアース生産の流れにおける温室効果ガスの排出量から見たライフサイクル分析につき発表があった。ライフサイクル分析の結果、温暖化の可能性(≒温室効果ガスの排出量)は、元素別でみるとYが最も高く、それに次いでPr及びHo/Er/Tm以降の重希土類となり、最も低いのはSm/GdとEuとなった。
温室効果ガスの排出量は最大のYで200kg CO2eq/kgで最小のSm/GdとEuでは20kg CO2eq/kgとなっている。また各元素生産までのエネルギー消費量についても算出した結果、温室効果ガスの排出量と同様Yが最大となりSm/GdとEuが最少となった。エネルギー消費の内訳としては石炭火力が最大で原油、天然ガスと続く。レアアース元素全体の温室効果ガスの平均排出量は65.4kg CO2eq/kgと算出され、クロール法でのチタン精製の場合の35.7kg CO2eq/kgに比べ高い結果となった。さらに、生産を通した水の消費量や人体や海洋への毒性など環境負荷についても検討した。
次にWorcester Polytechnic Instituteより RARE EARTH METALS RECYCLING FROM SPENT CFLS AND PERMANENT MAGNETSと題してレアアースリサイクル方法の選択肢につき発表があった。クリーンテクノロジーの進展に伴いレアアース消費が伸びていく中、レアアースの安定供給に資するためリサイクルの重要性が増している。CFL型蛍光灯からのレアアースリサイクル率は10%程度と見積もられる。湿式精製プロセスが用いられ2段階の浸出により最終的にはY、Euが抽出される。またシュウ酸による沈殿法を用いれば、レアアース混合物の回収率は99.5%になると見積もられる。永久磁石からのレアアースリサイクルには乾式製錬が有効で、例えばSmは品位99.6%、回収率86.9%で抽出可能と見積もられる。
次にDepartment of Materials Science and Engineering, NTNU Norwegian University of Science and Technologyより「廃電気・電子製品に含まれる永久磁石からのレアアース回収技術開発」と題して、NdFeB磁石を含む廃電気・電子製品(WEEE:Waste Electrical and Electronic Equipment)からの乾式製錬によるレアアース回収について発表があった。レアアース酸化物は高い安定性によりスラグ相に移行する。主成分が鉄で、6,500ppm程度のNdを含むWEEE原料をグラファイトるつぼの中でアルゴンガスで満たし1時間1,600℃で熱した。原料111.3gに対してスラグ相は2.4g、金属相は96.1gで揮発によって失われた成分がある。スラグ相を分析した結果、Nd2O3が28.2%、Pr2O3が3.9%、Dy2O3が1.1%含まれることが分かった。その他の成分はAl、Sr、Ba、Siの酸化物であった。これらのレアアース酸化物は粉砕、重液選鉱あるいは電磁分離により抽出可能と考えられる。
次にUniversity of Torontoより「リン酸採取残渣からのレアアース回収技術の開発」と題して、アパタイトから肥料原料であるリン酸を生産した副産物であるリン酸系石膏(phosphogypsum)に含まれるレアアース回収技術につき発表があった。カナダのKapuskasingリン鉱石採掘場ではアパタイトを硫酸で浸出してリン酸を生産しているが、その過程で副産物としてphosphogypsum(PG:CaSO4・2H2O)が大量に発生し、堆積処分されている。アパタイトには最大1.57%のレアアースが含まれるがそのうち65~85%がPGに残留するという。レアアースとしては主にLa(36ppm)、Ce(26ppm)、Nd(27ppm)、Sm(22ppm)、Y(53ppm)が含まれることがPGの分析結果から分かった。この研究ではPGを硫酸、塩酸、硝酸で浸出する実験を行った。
浸出実験の条件は浸出時間が20分、酸濃度1.5M規定、浸出温度80℃、固液比(GP/酸)が1/8である。
その結果、硫酸は浸出に適さず、硝酸>塩酸の順で浸出が進んだ。Ndで見ると、硝酸で65%程度、塩酸で55%程度の浸出率であった。ただし回収まで含めた経済性の観点から塩酸の方がGPからのレアアース浸出に適していると言える。本研究の成果によりGPの堆積とその環境リスクを低減させることにつながると期待する。
4. おわりに
本会議は乾式製錬、合金・化合物の精製・利用、鉱物・金属・材料の特性、先端的磁石材料、軽金属生産、金属―ポリマー複合材料、レアメタル抽出・精製、金属材料に関する持続可能性などの多岐にわたる分野につき全部で約80のセッションに分かれ、発表件数は延べ3,300件に及ぶという大規模なものであった。
本会議の全体的な印象としては、開かれた場所での活発な議論が行われており、特に若手技術者・研究者の発表の場として機能していることを感じた。参加者は米国、カナダが大勢を占めていたが、欧州からの参加もあり、また特に乾式製錬、合金・化合物の精製に関するセッションでは中国、トルコからの参加も目立った。
今般、主にリチウムイオン電池を含む蓄電池リサイクル、レアアース利用技術につき報告したが、ともに基礎的な知見に関する研究ではあったものの、特にリチウムイオン電池リサイクルに関して欧米の取組の現況について有益な情報が得られた。

