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報告書&レポート

2016年5月12日 メキシコ事務所 縄田俊之
No.16-14

ドミニカ共和国鉱業に関する最近の動き

はじめに

ドミニカ共和国は、4年毎に大統領選挙が行われるが、前回2012年5月20日の選挙から早4年が経過し、本年5月15日に選挙が実施される予定である。

前回の選挙で選出されたDanilo Medina大統領の任期期間中である2013年7月には、ドミニカ共和国議会においてエネルギー鉱山省を創設する法律が可決、成立し、鉱業関係政府機関の組織改正が行われた。一方、2008年に検討された鉱業法改正については、審議が中断したまま現在に至っている。

こうした中、今般ドミニカ共和国鉱業の現状に関し、関係当局を始め鉱業関係者から関連情報を聴取することができたことから、これら情報を基に平成25年11月14日付けカレント・トピックス13-65号「ドミニカ共和国の鉱業に関する最近の動き」(以下「前回カレント・トピックス」と言う)以降におけるドミニカ共和国鉱業の現状を中心に報告する。

1. ドミニカ共和国鉱業を取り巻く状況

(1)政治

ドミニカ共和国の政体は、大統領制とともに議会は上院、下院の2院制を採用しており、4年毎に大統領選挙が行われる。前回の大統領選挙は2012年5月20日に行われ、政権与党であったドミニカ解放党(PLD)のDanilo Medina候補が選出され、同年8月16日に新大統領として就任した。新大統領は、就任演説において貧困対策、雇用対策、経済成長、財政改革、教育改革、電力問題への対策等を打ち出し、これまでに財政改革法の整備、政府機構の見直し、電力問題への対応、教育予算の対GDP比4%の確保、農業への助成等に関する政策を推進してきた。

こうした中、本年5月15日に大統領選挙とともに同国議会議員選挙が予定されているが、特段の問題が生じない限り、現政権与党の候補者が大統領に選出される公算が高いのではないかとの見方がなされている。このため、新大統領就任後に新政権として組閣が行われ、各閣僚の面々は変わるものの、政権として実施する政策の方向性には然程大きな変化は見られないのではないかとも推察されている。

(2)経済

2014年における人口は1,040.5万人(世銀発表)、主要産業は観光業、農業、鉱業等である。マクロ経済は、2014年における国内総生産(GDP)が641.4億US$、GDP成長率が7.34%、1人当たりGDPが6,163.6US$、インフレ率が2.99%(以上、統計データは世銀発表)である。

同国の主要産業は、観光業のほか、砂糖、カカオ及びコーヒー等の農業、金、銀及びボーキサイトの鉱業や、繊維工業である。同国の輸出総額に占める金の割合は、トップの繊維製品とほぼ同額で大きいことから、国際金市況の変動が比較的大きく同国経済に影響を与えることとなる。

2. ドミニカ共和国鉱業の現状

(1)鉱業生産

ドミニカ共和国で産出される主な金属は、金、ニッケル、銅、銀及びボーキサイトであり、これに亜鉛が加わる(表1.参照)。

表1. 鉱石生産量実績

(千t)

  2010年 2011年 2012年 2013年 2014年
 金 0.5 0.5 4.7 27.8 35.3
 ニッケル 13.5 15.2 9.4
 銅 9.1 11.7 11.5 10.4 9.1
 銀 22.8 18.2 27.3 78.1 133.6
 ボーキサイト 0.3 20.2 30.5

出典:World Metal Statistics Yearbook 2015

(2)鉱業輸出

同国における鉱業輸出は(1)の鉱種を中心とした地金のほかに、2015年から亜鉛地金が加わった。特徴的なこととしては、2012年以降急激に生産量を増加させた金の輸出額が生産量とともに増加し、同国の鉱業輸出額の約90%を占めるに至っている。

表2. 金属地金等輸出実績

(百万US$)

  2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年
合計 113.7 449.3 582.0 1,523.5 1,737.1 1,355.5
 金 20.1 25.0 174.7 1,190.6 1,544.8 1,227.3
 フェロニッケル 290.2 267.3 157.3
 銅 69.6 104.7 103.9 80.9 66.2 38.3
 銀 12.7 17.4 25.6 60.4 84.1 49.9
 ボーキサイト 0.3 20.2 30.5 27.6
 石灰岩 2.8 2.3 4.6 5.6 6.3 2.1
 亜鉛 4.9
 その他 8.5 9.7 5.6 8.5 5.2 5.4

出典:BANCO CENTRAL DE LA REPÚBLICA DOMINICANA

(3)鉱業外国直接投資

同国鉱業に対する外国直接投資額は、2011~12年にかけて異常な伸びを示しているが、これはPueblo Viejo金鉱山の開発に対する投資によるものである(図1.参照)。

このように、同国鉱業に対する外国直接投資額は、1件のプロジェクト開発の行方に大きく左右されると考えられる。

なお、現在のところ金を中心に幾つかのプロジェクトにおいて探鉱が実施されている中、加GoldQuest Mining社(本社:バンクーバー)がSan Juan州に保有するRomero多金属プロジェクトに関し、2016年中にプレFS及びFSを完了させる見通しを明らかにしていることから、2017年以降の同プロジェクトに対する開発投資が期待できる。

図:鉱業外国直接投資額

出典:BANCO CENTRAL DE LA REPÚBLICA DOMINICANA

図1. 鉱業外国直接投資額

3. ドミニカ共和国鉱業の最近のトピックス

(1)鉱業関係当局の組織改編

従前、ドミニカ共和国において鉱業行政を担当する関係当局として、探鉱・採掘許可等に関しては商工省(Ministerio de Industria y Comercio)の鉱山総局(Dirección General de Minería)が所掌し、地質図の作成等に関しては経済企画開発省(Ministerio de Economía, Planificación y Desarrollo)の国家地質センター(SGN:Servicio Geológico Nacional)が所掌してきた。

こうした中、2013年2月、Danilo Medina大統領がドミニカ共和国議会に対しエネルギー鉱山省を創設する法案を提出したところ、同年7月30日にエネルギー鉱山省創設法が可決、承認され、その後、公布に至った。これに伴いエネルギー鉱山省が発足し、従前の商工省鉱山総局及び経済企画開発省のSGNが新設されたエネルギー鉱山省に移管され、金属・非金属鉱物資源及びエネルギーに関する政策の企画立案、鉱区登録、探鉱・採掘許可、鉱業活動の監督等を所掌することとなり、同国における鉱業行政を一手に担う機関となった(前回カレント・トピックス参照)。

なお、エネルギー鉱山省が発足してから1年以上が経過するが、これまでのところ新たな鉱業政策や計画の策定は行われず、また、(3)で後述するとおり鉱業法改正に係る作業も行われていない等目立った動きは無い。

一方、鉱業界としては、エネルギー鉱山省に対し、鉱業権の許認可等に係る手続きの簡素化や手続き期間の短縮化等を期待するものの、現在のところ同省がどのような方向に進むのか想像できないとの見解を示している。

(2)国家地質センター(SGN:Servicio Geológico Nacional)の概要

今般エネルギー鉱山省傘下に移管したSGNは、従前の業務をそのまま実施するものの、独立した機関として国内外の鉱業関係機関等との間で単独に様々な契約を締結することが可能となっている。なお、鉱業権の許認可等に関しては、鉱山総局が担当する。

こうした中、現在国内外の大学や研究機関等と約10件の契約を締結し、鉱山周辺地域の水質に関する研究や、鉱山周辺地域における地震調査等のプロジェクトを推進している。また、科学技術省からの予算を活用して、国内外の大学と鉱業に関連した研究も実施している。

SGNで調査・研究した結果やデータについては、他省庁と共有を図っており、例えば、公共事業・通信省に対しては地震情報を提供し道路工事等への活用や、環境省に対しては水資源における水質状況を提供し環境保護政策等への活用が行われている。

一方、国内全土における地質図に関しては、従来保有していたデータが古くなったため、欧州連合(EU)の支援の下、2011年までに一部地域を除き国内全土に関し5万分の1の地質図を鉱種毎に作成した。なお、当該一部地域に関する地質図については、1980年代に独国の支援により作成したため、前述のEUの支援から外れた経緯を有する。このため、当該一部地域に関する地質図に関しては、現在SGNにおいて作成中であり、本年末までを目標に完成を目指している。ただし、地質図作成に際し必要となる採取した各種データの検証に関しては海外の専門機関に委託しているが、当該委託に必要な予算の目途が立っていないことから、現時点において本年末までの完成は見通しが立っていない。

なお、現在政府としては、全省庁においてそれぞれ行われている各種許認可等の手続きに関して、省庁毎に窓口を一本し、許認可等の申請者に対しワンストップで申請が行えるよう制度の見直しを検討しており、SGNに関しても窓口を一本化することが検討されている。

(3)鉱業法改正の動向

鉱業法(法律146-71)は、1971年に制定、公布され、2002~4年に一部見直しがされたものの、それ以降抜本的な改正は行われず今日に至っている。このため、近年各国で問題となっている鉱山周辺の環境対策や、新規の探鉱・開発の実施等に関し、現在の社会情勢・要請や鉱業活動にそぐわなくなっている(前回カレント・トピックス参照)。

こうした中、2008年に抜本的な見直しを行うべく検討が行われたが、同国議会に対する法案提出には至らなかった。また、2015年4月に退任した前エネルギー鉱山大臣が在任期間中、同法改正に意欲を示すものの、具体的な法案審議には至らず、現エネルギー鉱山大臣に至っては就任以降、同法改正については一切言及もせず、現在のところ同法改正については、同国議会にて全く審議すらも行われていない状況である。

一方、本年2月23日、同国は採取産業透明性イニシアティブ(EITI)の加盟候補国として承認されたことから、今後正式加盟に向けてEITIの基準を満足させるため、同法の規定に透明性の確保等に関する条項を入れ込む必要性が生じている。したがって、EITIの基準を満足させるために将来的に同法改正が想定されるほか、その際には、そもそも同法改正の必要性として挙げられていた鉱山周辺の環境対策や、新規の探鉱・開発の実施等に関し現状に即した規定にする改正も合わせて行われることが推察される。

なお、同法改正に関する産業界の見解としては、民間企業と政府機関とが一緒になって鉱業法改正に関し検討することを提案する一方、例えば加Barrick Gold社(本社:トロント)のように(4)で後述するとおりそもそも現行鉱業法の規定内容(規定水準)の維持を期待する企業もある。また、本年5月に大統領選挙が予定されており、現時点では現政権与党の候補者が大統領に選出される公算が高いのではないかとの見方がされているものの、当該選挙結果如何によっては同法改正の機運も左右されることから、今後の同法改正の行方は全く予想できないとの見解を示している。

(4)Pueblo Viejo金鉱山の現状

Pueblo Viejo金鉱山は、2006年に加Barrick Gold社(本社:トロント)がPlacer Dome社を買収し、その後、加Goldcorp社(本社:バンクーバー)に40%の権益を売却以降、今日まで権益比率60:40で両社が保有している(前回カレント・トピックス参照)。

同鉱山は、2012年以降、飛躍的に生産量を伸ばしてきたが、2015年は2件の技術的問題により生産量が低下した。1件目は、同年2~3月にかけて採掘した鉱石中の炭素含有量が異常に高かったため、金生産量が低下したことである。本件に関しては、炭素含有量が少ない鉱石とミックスして精製することにより、金生産量の低下を抑えることで解決した。2件目は、同年11月に金採掘用の大型コンプレッサー3基の内の1基が、送電される電力変動の影響で破損し修理のために時間を要したことにより、金生産量が低下したことである。本件に関しては、大型コンプレッサーを小型のコンプレッサー14基に置き換え、故障時のリスクを軽減するよう対処している。このように、2015年に発生した2件の技術的問題は解決されたことから、2016年の金生産量は2015年より増加する見通しである(表3.参照)。

表3. Pueblo Viejo金鉱山の金生産量

  2012年 2013年 2014年 2015年 2016年予測
Barrick Gold社 2.1t 15.2t 20.7t 17.8t 18.7~20.2t
Goldcorp社 1.4t 10.1t 13.8t 11.9t 12.4~13.7t
合計 3.5t 26.3t 34.5t 29.7t 31.1~33,9t

出典:Barrick Gold社、Goldcorp社の各Annual Reportを参考に作成

(5)Falcondoニッケル鉱山の操業停止問題

Falcondoニッケル鉱山は、1955~56年に鉱業権を取得し同鉱山の開発・運営企業であるFalconbridge Dominicana社を設立して以降、2008年8月~2011年1月にかけてニッケル市況低迷のため一時操業停止を除き順調に操業を続けていた。

その後、2012年に採鉱中のBonao地区の北西部にあたるLoma Miranda地区で新たな鉱床を発見し開発を進める旨を発表したところ、周辺地域の環境保護団体(NGO)による反対運動に端を発し、訴訟問題へと発展した上、2013年10月には、同鉱山の拡張計画に係る環境影響評価報告書に対する国連開発計画(UNDP)による評価結果やドミニカ共和国国立科学アカデミーの勧告を受け、同国議会下院が拡張計画に位置するLoma Miranda地区を国立公園に指定することを承認する事態となった。

一方、2013年に同鉱山を買収したGlencoreは、ニッケル市況の下落・低迷を理由に一時閉鎖に踏み切り、現在まで操業停止の状態が続く経緯を有する(前回カレント・トピックス参照)。

こうした中、Glencoreは、2015年8月にAmericano Nickel Limitedに対し同鉱山とともに、運営管理を行う現地企業であるFalconbridge Dominicana社を売却した。

鉱業・石油会議所(CAMIPE)によると、Americano Nickel LimitedはLoma Miranda地域に関しては未だ再開の目途は立っていないものの、それ以外の部分については操業再開に向け、現在設備・機器の試運転の実施や、鉱山従業員の人員配置も完了し、いつでも操業開始ができる状態になっており、現在のところ、2016年4月末から5月にかけて操業を再開する予定であることを明らかにした。

おわりに

ドミニカ共和国鉱業に関しては、2013年7月30日にエネルギー鉱山省創設法が可決、承認され、新たにエネルギー鉱山省が発足し鉱業行政の一元化は図られたが、既に発足後1年以上が経過するものの、懸案事項である鉱業法改正については一向に進展する気配が感じられない。

この上、本年5月には大統領選挙が予定されており、選挙後、新たに樹立される新政権が落ち着くまでは、鉱業法改正を含む鉱業政策に関し大きな動きはあまり期待できない。

しかしながら、裏を返せば、大統領選挙後、暫くして新政権が落ち着いてくれば、鉱業法改正に向けた動きが出てくる可能性も考えられる。また、本年に入り国際的に金市況の高騰が見られており、今後同国が得意とする貴金属に対し更に期待が高まることとなれば、同国で現在進行中の探鉱プロジェクトが開発段階へと移行する可能性も大いに高まると考えられる。

以上を踏まえると、同国鉱業の行方に関しては引き続き注視していくことが必要と思われる。

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