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鉛・亜鉛需給予測、2016年は需給ともに鈍化傾向―2016年春季国際鉛亜鉛研究会(ILZSG)報告(1)―
はじめに2016 年4月27日、ポルトガル・リスボンにおいて国際鉛亜鉛研究会 (ILZSG)※の春季定期会合が開催され、ILZSG加盟国や産業団体、企業、専門家等の約40名が参加した。ILZSGは、2016年の鉛及び亜鉛に係る世界の鉱石生産、地金生産及び地金消費予測値について、加盟国から提出された数値をベースに検証を行い、その結果について発表を行った。本稿ではILZSGによる2016年の鉛及び亜鉛の需給見通しについて報告する。 |
1. 鉛について
(1)鉛の需給バランス―供給過剰が継続も需給はほぼバランス―
表1に鉛地金生産量と鉛地金消費量との差分である需給バランスを示す。ILZSGによれば、2016年は需給両サイドで前年比2%程度の成長が期待され、2015年に引き続き供給過剰が継続し、過剰幅は2015年の3.8万tから7.6万tに増加する見通しである。生産量、消費量ともに2014年、2015年と前年を下回っているが、2016年にはいずれも増加に転じると予測している。
表1. 世界の鉛需給バランス(2013~2016年)
(出典:ILZSG会議資料より作成)
(2)鉛の需給動向
2014年から2016年にかけて地域別の数値を表2に掲げ、図1では当該数値をグラフ化して需給バランスを赤字で示した。図1からも分かるとおり、鉛については鉛地金の製錬原料の6割をリサイクル原料が占め、鉱石生産量は地金生産量の4割に留まっている。2016年の鉛鉱石生産量、鉛地金生産量及び消費量の見通しについて、詳細を以下に述べる。
表2. 世界の鉛鉱石生産・鉛地金生産及び消費(2014~2016年)
(出典:ILZSG会議資料より作成)
(出典:ILZSG会議資料より作成)
図1:世界の鉛鉱石生産、鉛地金生産及び消費(2014~2016年)
① 鉛鉱石生産量―閉山・減産も前年から横ばい推移―
世界鉛鉱石生産量は、2015年は前年比8.1%減の455.1万t、2016年は前年比0.5%増とほぼ横ばいの457.5万tとなる見通しである。鉛は亜鉛鉱山の副産物として産することから、大型亜鉛鉱山の閉山が近年の鉛鉱石減産に影響している。2015年下期に豪Century鉱山及びアイルランドLisheen鉱山が閉山し、またGlencoreの10万t減産をはじめ、CBH Resources社の豪Endeavour鉱山及びPerilya社の豪Broken Hill鉱山の減産計画が影響し、中国外での鉱石生産量は2016年に6.1%減産する見込みで、これをメキシコ、ペルー及び中国の増産が相殺するとしている。2016年の生産見通しは、中国210万t、豪州48.9万t、米国35万t、ペルー33万t、メキシコ27.2万t、ロシア20.5万tと予測した。
② 鉛地金生産量―製錬所拡張に伴い2.3%増へ―
世界の鉛地金生産量については、2015年は前年比2.8%減産したが、2016年は前年比2.3%増の1,090万tと予測した。鉛地金の製錬原料の過半はリサイクル原料であるため、鉱山閉山や減産計画は地金生産にさほど影響していない。増産理由としては、韓国でKorea Zinc社が生産能力13万tの鉛製錬所を韓国Ulsanに2015年末に完工したこと、またNyrstar社の豪Port Pirie製錬所でAusmelt技術を利用した金属回収設備が新規導入されたことが挙げられる。2016年の生産見通しは、上位から中国450万t、米国113万t、韓国75万t、インド50.5万t、ドイツ37.9万t、メキシコ35.8万t、英国30.8万tである。
③ 鉛地金消費量―中国需要が不透明ながらも2%成長の見通し―
世界の鉛地金消費量については、2015年は前年比3.2%減の1,062万t、2016年は前年比2.0%増の1,083万tと予測した。中国の鉛需要の3分の1は電動自転車E-bike向け鉛バッテリーとされるが、最近の統計では市場全体が飽和状態にありE-bikeの販売量は2013年でピークに達し、今後減少傾向となること、また鉛バッテリーに代わって低価格化が進むリチウムイオンバッテリーがE-bikeに使用される比率も拡大していくとみられており、将来的にはE-bike向け市場は縮小傾向にある。他方、世界的には自動車販売の増加や3G及び4Gの携帯電話基地局の拡張に伴って、緩やかながらも2%増と予測した。2016年の消費見通しについて、上位から中国448.6万t、米国160万t、韓国56.5万t、インド56.2万t、ドイツ34.4万t、日本27.2万tと予測した。
2. 亜鉛について
(1)亜鉛の需給バランス―35.2万tの供給不足へ―
表3のとおり、亜鉛の需給バランスについて、2015年は需要が前年比0.7%増と伸びずに需給はほぼバランスしたが、2016年には需要が3.5%増加し、地金生産は横ばい推移するとの見方から、35.2万tの供給不足に再び転じる見通しである。
表3. 世界の亜鉛需給バランス(2013~2016年)
(出典:ILZSG会議資料より作成)
(2)亜鉛の需給動向
2013年から2015年にかけての地域別の数値を表4に示し、図3に当該数値をグラフ化して需給バランスを赤字で示した。2016年の亜鉛鉱石生産量、亜鉛地金生産量及び消費量の見通しについて、詳細を以下に述べる。
表4. 世界の亜鉛鉱石生産・亜鉛地金生産及び消費(2014~2016年)
(出典:ILZSG会議資料より作成)
(出典:ILZSG会議資料より作成)
図3. 世界の亜鉛鉱石生産、亜鉛地金生産及び消費(2014~2016年)
① 亜鉛鉱石生産量―鉱山閉山、減産計画により1.4%減―
世界の亜鉛鉱石生産量について、2016年は前年比1.4%減の1,327万tと2015年に引き続き減産する見通しである。中国外では9.4%減となり、豪Century鉱山及びアイルランドLisheen鉱山の閉山に加えて、Nyrster社がMyra Falls鉱山及びMid-Temmessee鉱山の操業を停止し、またYukon Zinc社がWatson Lake鉱山の補修工事に入ることが減産に影響している。この他、豪州、カザフスタン及びペルーにおけるGlencoreの50万t減産計画、また豪Endeavour鉱山、豪Broken Hill鉱山の減産計画、サウジアラビアのAl Masane鉱山の操業停止、インドのRampura Agucha鉱山の技術障害による減産が響いた。他方、中国では前年比12.4%増産する見通しで、これが中国外の減産を一部相殺するとみられている。国別の2016年の生産見通しは、上位国から中国554.5万t、ペルー147万t、豪州86.4万t、インド78.5万t、米国77万tとした。
② 亜鉛地金生産量―北米減産を中国が相殺し、0.5%増―
2016年の世界の亜鉛地金生産量は、前年比0.5%増の1,398万tで、中国外では2.3%減、中国では4%増と予想した。米国ではHorsehead Holdingの新規リサイクルプラントの立ち上げが引き続き進展せず、また米国では年産15万tが需要減を見越して減産される見込である。さらにカナダ、インド及びカザフスタンにおいても減産が予想されているが、中国、韓国、ナミビア及びノルウェーでの増産がこれを上回るとみている。国別の2016年の生産見通しは、中国640万t、韓国101.2万t、インド72.5万t、カナダ65.5万t、日本56.4万tとした。
③ 亜鉛地金消費量―中国が牽引して3.5%増―
世界の亜鉛地金消費量については、2015年は前年比0.7%増、2016年は中国の需要増前年比3.5%増の1,433万tと予測した。2004年以降、世界需要成長は中国によってのみ達成されており、その量は約400万tに及ぶ一方で、同時期の中国外の需要は50万t減少している状況にある。特に米国では2004年時から比較して23%もの需要が減少している。中国については経済失速による需要鈍化が議論されているものの、亜鉛需要に関しては、2015年の指標では溶融亜鉛メッキ生産増や自動車販売台数増、工業生産等でポジティブな結果が出ており、2016年も同様と予想されることから、中国の需要成長は依然として4.5%が期待されている。国別では、上位から中国678万t、米国96万t、韓国67.3万t、インド65.8万t、日本49.9万tと予測した。
まとめ
ILZSGは、大型鉱山の閉鎖が鉛・亜鉛鉱石供給に影響を及ぼしたものの、地金生産と消費は中国需要鈍化に影響を受けながらも堅調に推移すると予想した。懸念すべき点は、中国需要の見通しが不透明であるなかで依然として中国の動向に左右される状況が継続すること、また世界需要については、中国外の主要消費国では全般的に縮小傾向にあり、中国に代わる新興国の台頭が遅れていることが挙げられる。鉛はリサイクル原料が製錬原料の過半を占めることから、鉱山減産の影響は限定的であるものの、亜鉛については大型鉱山の減産が続いていることから、代替供給源となる新規鉱山投資動向にも今後注目していきたい。
国際非鉄研究会(銅、鉛亜鉛、ニッケル)の中では最も古い歴史を持ち、1959 年に国連の招請・勧告によって発足した国際機関で、国際銅研究会及び国際ニッケル研究会のロールモデルとなっている。現在、鉛・亜鉛生産国、消費国及び貿易国からなる29カ国及びEUが加盟しており、生産及び消費に占める加盟国の割合は85%にも及ぶ。同研究会は、鉛・亜鉛市場の需給予測分析を始め、国際的な貿易取引に係る課題について研究するとともに、それらの課題に関して政府・産業界の利害関係者が定期的に話し合う機会を設ける機能を担っている。通常、定期会合は春季、秋季の年2回開催されている。