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報告書&レポート

2016年6月23日 金属資源技術部 特命調査役 阿部 幸紀金属資源技術部 大久保 聡バンクーバー事務所 山路 法宏
No.16-26

8th Lithium Supply & Market Conference 2016 参加報告

Lithium Supply & Market Conference は、Industrial Mineralsが主催するリチウムの需給動向、生産技術、新規プロジェクト、主要用途であるリチウムイオン電池材料や電気自動車に関する動向を主題にした会議である。これまでラスベガスのほか、リチウム産出国であるチリのサンティアゴやアルゼンチンのブエノスアイレス、リチウム探鉱プロジェクトを抱えるカナダのモントリオール、リチウム大消費国である中国の上海などで開催されてきた。8 回目となる今回は、2016 年5 月24 ~26 日にかけて、再び会場を米国ラスベガスに移して開催されたところ、その会議結果の概要について報告する。

1. 会議の概要

本年の会議は6つのセッション(①不確定な将来のリチウム需要に関する議論、②各地域の供給の最新動向、③リチウム抽出技術の進展状況、④NV州での探鉱状況、⑤新規プロジェクト紹介、⑥リチウムイオン電池の今後の動向)に分かれ、リチウム需給動向、開発事例から下流の技術動向に至るまで多岐に亘った。

直近のリチウム市況が高水準にあることから、今回の参加者は前回(上海開催)の96 名から3倍弱となる264名(事前登録者数)に増加した。開催地の米国および近隣のカナダが最も多くそれぞれ約70名、探鉱が活発化している豪州が約40名、欧州からも約30名、日本からは約20名、その他ではチリ、中国、韓国から参加があった。参加者の業種はリチウム生産者、リチウム探鉱ジュニア、リチウム案件に出資する商社、リチウム生産に関連するエンジニアリング会社、リチウムユーザー、金属素材系の調査会社、市場アナリストなど多岐に亘っている。

会場の様子の写真

会議の様子

2. 発表内容

会議を通じて全20 件の講演があった。発表内容は、電気自動車(Electric Vehicle:EV)の今後の普及とリチウム需要に焦点を当てた基調講演に始まり、不確定要素を抱える2016年のリチウム業界の見通しについてのパネルディスカッション、リチウム化合物生産にかかる技術動向やコスト構造分析、リチウム探鉱・開発プロジェクトの紹介、エネルギー貯蔵システムなどユーザーサイドから見たリチウム需要見通しなどの講演が行われた。特筆すべきは探鉱・開発プロジェクトについての講演が昨年の3件から9件に大幅に増えたことであり、リチウム探鉱・開発活動が活発化していることが伺える。

本稿では、今後のリチウムの需給動向を見通す上で特に重要と思われる基調講演及び探鉱・開発プロジェクトの動向に関する講演を取り上げ、その要旨を概説する。

(1)基調講演―2016年と手頃な電気自動車―リチウム需要の急増の時点に達したのか/Roskill Information Services Ltd, UK

2013年にスマートフォンが携帯電話に取って代わったように、EVの需要がいつ変曲点(急増開始の時点)に達し、いつガソリン車の需要を上回るのか検証した。スマートフォン/タブレットの需要は2010-12年に変曲点を迎え、それに伴い充電池のリチウム消費量も増加した。ただし、例えばiPhone6に採用されている7Whの電池1台に使用されるリチウムは6gLCE(Lithium Carbonate Equivalent:炭酸リチウム換算量)であるのに対して、EVで使用されている30kWhのバッテリーでは27㎏LCEであり、1台当たりのリチウム消費量が大きく異なる。2015年で見ると、スマートフォン/タブレットなどの小型電子機器27億台で40千tLCEのリチウムが用いられたのに対して、EVは47.3万台でその半分となる20千tLCEを消費した。このことからもEV普及によるリチウム需要への波及効果の大きさが見て取れる。EV普及は内的要因(電池コスト、販売価格、走行距離、充電時間など)や外的要因(ガソリン価格、EV購入に係る優遇策、充電ステーションの充実、必要とされる移動距離など)に加えて、政策的要因(CO2削減に向けた補助金、インフラ、意識など)にも左右される。

内的要因について各自動車メーカーの各車種を比較したところ、Tesla Motors(以下、Tesla社)のModel 3が走行距離と価格の面で一歩抜きん出た感があり、手頃感が高いと言える。他方、HEV(Hybrid Electric Vehicle:ハイブリッド車)の販売数の伸びは減速しているが、HEVはそもそもニッケル水素電池を採用している車種が多いためリチウム需要の伸びにはあまり影響を与えない。

EVメーカーの中で低価格モデルのModel 3を発表したTesla社は、40万台もの予約注文を満たそうと躍起になっているものの、他のGeneral Motors(GM)、BYD、日産自動車などのメーカーは慎重な構えである。また、電池業界は以前のEV需要予測に対応して既に生産能力過多の状況となっている。なお、リチウムイオン電池は、リチウム市場の32%、コバルト市場の46%を担っており、リチウムイオン電池の普及はコバルト市場にも大きな影響を与える。

今後の見通しとしては2020年にもEV向けリチウム需要が小型電子機器向けを上回ると見られる。小型電子機器向けのリチウムイオン電池需要は2015-20年に年率数%程度の伸びであるのに対して、EV向けは年率30%程度の伸びが見込まれる。またエネルギー貯蔵システムや動力源向けも堅調な伸びが期待される。現状約180千tLCEであるリチウム消費量は、2025年には標準シナリオ(Base-case)で328千tまで伸びると予想する(悲観的シナリオで246千t、楽観的シナリオで440千t)。生産能力は概ね短期的な需要の伸びを満たすのに十分であり、現在の高水準な価格が新規生産能力を促進することで中期的には供給過剰になりやすいと見られる。

表1 発表のあった探鉱・開発プロジェクトの一覧

プロジェクト名
(オペレーター)
オペレーター 鉱床タイプ 資源量/埋蔵鉱量 品位 年産規模
3Q Lithium
アルゼンチン
NEOLiTHIUM かん水   <4,000mg/L  
Clayton Valley
米国
Pure Energy Minerals かん水      
Sal de los Angeles
アルゼンチン
Lithium X かん水      
Pilgangoora-1
豪州
Pilbara Minerals スポジュメン
(鉱石)
29.5百万t Li2O 1.31%
Ta2O5 134ppm
330千t
(Li2O 6%スポジュメン精鉱)
Cuenca
アルゼンチン
Eramet かん水 2.79百万tLCE
(精測+概測資源量)
361mg/L 20千tLCE
Mount Marion
豪州
Mineral Resources スポジュメン
(鉱石)
23.2百万t
(概測+予測資源量)
Li2O 1.39% 200千t
(Li2O 6%スポジュメン精鉱)
Pilgangoora-2
豪州
Altura Mining スポジュメン
(鉱石)
18.5百万t(埋蔵量) Li2O 1.07% 215千t(精鉱)
Whabouchi
カナダ
Nemaska Lithium スポジュメン
(鉱石)
27.3百万t(埋蔵) Li2O 1.53% 28千t(LiOH)
<参考>
Olaroz
Orocobre かん水 6.4百万tLCE Li分690mg/L 17.5千tLCE
プロジェクト名
(オペレーター)
マイン
ライフ
CAPEX OPEX 開発ステージ 生産開始年
(予定)
3Q Lithium
アルゼンチン
      初期探鉱  
Clayton Valley
米国
      探鉱  
Sal de los Angeles
アルゼンチン
      探鉱  
Pilgangoora-1
豪州
30年 184百万A$
(±25%)
US$205/t(精鉱ベース、FOB) プレFS 2017年Q4
Cuenca
アルゼンチン
40年     プレFS 2019年7月
Mount Marion
豪州
      最終FS 2016年後半
Pilgangoora-2
豪州
15年 129百万A$   FS 2017年Q3
Whabouchi
カナダ
26年 549百万C$ US$2,154/t(LiOH換算) 最終FS 2018年Q3
<参考>
Olaroz
40年 229百万US$ 2,500-3,500US$/tLCE 生産中 2015年4月

*空欄は未発表

出典:各社発表資料を基にJOGMEC作成

(2)探鉱・開発プロジェクトの動向

今回講演があった探鉱・開発プロジェクトの概要を一覧表として表1にまとめた。

各プロジェクトの概要は以下のとおり。なお、①~③は現在探鉱段階にあるプロジェクトで資源量も確定していない、ごく初期段階のプロジェクトであり、④~⑨はそれより開発ステージが進んだFS以降のプロジェクトである。

① 3Qプロジェクト(アルゼンチン)

NEO Lithium社が100%権益を有するかん水プロジェクトで、チリのMaricunga塩湖から南東に30㎞の距離にある3つのかん水貯留層と3つの塩湖からなる。近隣の道路が太平洋沿岸の港まで通じており、アジア向けの輸送も容易である。現在は初期探鉱の段階で、これまで250地点で採水を実施し、最大でリチウム濃度4,000mg/L、カリウム濃度1.8%の結果が得られている。平均値でもリチウム濃度が895mg/L、カリウム濃度が0.77%と比較的高くなっている。Sulfate/Li比(0.67)やMg/Li比(1.58)も他のプロジェクトと比べて非常に低く、不純物となる硫酸塩やマグネシウムの比率が低いのも特徴となっている。温泉源は北と南にあるが、北の温泉源の方がリチウム及びカリウムの濃度が高く、不純物が少なくなっている。

② Clayton Valleyプロジェクト(米国)

Pure Energy Minerals社が100%権益を有するかん水リチウムプロジェクト。道路・電気網などのインフラが整ったNV州に9,300エーカー(37.6㎢)の鉱区を保有し、現在探鉱段階にある。リチウム濃度は209mg/Lと低いがMg/Li比も1.96と比較的低い。かん水を蒸発池で濃縮する代わりに、Tenova Bateman Technologies社が開発した溶媒抽出法による炭酸/水酸化リチウム製造法(LiSX)の適用に向け検討を進めており、現在イスラエルで小規模パイロットプラント試験を実施中である。

図1 Silver Peak塩湖に隣接するClayton Valleyプロジェクト

出典:Pure Energy Minerals社website

図1 Silver Peak塩湖に隣接するClayton Valleyプロジェクト

(参考)同地域には米国で唯一リチウムを生産しているAlbemarle社のSilver Peak塩湖があり、今回発表したのはPure Energy社のみだが、同塩湖周辺でも探鉱活動は活発化しており、アルゼンチンのプロジェクト(後述)を発表したLithium X社は、当該地域でも探鉱を行っている。

図2 Silver Peak塩湖周辺の主なリチウムプロジェクト

出典:Lithium X社website

図2 Silver Peak塩湖周辺の主なリチウムプロジェクト

③ Sal de los Angelesプロジェクト(アルゼンチン)

Lithium X社が50%出資する子会社PLASA社(Potasio y Litio de Argentina SA)が100%権益を保有するプロジェクト。本年5月に締結したPLASA社とアルゼンチン企業のSESA社(Salta Exploraciones SA)とのJV契約により、SESA社はオペレーターとなり6百万US$の探鉱費を拠出することで本プロジェクトの50%の権益を取得する。鉱業に友好的なSalta地方に位置するDiablillos塩湖に81.6㎢の鉱区を保有する。現在探鉱段階であり、年産2,500tLCEの試験生産を開始したところであり、得られたデータは並行して実施中のFSに反映される。

④ Pilgangoora-1プロジェクト(豪州)

Pilbara Minerals社がオペレーター(権益100%保有)である。西豪州のPilbara地域のHedland港の南120㎞に位置する。鉱量29.5百万tでLi2O平均品位が1.31%、Ta2O5平均品位が134ppmの埋蔵量が確認されている。粗鉱生産量は年間2百万tで、Li2O平均品位6%のスポジュメン精鉱を年間330千t、タンタライトを年間274千lb(約124t)生産する計画である。マインライフ15年間を通した生産コストは副産物のTa2O5の収入を含めてスポジュメン精鉱1t当たりUS$205(FOB)である。Pre-FSの結果では、初期設備投資(CAPEX)が184百万 A$、スポジュメンの平均価格をUS$456/tと想定してIRRが44%となった。現在、追加のボーリングとともに最終FSを実施中で、Li2O品位1.2-1.5%、鉱量130-150百万tを探鉱目標としている。2016年12月からの鉱山施設の建設開始を目指し、試運転の開始は2017年12月を見込んでいる。

⑤ Cuencaプロジェクト(アルゼンチン)

Eramet社が100%権益を保有するプロジェクトで、アルゼンチンSalta市の西方250㎞の位置に520㎢の鉱区面積を保有している。Cuenca鉱床はCentenarioとRatonesの2地域に分かれ、双方の合計の資源量は約2.8百万tLCE(精測+概測資源量ベース)で、予測資源量も考慮に入れると資源量の合計は約8.4百万tLCEとなる。かん水のリチウム平均濃度は361mg/Lとそれほど高くはない。

炭酸リチウム生産にはEramet社が開発した「直接抽出プロセス」を採用する。このプロセスは、①まずリチウムを選択的に吸着する層にかん水を通し、②次にリチウムが吸着された層に脱着用の溶液を通してリチウム濃縮液を回収し、③リチウム濃縮液を蒸発池で更に濃縮し、④ソーダ灰(Na2CO3)を加えて炭酸リチウムを沈殿生成させるという方法である。①でリチウムが吸着された後の廃液(マグネシウム、カルシウムなどの不純物の他、吸着しきれなかったリチウムも含まれる)は再びかん水へと戻される。このプロセスはリチウムの回収率が90%程度と高く、使用する薬剤が少なく、設備の設置面積を減らすことができ、残渣・廃棄物の発生がない。

本プロジェクトは2016年9月にPre-FS、2017年6月に最終FSを完了させた後、資金調達や許認可取得と並行して建設を進める予定。2019年7月から年間20千tの炭酸リチウムの生産開始を計画しており、マインライフは40年以上である。

⑥ Mount Marionプロジェクト(豪州)

オペレーターであるMineral Resources社が43.1%、中国のGangfeng Lithium社が43.1%、Neometals ltd.が13.8%の権益をそれぞれ保有するJVプロジェクト1。西豪州のEsperance港から北方約250㎞に位置する。資源量はLi2O平均品位が1.39%で約23.2百万t(概測+予測資源量)となっている。現在追加のボーリングを実施中で2016年末までに埋蔵量を確定させる。採掘場、破砕施設、選鉱施設が建設中であり、現在の計画ではLi2O平均品位が6%のスポジュメン精鉱を2016年後半より生産開始する予定で、初期の生産能力は200千t/年である。

Mount Marion鉱山からの精鉱はGangfeng Lithium社に供給する(take-or payのオフテイク契約)他、Neometals社が70%、Minerals Resources社が30%出資してReed Advanced Materials社を設立し、水酸化リチウムの製造を目指す。水酸化リチウムはスポジュメン精鉱を塩酸で溶解し不純物を取り除いた後に膜電解により生産される。Neometals社はこの生産方法をELiプロセスと称している。ELiプロセスの生産コストは、水酸化リチウム1t当たりAlbemarle社やSQM社と同等のUS$4,000以下である。ELiプロセスは2016年の第2四半期に最終FSを完了、2016-17年にパイロットプラント試験を実施した後、2017年内に投資の可否を決定する。

⑦ Pilgangoora-2プロジェクト(豪州)

Altura Mining社が100%権益を有するプロジェクトで、前述したPilbara Minerals社の同名プロジェクトと隣接する。2009年より探鉱を開始し、2016年4月にはFS結果を発表した。FSによれば、資源量はLi2O平均品位が1.05%で35.7百万t、そのうち埋蔵量はLi2O平均品位が1.07%で18.47百万tとなっている。15年のマインライフを通じて年間粗鉱処理量1.4百万tでLi2O精鉱を年間215千t生産する計画で、CAPEXは129百万A$である。最終FSを2016年第3四半期に完了させ、12月に開始する採掘場・選鉱設備の建設を経て、2017年第3四半期の生産開始を見込んでいる。Altura Mining社は、2016年4月に拘束力のあるオフテイク契約を中国のリチウム化成品メーカーのLionergy社と締結し、年間100千tのスポジュメン精鉱を供給する計画である。また、両社と中国の電池メーカーのOptimumNano社との間でスポジュメン精鉱供給に関するMOUを締結しており、当該MOUの下で、Altura Mining社は年間100~150千tのスポジュメン精鉱を供給し、Lionergy社はリン酸鉄リチウムの精製に携わる。

図3 豪州西部のリチウムプロジェクト

出典:Altura Mining社websitee

図3 豪州西部のリチウムプロジェクト

⑧ Whabouchiプロジェクト(カナダ)

Nemaska Lithium社が100%権益を有するプロジェクトで、カナダQC州のEeyou Istchee James Bay地域にWhabouchiスポジュメン鉱床を保有する。埋蔵量はLi2O平均品位1.53%で27.3百万t(推定・確定埋蔵量)となっている。Whabouchi鉱山では粗鉱処理量1.1百万t/年、品位6%のLi2O精鉱213千t/年を生産する計画で、鉱山(採掘場・選鉱施設)のCAPEXは239百万C$となっている。精鉱をトラックと列車で、モントリオールから北東に100㎞に位置するShawiniganの湿式精製プラントまで運搬する。

リチウム製品の生産方法としては、精鉱(酸化鉱)を硫酸で焙焼して硫酸リチウム溶液にした後、鉄、アルミニウム、ケイ素、銅、カルシウム、マグネシウム等の不純物を除去(2段階+イオン交換)する。その後、膜電解を経て水酸化リチウムの水溶液にした上で、最終製品として水酸化リチウムと炭酸リチウムを生産する(図4参照)。水酸化リチウムの生産コストは2,154US$/t、炭酸リチウムの生産コストは2,753US$/t(ともにキャッシュコストベース)を見込んでいる。生産能力は水酸化リチウムが28千t/年、炭酸リチウムが約3千t/年を見込んでいる。湿式精製プラントのCAPEXは310百万C$である。

図4 Nemaska社の湿式精製プロセス

出典:Nemaska社website

図4 Nemaska社の湿式精製プロセス

本プロジェクトの実施に当たって、Nemaska社はフェーズ1の小規模水酸化リチウム製造プラントの建造を計画している。このプラントは商業規模の設備を最小限の容量で運転させるものである。このプラントの目的としては、連続的に均質な商業的な製品サンプルを世界中のユーザーに供給可能にし、潜在的な顧客にプラントを訪問しサンプリングすることを可能にし、多くの顧客との複数のオフテイク契約を確保させることであり、2016年5月に締結したJohnson Matthey Battery Materials Ltd(JMBM社)との供給契約を満たすことにある。

このフェーズ1プラントの初期設備投資と2年間の操業費用を含めた予算額は38百万C$であるが、連邦政府出資のカナダ持続可能開発技術機構(Sustainable Development Technology Canada:SDTC)から13百万C$の補助金、QC州政府のTechnoclimatプログラム2から3百万C$の補助金、ケベック資源公社(Resources Quebec)から10百万C$の出資を得ている。更に、2016年5月にはJMBM社との間で12百万C$を前払いする見返りにフェーズ1プラントから生産される同価額相当の製品やサービスをJMBMに提供する資金支援契約を締結し、これによりフェーズ1に必要な資金を確保した。このプラントは2016年内に建設を完了させ、2017年より始動する計画である。

⑨ Olarozプロジェクト(アルゼンチン)

Orocobre社が66.5%、豊田通商が25%、JEMSE((Jujuy Energia y Mineria Sociedad del Estado:Jujuy州鉱業公社))が8.5%の権益を保有するOlarozプロジェクトは、6.4百万tLCEと豊富な資源量を誇る。かん水中のリチウム濃度は平均690ppmで、かん水の濃縮(蒸発)にかかる期間は他のプロジェクトより短い8ヶ月程度と言われている。生産能力は17.5千tLCE/年で、2015年4月より生産を開始しており、現在フル生産に向けた操業立ち上げが行われている。また、今後のリチウム需要の増加に対応するため、生産能力の拡張についても検討が行われている。

生産フローは以下のとおり。

(ⅰ)かん水に生石灰を加えてマグネシウムを除去

(ⅱ)天日蒸発

(ⅲ)ソーダ灰を加えて粗炭酸リチウムを生成

(ⅳ)CO2を加えて再溶解し、溶液からボロンなどの不純物を除去

(ⅴ)加熱して炭酸リチウムを結晶化

3. おわりに

昨年の会議では特に大きなテーマとなる話題も見当たらず、リチウム業界が方向性を見失っている様な印象を受けたのに対して、今年の会議では直近のリチウム価格が高水準なこともあり、今後のリチウム需給に対して強気な見方が大半を占めている様に感じた。

ただし、高水準なリチウム価格はEVの本格化の様な確固たる裏付けによるものとは言い難く、明確な根拠に欠けている印象がある。北米・南米・豪州で探鉱活動が活発化しているが、それらが生産開始するタイミングとEVの本格化のタイミングが合致するか、今後の動向を見極める必要がある。

本カンファレンス開催時点の権益比率は、Mineral Resources社30.0%、Gangfeng Lithium社43.1%、Neomatels社26.9%であったが、本年6月3日、Mineral Resource社がオプション権を行使し、Neomatels社から追加の13.1%の権益を取得した。

温室効果ガスやエネルギー消費量の削減につながる革新的な技術やプロセスの開発・利用に対する支援プログラム。

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