報告書&レポート
イランの銅開発の現状と今後
はじめにイラン(イラン・イスラム共和国)は、GDP約US$4,000億、人口約8,000万人といずれも中東第2位の地域大国であり、欧州、アフリカ、アジアへの地理的距離も近い。また天然ガスの埋蔵量は世界1位、石油埋蔵量も世界4位を誇る一大天然資源国である。金属鉱物資源についても、後述のTethyan Metallgenic Beltが国内を横断する地質特性により、銅をはじめ豊富な金属鉱物資源を有している。 イランの核問題に関する経済制裁が緩和・解除される動きに応じて多くの国がイランビジネスに再参入を試みる中、改めてイランの主力金属鉱物資源の一つである銅の開発の現状と今後をまとめてみたい。 |
1. イランの銅のポテンシャル
イランの北西から南東にかけて、ルーマニア、セルビア等からインドネシアにかけて約12,000㎞続く“Tethyan Metallogenic Belt”と呼ばれる金属鉱床地帯が横断している。このため、イランには銅のほか、クロム、モリブデン、鉄鉱石、鉛など様々な金属鉱物資源に富んでおり、石油・天然ガスはもとより鉱業も盛んな国である。
(出典:NICICO資料)
鉱種 | 2014年(千t) | 世界ランク(順位) |
---|---|---|
銅 | 199.4 | 16 |
鉛 | 45.6 | 12 |
亜鉛 | 139.0 | 16 |
ボーキサイト | 900.0 | 19 |
クロム | 494.3 | 8 |
マンガン | 135.0 | 16 |
モリブデン | 3.1 | 9 |
鉄鉱石 | 51,573.5 | 9 |
(出典:World Metal Statistics Yearbook 2015)
鉱種 | 2014年(千t) | 世界ランク(順位) |
---|---|---|
亜鉛 | 142.0 | 20 |
鉛 | 66.0 | 12 |
電気銅 | 240.0 | 23 |
電気銅(SxEw) | 11.9 | 13 |
アルミニウム | 302.0 | 21 |
(出典:World Metal Statistics Yearbook 2015)
中でも銅については、Tethyan Metallogenic Beltに沿って中東地域最大の埋蔵量を有しているとされる(後述のNICICOによれば埋蔵量2,100万t、世界の約4%)。
現状では埋蔵量に比して銅の鉱石生産量は世界16位、地金生産量は世界23位(電気銅)とまだ小さいが、これは、従来は核開発問題により海外からの探鉱開発設備投資等が低調だったことに加え、イランではこれまで地表調査中心で潜頭性鉱床に焦点を当てたものではなかったことなどが要因と考えられる。
2. イランの銅開発に関する主要行政組織
イランにおける全ての鉱業活動及び鉱山業は産業鉱山貿易省(Ministry of Industry and Mines)が所管しており、その傘下にイラン鉱山鉱業開発機構(IMIDRO:Iranian Mines and Mining Industries Development and Renovation Organization)及びイラン地質調査所が設置されている。
IMIDROは、国内の大規模鉱山を運営するとともに、鉱山及び鉱業関連業の開発(民間セクターが必要とするインフラの整備、必要な機械設備の供給に向けた投資、研究プロジェクトへの支援等)を行っている。また、以下のイラン銅公社NICICOの株式の一定量を保有しており、NICICOに役員も派遣している。イラン地質調査所においては、同国の地質に関する基本情報を作成し、投資家に情報提供を行っている。
3. イラン銅公社NICICOの銅開発に関する主要行政組織
NICICO(National Iranian Copper Industries Co.)は、同国で銅生産を行う主要企業(公的な性格の強い株式会社)であり、Sarcheshmeh, Miduk, Sungunの主要3鉱山を保有し、銅及びモリブデンの精鉱や銅地金の生産のほか、資源探査等を行っている。
(出典:NICICO資料)
Sarcheshmeh Copper Complex | Miduk Copper Complex | Sungun Copper Complex | ||
---|---|---|---|---|
可採鉱量 | 600mt | 211mt | 350mt | |
品位(%) | 0.68 | 0.59 | 0.58 | |
剥土比 | 1:1.12 | 1:2.46 | 1:1.75 | |
生産 | 硫化鉱 | 29mt/年 | 7mt/年 | 14mt/年 |
銅精鉱(品位%) | 680kt(25%) | 150kt(27%) | 300kt(25%) | |
モリブデン精鉱 | 6kt(54%) | – | 700t(50%) | |
製錬生産:銅アノード | 140kt(99.65%) | 80kt(99.65%) | – | |
精錬生産:銅カソード | 200kt(Grade A LME) | 5kt(Grade A LME) | – |
(出典:NICICO資料)
前述のIMIDROでは2025年までに国内の銅地金生産能力を80万tにまで増強する目標を定めており、NICICOでもこれに応じて主要3鉱山を中心に投資金額€3.4B以上もの鉱山関連施設・設備の拡張を計画し、積極的に外資参入を呼びかけている。
(出典:NICICO資料)
4. イランの銅開発を支えるインフラの整備状況
イランのインフラ整備の状況について、まず港湾施設は、既にカスピ海側に2か所、ペルシャ湾側に4か所整備されている。
(出典:NICICO資料)
また、鉄道網については、2014年12月にイラン北東方面にトルクメニスタン、さらにはカザフスタンまでの路線が開通した結果、その先の中国まで直結する鉄道網が整備された。今後イランと欧州との鉄道網が開通すれば、(中国の“One Belt One Road”構想とも相まって)広大な経済圏に海路のみならず陸路でもアクセス可能なイランの地政学的重要性がより一層高まるものと見込まれる。
なお、道路網については、2006年時点で約17万㎞(うち高速道は約1,400㎞)が整備されている(いずれもNICICO調べ)。
イラン政府は、これらについても積極的に外資導入をはたらきかけており、今後急速にインフラ整備・更新が進む可能性がある。
おわりに
これまで見てきたように、インフラ整備も含めイランの銅の開発ポテンシャルは世界レベルで見ても高く、日本にとっても今後有望な供給国の一つになり得るものと考えられる。特に、銅の埋蔵量に対する生産規模はまだ小さく、外資による最新の資源探査技術や設備投資が組み合わされば、その規模は相当程度拡大することも期待できる。
他方、ここ数十年の歴史を振り返ってみてもイランの政治体制が揺れてきたことは事実であり、今後もイランの鉱業法や外国投資に対する保護法制(外国投資誘致保護法)、関税等の安定性が継続していくのかどうか、さらには国内経済発展と外資獲得のバランスの中で前者優先の政策に傾いていかないかどうかなどを注視していく必要があろう。
なお、鉱業法及び外国投資誘致保護法は類似の改正が行われており、外資100%による探鉱開発等が可能になるなど利便性が向上している。関連情報については以下の当機構HPで入手可能である。