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カナダBC州における鉱業法及び鉱業規則の改正の概要

はじめにBC州では2016年3月に同州の鉱業法(Mines Act)改正案が可決され、2016年7月20日には鉱業規則(Mining Code)である鉱山健康・安全・環境再生条例(Health, Safety and Reclamation Code for Mines:HSRC)も改正された1。これらの改正は、2014年8月に発生したMount Polley銅・金鉱山における鉱滓ダム決壊に対する専門家パネルや同州の鉱山検査官(Chief Inspector of Mines)による調査結果及び提言等に基づき進められてきた。そのため、安全性や透明性を確保することを目的として鉱滓堆積場(Tailing Storage Facility:TSF)に関する罰則や管理監督、規制を強化する内容の改正が中心となっている。更に、Mount Polley鉱山の鉱滓ダム決壊に関しては、専門家パネルや鉱山検査官に加えて、2016年5月に会計検査院(Office of the Auditor General of Canada)からも17の提言を受けている。 本稿では、今般の鉱業法及び鉱業規則の改正並びに新たに作られたTSFの特性化に関するガイドラインの内容などについて概説する。 |
1. 鉱業法規の見直しの経緯
2014年8月4日にMount Polley鉱山の鉱滓ダム決壊が発生してからの2年間において、専門家パネルによる調査報告及び提言を皮切りに様々な提言、そしてそうした提言を踏まえた州政府の管理・監督の強化を中心とした鉱業法規の見直しが行われてきた。
2014年8月 | Mount Polley鉱山の鉱滓ダムが決壊 |
2015年1月 | 専門家パネルが調査結果及び提言を発表 |
6月 | 鉱業規則レビュー委員会(Mining Code Review Committee)を設立 |
11月 | 鉱山検査官が調査結果を報告 |
12月 | BC州政府がTSFに関する新たな規制と要求の導入の方針を発表 |
2016年3月 | 鉱業法を改正(州政府の規制監督権限の強化) |
5月 | 会計検査院が鉱業分野における施行・遵守の検査結果を発表 |
7月 | 鉱業規則を改正 |
鉱業法及び鉱業規則の改正は専門家パネル及び鉱山検査官の提言に基づいて行われたが、会計検査院(Office of the Auditor General of Canada)が2016年5月に公表した鉱業分野における州政府の法令の遵守及び施行に関する検査結果及び17の提言については反映されていない。州政府はこの会計検査院の提言についても全て受け入れて、2017年末までに取り組む意向を示している。
2. 各提言の概要
独立した専門家パネルによる調査の結果、Mount Polley鉱山の鉱滓ダム決壊の主原因は、堤防の基礎地盤に存在した氷河湖底堆積物(glaciolacustrine soil:GLU)の地層の強度の弱さであり、問題点は事前の地盤調査において当該GLU層が把握できなかったことによる設計ミスや、不適切な法面勾配による堤防建設という技術的側面にあると結論付けられた2。この結果を踏まえて、それぞれの提言では技術的側面としてTSFの設計基準に関する見直しと共に、規制・監督の強化や法令の施行・遵守の強化が掲げられた。
2-1. 専門家パネルの提言3
1)利用可能な最善の技術(Best Available Technology:BAT)を段階的に導入すること
2)コーポレートガバナンスを改善すること
3)企業の設計責任を拡大すること
4)鉱滓ダムの全段階における安全性の検証と規制を強化すること
5)現行規制業務を強化すること
6)専門職的実務を改善すること
7)ダム安全指針を改善すること
2-2. 鉱山検査官の提言4
8)TSFのある鉱山は資格のある鉱山安全管理者を置くこと
9)有資格専門家が水の管理や収支を設計すること
10)カナダダム協会(Canadian Dam Association:CDA)やカナダ鉱業協会(Mining Association of Canada:MAC)のガイドラインを遵守するTSFに関する操業、メンテナンス、監視に関するマニュアルを策定すること
11)鉱山緊急時対応計画を策定すること
12)全労働者が健康、安全、環境の保護に影響を与えるリスクを認識し、伝達する役割を担うこと
13)TSFや水管理のシステム、構造は労働者や公共の安全、環境保護の目的に合わせて設計すること
14)貯水施設のある鉱山は独立した技術審査委員会を設置すること
15)専門家の監督やガイドライン・基準の策定をしている組織であるBC州専門技術者・地球科学者協会(Association of Professional Engineers and Geoscientists of BC:APEGBC)、CDA、MACは、既存のガイドラインの見直しや更新、新たなガイドラインの策定等を通じてそれぞれの管理・監督に利用可能なベスト・プラクティスを組み込むこと
16)規制当局(エネルギー鉱山省)は外部機関の適切なガイドラインをエネルギー鉱山省の活動目的に調和させる形で検討、具現化すること
17)規制当局は鉱業規則の包括的な見直しを行うこと
18)規制当局は鉱業法の許認可申請に対して鉱山の一生を見据えた視点を持ち、鉱業環境がしばしば鉱山の一生を通じた鉱山計画に変更を強いることを認識すること
19)規制当局は調査を行う能力と共に鉱業法規の遵守や執行権行使の能力を高めること
20)規制当局は、鉱山の登録技術者による専門的な判断や意見を適切に監視するための責任と十分な技術的見地を保持し、TSFに関する政策決定や技術的レビュー、調査能力等を担当する組織的な規制監督に専従するダム安全管理者の職を設置すること
21)エネルギー鉱山省は運用上の実務について内部的な見直しを行うこと
22)規制当局による長期的で総合的な意思決定を支援するために全ての鉱山に関する開発から閉山後までの公式文書の管理システムを構築すること
23)政府は環境省とエネルギー鉱山省のプロセスや基準において適時かつ効果的なアウトプットを後押しするために連携し得る可能性を追求すること
24)政府は環境省とエネルギー鉱山省の許認可プロセスを見直し、重複を避けて効率性を向上させるために統合や調整を行う可能性を追求すること
25)エネルギー鉱山省、産業界、専門機関、教育機関は教育を促進するために新たな協調の可能性を模索し続けること
26)政府と産業界は廃さいの処理や脱水、放水処理技術などを改善するための研究開発努力を支援すること
2-3. 会計検査院の提言5
27)鉱業活動での環境保護の確保に責務を持つ統合・独立した施行・順守担当部署を設立すること
28)統合・協調した規制アプローチを詳述する戦略的計画を策定すること
29)過去及び現行の許可要件が法的強制力のある言語で記載されるようにすること
30)納税者保護のために跡地修復の債務に関する見積りの正確性や潜在的コストをカバーする政府の予防措置を確保すること
31)納税者を環境災害の費用負担から守るためにセキュリティー対策を見直すこと
32)環境管理法(Environmental Management Act)を見直し、鉱山現場での汚染軽減に効果的な廃さい排出手数料を設定すること
33)許認可及び法令順守の検証活動に対して全省庁で一貫性のある原価回収モデルを採用すること
34)環境管理法の第137条6の下での意思決定に関する論理的根拠を公表すること
35)明瞭で包括的な跡地修復ガイダンスを作成すること
36)産業界による環境面での責任ある活動を促すための効果的なインセンティブを付与すること
37)査察の頻度が、不履行の記録や産業界の財政状態、産業界の活動、季節的な変化等のリスクに基づく場合には、法令順守の検証活動においてリスクに基づくアプローチを考案すること
38)リスクの高い鉱山許可要件の順守を体系的に監視、記録すること
39)有資格専門家(qualified professionals)の活用と監督に関する方針と手順を確立すること
40)鉱山設計に関する適切な基準を採用し、それを満たすよう鉱山設計を見直し、承認された設計や基準を確実に鉱山に反映させること
41)政府の指定期間内の不履行に対する方針、手順、施行ツールを考案すること
42)法令順守の推進や検証、施行業務、施行ツールの有効性を定期的に見直し、必要に応じて継続的に改善を図ること
43)鉱業の法令順守や施行業務、リスク軽減や環境保護への法令順守や施行業務の有効性、各鉱山における債務額や保証金等について公表すること
3. 鉱業法及び鉱業規則の改正内容
今回の鉱業法及び鉱業規則の改正では、全43の提言のうち専門家パネルと鉱山検査官の合計26の提言に基づき改善が行われた。以下に、鉱業法及び鉱業規則の主な改正内容について概説する。
3-1. 鉱業法の改正
2016年2月に州政府が州議会に提出した鉱業法改正案(Bill 8:Mines Amendment Act, 2016)では第36条(年次報告)、第37条(違反と罰則)、第38条(法令の制定権)の改正が提案されている。これは、鉱山検査官の提言19)に基づき、規制当局の調査能力や鉱業法規の遵守、執行権行使能力等を向上させることを目的としている。
第36条では、同法の下で行政処分の対象となる法令の範囲、鉱山検査官への行政処分を課す権限の付与、行政処分の通知と公表、罰金の支払い期限、行政処分の執行、時効、裁判所への不服申し立ての権利などについての条文が追加されている。これは、管轄するBC州エネルギー鉱山省による同法の順守及び執行機能を強化するため、違反者に対して裁判所を介さずに課徴金を課すことができる権限を盛り込んだことが大きな柱となっている。更に、第37条で違反者に対する行政処分の上限を100万C$以下の罰金又は最大3年の懲役又はその両方に重罰化(改正前は10万C$以下の罰金又は最大1年の懲役又はその両方)したほか、第38条では評議会における副知事(Lieutenant Governor in Council)の法令制定権を第36条改正に合わせて追加した。このうち、行政処分を重罰化した第37条の改正のみ2016年5月19日に施行されている。
3-2. 鉱業規則の改正
BC州政府は、2016年7月20日、鉱業規則の見直しの一環として鉱山健康・安全・環境再生条例(Health, Safety and Reclamation Code for Mines:HSRC)の第10条(跡地修復及び閉鎖)の改正7と同条例の要求事項等を詳細に記したガイドライン8(以下、「HSRCガイドライン」)を発表した。同ガイドラインは、エネルギー鉱山省の要求に関する具体的な指示や背景を所有者、登録技術者、規制当局、コンサルタント、監査人等に提供すると共に、廃さいの管理に関する同条例の理解や順守を促進することを目的として策定された。
今回の改正により新たに追加、修正された主な内容を以下に概説する。(1)~(7)は当初申請時において対応が求められるものであり、(8)以降は既に許認可を受けているサイトにおける計画変更やガバナンス、報告、検査等に関して求められるものである。
(1)申請要件
条例では従来から許可申請で必要とされる情報について規定されていたが、改正後は申請要件として以下の3点が追加された。
- 確立されている又は主張されている先住民の権利や条約(treaty)上の権利
- TSFに関する詳細設計と定量的性能目標(Quantifiable(ガイダンスではQuantitative) Performance Objectives:QPOs)の説明
- 計画するTSFに対する利用可能な最善の技術(Best Available Technology:BAT)の代替評価
BATは専門家パネルが最初の提言として段階的導入を勧告したものであり、HSRCガイダンスで持続可能性の要素として環境、社会、経済を考慮した選択肢の比較分析により代替評価を行うよう指導している。また、設計や操業に対する目的や目標を設定する上で考慮すべき事項を示すと共に、設計及び実行に関する基準に取り入れられる気候や地質、インフラ、経済等様々な制約要件を明らかにすることを求めた。QPOsについても、その場しのぎの設計を実行するような行為を抑制し、規制能力を強化することを目的に専門家パネルが導入を提言したもので、改正条例ではEoR及びTSFの有資格者によってTSFに対するQPOsの決定や見直しを行うことが要求されている。また、HSRCガイドラインでもQPOsを盛り込んだ操業・保守・監視(Operations, Maintenance and Surveillance:OMS)マニュアル(以下、「OMSマニュアル」)の作成を求めている。
(2)設計基準
改正前は貯水施設(Impoundment)、TSF、水管理施設、ダム等の施設を設計する際に、カナダダム協会(CDA)のダム安全ガイドライン(Dam Safety Guidelines)の基準に従うよう求めていたが、改正により専門技術者はHSRCガイドラインを考慮した設計基準を策定し、当該基準に基づき設計を行うことが必要となった。HSRCガイドラインにはTSF及び関連インフラの設計基準の策定やリスク評価を行うに当たり考慮すべき事項が記載されており、CDAをはじめとした国内外の機関が発行しているガイドラインを参照した上で、最低限盛り込むべき基準や専門家パネルが評価を求めた潜在的破壊モード(potential failure modes)の一例を提示している。
(3)登録技術者
今回の改正により専門技術者を登録技術者(Engineer of Record:EoR)として雇うことが要求された。E0Rは、有資格専門家としてTSFやダムが適切なガイドラインや基準、規制等に従って設計、建設されていることを保証する責任を負うと共に、TSFの完全性を損なう未解決の安全性の問題に関する鉱山の管理者への即時報告や、当該問題が解決できない場合は管理者と共に鉱山検査官への報告が義務付けられている。
(4)帰結分類及び地震・洪水設計基準
改正条例では、保有するTSFに対してEoRによるHSRCガイドラインを考慮した帰結9の分類(consequence classification)分けの実施が求められた。CDAのダム安全ガイドラインでは人や環境、文化価値、インフラ、経済における損失の大きさによってダムを分類しているが、HSRCガイドラインはより堅実な設計基準を用いるよう指導している。また、年次検査の一環で見直したり下流の環境に変化が起きた際に情報を更新したりすることで、ダムや水を保持する構造物等の目録における帰結分類を最新のものとして維持するよう求めている。その上で、EoRには当該帰結分類に基づきTSR及びダムの地震・洪水設計基準を決定することが求められている。
(5)斜面設計と安全率
Mount Polley鉱山の鉱滓ダム決壊では、段階的に建設された堤防の盛土において適切な安息角を持たせなかったことが要因の1つに挙げられた。そのため、今回の改正によってTSFの設計において水平方向と垂直方向の勾配が2:1よりも急勾配となる場合、又は計算上の静的安全率(factor of safety:FS)10が1.5未満となる場合には、EoRによる理由書を提出し、建設前に鉱山検査官の承認を得ることが必要となった。
(6)決壊・氾濫の可能性調査
改正条例では、TSFの操業を開始する前又は鉱山検査官の要請に応じて、決壊及び氾濫の可能性を調査することが求められた。
(7)水収支及び水管理計画
Mount Polley鉱山の鉱滓ダム決壊では、水収支や鉱山計画、天候に左右される鉱滓ダムの建設において、継続的な見直しを行わなかったために斜面設計に狂いが生じたという事業者の先見性の不足が指摘された。そのため、鉱山検査官は有資格専門家による適切な水収支の設計及び管理を提言しており、有資格者によるマインライフ全体を通じたTSFの水収支及び水管理計画の作成や許可されていない水の流出が発生する又は避けられない場合の鉱山検査官への通知が、今回の改正によって新たに義務化された。
(8)計画の更新
改正条例では、操業開始後に跡地修復や閉鎖の関するプログラムを含む鉱山計画について、最低でも5年ごとに更新すること、跡地修復計画に当該更新後5年間における段階的活動の概要を記載すること、そして操業開始後も水収支及び水管理計画を毎年調整し、必要に応じて改定することが求められている。
(9)ガバナンス
企業のガバナンス向上は専門家パネルの提言の1つであり、同様の事故を起こさないための重要な要素の1つとなっている。改正条例では、1つ以上のTSFを保有する鉱山の管理者に対して以下の取り組みを行うよう求めている。
- HSRCガイドラインを考慮し、定期的なシステムの監査を含んだ鉱滓管理システム(Tailings Management System)を策定し、維持すること
- 全てのTSFの安全管理を担うTSF有資格者を指名すること
- 鉱山検査官によって免除されるまで独立鉱滓審査委員会(Independent Tailings Review Board:ITRB)を設置すること
- QPOsや操業管理を最新の状態に保つと共に施設のリスクを管理するためにTSFのリスク評価を毎年見直すこと
- TSFの緊急時への備えや鉱山緊急対応計画(Mine Emergency Response Plan)を維持すること
- 重要情報に関する文書記録を維持し、TSFにすぐに利用できる状態にしておくこと
ITRBについては、HSRCガイドラインを考慮してTSFの複雑さに応じて構成することや、委員の適格性を含めたITRBの権限や任務を鉱山検査官に提出して承認を受けること等も規定されている。
(10)TSF及びダム名簿
今回の改正により、1つ以上のTSFを保有する鉱山の管理者はTSF及びダム登録簿を保持し、少なくとも年1回は見直しと改訂を行うことが求められた。
(11)報告
改正後は報告する内容がより詳細かつ具体的に規定されており、所有者又は代理人又は管理者は、鉱山検査官又は許可条件により指定された以下の事項に関して要約した年次報告書を、翌年の3月31日までに1つ以上提出することが義務付けられた。
- 跡地修復及び環境モニタリング作業
- TSF及びダムの安全検査
- ITRBの活動報告
- 完了予定日を含むTSF及びダムの安全勧告の概要
- リスクの高い鉱滓堆積物の管理実績
- 要求に応じたTSF登録簿の更新
- 鉱山検査官の指示するその他情報
また、上記以外にも、鉱山計画や跡地修復計画、閉山計画の更新版や、ダム安全審査報告書、TSF及び水管理施設の建設の竣工報告書(as built report)等も鉱山検査官又は許可条件の所定の様式により毎年3月31日までの提出が義務付けられている。
(12)TSF及び水管理施設の建設
今回の改正により、鉱山の管理者はTSF及び水管理施設の建設を始める前に、行程表と共に建設の図面、仕様書、そして品質保証/品質管理計画を鉱山検査官に提出することが義務付けられている。また、各建設段階において提出が求められる竣工報告書には、最低限として地質工学的な地盤の状況や配置、専門技術者が作成する品質保証/品質管理のデータを含める必要がある。また、管理者は設計書や仕様書に合致する方法で建設されたことをEoRが保証するよう努めなければならない。
(13)OMSマニュアル
OMSマニュアルは改正前より作成及び提出が義務付けられていたが、今回の改正により一人以上の有資格者により作成すること、実施前にEoRによる精査と管理者による承認を受けること、TSFやダムの操業に従事する全従業員を訓練してマニュアルに適させること、毎年及び操業中必要に応じて見直すこと等が規定された。
(14)ダムの安全性に関する検査(inspection)と審査(review)
ダム安全検査と報告書の作成をEoRにより毎年行うことが改めて明記されると共に、HSRCガイドラインに基づき少なくとも5年に一度又は鉱山検査官の要請に応じて、第三者の専門技術者にTSFや水管理施設及び関連ダムに関するダム安全審査報告書を作成させることが要求された。
(15)その他
改正条例では、閉鎖したものの許認可の義務から解放されていないTSF又はダムや地形と判断され得るTSF又はダムに対する許認可の変更(義務の緩和)又は適用除外のほか、閉鎖又は廃棄した貯水施設の再稼働についても、申請により認められる可能性が示された。
まとめ
Mount Polley鉱山の鉱滓ダム決壊事故より2年が経過した。同年11月にはブラジルのSamarco鉄鉱石鉱山の鉱滓ダムが決壊し、こちらでは廃さいの流出により多数の死傷者を出す大惨事となった。こうした大規模な鉱滓ダムの決壊が相次ぐ中で、鉱山における環境への影響が改めてクローズアップされると共に、同様の事態を発生させないための規制強化や技術的検討が進められてきた。今回の鉱業法や鉱業規則の改正により、BC州ではTSFの設計・管理・監督等に関する技術やマネージメント、コンプライアンスに関する罰則や規制、要求等が強化されたことで、企業は特に技術的側面でのより細かいかつ適切な対応が求められることとなった。こうした動きはカナダの他の州や他国にも波及する可能性もある。しかし、今回の改正はMount Polley鉱山の鉱滓ダム決壊により失った信頼を取り戻す第一歩となるものでもあり、州政府、鉱業界、先住民を含む地域コミュニティ等が一体となった議論が進むことで、BC州のみならず世界の持続可能な鉱業が発展していくことを期待したい。
1 BC州政府ニュースリリース:https://news.gov.bc.ca/releases/2016MEM0017-001317
2 詳細は金属資源レポート「Mount Polley鉱山の鉱滓ダム決壊の概要と影響」参照:
https://mric.jogmec.go.jp/public/kogyojoho/2015-07/vol45_No2_02.pdf
3 専門家パネルの調査報告参照:
https://www.mountpolleyreviewpanel.ca/sites/default/files/report/ReportonMountPolleyTailingsStorageFacilityBreach.pdf
4 鉱山検査官の調査報告書参照:
http://mssi.nrs.gov.bc.ca/1_CIMMountPolley/BCMEM-report-3_04-web.pdf
5 会計検査院の会計検査報告書参照:
https://www.bcauditor.com/sites/default/files/publications/reports/OAGBC%20Mining%20Report%20FINAL.pdf
6 BC州の副総督(Lieutenant Governor in Council:英国国王が兼ねているカナダ国王の名代として各州におかれる州の代理人)の権力行使について定めたもので、第2項では副総督が望ましいとみ考えられる協議を行った上で廃棄物の管理、処理、廃棄、リサイクル、貯蔵、解体等に関する建設及び操業の許可を出すと規定している。
7 http://www2.gov.bc.ca/assets/gov/farming-natural-resources-and-industry/mineral-exploration-mining/documents/health-and-safety/code-review/hsrc_code_part_10_revisions_effective_july_20_2016.pdf
8 http://www2.gov.bc.ca/assets/gov/farming-natural-resources-and-industry/mineral-exploration-mining/documents/health-and-safety/part_10_guidance_doc_10_20july_2016.pdf
9 ここではダムの決壊のようなTSFに関する破壊、故障、障害によって生じる結果や影響を示す。
10 抵抗力(Available Strength)÷滑動力(Strength Required for Equilibrium)により算出。

