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メキシコ合衆国における亜鉛鉱石の生産見通し 及び女性鉱山労働者比率の高い Velardeña 鉱山について
はじめにメキシコは、自動車産業の世界的な製造拠点として飛躍的な成長を続けている。2015年のメキシコの自動車生産台数は360万台となり、中南米第1位、世界第7位の自動車生産能力を有する世界的な自動車製造拠点となった。2017年1月に誕生した米国トランプ新政権を含めた世界の経済動向にもよるが、今後、メキシコの自動車生産能力は更に拡大する見込みである。 さらに、メキシコは、自動車産業に欠かせない亜鉛鉱石の世界第6位の供給国であり、世界亜鉛鉱石生産量の5%を占めている。亜鉛の主な用途は、自動車産業や建設向けの鉄鋼めっきやダイカスト部品であり、需要の6~7割を占める。今回、メキシコの亜鉛鉱石の生産の現状並びに今後の生産見通しについて政府統計、各社HP等による情報をまとめたので、ここに報告する。 |
1. 亜鉛鉱石生産の現状について
(1)メキシコ亜鉛鉱石生産の現状
メキシコは、中国、豪州、ペルー、米国、インドに次ぐ第6位の亜鉛鉱石生産国である。2015年のメキシコ亜鉛鉱石生産は、国内生産量の約1/4を占める加Goldcorp社Peñasquito鉱山からの生産量が増加したことなどにより対前年比2.6%増の677千tとなり、図1に示すとおり最も高い生産量を記録するとともに、近年、生産量は増加傾向にある。
2015年におけるメキシコ主要亜鉛鉱山の生産量、埋蔵量、品位については表1に示すとおりであるが、メキシコ系企業と外資系企業の生産割合は、近年大きな変化がなく、メキシコ企業がメキシコ亜鉛鉱石生産量の5~6割を生産している。
また、メキシコ国立統計地理情報院(INEGI)によると、メキシコ亜鉛産業は、同国金属・鉱物生産額の6.5%を占めており、金、銅、銀に次ぐ鉱業に位置付けられる。

(2)日本企業による亜鉛鉱石生産鉱山投資案件
2015年、日本はメキシコから70.9千t(グロス量)の亜鉛精鉱を輸入しており、これは日本の亜鉛精鉱輸入量の約8%を占めている。また、現在、メキシコでは数多くの鉱山企業が操業を行っているが、日本企業が資本参加している金属鉱山は、亜鉛を中心に生産するTizapa鉱山のみである。
同鉱山はDOWAメタルマインが39%、住友商事が10%及びメキシコPeñoles社が51%出資し開発を進めており、高品位亜鉛を主体に、銀・金等の貴金属を生産している。同鉱山から生産される亜鉛精鉱については、その多くがDOWAグループの秋田製錬(株)にて亜鉛地金に製錬されており、同鉱山は1994年の操業開始から20年以上が経過しているが、現在も日本の亜鉛精鉱の安定供給を担っている鉱山の1つである。
表1 メキシコ主要亜鉛鉱山一覧
| 企業名 | 鉱山名 | 生産量(t) | 埋蔵量(千t) | 平均品(%) |
|---|---|---|---|---|
| Peñoles社 | Velardeña | 80,538 | 31,168 | 3.86 |
| F.I.Madero | 42,610 | 36,574 | 2.1 | |
| Bismark | 41,235 | 4,042 | 5.37 | |
| Tizapa | 40,996 | 9,835 | 5.7 | |
| Sabinas | 13,738 | 36,574 | 1.7 | |
| Fresnillo社 | Saucito | 21,023 | 12,983 | 2.93 |
| Fresnillo | 19,029 | 21,168 | 3.53 | |
| Cienega | 5,970 | 13,270 | 0.97 | |
| 加Goldcorp社 | Peñasquito | 176,360 | 586,680 | 0.69 |
| Grupo México社 | Santa Barbara | 32,630 | – | – |
| Charcas | 26,880 | – | – | |
| Santa Eulalia | 2,453 | – | – | |
| Minera Frisco社 注:鉱山別の数値は未発表 |
Asientos | 71,628 | – | – |
| S.F.del Oro | – | – | ||
| Tayahua | – | – | ||
| 加Pan American Silver社 | La Colorada | 40,600 | – | – |
| 米Gold Resources社 | Arista | 13,900 | 1,645 | 3.5 |
| Carrizal Mining | Zimapán | 12,119 | – | – |
| 加First Majestic Silver社 | La Parilla | 7,949 | 2,362 | 2.12 |
| 加Capstone Mining社 | Cozamin | 5,860 | 7,216 | 0.71 |
| 加American Silver社 | Cosala諸鉱山 | 5,283 | 11,401 | 1.18 |
| 加Excellon Resources社 | Platosa | 3,340 | 428(2014年末) | 9.88 |
| 加Santacruz Silver Mining社 | Rosario | 1,895 | 1.0(概測) | 2.9 |
| 加Great Panther Silver社 | Topia | 1,850 | 346 | 4.19 |
| 加Impact Silver社 | Royal | 266 | – | – |
出典:各社HP、メキシコ鉱業会議所2016年レポート、INGI(国立統計地理情報院)及び世界統計
2. 今後のメキシコ亜鉛鉱石生産見通し
(1)2017~2021年に亜鉛鉱石の生産が開始されるプロジェクト
2017~2021年に亜鉛鉱石の生産を開始する可能性のあるプロジェクトを表2に示す。表2に示す鉱山の開発が順調に進んだ場合、同期間内におけるメキシコ亜鉛鉱石生産量は1,000千t規模となる可能性があり、メキシコ亜鉛鉱石生産量は増加傾向を示していくと考えられる。さらに、メキシコでは、加Santacruz Silver Mine社のVeta Grande鉱山、加Sierra Minerals社のCusí Bolivar鉱山、加Avino Gold & Silver社の諸鉱山等が亜鉛生産を一時停止しており、これらの鉱山が操業を再開した場合、メキシコの亜鉛鉱石生産量は更に増加する可能性がある。
なお、表2の5.Los Gatosプロジェクトは、DOWAメタルマインと米Sunshine Silver Mining & Refining社(SSMR社)がパートナー契約を締結し探鉱を進めているプロジェクトである。DOWAメタルマインは、SSMR社子会社であるMinera Plata Real社(MPR社)にFS費用を拠出することにより、MPR社が保有する同プロジェクト権益の30%を取得することとなる。また、本プロジェクトが開発に移行した際には、同プロジェクトから生産される亜鉛精鉱の引取権をDOWAメタルマインが取得することとなることから、日本向け亜鉛精鉱供給元としての本プロジェクトの今後の動向には注目していきたい。
表2 2017~2021年に操業開始が見込まれる
| 開発プロジェクト名 | 企業名 | 見込生産量(年) | 操業開始年(予定) |
|---|---|---|---|
| 1.San Rafael | 加American Silver社 | 21千t | 2017年第2四半期以降 |
| 2.Rey de Plata | Peñoles社 | 40千t | 2018年下期以降 |
| 3.G-9 | ベルギーNyrstar社 | 70千t | 未定 |
| 4.Angangueo | Grupo México | 10千t | 環境天然資源省での手続中 |
| 5.Los Gatos | 米Sunshine Silver Mining社 | 40千t | FS調査中 |
| 6.Juanicipio | Fresnillo社 | 20千t | 2018年の予定も遅延中 |
| 7.Metate | 加Chesapeak Gold | 100千t未満 | 未定 |
出典:各社HP等を参考にメキシコ事務所にて作成
(2)2022~2026年の生産量見込み
Peñoles社のBismark鉱山、Grupo México社のCharcas鉱山といった主力鉱山に加え、幾つかの中規模鉱山の埋蔵量が減少していることから、生産量は減退しはじめることが予想される。
しかし、その他の多金属プロジェクトが開発に移行され、それらの鉱山から亜鉛が生産される可能性もあることから、Metates多金属プロジェクト等の多金属鉱山の開発動向を把握しておく必要がある。
(3)2027年以降
カナダ系大・中規模鉱山、Fresnillo社、Peñoles社が保有する鉱山近隣に新たな鉱床が発見されない限り埋蔵量は枯渇していくこととなる。Grupo México社のBuenavista鉱山の亜鉛鉱床の開発も予想されるが、新たな大型亜鉛鉱山開発の予定はなく、亜鉛鉱石生産の大幅な減少は避けられないと考えられる。しかしながら、Peñasquito鉱山の埋蔵量が枯渇に近づくまでは、現状の650千t前後の規模は継続されるものと予想される。
メキシコには、Grupo México社のSan Luis Potoí製錬所及びPeñoles社のTorreón製錬所(注:亜鉛製錬所拡張建設工事の完工を経て2019年以降は亜鉛の生産が増加することが見込まれている)の2つの亜鉛製錬所があり、同製錬所の規模を踏まえると、国内で約500千t/年以上の亜鉛鉱石を確保しなければならない事になるため、その他国外向けを含めメキシコにおいては少なくとも600千t/年以上の亜鉛鉱石生産が確保されると考えられる。
3. 女性鉱山労働者比率の高いVelardeña多金属鉱山について
今回報告する鉱山はVelardeña多金属鉱山である。同鉱山はメキシコ第2位の亜鉛鉱石生産鉱山ということだけではなく、メキシコ国内鉱山の中でも女性鉱山労働者比率が高い鉱山として知られている。
今回、同鉱山を訪問し、同鉱山関係者から女性鉱山労働者が活躍できる理由、及び鉱山企業としての取組等について聴取できたことから、その内容を報告する。
(1)Velardeña多金属鉱山の概要
写真1 Velardeña鉱山(筆者撮影)
Durango州東部Cuencame郡にあり、Torreon市(Coahuila州)までは国道(高速)40号線で約120㎞である。鉱山施設は標高約1,400mにあり、坑内掘(270m地点まで掘り進んでいる)で鉱山開発を進めている(写真1は、国道40号線からの鉱山全体を撮影したものである)。
浮遊選鉱プラントにより生産される精鉱は、亜鉛500t/d、鉛30t/d、銅30t/dであり、亜鉛精鉱は現在Met-Mex Peñoles社の亜鉛製錬所の処理能力が不足していることから、Grupo México社のSan Luis Potosí亜鉛製錬所、及びSan Luis Potosíを経由してManzanillo港(Colima州)まで陸送し、同港から韓国向けに輸出している。
また、鉱山用水は、坑内湧水と井戸水のくみ上げにより供給されており、浮遊選鉱プラントの排水は、安全性を考慮し2ヶ所の廃滓ダムで処理されている。
同鉱山の直近の投資額は、2013年が205.8百万US$、2014年が11.17百万US$、2015年が10.12百万US$、2016年が13.66百万US$(予算額ベース)と推移している。なお、同鉱山関係者の説明では、同鉱山は環境関連の投資に重点を置いており、LED電球の採用による省エネ化、太陽光発電(18,036kWh)の設置、水の再利用等を進めるエコロジー鉱山である。
(2)Velardeña鉱山の労働者構成の特徴
直轄鉱山労働者436名、請負労働者414名の計850名で鉱山操業を行っている。そのうち直轄鉱山労働者の約2割に当たる87名が女性鉱山労働者であり、Peñoles社が保有する全鉱山の女性鉱山労働者割合9.5%と比較しても、同鉱山の女性鉱山労働者比率が高いことが分かる。
(3)女性鉱山労働者比率が高い背景
写真2 坑内事務所付近(筆者撮影)
女性鉱山労働者を多く採用している理由等をVelardeña鉱山所長にインタビューしたところ、同所長が述べていたのは以下であった。
幾つもの鉱山が抱えている問題でもあるが、鉱山周辺の社会環境が背景にある。同鉱山周辺から鉱山労働者を確保する場合、同鉱山周辺に点在する放牧以外に産業のない村落から労働者を採用することとなる。
しかし、同村落に居住する労働対象年齢の者はDurango市、Torreón市等の都市部に流れ、村落には老人、子供、そして女性、特にシングルマザーが多く居住するという典型的な過疎地帯となっていたため、同鉱山としては女性鉱山労働者を採用せざるを得ない状況にあった。そのため、当時、同様の環境下にあったLa Herradura鉱山を参考に採用を進めた経緯がある。
女性鉱山労働者を採用する場合、連邦法令等に基づく女性関連休暇、専用トイレ等の関連施設の設置といったコスト増となる要因もあるが、女性鉱山労働者には、ラテン系男性特有の問題(飲酒等)はなく、総合的にも男性鉱山労働者とパフォーマンス面において大きな差異はないと考える。また、メキシコにおいては、シングルマザーに代表される女性労働者を採用することは、地元コミュニティーとの関係強化において非常に有効な手段の1つでもある(写真2は、女性鉱山労働者のアイディアが採用されたエリアである。坑内事務所前に設置された像の前に、緑、泉が配置され鉱山労働者の憩いの場となっているとのこと)。
写真3 坑内トラック操縦シミュレーション装置
(筆者撮影)
さらに、女性鉱山労働者の能力は高く、出産後も地元に残り再び鉱山で働いてくれる可能性もあることから、技術力流出という面では、男性鉱山労働者を採用するよりも効果的である面もある。また、仮に出産に際し離職した場合でも、子供を育てるのは母親であり、その子供は母親の教育により鉱山に関心を持ち、鉱山に良い印象を持つ可能性が高い。そのため、長期スパンで考えた場合、女性鉱山労働者を採用することは非常に有効な雇用形態の1つであるとも考えられる。
鉱山機械の訓練等については、Sandvik社(スウェーデン)と共同で訓練施設(写真3は、鉱山トラック操縦シミュレーション装置、その他にも掘削機など3つの鉱山機械の訓練が可能であり女性鉱山労働者の訓練も可能)を整備し、訓練環境は非常に先進かつ充実している。女性のみならず若手鉱山技師の技能強化及び技術継承はこの施設を整備したことでかなり進展している。なお、同鉱山の採用モデルをPeñoles社、及びメキシコ鉱山の基準にしていきたい。
他方、同鉱山の女性鉱山労働者は、鉱石運搬車オペレーション、重機オペレーション、浮遊選鉱プラント、鉱石分析所等ほぼ全職にわたっているが、夜勤シフト、労働環境を考えると、直轄鉱山労働者の約2割が女性採用のボーダーラインであろう。
おわりに
今回報告した亜鉛だけではなく、世界の鉱物資源供給の主体となっているもの、今後、生産量が増加傾向にある又は今後増加する可能性のある鉱物資源がメキシコには存在する。
また、2017年1月には、Zacatecas州政府が鉱業等を対象とした環境税を創設したところ、一部鉱山企業が同州での鉱山操業を中止する可能性を示唆するなど、メキシコ鉱物資源供給に変化をもたらす可能性のある動きがでてきており、メキシコ事務所では、今後とも様々な角度からメキシコ鉱業の現状等を報告していきたい。


