報告書&レポート
第22回International Biohydrometallurgy Symposium参加報告
フライベルグ、ドイツ
金属資源技術研究所 研究員 新川達也
九州大学大学院工学研究院 准教授 沖部奈緒子 報告>
はじめに
International Biohydrometallurgy Symposium(IBS)は、生物(バイオ)の力を利用した1次・2次原料からの低環境負荷型の有価金属回収技術ならびに環境修復技術などを対象に試験研究を行っている産学の研究者や科学者が会する国際学会で、隔年開催されている。第22回となるIBS2017は、DECHEMA(Gesellschaft für Chemische Technik und Biotechnologie、ドイツ化学および生命工学協会)主催により、ドイツ・ザクセン州のフライベルグで9月25~27日の3日間にわたり開催された。IBSがドイツで開催されるのは第1回ヴォルフェンビュッテル、第17回フランクフルトに続き3回目となる。参加登録は200名以上であったが、実際の参加者は200名を下回った模様であった。開催場所がドイツであったことから、ヨーロッパからの参加者が多かった。
シンポジウムは、Tank Leaching、Heap Leaching、Metal Recovery、Biosorption、Molecular Methods、Innovative Methodsのテーマに大きく分けられ、計51の口頭発表と167のポスター発表が行われた。参加者の多くは大学研究者であり、実際の操業現場からの発表は少なく、小規模な試験か基礎的な研究の発表が多かった。
分野が多岐に渡るが、あえてキーワードを挙げると「in-situリーチング」に関する発表が多かった印象であった。将来的な資源不足を見据え、EUでは域内未利用資源の活用を目指してin-situリーチングの研究に資金が投入されており、開催がドイツであったことから、そのプロジェクトから資金を得ている試験研究の発表が多かったと思われる。シンポジウム終了後には、フライベルグ近郊の閉山した銀鉱山(Reiche Zeche鉱山)で行われているin-situリーチング試験の見学会が催行された(後述)。
Heap Leachingでは銅を対象とした大規模操業に関する発表も見られたが、バクテリアによる銅浸出への寄与は明確に関連付けられておらず、環境を均一にした基礎試験結果を複雑な環境である大規模操業に適用する難しさを物語っていた。
前回(IBS2015、バリ)では発表されなかった、ファージペプチドによる金属粒子やイオンの吸着に関する発表があった。これは、目的物質の分離に用いる手法としてバイオテクノロジーの分野で発達したファージディスプレイ法を利用したものである。ファージペプチドの作製方法はプロトコル化されており、浮選や金属リサイクル分野での実用化が近い印象だった。
JOGMECからは、鉱石の低品位化や複雑化の進行を見据え、低品位鉱石からの省力的な金属回収を主眼とした、リーチングによる銅の回収試験について、金属資源技術研究所の新川が口頭発表を行った。

写真1.新川研究員発表の様子
以下、主な発表内容とin-situリーチング実証試験のエクスカーションについて記す。
1.主な発表内容
(1)Column bioleaching of a saline, calcareous copper sulfide ore
(E. Pakostova et al, Bangor University, UK)
- これまでのBiominingでは鉱石採掘などで消費されるエネルギーコストをなくすことはできないとして(講演では、採掘~破砕~運搬工程で、世界の化石エネルギー消費の5%以上を占めるとしていた)、それらの工程を省いたin-situリーチングの開発を目指している。
- EUからの研究資金を受けたプロジェクト(BioMOre)は、将来的な資源不足への対策として、EU域内にある地下深く(1km以深)の鉱床からの金属回収を最終目標としており、Kupferschiefer型(含銅頁岩型)鉱床を想定している。水圧破砕法により鉱体にヒビを発生させ、注入井と回収井でリーチング液を循環させる構想。
- ラボ試験で用いたKupferschiefer型鉱石はBlack Shale(shale)、Sandstone(SS)、Dolomite等から構成されており、銅は主にChalcociteとしてshaleやSSに含まれる。酸化剤である3価鉄イオンをbiooxidationにより再生して、銅リーチングを行うことを想定。ただし、地下水に海水が含まれる影響でHaliteも試料に多いため、鉱石の水洗い工程が必要であった。
- フェーズ1(0.9M硫酸散布)、フェーズ2(3価鉄イオン液散布)での銅浸出率はそれぞれ13%と42%であった。SSからの銅浸出率のほうが高かった。
- 現在、実際の鉱体を対象に試験を開始している

図1.1km以深のin-situリーチングイメージ

図2.in-situリーチング模式図
(2)Copper Heap Bioleach Microbiology – Progress and Challenges
(F.Roberto et al, Newmont Mining Corportion, USA)
- ペルーにある南米最大の金鉱山であるYanacocha鉱山において2013年から実施していたEnargite(硫砒銅鉱、Cu3AsS4)からのヒープリーチングによる銅回収実証試験について、最終的な銅回収率は50~60%であったと報告。
- 試験期間中のラフィネートとPLS中のバクテリアの種類をDNAシークエンスにより経時的に分析した結果、古細菌はほとんどがFerroplasma優占であった。真正細菌は、ラフィネートではLeptospirillumとRalstoniaが反比例するように検出されたが、明確な優占種はなかった。
- 浸出液散布終了後に行ったボーリングコアから回収されたバクテリアのDNAシークエンスでは、そのほとんどがFerroplasmaであった。
- 実証試験ではあるが、実際に銅を生産しているため、操業中にヒープ内の液や鉱石を採取することは困難であることを強調していた。
(3)Comparison of reductive and oxidative bioleaching of jarosite waste for valuable metals recovery
(J.Makinen et al, VTT Technical Reserch Centre of Finland Ltd, Finland)
- 革新的製錬技術によってEU域内の潜在的な原料を活用できるようにし、EUの原料ボトルネックを解消することを目的としたMETGrow+プロジェクトの一つ。ニッケルコバルトラテライト鉱、亜鉛精錬スラグ、ステンレス産業由来のクロム含有スラグ、非鉄製錬のFayaliticスラグの4つを対象として、Ni、Zn、Cu、In、Ga、Ge、Sb、CoおよびCrの回収をめざしている。
- 本発表では、亜鉛精錬のリーチング工程で亜鉛1tあたり0.5t発生しているジャロサイトを対象に、%オーダーで含まれるZnやPb、微量のCu、Ag、Ge、GaおよびInの回収を目指し、Acidithiobacillus ferrooxidans(DSM 11477)を利用して、還元反応と酸化反応による金属回収効果を調べた。ジャロサイトの具体的な化学分析は非開示。
- 還元反応は、At. ferrooxidans(嫌気条件で硫黄を電子受容体として鉄を還元)を利用してジャロサイトの酸溶解で生じるFe3+をFe2+に還元して平衡を偏らせ、ジャロサイトの溶解を促進させる。酸化反応は、ジャロサイト中の硫黄と硫化物をAt. ferrooxidansにより酸化させ、鉄を溶解させることなく目的金属を溶解させることを意図している。
- 有価金属の溶出には還元反応と酸化反応であまり差はなかった。Zn:30%程度、Cu:35%程度、Ge:40%程度。ただ、At. ferrooxidansを利用した場合とケミカルリーチングに大きな差はなかった。
(4)Feasibility of metal extraction from waste metallurgical slags in the presence of Acidithiobacillus thiooxidans
(A.Potysz et al, University of Wroclaw, Poland)
- 過去の銅の乾式製錬で生じ、ポーランドで大量に廃棄されているスラグ中には、Cu、Pb、Znが多く含まれている。そのスラグを対象に、以下の2種のバクテリアをそれぞれ用いて、廃棄されたスラグからの有価金属回収を試みた。
● Acidithiobacillus thiooxidans(独立栄養細菌の代表として、単体硫黄を酸化)
● Pseudomonas fluorescens(従属栄養細菌の代表として、鉄キレートとして働くシデロホアを分泌) - スラグは結晶質(CS)のものと非晶質(AS)のものの2種類を対象とした。それぞれの組成は以下の通りとされていた。
表1.主要金属
(単位:wt%)
SiO2 | TiO2 | Al2O3 | Fe2O3 | MgO | MnO | CaO | Na2O | K2O | Stotal | |
CS | 37.6 | 0.45 | 7.46 | 50.7 | 2.5 | 0.17 | 1.1 | 0.27 | 1.58 | 0.67 |
AS | 32.6 | 0.58 | 10.05 | 16.42 | 5.73 | 0.24 | 20.93 | 0.79 | 3.02 | <0.02 |
表2.微量金属
(単位:mg/kg)
Ag | As | Cd | Co | Cu | Mo | Ni | Pb | Se | Sn | Sb | Tl | Zn | |
CS | 4.4 | 42.6 | 0.5 | 402 | 5,657 | 11.4 | 4.2 | 111 | 1.3 | 94.3 | 0.5 | <0.1 | 3,962 |
AS | 21.5 | 884 | 4.55 | 963.8 | 11,425 | 693.8 | 356.7 | 21,135 | 3.7 | 22 | 39.6 | 3.6 | 7,810 |
- フラスコ試験において、試料サイズ1~2mmまたは0.3mm以下とし、パルプ濃度1w/v%または3w/v%、初期pH2.5としてバクテリアを加えた。Cu、Zn及びFeの浸出率を対照試験と比較したところ、At. thiooxidansは効果がみられたがP. fluorescensでは浸出率が低く、適さないと考えられた。
- At. thiooxidansでは、CSの場合、パルプ濃度1%、粒径0.3mm以下の条件で、21日間でCu:79%、Zn:76%、Fe:45%が浸出した。ASでは、パルプ濃度1w/v%、粒径1~2mm以下の条件で、21日間でCu:81%、Zn:79%、Fe:22%が進出した。
- CSでは、粒径が小さい方が目的鉱物まで液が達しやすいため浸出が進み、ASでは、粒径が大きい方がpH緩衝能が小さく、バクテリアの生育に適したpHを維持しやすいため浸出が進んだと考察していた。
(5)REE recovery and sulphate removal from phosphogypsum waste waters with sulphate reducing bacteria
(J. Makinen et al, VTT Technical Research Centre of Finland Ltd., Finland)
- Apatite(Ca5(PO4)3(F,Cl,OH)2)はリン酸資源として採掘されているが、その処理において年間100~280MtものPhosphogypsum(PG)が発生しており、その堆積場から硫酸やリン酸の漏出リスクがある。一方で、ApatiteにはREEが含まれ、例えばロシアのKola半島のApatiteには計0.9%のレアアース(REE)が含まれ、このREEの70~85%はPGに残り、PG堆積場に降った天水による生じる硫酸中にはREEが含まれている。バクテリアの硫酸還元能を利用して、液中のREEを硫化物(REE2S3)として回収するための試験を行っていた。
- Desulfovibrio desulfuricansを用い、乳酸塩と酵母抽出物を炭素源として7日間のバッチ試験を行ったところ、沈殿物に含まれるレアアースは17.5wt%であった。
- ・処理能力の高い上向流カラムリアクター(UASB)では、自己造粒化スラッジにレアアースを回収可能なことを確認した。ただ、REEの形態が硫化物、リン酸塩あるいは吸着によるのかは不明で、今後調べる必要がる。
- 本プロセスは、PG排水からのREE回収と硫酸除去技術として特許化されている(WO 2015075317A1)。
(6)Phage display – a new tool for the recovery of valuable metals from primary and secondary resources
(S. Matys et al, Hlemholts-Zentrum Dreden-Rossendorf, Germany)
- 目的とする粒子や金属イオンを効果的かつ環境に優しい方法で分離する手法として注目されるファージペプチドについて、その作成方法を説明。
- 実例としてレアアースリサイクルでの利用を目指した蛍光灯の蛍光体粉末に特異的に結合するファージペプチドの開発と、半導体製造の廃液中のガリウムイオンと複雑銅鉱石のリーチング液に含まれるニッケルとコバルトイオンの分離・濃縮を目的としたファージペプチドの作成について報告。
- レアアースについては、LAP(LaPO4:Ce3+,Tb3+)をよく結合するファージペプチドが見つかっており、Bioflotation試験を行っている。
- ガリウムイオンについては92候補、コバルトイオンは18候補、ニッケルイオンは24候補のファージペプチドが見つかった。コバルトイオンとニッケルイオンに対するファージペプチドのほとんどは、どちらのイオンとも結合した。
2.エクスカーション
Reiche Zeche鉱山はフライベルグ旧市街から北東約2kmにある銀鉱山であり、1665年に開山した。1969年に閉山し、現在は研究・教育・観光に利用されている。同鉱山でフライベルグ工科大学が行っている、亜鉛とインジウムを目的としたin-situ Bioleachingのパイロット試験現場を見学するエクスカーションに参加した(Visit of the underground in-situ bioleaching site for indium and zinc in the mine Reiche Zeche)。
試験を行っている鉱体は地下160mの坑道に位置し、横35m、高さ10mほどの大きさであり、in-situ試験はその端の幅10mぐらいを対象にして行われていた。インジウムはSphaleriteに含有されており、他の主な鉱物はPyrite、Chalcopyrite、Galenaであった。操業時はGalenaに含まれる銀を回収していた。
対象の鉱床部分に直径4cm程の穴が浸出液の注入口と回収口として、鉱体の上部から45cm間隔で交互に計7個開けられている。注入口は鉱体を貫通していないが回収口は下まで貫通し、上部をセメントで密閉してある(上からしかドリリングできないため)。また、鉱体中に浸出液が浸透するよう亀裂を入れるために水のみでフラッキングを行ったとのことだった。しかし、まだまだ浸透性が悪いためか、理想的には横幅10mの間に注入口・回収口合わせて40本の穴を開けたいと話していた。また、穴によって浸透性が異なるため、流量は10~50L/hとかなりの幅があった。
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写真2.鉱体のコア
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図3.In-situの模式図
注入している浸出液はpH2程度の硫酸酸性水で、3価鉄イオンによりSphaleriteを酸化溶解して亜鉛とインジウムを回収するために、同鉱山の坑廃水から採取、培養した鉄酸化細菌を主とするバクテリア群を培養して混ぜていた。同鉱山由来のバクテリアを利用することで、低温(10℃程度)と重金属イオンに耐性を持ったバクテリアが利用できるとしていた。ただし、回収される液はpH2.6程度まで上昇しており、この場合、インジウムは鉄沈殿に含まれてしまうため回収性が悪く、循環している液のインジウム濃度はppbオーダーとの説明だった。亜鉛濃度は80mg/L程度。試験期間は定かではないが、これまでに浸出したインジウムは30gとのことだった。インジウムの回収性が悪くなるにも関わらずpHを下げない理由は、浸出液に混ぜているバクテリア群の生育のためと思われた。なお、注入量と排出量は同程度であるため、鉱体外への液漏れはないとしていた。なるべく均一と考えられる鉱体を対象としているが、対象部分にどれだけの亜鉛、インジウムが含まれているかを正確に知ることができないため、回収率などは不明であった。まだ試験段階の技術ではあるが、実用化を考えると浸出率の見当がつかないと経済性評価が難しく、その点をどのように克服するのかが問われると思われた。
In-situといっても山に直接硫酸を散布しているわけでなく、地熱やシェールオイルの回収方法に近い方法であり、それら同様、流体をトラップする頑強な岩盤の存在を前提としていた。しかし、結局の所、in-situでも液の浸透性が目的鉱物の浸出には重要であり、地熱やシェールオイルと異なり、対象が流体ではないため、実用化までのハードルはかなり高い印象を受けた。
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写真3.注入口の様子
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写真4.排出口の様子
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写真5.注入される液
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写真6.排出された液
おわりに
次回、第23回(IBS2019)は2019年10月20~23日の日程で、日本の福岡にて開催される予定である。(IBSでは期間中に4年後のIBS開催地が候補国によるプレゼンテーションに続く参加者全員の投票によって決定されるが、前回のIBS2015(バリ;インドネシア)にて、IBS2019誘致を資源国であるオーストラリア(パース)と競った結果、日本(福岡)が開催国に決定した。)
1973年以来、隔年開催されてきたIBSの歴史において、2019年は初の日本大会となり、開催委員である九州大学笹木教授と沖部准教授またその学生たちにより、日本の製錬の歴史や開催地である福岡の紹介ビデオを交え、参加を呼びかける魅力的なプレゼンがなされた。

写真7.会場でのIBS2019プレゼンの様子1

写真8.会場でのIBS2019プレゼンの様子2
資源開発におけるバイオ技術の応用(バイオハイドロメタロジー)は、天然鉱石で言えば、特に低品位・難処理鉱に対して力を発揮するものである。日本のような非資源国が本分野で世界を先導する立場に出ていくことは、世界的な高品位鉱石の枯渇問題が予想される将来においても、日本が持続的に資源を確保していく上で必須の策であると考える。さらに、バイオハイドロメタロジーは、天然鉱石のみならず、日本国内に多量に蓄積する「都市鉱山」の開拓に対してもその利用が期待される。また、上記の鉱物プロセッシングのみならず、日本国内でも旧鉱山において発生しているAMD(酸性坑廃水、Acid Mine Drainage)等の金属含有水処理においても今後さらにバイオハイドロメタロジーの有効性を示し、将来的に実用化していくべきである。
IBS2019のスローガンおよびテーマは以下の通りである。
Slogan;
Biohydrometallurgy for Resources, Energy and Environments towards the Future Earth
Conference Themes;
Fundamentals and Applications in Biomineral Processing (bioleaching, bio-oxidation, bio-flotation,
bio-beneficiation)
● Microbial Ecology, Biogeochemistry
● Microbiology, Biochemistry, Molecular Biology
● Bioremediation, Bio-barriers, Mine Waste, Radionuclide
● Biomineralization, New Biomaterials
● Bio-recovery of Precious Metals, Fuels and Energy
以上
おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
