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2017年秋季国際非鉄研究会(ICSG、INSG、ILZSG)参加報告
はじめに
2017年10月23~27日、ポルトガル・リスボンにおいて国際銅研究会(ICSG)、国際ニッケル研究会(INSG)、国際鉛亜鉛研究会(ILZSG)の秋季定期会合が開催され、加盟国や産業団体、企業、専門家等の約100名が参加した。ICSG、INSG及びILZSGは、2017年及び2018年の銅、ニッケル、鉛、亜鉛に係る世界の鉱石生産、地金生産及び地金消費予測値について、加盟国から提出された数値をベースに検証を行い、その結果について発表を行った。本稿ではICSG、INSG、ILZSGによる2017年及び2018年の銅、ニッケル、鉛及び亜鉛の需給見通しについて報告する。
1.銅
1)需給バランス
銅需給バランス ―2017年は151千t、2018年は104千tの供給不足―
ICSGが発表した世界の銅需給バランスは表1のとおりであり、2017年は151千tの、2018年は104千tの供給不足との予測を示した。本年3月の春季会合では、これらの予測値は2017年が147千tの供給不足、2018年が169千tの供給不足であったが、2018年の予測値については若干改善する方向への修正となった。
表1.世界の銅需給バランス
(出典:ICSG会議資料より作成)
2)銅需給動向
2016年から2018年の世界の銅鉱石の生産、銅地金の生産及び消費について、地域別の数値を表2及び図1にまとめた。
表2.世界の銅鉱石生産、銅地金生産及び消費(2016~2018年)
(出典:ICSG会議資料より作成)
(出典:ICSG会議資料より作成)
①銅鉱石生産量
銅鉱石生産については、2017年はEscondida(チリ)の43日間にわたるストライキ、Grasberg(インドネシア)の精鉱輸出禁止措置やストライキ等が大きく影響し、前年比2.7%減となった。一方、2018年はEscondidaの回復及び拡張プロジェクトの進展、Kamoto(DRコンゴ)の生産再開、Mopani等ザンビアの生産回復等により、2017年比2.5%の増産が見込まれる。
②銅地金生産量
また、銅地金生産については、中国における地金生産能力が順調に拡張する見込みではあるが、2017年はチリや米国、日本等の一時生産停止やメンテナンス等の影響で前年比1.0%の増産と、銅地金生産量の伸びは鈍化した。他方で、2018年はそれら減産要因の反動で2.5%の増加見込となった。
③銅地金消費量
銅地金消費については、中国やインドにおけるインフラ需要、世界経済の見通しの明るさといった好材料の一方、スクラップ供給の増加、中国の地金輸入の増加による見かけ需要の下振れ等の影響により、2017年及び2018年は各々前年比1.0%、2.3%の増加となった。
2.ニッケル
1)需給バランス
INSGは、一次ニッケル生産量と一次ニッケル消費量との差分である需給バランスについて、表3の通り2017年は97.2千tの供給不足、2018年は53.0千tの供給不足と予測した。
2016年は2015年の供給過剰から供給不足に転じた。2017年は春季大会での予測から引き続き生産・消費がともに伸びると予想され、供給不足の状態が続くとされた。2018年も同様の傾向が続き供給不足が継続するが、不足幅については2017年よりも狭まるとした。
International Stainless Steel Forum(ISSF)によれば、世界のステンレス生産は2017年上半期で23.2百万tに達し、前年比5%の成長となっている。2017年下半期は減速するものの、2018年までこの成長傾向は続くと見込まれる。昨今のEV向けバッテリー需要についてはニッケル需要にポジティブな影響を与えるとしているが、参加者からはEVの販売台数予測には大きなブレがあると見込まれていること、まだ量的な影響は大きくないとの意見も聞かれた。
2016年の中国のNPI生産量は、フィリピンの鉱石生産量の低下が影響し、中国向けの鉱石が不足したことによって減少した。一方で2017年にはインドネシアの鉱石輸出の緩和により、中国のNPI生産向けの鉱石に余裕が生じると考えられ、2018年も同様の傾向が続くと見られる。またインドネシアのNPI生産は、新規プロジェクトの稼働によって2017年、2018年も引き続き大きく増加する見込み。
表3.世界のニッケル需給バランス(2016~2018年)
(出典:INSG会議資料より作成)
2)ニッケル需給動向
2016年から2018年にかけての地域別の数値を表4に、当該数値を図2にグラフ化して需給バランスを示す。
表4.世界のニッケル鉱石生産・一次ニッケル生産及び消費(2016~2018年)
(出典:INSG会議資料より作成)
(出典:INSG会議資料より作成)
①ニッケル鉱石生産量
世界のニッケル鉱石生産量は、インドネシアの鉱石輸出禁止、フィリピンの環境規制強化で一時的に大きく減少した。しかし2017年にはインドネシアの生産量は輸出禁止の緩和により198.9千tから前年比74%増の346.0千tと大きく伸びること、フィリピンの生産量の減少は前年比4.9%減の329.0千tと歯止めがかかることにより、世界全体では前年比5.5%増の2,114.1千tの生産量となるとした。2018年はインドネシアの生産量が引き続き大幅に増加し、前年比35.0%増の467千tとなることから全体の生産量を押し上げ、2,286.1千tとなると見られる。
②一次ニッケル生産量
世界の一次ニッケル生産量については、2016年に増産の方向に転じたが、2017年以降は価格回復も手伝い2017年は前年比3.1%増、2018年は7.5%増と増産傾向が継続する見込み。世界生産量の約3割を占める中国は、インドネシア、フィリピンからの鉱石調達不足が解消することで、2017年は前年比4.3%増、2018年は8.7%増と生産量は回復・成長に向かうと見られている。インドネシアの生産は新規プロジェクトの稼働が進み2018年では前年比33.1%増の275.1千tと大幅な増加が継続すると予想される。
③一次ニッケル消費量
世界の一次ニッケル消費量については、2017年の前年比5.5%の増加に引き続き、2018年は減速するも前年比2.6%の増加が見込まれると予測した。その理由として、前述の通り、最大の用途であるステンレス生産の伸びが続くと見られることが挙げられる。ISSFによれば2017年の世界のステンレス成長率の予想は前年比3.5%を見込んでおり、需要は2018年も堅調としている。またステンレス用途以外では昨今のEVトレンドによってバッテリー向けの需要に注目が集まっている。安泰科によれば電池向け需要は2015年には2.6%だった割合が2025年には9%まで伸びると予測しており、販売台数の伸びによるところが大きいものの期待が持てるとした。
3.鉛
1)鉛の需給バランス
表5に鉛地金生産量と鉛地金消費量との差分である需給バランスを示す。ILZSGによれば、2016年は14千tの供給過剰となり、2017年は前回の春季大会から需要が供給を超過する見通しへと転じ125千tの供給不足の予測、2018年も45千tの供給不足になると予測した。2017年の地金生産については米国で減産されたものの、中国他での増産が影響し前年比3.7%増と予測されると同時に、地金消費量も中国需要が大きく伸びること、米国及び欧州などでも緩やかに伸びることから、世界全体の消費量も前年比5.0%増となり、125千tの供給不足になると見通された。2018年は前年に比べ生産・需要ともに緩やかな伸びに留まると見られ、45千tの供給不足予測であった。
表5.世界の鉛需給バランス(2016~2018年)
(出典:ILZSG会議資料より作成)
2)鉛の需給動向
2016年から2018年にかけて地域別の生産及び消費を表6に掲げ、当該数値をグラフ化したものを図3に示す。2017年及び2018年の鉛鉱石生産量、鉛地金生産量及び鉛地金消費量の見通しについて、詳細を以下に述べる。
表6.世界の鉛鉱石生産・鉛地金生産及び消費(2016~2018年)
(出典:ILZSG会議資料より作成)
(出典:ILZSG会議資料より作成)
①鉛鉱石生産量
世界鉛鉱石生産量は、2017年は前年比5.6%増の5,057千tとなり2018年は前年比1.1%増の5,114千tと予測された。2017年は全生産量の約半分を占める中国における生産が前年比9.6%増、また中国を除いたアジア前年比16.6%増となることが生産増に貢献すると見られる。2018年は、キューバCastellanos鉱山からの生産開始、ギリシャOlympias鉱山の立上げ、メキシコの増産が世界の鉛鉱石供給量を押し上げるものと見られている。
②鉛地金生産量
世界の鉛地金生産量については、2017年は前年比3.7%増の11,579千t、2018年は前年比1.6%増の11,770千tと予測した。ともに中国での増産が見込まれていることが影響しており、2017年は前年比8.2%、2018年は前年比2.9%の増加となっている。米国ではQuemetco社のカリフォルニア工場での生産減が影響し、2017年米国全体では前年比7.8%減となっている。米国はこれを補うためにメキシコや韓国からの輸入を増やしたと見られる。また、2017年の中国の輸入量は2012年以来初めて輸出量を超過する見込みとなっている。
③鉛地金消費量
世界の鉛地金消費量については、2017年は前年比5.0%増の11,704千tとなり、2018年は0.9%増の11,815千tになると予測した。2017年は中国の需要が11.3%の大幅な増加が見込まれていることが大きく影響した。中国ではE-bike向け鉛バッテリー需要が底堅いためと見られる。E-trikesは中国の富裕、中流都市で運搬車として移動に便利という点で人気が高くなってきている。また、2017年は欧州で自動車販売の増加による需要増が見られるものの、2018年は横ばいになると予想され、米国の伸びは2017年、2018年でそれぞれ1.1%増、1.8%増と緩やかに伸びる見込み。昨季に引き続き自動車産業においては、電気自動車(EV)の伸びが注目されているが、EV販売数は自動車販売数全体の数%に留まるため、短中期的には鉛需要に影響は及ぼさないと見られている。一方で将来的な需要代替を見込んで、エネルギー貯蔵の分野での活用が期待されるとする意見があった。
4.亜鉛
1)亜鉛の需給バランス
表7のとおり、亜鉛の需給バランスについて、2017年は398千tの供給不足、2018年は223千tの供給不足になると予測された。2017年は、亜鉛精鉱の逼迫から亜鉛地金生産が抑制されると考えられ、前年比1.4%減となる見込み。2018年は亜鉛鉱石生産量が前年比6.0%増となり、亜鉛消費量も伸びるものの供給不足は縮小すると見られている。
表7.世界の亜鉛需給バランス(2016~2018年)(2016~2018年)
(出典:ILZSG会議資料より作成)
2)亜鉛の需給動向
2016年から2018年にかけての地域別の数値を表8に示し、当該数値をグラフ化したものを図4に示した。2017年及び2018年の亜鉛鉱石生産量、亜鉛地金生産量及び消費量の見通しについて、詳細を以下に述べる。
表8.世界の亜鉛鉱石生産・亜鉛地金生産及び消費(2016~2018年)(2016~2018年)
(出典:ILZSG会議資料より作成)
(出典:ILZSG会議資料より作成)
①亜鉛鉱石生産量
世界の亜鉛鉱石生産量について、2016年に大きく減少したが、以後回復し2017年は前年比1.8%増の13,002千t、2018年は前年比6.0%増の13,784千tと予測した。2017年は、Rampura Agucha鉱山の坑内掘開発への拡張作業が完了し、生産が回復すると同時に、ペルーAntamina鉱山による増産、エリトリアBisha鉱山の生産量が多かったことなどから全体鉱石生産量の増加が見込まれた。2018年は豪Dugald River鉱山の生産開始、南アのGamsberg鉱山の立上げが寄与する他、フィンランドとギリシャ等の欧州勢、中国、キューバ、米国の生産増が寄与すると見られている。特に中国は前年比6.8%と大きく伸びると見られる他、米州での増加も大きく影響すると予想される。
②鉛地金生産量
世界の亜鉛地金生産量は、2017年は前年比1.4%減の13,528千tとなり、2018年は前年比3.9%増の14,055千tと予測した。2017年はインドの生産回復があるものの、カナダのNoranda Income Fund社のValleyfield製錬所でのストライキによる生産減が影響する他、中国ペルー、韓国、タイなどでの生産減も影響し、全体では減少となった。2018年は豪州、ベルギー、カナダ、中国、韓国、ノルウェーなどの生産が増加すると見られ、全体では増加する見込み。中国は2017年に前年比マイナスだった生産量は2018年には前年比4.6%の増加が予想される他、2018年は欧州、米州でも生産が伸びると見られている。
③亜鉛地金消費量
世界の亜鉛地金消費量については、2017年は前年比0.7%増の13,926千t、2018年は前年比2.5%増の14,278千tと予測した。2016年の減少後、米国での2017年の消費量が前年比12.2%増、さらに2018年は2.0%増と見込まれている。欧州の需要はベルギーとロシアの増加がフランスとドイツの減少を上回り、2017年は前年比0.4%増、2018年は前年比2.8%増となり、2011年以来の需要の大きさとなる見込み。中国の公式指標によると、2017年の中国の地金生産量の減少は地金輸入の増加によって補われず、地金消費量は前年比1.8%減となるが、2018年はメッキ向けの需要が伸びると見られ、前年比3.0%の増加となる見込み。
*国際銅研究会(ICSG)
国際銅研究会は、国際非鉄3研究会の中では最も新しい研究会で、国連の招請・勧告によって1992年に発足した国際機関である。世界の銅経済に関する情報の提供、政府間協議の場の提供及び銅に関する諸問題について国際協議・協力を推進することが目的で、世界の主要銅鉱石生産国、地金生産国及び消費国の23カ国及びEUが加盟している。事務局は、ポルトガル・リスボンに設置されており、2006年から国際非鉄3研究会の共同事務所となっている。
同研究会は、主に銅市場の需給予測に関する統計分析を始め、国際的な貿易取引に係る環境・経済面の課題について研究しており、統計等の刊行資料は、世界的に一定の評価を得ている。通常、定期会合は春季、秋季の年2回開催されている。
*国際ニッケル研究会(INSG)
国際非鉄研究会(銅、鉛亜鉛、ニッケル)の中では国際鉛亜鉛研究会(ILZSG)に次いで2番目に古い歴史を持ち、世界のニッケル市場の透明性の強化を目的に1991年に国連の招請・勧告によって発足した国際機関である。現在、ニッケル生産国、消費国及び貿易国からなる14カ国及びEUが加盟している。事務局は、設立当初はオランダ・ハーグに、2006年からポルトガル・リスボンに置かれている。同研究会は、ニッケル市場の需給予測分析を始め、国際的なニッケルの貿易取引に係る課題について研究するとともに、それらの課題に関して政府・産業界の利害関係者が定期的に話し合う機会を設ける機能を担っている。通常、定期会合は春季、秋季の年2回開催されている。
*国際鉛亜鉛研究会(ILZSG)
国際非鉄研究会(銅、鉛亜鉛、ニッケル)の中では最も古い歴史を持ち、1959 年に国連の招請・勧告によって発足した国際機関で、国際銅研究会及び国際ニッケル研究会のロールモデルとなっている。現在、鉛・亜鉛生産国、消費国及び貿易国からなる29カ国及びEUが加盟しており、生産及び消費に占める加盟国の割合は85%にも及ぶ。同研究会は、鉛・亜鉛市場の需給予測分析を始め、国際的な貿易取引に係る課題について研究するとともに、それらの課題に関して政府・産業界の利害関係者が定期的に話し合う機会を設ける機能を担っている。通常、定期会合は春季、秋季の年2回開催されている。
おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。