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報告書&レポート

2020年3月18日 金属企画部 中村峻介、久保田博志 報告
20-05

Mining Indaba 2020参加報告

JOGMECセッション ―将来に向けたクリティカルミネラルのサプライチェーンの確保―

<金属企画部国際業務課 中村峻介、久保田博志 報告>

はじめに

JOGMECは、2020年2月3日、南ア・ケープタウンで行われたアフリカ最大の鉱業大会「Mining Indaba 2020」において、JOGMECセッション「将来に向けたクリティカルミネラルのサプライチェーンの確保」を開催した。

本セッションは、リチウムイオン電池(LIB)、電気自動車(EV)や5Gなどの普及に不可欠なコバルト、ニッケル、リチウム、白金族金属、レアアース、タンタルなどの鉱物資源が豊富に賦存するアフリカの資源国やこれらの資源を供給する資源会社および消費する側である本邦企業といった関係者の間の情報や意見交換の場を提供し、鉱物資源の安定供給確保に繋げることを目的とした。我が国政府からは松本経済産業副大臣、本邦企業からはJX金属株式会社(以下、JX金属)、阪和興業株式会社(以下、阪和興業)が講演を行った。本稿ではJOGMECセッションの報告を通して官民が考えるクリティカルミネラルの今後の動向について紹介する。

1.Mining Indaba 2020とは

Mining Indaba 2020は、アフリカに関する世界最大の国際鉱業投資会議であり、2020年は、約35か国のアフリカ鉱業担当大臣・政府高官、国際機関、英Anglo American、英Rio Tinto、加Barrick Gold社や印Vedanta社などの大手資源会社、加Ivanhoe Mines社などのジュニア探鉱会社を含む民間鉱山会社から約6,000人が参加した。2020年は26回目の開催となり、Julius Maada Wonie Bioシエラレオネ共和国大統領、Sylvestre Ilunga Ilukamba DRコンゴ首相などの国家元首級も参加し、展示ブース件数も約220件と盛大な会議となった。

2.JOGMECセッションの内容

JOGMECセッションでは、「将来に向けたクリティカルミネラルのサプライチェーンの確保」(Securing the Supply Chain of Critical Minerals for the Future)をテーマとして、我が国のクリティカルミネラルに対する官民の取組みについて、経済産業省からは安定供給確保に向けた戦略を、また、民間企業からは自社の関わる幾つかのクリティカルミネラルに対する戦略等を紹介した。以下、本セッション内の各講演の概要について報告する。

写真1.JOGMECセッション会場の様子

写真1.JOGMECセッション会場の様子

(1)JOGMEC挨拶(細野哲弘理事長)

写真2.JOGMEC細野理事長による開会挨拶

写真2.JOGMEC細野理事長による開会挨拶

LIBやEV、5Gに代表される新しい世界の到来とともに、リチウム、コバルト、白金族金属、レアアースなどの金属資源の重要性は益々高まることが予想される。これらの金属資源は地域的な偏在性や価格のボラティリティの高さからクリティカルミネラルと呼ばれ、需給におけるクリティカリティの低減に向けて関係国と企業等が連携していくことが重要である。

日本とアフリカとの関係は、2019年に日本で開催されたTICAD7(第7回アフリカ開発会議)やラグビーワールドカップを通じて更に深いものとなった。様々な当事者が一つのチームとなってアフリカにおける資源開発や当該資源国の持続可能な発展に貢献できれば良いと考える。本セッションが、日本にとってアフリカにおける鉱物資源分野への取組みや今後の戦略の理解に繋がるものになるとともに、アフリカ諸国の鉱業の発展と、日本との関係深化を加速する機会となることを期待したい。

(2)経済産業省(松本洋平副大臣)

講演タイトル:Japan’s Interest to critical minerals in Africa for SDGs
写真3.松本経済産業副大臣ご講演

写真3.松本経済産業副大臣ご講演

今日、世界の経済成長に伴い気候変動や環境保護への対応が求められ、これらの課題解決のため、2015年には17の持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals=SDGs)を中核とする「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が国連で採択された。これらの目標の中には、イノベーション、持続可能な都市開発、気候変動対応の事項が含まれ、これらは鉱物資源開発に大きな影響をもたらすと認識している。

SDGsにおける気候変動対応のため、二酸化炭素を大きく削減するポテンシャルを有するEV技術が注目されており、今後自動車業界は電動車へ移行していくと考えられる。EVやIoT技術革新の進展は、持続可能な開発を実現する上で重要な役割を担うだろう。しかし、これらの技術の発展により、EVバッテリーにはリチウム、ニッケル、コバルト等、モ―ターにはレアアース等、また、IoT製品にはタンタル、インジウム、ガリウム等が必要になる。これらの鉱物資源への依存は産業において新しいリスクを生む可能性がある。そのため、このような鉱物資源(クリティカルミネラル)の安定供給を確保することが、日本のような製造業が主要産業となっている国にとって非常に重要である。

アフリカは、コバルト、白金族金属、タンタルといったクリティカルミネラルの生産量において高い世界シェアを有するため、今後も重要な役割を担う。また、日本の製造業はこれらクリティカルミネラルの主要な消費者であるため、アフリカと日本が互いに協調すべき時が来ていると言えるだろう。

鉱物資源開発のために、日本は資源国との関係性を構築するという確固たる信念がある。他方、資源国にとって、海外からの鉱山開発投資は経済全体の発展に向けた第一歩でなければならない。日本は持続可能な開発のため、資源国と投資家や世界市場を結びつける架け橋となる。

今後、経済産業省は日本の購買力を最大化させるため、上流の資源会社と下流の産業を結びつけ、クリティカルミネラルの安定供給に向けて取り組みを進めていく。

(3)JX金属株式会社(土谷浩一郎フランクフルト事務所長)

講演タイトル:Metal producer’s approach to advanced materials for the realization of the SDGs
写真4.土谷JX金属フランクフルト事務所長ご講演

写真4.土谷JX金属フランクフルト事務所長ご講演

JX金属は、主要な銅生産者として、資源開発事業、製錬事業、環境リサイクル事業、電子材料事業を持ち、金属の安定供給を行っている。昨今、スマートフォンに代表されるようなデジタル革新により、インフラ整備が遅れている地域においても質の高い教育や仕事、健康管理が可能となった。スマートフォンをはじめ様々なデジタルデバイスには、我々が供給するものも含め多くの先端素材が使用されている。デジタル革新はSDGs実現における鍵であり、そのためにはクリティカルミネラルを含む先端素材の信頼性のある供給が必要である。

今後は、IoTやAIといった技術革新の進展による電子機器の小型化や高機能化、さらには5Gにより、それらは多様化や高速化が進むと考えられ、先端素材の重要性はより高まる。

クリティカルミネラルの1つであるタンタルは、電子機器や自動化技術、医療等の技術革新にとって不可欠な金属である。2018年にJX金属は、H.C.Starck Tantalum and Niobium GmbH社の全株式を取得し、持続可能な社会の実現に寄与するべく、タンタルやニオブの処理、製造、リサイクルに取り組んでいる。これらの金属の将来の用途として、3Dプリンタや外科用インプラント、超電導磁石、鉛フリーのピエゾセラミックスが挙げられる。そして、電子機器に使用されるタンタルは今後増加していくことが予想される。現在、タンタル鉱石の生産量は、ルワンダが世界の30%、DRコンゴが28%、ナイジェリアが15%を占めるなど、アフリカ全体の生産量は世界の約75%にも上るため、アフリカは重要な地域として認識している。しかし、タンタル一つをとっても紛争鉱物や環境問題など課題は多い。

関連する諸課題解決のため、そして安定的サプライチェーン確立において、様々な関係者(政府、鉱山事業者、NGO、地域住民等)が一体となって取り組み、客観的・科学的なアプローチにより持続可能なシステムを確立していく必要がある。

(4)阪和興業株式会社(伴野純一プライマリー原料部門(第一部・第二部)理事)

講演タイトル:Critical African Minerals for Japanese Industries

阪和興業は、日本市場向けのクリティカルミネラルの安定供給のため、数十年にわたりニッケルやリチウム、クロム、マンガン、白金族金属等のプロジェクトに投資している。

自動車産業の現在の世界的な傾向と各金属への影響について俯瞰するにあたり、パワートレインを従来型と新型に分類すると、従来型であるICE(内燃機関)は、2025年まで引き続き大きなシェアを占めることが予想されるが、ICEの重要部分は白金族金属を多く含む触媒から成り、その輸入に関しては、南アがプラチナの87%、パラジウムの44%、ロジウムの85%を占め、日本の産業にとって非常に重要な国である。現在、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、バッテリー式電動自動車(BEV)といった新型のパワートレインへの移行が進みつつあり、これらは2025年には車両総売上の30%を占め、LIBの需要は10〜15倍となる可能性があると予想される。また、現在プラチナが低価格のため、政府の協力のもと、燃料電池自動車(FCV)の促進を検討する必要があることは明らかである。

また、ニッケルとコバルトは、HEV、PHEV、BEVのバッテリーに必要な金属であり、今後需要が伸びることが予想される。さらに、排出規制が厳しくなっている今日、窒素酸化物の除去に必要なロジウムは供給不足が懸念されるため、安定的な確保が重要である。

最後に日本のもう1つの重要な産業である鉄鋼業に注目する。フェロアロイは、炭素鋼及び合金、ステンレス鋼産業にとって重要な原材料であり、シリコマンガン、フェロマンガン、フェロシリコン、フェロクロムは南アからその多くが供給されている。阪和興業は、これらの金属の安定供給を実現するべく、南アに3つの主要なプロジェクト(Samancor Chromeプロジェクト;クロム、OM Holdingsプロジェクト;マンガン、Waterbergプロジェクト;白金族金属)を持っている。今後もアフリカ各国と協力し、日本及びアジア全体の産業への安定供給を確保するという目標を達成するために努力したい。

  • 写真5.伴野阪和興業理事ご講演

    写真5.伴野阪和興業理事ご講演

  • 写真6.廣川JOGMEC理事閉会挨拶

    写真6.廣川JOGMEC理事閉会挨拶

おわりに

JOGMECセッションには、各国政府や資源会社等から約150名の聴衆が参加するなど、クリティカルミネラルへの関心の高さを示していた。特に本セッションは、今後のEVやIoT等の先端技術の普及に伴い、世界中でクリティカルミネラルの利用や調達が注目されている中、日本の政府や民間企業がこれらのサプライチェーンの確保における戦略を紹介するなど、日本とアフリカが協力して資源開発に関わることの重要性を示すものとなった。また、本セッションは、資源が豊富に賦存するアフリカの資源国や資源会社とこれらの鉱物資源を必要とする本邦企業の関係者における情報交換を促進し、双方の関係深化につながる機会となった。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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