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報告書&レポート

2020年6月24日 サンティアゴ 事務所 椛島太郎、資源探査部探査第2課 米村和紘
20-09

ポータブル蛍光X線分析計(pXRF)を活用した金探査技術の進展について

<サンティアゴ事務所 椛島太郎、資源探査部探査第2課 米村和紘 報告>

はじめに

2020年3月1~4日の4日間にわたり、カナダ・トロントにおいて世界最大級の鉱業大会であるProspectors & Developers Association of Canada(PDAC)が開催された。本鉱業大会では、鉱業関連企業や政府機関などによるプレゼンテーションやブース出展等によって情報交換が実施される他、投資・環境・技術開発などの個別分野に分かれたセッションも毎年行われる。本稿では、テクニカルセッションにおいて多くの聴衆を集めていた「ポータブル蛍光X線分析計(pXRF)を活用した金探査技術」について紹介する。

1.ポータブル蛍光X線分析計(pXRF)とは

pXRFは、現在のThemo Fisher Scientific社が初めてNitonシリーズを10年以上前に世に送り出したのを皮切りに、探鉱、鉱山操業及び検査の分野に普及し、ベースメタル(銅、鉛、亜鉛等)の探査効率、簡易的な鉱石組成の判別、検査効率などを劇的に向上させた。鉱石品位の数%オーダーはもとより、地化学探査レベルで必要な数百ppm(1%より2桁少ない)オーダーであっても精度良く有効な結果をその場で得られるため、数週間という分析に要する時間が不要となり、探鉱期間の短縮や迅速な意思決定、コスト削減が可能となった。一方で、非鉄金属探査において過半の資金が投入されている金探査については、pXRFでは鉱石品位レベル1g/t=1ppmを検出するのが精一杯であり、探査に必要な10ppb(1ppmより2桁少ない)レベルの結果を得られないことから、試料を商用分析所に送って分析せざるを得ない状況であった。商用分析所における化学分析では、正確な定量値を測定するために粉砕や溶解などの前処理を行い、高感度の分析装置を使用して測定されるため、一般的に分析結果取得まで2週間以上の期間を要する。これに対して、正確な定量値を犠牲にする代わりに、現場での前処理と市販のpXRFでの測定によって、24時間以内に相対的な地化学異常情報を得る手法を講演者らは開発した。

2.講演内容

講演タイトル:
Low level gold determinations using conventional pXRF: a new paradigm in gold exploration
(従来型ポータブル蛍光X線分析装置を使用した低レベルの金の定量法:金探査における新パラダイム)

講演セッション:Exploration Insights(Category: Technical advancements for individual commodities)
講演者:Simon Bolster, Principal Geoscientist, Portable PPB Pty Ltd.
著者:Dr. Mel Lintern, Simon Bolster, Peter Williams

2.1 概要

  • 「detectORE™」という名称で豪州連邦科学産業研究機構(Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation:CSIRO)によって特許登録されている技術。筆頭著者のDr. Mel Linternがチームリーダーとして開発。
  • pXRFを使って、24時間以内に10ppb以下の金含有量の分析結果を取得可能。
  • Portable PPB Ltd(Pppb社)が世界中で排他的使用権を所有。
  • 化学薬品とコレクターデバイス「widget」(消耗品)とクラウドベースのソフトウェアを使用。
  • 過去24か月にわたり広範囲にテストされ、分析の精度・確度の実証が行われている。
  • スポンサーは、この技術をいち早く利用できる。
  • 2020年中には一般の利用も可能となる。

2.2 目的・手法

pXRFにより銅、亜鉛、鉛、マンガン、ニッケル等の元素は現場で地化学データを獲得することができるようになり、また地化学探査やボーリング調査の現場においては探査プログラムを自在に変更可能となることから、時間とコストの節約につながっている。一方、pXRFによる金の測定は、宝飾品解析で広く利用されているが、高い検出限界と干渉等による要素からppmオーダーで存在することが必要であり、探査現場での利用はまだ実用的ではない。

金探査の地化学探査試料の多くは金含有量がppbオーダーであり、更に金に類似した励起エネルギーを持つタングステンやヒ素等が金鉱化作用に関連して桁違いの高い濃度で随伴し金のスペクトルを覆うことから、pXRFにより微量な金の検出を困難にしている。

CSIROによるdetectORE™技術の発明は、現場で24時間以内に10ppb以下の金含有量であっても地化学異常のデータを獲得することを可能にした。プラスチックボトルに独自の化学薬品と独自のコレクターデバイス「widget」、水及び試料が封入され、試料が溶解される。24時間をかけ、コレクターデバイスにより金の濃縮が行われ、同時にスペクトル干渉要素が除去される。その後市販のpXRFにて測定し(著者らはOlympus社 DELTA及びVENTAシリーズを使用)、クラウドベースのアプリケーションによって濃度を決定する(図1)。ボトルは洗浄して再利用可能である。

図1.測定手法の概念図(Pppb社HPプレゼンテーションより)

図1.測定手法の概念図(Pppb社HPプレゼンテーションより)

2.3 分析結果

市販されている公称標準溶液(CRM)139試料を用いたdetectORE™技術による金分析結果と他手法(王水溶解による原子吸光分析及び誘導結合プラズマ質量分析法)による結果の比較を図2に示す。両者の分析結果は概ね一致している。

 図2.detectORE(横軸)と他手法(縦軸:Fire Assay, ICP-MS)による公称標準溶液(CRM:139試料)の測定結果(Pppb社HPプレゼンテーションより)

図2.detectORE(横軸)と他手法(縦軸:Fire Assay, ICP-MS)による
公称標準溶液(CRM:139試料)の測定結果(Pppb社HPプレゼンテーションより)

CRMとはcertified reference material:認証済み標準物質

公称標準溶液を使いdetectORE™技術により作成された1~100ppb濃度の検量線を図3に示す。10ppbより低濃度では誤差が大きい傾向が認められる。

図3.1~100ppbまでの検量線(Pppb社HPプレゼンテーションより)

図3.1~100ppbまでの検量線(Pppb社HPプレゼンテーションより)

右図は左図の赤枠の拡大図。

2.4 現場への適応

過去にハンドオーガーによって土壌を採取し、ラボでの分析結果がある測線(WA州Holleton地域)において、detectORE™技術による検証試験が行われた。写真1、2に現地調査の状況、図4に既知の調査結果(緑色線、スケール右側)とdetectORE™技術による2度の検証結果(A:青色線、B:赤色線、スケール左側)を示す。緑色線で示される分析結果に関する試料は、ハンドオーガーによって深さ0~1.5mで採取され、原子吸光法によって分析されている。なお、detectORE A及びdetectORE Bとも深さ0~0.3mで試料が採取された。detectORE AとdetectORE Bの分析結果は良く一致しており、再現性が高いことが証明された。他方、オーガーによる原子吸光法とは4~5倍の濃度の違いが見られるものの、地化学異常の傾向は良く似ており、地化学異常域の範囲を明らかにする目的の地化学探査に対して十分に有効な結果が得られている。

  • 写真1.現場での作業状況

    写真1.現場での作業状況

    ハンドオーガーによって土壌を採取し、
    篩によって2㎜以下にする。

  • 写真2.現場での作業状況

    写真2.現場での作業状況

    プラスチックボトルに試料、widget、水を入れ、
    24時間後にpXRFで測定する。

    (Pppb社HPプレゼンテーションより)

図4.WA州Holleton地域での土壌分析結果(Pppb社HPプレゼンテーションより)

図4.WA州Holleton地域での土壌分析結果(Pppb社HPプレゼンテーションより)

横軸は試料採取位置(南北方向のU™座標)

おわりに

本稿で紹介したdetectORE™技術は、約2年にわたり広範囲に様々なテストを重ねており、初期探鉱のみならず、操業鉱山での利用も考慮した技術開発が行われている。現在、スポンサー企業はいち早くこの技術を利用可能となっており、既に大手金鉱山会社、金探査会社及びpXRF製造会社等、15社以上がスポンサーとなっている。一般の利用も2020年中に可能となる見通しとなっている。今後、様々な探鉱プロジェクトに本技術が投入され、効率的な初期探鉱が実施されることで、新しいゴールドラッシュが起きるかもしれない。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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