報告書&レポート
Mining Survey 2021参加報告
はじめに
2021年7月6日、BNamericas社主催の「Mining Survey 2021」Webinarが開催された。同社は、南米における鉱業の投資環境に関する鉱山会社等へのアンケ―ト調査を毎年実施しており、本講演は2021年の調査結果報告である。2020年、COVID-19感染拡大は鉱業へ多大な影響を与えたが、現在の鉱業は回復基調にあり、2020年と2021年の投資環境には大きな変化が認められた。以下に報告内容を示す。
1.調査内容
2021年5月24日~6月21日にかけて、2021年鉱業の投資環境に関する鉱山会社等へアンケート調査を行い、222件の回答を得た。回答者の内訳は、図1のとおり。

図1.アンケート回答者
なお、回答者が活動する国別の割合(重複を含む)は、チリ:58%、ペルー:41%、ブラジル:29%、メキシコ:26%、アルゼンチン:24%、コロンビア:23%、エクアドル:19%、ボリビア:14%、パナマ:10%、及びその他、となっている。
2.鉱業におけるCOVID-19の影響
2021年の調査結果におけるCOVID-19の影響度は、影響が「大きい」との回答が32%、「中程度」との回答が55%となった(図2)。2020年の調査結果では影響が「大きい」との回答が52%であったことから、COVID-19の影響は減少傾向にあると言える。しかしながら、いくつかの鉱山操業が未だフル生産に戻っておらず、引き続きCOVID-19の状況下における操業やプロジェクト実施には、安全衛生プロトコルの徹底が必要とされている。

図2.鉱山会社におけるCOVID-19の影響度合い
3.鉱山会社等が焦点を当てる主要な戦略
2021年の鉱山会社等が焦点を当てる主要な戦略は、過去数年間の調査結果と一致している。COVID-19の感染拡大(以下、パンデミック)が発生する前から「操業の最適化」が常に最優先事項であったが、今回結果では「操業の最適化」がさらに強調され、2020年の43%を上回る46%に上昇した(図3)。一方、「パンデミックによって中断された操業の強化」については19%であり、2020年の27%から減少傾向にある。既存事業の促進については、2020年とほぼ横ばいであった。鉱山会社と非鉱山会社の調査結果の内訳(図4)を見ると、鉱山会社は非鉱山会社より「操業の最適化」に重点を置いていることがわかる。

図3.鉱業会社等が焦点を当てる主要な戦略(2021年対2020年)

図4.鉱山会社と非鉱山会社が焦点を当てる主要な戦略(2021年)
4.脱炭素化及びデジタル化への投資
温室効果ガス(Greenhouse Gas、以下GHG)削減に関する投資については、全体のうち41%はこれまでと同様「変更なし」であった一方、37%は「増加させる」という結果となった(図5)。「変更なし」としている回答者の多くは、現在スタディ中であり、数年後には投資を増加させる可能性がある。他方、新技術や鉱山操業のデジタル化に関する投資については、62%が「投資を増加させる」という結果となっている(図6)。理由としては、操業の最適化に注目が集まっていること、またパンデミックによりリモート化が促進されていることが挙げられる。

図5.2021年におけるGHG削減のための投資について

図6.2021年における新技術または鉱山操業のデジタル化に関する投資について
5.南米の鉱業部門における最大の脅威
鉱業部門における脅威について、2020年はCOVID-19の流行が最大の脅威であったが、2021年は政治的または法律の不確実性が45%を占め、またカントリーリスクまたは資源ナショナリズムが急増し全体の30%となり、2020年の結果から変化が認められる(図7)。チリでは銅とリチウムの生産に対し新たなロイヤルティを課すという内容の法案が提案されており、またペルーの大統領選では正式な結果は出ていないが、急進左派のPedro Castillo候補が当選確実となっていることも上述の要因になっていると考えられる。

図7.2021年における南米の鉱業部門の最大の脅威
6.南米における鉱業への投資環境
2021年、チリでは鉱業ロイヤルティ法案が審議中であるが、南米の中では投資環境が「最も安定」していると評価されており、2020年より3%上昇している(図8)。2位タイのブラジルは7ポイント上昇したが、鉱業に関する増税や鉱山労働者への規制変更が圧力となり、チリと圧倒的な差が開いている。またエクアドルは政治リスクが徐々に低下しており、投資環境が改善されつつあることから、2020年より支持率が増加している。一方、ペルーは2020年まで過去10年間にわたりチリに次ぐ2位であったが、Vizcarra前大統領とKuczynski元大統領の汚職問題等により政治危機となり、投資環境や企業の見通しに悪影響を与え、国民の不満も高まっている。さらに大統領選で急進左派のCastillo候補が当選確実となり、同候補の鉱業ロイヤルティに係る政策等、鉱山会社にとっては投資し難い環境になる可能性があり評価が低下している。

図8.中期的に南米で鉱業の投資環境の良い国(2021年対2020年)
おわりに
パンデミックは鉱業界にも大きな影響を及ぼしたが、新技術やデジタル化への投資促進のトリガーともなり、鉱業が迅速に環境の変化に順応している一例と言える。2021年になり、鉱山会社が焦点を当てる戦略として、「パンデミックにより中断された操業の強化」から、「鉱山操業の最適化」が最優先事項にシフトしたことは、鉱山会社のCOVID-19へ早期対応能力の表れと考えられる。投資環境については、南米各国の政治的、カントリーリスクないし資源ナショナリズム等の脅威が年々増しており、今後も注視する必要がある。
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