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報告書&レポート

2021年10月13日 ロンドン 事務所 倉田清香
21-15

2021年前半のバッテリーメタルの動向

2021年前半欧州内ウェビナーでの情報収集

<ロンドン事務所 倉田清香 報告>

はじめに

新型コロナウイルスによるパンデミックが1年以上続く中、政府による経済刺激策も含め、グリーン化・電気自動車(EV)化が加速し、バッテリーメタルのサプライチェーンに影響を及ぼしている。こうした状況下、2021年前半に開催されたウェビナーのうち、Advanced Automotive Battery Conference(1月)、Cobalt Institute Conference(5月)、Benchmark EV Fest(6月)及びCritical Minerals Association – Defining Criticality – What Makes a Critical Mineral?(7月)において収集したバッテリーメタルに関するトレンドやリスクのほか、国や企業の取り組みについて紹介する。

1.バッテリーメタルのトレンド

1.1 Developing the Lithium Pipeline in Europe(2021年6月Benchmark EV Fest)

講演者:Daisy Jennings-Gray, Analyst, Benchmark Mineral Intelligence

2021年6月時点では、バッテリーメタルのサプライチェーンは、原材料が採掘地域から製錬のために中国へ輸出され、その後セル・カソード生産のために欧州に輸出されている状態である。将来的には、原材料が採掘地域からセル・カソード生産のために直接欧州へ輸出されるようになり、欧州においても中流から下流までのサプライチェーンがローカライズされると予測している。欧州における課題としては、当局の認可、高コスト、プロジェクト立ち上げまでの時間、投資不足が挙げられる。

1.2 Battle of Gigafactories(2021年6月Benchmark EV Fest)

講演者:Simon Moores, Managing Director, Benchmark Mineral Intelligence

インドにリチウムイオン電池(LIB)のギガファクトリーがあってもおかしくないが、そうはなっていない。中国がギガファクトリーを立ち上げたタイミングでインドも立ち上げる必要があったと感じている。Tesla社及びPanasonic社のギガファクトリー1建設の際には、2014年の発表後、生産開始まで4年、計画生産能力への拡大までさらに3年かかっている。

EV移行の加速の制約要因は原材料不足である。EV移行に関して、EU内では特に銀行と企業のパートナーシップが見受けられる。一方、米国ではTesla社が他の企業より先行している。

原材料の課題としては、水酸化リチウムが市場に流通するまでに時間がかかってしまう点が挙げられる。プロジェクト開始から採掘まで最低5年、その後中流の生産まで24~30か月を要し、原材料をすぐにバッテリーサプライチェーン上に載せるのが難しい。この期間の短縮が成功へのカギである。中流施設を多く保有していることが企業価値向上に繋がると考えている。これは中国が実際に行動に移した戦略であり、現在ではTesla社がこのような動きを始めている。

また、他企業とパートナーシップを組むことでリスクを共有することができる。Benchmark Mineral Intelligence社の分析によると、JVが成功した話はあまり聞かず、最終的には常にパワーバランスの不平等がある。今後5年間でどのような状況になっていくのか分析していきたい。

ESGに関しては、今後10年の終わり頃に大きな影響を及ぼすと考えているが、現実的には重要性は2番目であって、最優先の課題はコストや生産能力などである。

2.各鉱種のリスク

2.1 リチウム

Developing the Lithium Pipeline in Europe(2021年6月Benchmark EV Fest)
講演者:Daisy Jennings-Gray, Analyst, Benchmark Mineral Intelligence

欧州内におけるリチウムのリスクは、欧州内の需要を域内の供給により満たすことが難しいことである。2030年時点の地域別セル需要は、中国27%、欧州25%、北米25%、中国以外のアジア15%、南米5%、その他3%と予測されている。リチウムの需要が2020年から2030年にかけて10倍以上になると見込まれる中、欧州でのリチウムケミカルの供給は2024年から2030年にかけて徐々に増加していくものの、2030年時点で需要の5分の1しか満たすことができないと予測している。

なお、欧州及び欧州近隣においてリチウムケミカルの生産能力を有するプロジェクトは主に4つある。

  • (1)Leverton社:英・Basingstokeにおけるリチウム化合物誘導体生産
  • (2)Albemarle社:独・Langelsheimにおけるリチウム化合物誘導体生産
  • (3)PJSC CMP社:ロシア・Krasnoyarskにおける炭酸リチウムから水酸化リチウムへの変換
  • (4)TD Halmek社:ロシア・Pervomayskoeにおける炭酸リチウムから水酸化リチウムへの変換

また、欧州内のリチウム開発として、原材料採掘については、Rio Tintoのセルビア・Jadarプロジェクト、European Metal Holdings社のチェコ・Cinovecプロジェクト、Savannah Resources社のポルトガル・Mina do Barrosoプロジェクト、Keliber社のフィンランド・Rapassariプロジェクトがある。リチウムケミカル生産については、AMG社のドイツにおける水酸化リチウム施設がある。セル部品の生産については、Johnson Matthey社のフィンランドにおけるカソード工場、Umicore社のドイツにおけるカソード工場、及びBASF社のドイツにおけるカソード工場がある。

2.2 ニッケル

Cinderella Search – The Hunt for “Green” Nickel(2021年1月Advanced Automotive Battery Conference)
講演者:Andrew Mitchell, Head of Nickel Research, Wood Mackenzie

現在、ニッケル生産量が多いプロジェクトにおいては二酸化炭素排出原単位が高いため、ニッケル調達にあたってのESGリスクともなりうる。

表1.ニッケルプロジェクトの二酸化炭素排出量
プロジェクト名 生産量(centile) 二酸化炭素排出
(t CO2e/t Nieq)
Terrafame 35 5
Ramu 42 13
Nickel West 54 23
Weda Bay 70-75 43
Tsingshan Indonesia 70-75 43
NPI – RKEF 81-83 45
Virtue Dragon 83-85 46
NPI – EAF 97 73
NPI – BF 99 75

2020年時点Wood Mackenzieのデータを元にJOGMEC作成
※平均は25t CO2e/t Nieq

将来におけるニッケルの供給を確保するには、ESGリスクを抱える国への投資が必要となる。Verisk Maplecroft 2020における2020年第3四半期ESGリスクインデックスによれば、豪州やカナダは低リスクとされているが、南米は中リスク~高リスク、東南アジア、ロシア、アフリカは高リスク~極端に高リスクとされている。

2.3 コバルト

Cobalt market overview and outlook(2021年5月Cobalt Institute Conference)
講演者:Ying Lu, Senior Market Analyst, Roskill

新型コロナウイルスによりコバルトのサプライチェーンが混乱したことで、コバルトはこうした影響を受けやすいことが強調された。パンデミック当初は、特にコバルトの物流が生産よりも影響を受けた。ロックダウンにより南アフリカの港が数か月閉鎖されたことにより、DRコンゴの零細採掘からの生産量は大幅に減少し、初期探鉱段階のプロジェクトのファイナンスや建設に遅れが生じた。マダガスカルのAmbatovyプロジェクトは2020年5月に操業停止後2021年3月23日まで再開できず、モロッコCTT社の生産は2020年3月から4週間停止し、中国での精錬能力は50%以下となり、インドネシアのHPALプロジェクトは2020年4月から5月まで停止していた。

3.各国の取り組み

3.1 ドイツの取り組み

Europe: Building a Lithium Ion Economy – A German Perspective(2021年6月Benchmark Minerals EV Fest)
講演者:Dipl. Geol. Michael Schmidt, Deusche Rohstaffogentur (DERA) in der Bundesanstalt für Geowissenschaften und Rohstoffe (BGR)

ドイツ地質資源調査所・鉱物資源局(DERA)は「原材料リスト2021」を公表しており、どの鉱物にカントリーリスクがあるのかを評価している。このリストでは、採掘場所の偏在リスクとカントリーリスクを評価しており、コバルトは採掘可能な場所がDRコンゴに限られているためハイリスク、リチウムは供給が豊富で採掘可能な場所のカントリーリスクも低いため低リスク、ニッケルは中リスクとしている。

図 DERA各原材料の偏在リスクとカントリーリスク

図 DERA各原材料の偏在リスクとカントリーリスク

出典:DERA – Rohstoffliste 2021

3.2 豪州から見た重要鉱物

Defining Criticality – What Makes a Critical Mineral?(2021年7月Critical Minerals Association – Defining Criticality – What Makes a Critical Mineral?)
講演者:Allison Britt, Director Mineral Resources Advice and Promotion, Geoscience Australia

重要鉱物は国によって異なる。例えば、豪州はリチウム、マンガンを重要な鉱物としているが、EUはこれらを重要鉱物と評価していない。

表2.各国の重要鉱物リストの比較
国・鉱物 ヒ素 コバルト ゲルマニウム インジウム リチウム マンガン モリブデン ニオブ ニッケル リン 白金族 レアアース アンチモン チタン バナジウム タングステン
豪州
カナダ
EU
インド
日本
英国
米国

EUは、グリーン革命を実現する上で、EUが保有しておらず、また供給が保証されていない金属・鉱物が不可欠であると認識している。サーキュラーエコノミーが進展しても、リサイクルで必要な全ての原材料を供給することは難しい。

3.3 DRコンゴの取り組み

Artisanal cobalt production in the DRC: Towards a safe and just transition’(2021年5月Cobalt Institute Conference)
講演者:Jean-Dominique Takis, CEO, L’Enterprise Générale du Cobalt

DRコンゴ政府は、2019年にL’Enterprise Générale du Cobalt社(EGC社)を立ち上げた。同社の目的は4つある。

  • (1)零細採掘者の労働条件の向上及び労働者保護
  • (2)零細採掘からの利益の増加
  • (3)操業のトレーサビリティの確保
  • (4)DRコンゴのイメージ向上及び投資募集のためのビジネス評価の向上

また、同社のトレーサビリティの向上に関しては、3つの段階で動きがある。

  • (1)購入:DRコンゴのAgency for Regulation and Control of the Strategic Mineral Substance Markets(ARECOMS)による証明を保有する認証企業からコバルト鉱石を購入。
  • (2)処理:地域工場でコバルト鉱石を水酸化コバルトに処理。
  • (3)輸出:水酸化コバルトを最終購入者及びトレーダーに輸出。

EGC社の責任ある調達基準は、DRコンゴの法律及びOECDデューディリジェンスガイダンスに沿っている。この責任ある調達基準は、鉱山会社、協力企業、EGC社及び購入者にも適用される。基準のコントロールとコンプライアンス管理について、現場ではEGC社及び国際NPOであるPACTが行っており、規制上の観点ではARECOMSが行っている。

EGC社はトレース可能で責任ある調達サプライチェーンを開発するために2020年10月からTrafigura社と契約を締結している。

4.各企業の取り組み

4.1 Benchmark session: Cobalt’s life cycle: The benefits cobalt brings to the lithium-ion battery supply chain(2021年5月Cobalt Institute Conference)

講演者:Ash Lazenby, Cobalt Trading/Marketing, Glencore

Glencoreは、DRコンゴのKatangaプロジェクトにて年間30千tの水酸化コバルトを生産し、豪州のMurrinプロジェクト及びノルウェーのNikkelverkプロジェクトにて年間5千tのコバルトを生産している。同社のコバルト生産量は世界の25~30%を占める。

同社のDRコンゴにおけるコバルト操業では水力発電を活用しており、炭素排出量が少ない。また、カナダのSudbury統合ニッケル操業では、ニッケル・コバルト資産ともに風力及び水力発電を活用しており、低炭素でニッケル及びコバルトを生産できている。

Glencoreの戦略として、長期契約パートナーシップを締結している。主なものは次のとおり。

  • Umicore社に対する水酸化コバルトの供給(2019年5月29日)
  • SK Innovation社に対し、2020年から2025年の間に最高30千tのコバルトを含む水酸化物を供給(2019年11月19日)
  • Samsung SDI社に対し、2020年から2024年の間に最高21千tのコバルトを含む水酸化コバルトを供給(2020年2月10日)
  • GEM社に対し、2020年から2029年の間に約150千tのコバルトを含む水酸化物を供給(2020年12月3日)

コバルトについては3つの課題がある。第一に、コバルトの消費量の減少である。各種EVに必要なコバルトの量は減少傾向にありEVからの需要が少なくなっている。第二に、コバルトの将来的な供給不足である。Glencoreは、Katangaプロジェクトにおける生産拡大やMutandaプロジェクトの再開によってコバルトの供給を増加させることができる。第三に、コバルトのレピュテーションリスクである。Glencoreはコバルトの責任ある調達の実践に取り組んでいる。RMIやICMMなどのサプライチェーンデューディリジェンスに関する団体のほか、零細採掘を改善し、児童労働を排除し、ローカルコミュニティの利益を保証するためのFair Cobalt Allianceにも所属している。EV産業はDRコンゴを積極的に支援サポートすべきである。

4.2 Enough Nickel for Batteries?(2021年1月Advanced Automotive Battery Conference)

講演者:Denis Sharypin, Strategic Marketing Director, Nornickel

Nornickel社は、年間200千tのニッケル及び5千t以上のコバルトを生産している。2019年度の世界市場シェアでは、クラス1ニッケルは24%、コバルトは11%を占めた。フィンランドのHarjavalta精錬所では、2019年に62千tのニッケル、1~2千tのコバルトを生産した。一方、ロシアのKola製錬所では、2019年に154千tのニッケル、3~4千tのコバルトを生産した。2030年までに、ニッケル地金の生産量を対2019年比25%増となる250~270千tまで増加させる目標を立てている。

中国では、セルツーパックのLFPバッテリーがより安価な製品としてシェアを増やしているが、これが活用されているのは中国国内のみである。LFPバッテリーはより充電に時間がかかり、自己放電、低温下でのパフォーマンス低下などの課題がある。現状では、セルツーパックのLFPバッテリーは電池セルNCM523よりも10~20%コストが安い。

バッテリー用ニッケルの課題としては、クラス2ニッケルをニッケルマットへ変換して高品位のニッケルを生産する場合、カーボンフットプリントの懸念があることが挙げられる。また、過去10年間においてはニッケルが低価格であったため、インドネシア以外のニッケルプロジェクトに対する投資が不足している。足下のニッケル価格の高騰は新規プロジェクト開発を促進する可能性があるが、FSに2~3年、建設に4~5年、また生産能力増強には1~2年を要する。

2030年までのバッテリー用ニッケルの追加供給源として、以下の5つが考えられる。

  • (1)過去のクラス1ニッケルの在庫の蓄積による今後5年間における50千tの確保
  • (2)インドネシアでの新規の高品位プロジェクトによる200千tの追加供給、及びインドネシア以外でのプロジェクトからの100~200千tの追加供給
  • (3)クラス2ニッケルから硫酸ニッケルへの加工による100~200千tの追加供給
  • (4)バッテリースクラップからの100~200千tの追加供給
  • (5)硫酸ニッケルもしくは高品位ニッケルのスクラップ処理による年間20~30千tの追加供給

4.3 The Perfect Cathode: Checking All the Boxes(2021年1月Advanced Automotive Battery Conference)

講演者:Tom Van Bellinghen, Marketing & Sales Director Rechargeable Battery Materials, Umicore

今後10年間でUmicore社は持続可能なコバルト調達を促進し続け、これをリチウムの持続可能なフレームワークにも拡大していく予定である。また、大量生産のデータに基づいて正確なカソードのライフサイクルアセスメントを提供し、カーボンフットプリントを約50%削減するためのロードマップを明確にしていく。生産においては、今後10年間ですべての主要な地域(韓国、中国及びEU)でバッテリー生産を行い、サプライチェーンの製錬、前駆体及びカソード生産に関与していくことを目指す。次世代の生産テクノロジーを現状の10倍規模で開発し、カーボンフットプリントを大幅に削減する。さらに、コバルト、ニッケル及びリチウムの大規模な「closed-loop」ソリューションを提供する。

おわりに

バッテリーメタルのサプライチェーンは変化の真っ只中にあり、特に欧州では中流・下流のローカライズを目指している。各鉱物のリスクも顕在化してきており、各国政府が自国にとっての重要鉱物を明確にしているほか、国・企業ともに零細採掘への対応を含むESGの取り組みについてもより積極的になっている。各国・各企業は、これらの様々なファクターが介在するサプライチェーンに今後も対応し続けられるよう、様々な取り組みを行おうとしていることが確認された。こうした動きについて、今後も注視していきたい。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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