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報告書&レポート

2022年2月2日 サンティアゴ 事務所 兵土大輔
22-03

チリ共和国、リチウム特別操業契約(CEOL)の入札結果

<サンティアゴ事務所 兵土大輔 報告>

はじめに

2021年10月13日、鉱業省は80千tずつ5つに割当した合計400千tのリチウム探査及び生産に係る特別操業契約(CEOL)の入札準備を開始し、2022年1月12日に本入札の結果が発表された。直近のCEOLの入札は2012年に行われ、チリ・SQM社が落札したが、同社が入札参加資格要件を満たしていなかったことが判明し、落札が取り消される事態となった経緯がある。その後、この結果を受け入札をいわばやり直すような議論が見受けられない中、本入札は事前情報がなく突発的に施行された。一方で、2022年3月11日新大統領に就任予定の左派Boric氏は、選挙公約として「リチウム国営会社の設立」を掲げている。さらに、本入札のプロセスに関して一部の左派下院議員から批判されており、円滑に本CEOL契約が締結されるか懐疑的な状況となっている。

南米では、アルゼンチンのリチウム開発が活性化している一方で、中国企業がリチウム開発を行っている企業を買収する動きが見られる。そのような状況において、今般の入札を巡る中国企業の動向が注目される。

本稿では、鉱業省1ほかの公開情報に基づき、CEOLの入札結果について紹介する。

1.CEOL入札の背景

チリ銅委員会(COCHILCO)2の報告によると、チリは世界のリチウム埋蔵量で第1位の44%を占めている一方で、リチウム生産量は豪州に次ぐ世界第2位の32%となっており、また2030年には同15%に後退すると予測されている。他方、脱・低炭素社会への取り組みとして、電気自動車(EV)部門等においてはリチウムイオン電池(LIB)需要の増加により、世界のリチウム需要は2030年に1,793千t(対2021年比418%増)と大幅に増加することが予測されている。リチウム供給も2030年に1,465千t(同336%増)と増加するが、328千tの供給不足が生じると予測されている。

チリは世界第1位のリチウム埋蔵量を保有するも生産量が増加しない要因のひとつとして、現行のチリ鉱業法(法律第18248号、1983年公布)の第7条に「リチウムは鉱区の設定ができない鉱物」と定められており、新たなリチウム開発プロジェクトを立ち上げることは事実上難しい状況にあるからである。今般、約9年ぶりにCEOLの入札を開催した背景としては、チリの将来的なリチウム生産量を増加させ、リチウム生産のシェアをこれ以上奪われないようにすることが目的と考えられる。

2.CEOLの概要

本入札の落札者となり契約締結する場合のCEOLの内容を概括する。

(1)契約の権利

CEOLなしでは不可能であった場所で、リチウムを抽出する権利が付与される。原子力エネルギー委員会(CCHEN)の承認に代わり、特定の制限下でチリ国内にて抽出されたリチウム製品を商品化する権利が付与される。

契約者は国土の任意の地域で、割当1つの場合は80千t、2つの場合は160千tの金属リチウムの探査、開発、選鉱まで行うことができる。

(2)国への保証支払い義務

入札者はCEOL契約成立後、その落札額と必要な保証金を国へ支払う。リチウム生産を行う場合、国へ年間営業利益に応じた支払いを行う。

(3)報酬

CEOL契約者は国への支払い及び適用される税金の納税後、残りの収入を報酬として得られる。

(4)契約の譲渡

CEOL契約者は鉱業省の許可なく当該CEOLを第三者に譲渡または処分することができない。ただし、譲渡は契約全体でのみ行うことができる。

(5)入札スケジュール

  • 2021年11月12日       入札要領及び付随書の購入締め切り
  • 2021年11月18日       質問状提出締め切り
  • 2021年11月25日       回答公開
  • 2021年12月17日       入札締め切り
  • 2022年 1月14日       入札結果公表
    ※2022年1月14日に入札結果が公表される予定であったが、鉱業省は同年1月12日に前倒しで公表した。

3.入札条件

CEOLの入札及び締結に応札企業が課された主な条件は、以下のとおりである。入札プロセスの管理は、Edgar Blanco鉱業次官が委員長を務める入札特別委員会(CEL:Comité Especial de Licitación)が行う。

  • (1)入札要領及び付随書の購入:200,000CLP(チリペソ)
  • (2)最低入札価格:割当1つあたり5mUS$
  • (3)入札参加の保証:最低入札額の10%
  • (4)入札価格の保証:経済的入札の価値の100%
  • (5)抽出開始前の作業の実行保証:割当1つあたり1mUS$
  • (6)契約者はCEOL締結の際にはチリに法人を設立しなければならない

4.入札に申請した企業及び入札結果

2021年11月12日締め切りの入札要領及び付随書を購入した企業は、延べ57社とされている。2021年12月17日時点で、本入札には8社が応札した。2021年12月30日、応札した8社のうち3社が却下され、引き続き残り5社で割当の競争を継続することとなった。5社の入札提案額及び割当数は、表1のとおりである。

表1.本入札に関する応札企業の入札提案額(US$)、割当数及び結果
企業名 入札提案額(US$) 入札提案割当数 入札結果
BYD Chile SPA社 61,000,999 1(80千t) 落札
割当数:1(80千t)
Albemarle Limitada社 60,000,000 2(160千t)
Cosayach Caliche SA社 30,100,000 1(80千t)
Servicios y Operaciones Mineras del Norte SA社 60,000,000 1(80千t) 落札
割当数:1(80千t)
SQM(Sociedad Quimica y Minera de Chile SA)社 14,050,000 1(80千t)
19,100,000 2(160千t)

2022年1月12日、鉱業省はCEOLの入札の落札者としてBYD Chile SPA社(中国・比亜迪股份有限公司(BYD社)の現地子会社)及び地元チリ・Servicios y Operaciones Mineras del Norte S.A社に決定したと発表した。両者は提案に応じた割当数(各社1つ(80千t))に関するCEOL契約の権利が付与される。鉱業省は、落札した2社が5社の中で高い入札提案額を提示し、またリチウム市場の競争を激化させることが評価されたとしている。一方、国内でリチウム生産の実績があるSQM社及び米Albemarle社は落札者とはならなかった。

今回の入札により付与された割当は合計160千tであり、これはチリのリチウム埋蔵量の1.8%に相当する。

おわりに

今般のCEOL入札の落札者のうち、1社は中国系企業のBYD Chile SPA社となった。BYD社は、2018年に青海省西寧市で車載用LIBの新工場の操業を開始しており、またEV販売の割合はTesla社に次ぐ世界第2位に位置している3。チリでは既に電気バスを455台納入したほか、近年では海外の上流資源に積極的に投資し原料確保に向けて動いていることから、本入札にも応札したと考えられる。

本入札では、80千tずつ5つに割当した合計400千tを対象としながら、落札はその半分にも満たない160千tのみであった。さらに、国内でリチウム生産の実績があるSQM社及びAlbemarle社が落札されなかったことは驚きをもって受け止められ、入札の評価基準においては、入札提案額のウエイトが大きかったと推察される。

他方、本入札に関して一部の左派下院議員はプロセスを批判しており、2022年3月11日に新政権が発足するまで本件入札手続きを一時停止するよう要請している。また、新大統領は左派のBoric氏であり、大統領選では「リチウム国営企業の設立」を公約に掲げたことから、新政権下において本CEOLの取り消し等の対処がなされる可能性がある。本CEOLの入札結果は2022年1月14日とされていたところ、2日早い同年1月12日に結果が発表された。CEOLの署名は落札者の通知から最大2か月以内と定められており、現政権は2か月後の新政権発足時期を見越しプロセスを急いだゆえの前倒し発表だったのかもしれない。このような現政権と新政権の攻防等、流動的な状況下における本入札の今後の動向については注意を払っていく所存である。


  1. 鉱業省HP情報:https://www.minmineria.cl/
  2. チリ銅委員会(COCHILCO)「El mercado de litio (Desarrollo reciente y proyecciones al 2030)」: https://www.cochilco.cl/Mercado%20de%20Metales/Produccio%CC%81n%20y%20consumo%20de%20litio%20hacia%20el%202030%20edicio%CC%81n%202021%20versi%C3%B3n%20def.pdf
  3. チリ銅委員会(COCHILCO)“Oferta y demanda de litio hacia el 2030”

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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