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グリーンランドウラン新規制法可決後のレアアースプロジェクトの動向
はじめに
北大西洋及び北極海に位置するデンマーク領グリーンランドは、豊富な資源ポテンシャルが確認されている。特にレアアースに関しては、米国地質調査所(USGS)によると、図1のとおり未開発地域では世界最大規模のポテンシャルが確認されている。同地域では、豪Greenland Minerals社、加Hudson Resources社、及び豪Tanbreez社がそれぞれレアアースプロジェクトを進めている。
同国では、2021年4月の自治議会選挙を経て、ウランゼロポリシーを掲げるイヌイット友愛党が政権を獲得した。同政権は、同年11月9日にウラン規制法案を議会で可決したことから、レアアース開発に随伴するウラン等の放射性物質をめぐってプロジェクトの動向に関心が集まっている。本稿では、グリーンランド自治議会において可決した新たなウラン規制法の概要、及び上記プロジェクトの動向を紹介する。
1.グリーンランドのレアアースポテンシャル
※酸化物(REO)換算量
出典:米国地質調査所公表資料よりJOGMEC作成1
米国地質調査所によると、世界のレアアース埋蔵量は120百万tであり地殻中に比較的豊富に存在するが、採掘可能な品位で経済性が担保されるプロジェクトは限られる。特に、レアアースの鉱石採掘には、ウラン、トリチウムなどの放射性物質が随伴することが多く、環境規制及び操業コストがプロジェクトの進捗に大きな障害となる。図1に示した赤色の地域であるグリーンランド、カナダ、タンザニア、南アフリカでは、レアアースのポテンシャルが確認されているものの、未開発地域となっている。特にグリーンランドは、酸化物換算量で年間38千tのレアアース鉱石を生産する米国と同等規模である1.5百万tの埋蔵量が確認されており、未開発地域においては世界最大規模のポテンシャルとなっている。グリーンランド自治政府は、デンマーク王国から広範な自治権を得ており、その中には天然資源の管轄権も含まれている。漁業及び観光が主な産業であり、財政の大半をデンマーク政府からの補助金に頼っている。グリーンランドは、レアアースのみならず鉄鉱石、銅、亜鉛、金などのポテンシャルが確認されている。同地域は、独立意識が高い住民が多く、近年は積極的な鉱業事業を展開することで、経済発展を促進させ独立を達成することを目標としてきた。
2.グリーンランドの新たなウラン規制法
ウランゼロポリシーを掲げて自治議会選挙に勝利したイヌイット友愛党率いる新政権は、2021年9月時点で鉱業大臣であるNaaja Nathanielsen氏が、「我々が把握していることは、Narsaq及びその周辺の環境放射線の値は非常に高く、Kvanefjeldレアアースプロジェクトは新たなウランゼロポリシーに反するものである。」2として、ウラン規制に対して強い意欲を示していた。2021年11月9日には、法案のパブリックコンサルテーションを経た上で、自治議会において新たなウラン規制法が可決された。新法は、豪Greenland Minerals社Kvanefjeldレアアースプロジェクト停止につながる可能性が高いことから、同社と自治政府の間で法解釈等を巡って交渉が続いている。新法「ウランの調査、探査、開発等を禁じるグリーンランド議会法」は以下のとおり全5条で構成されている。
第1条 |
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第1項 | ウランの調査(prospecting)、探査(exploration)、及び開発(exploitation)は許可しない。 |
第2項 | ウラン以外の元素を対象とした調査、探査、及び開発で、資源総量の平均ウラン含有量が100ppm未満の場合は、第1項の規定は適用されないものとする。 |
第2条 |
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グリーンランドの内閣(Naalakkersuisut)は、第1条の禁止条項(ウランの調査、探査、開発の禁止)を他放射性元素にも適用させる規定を発することができる。内閣は、許可される(平均ウラン含有量の)閾値、及び関連する放射性元素の調査、探査、開発ライセンスの制限、及び取り消しに関する規定を発することができる。 | |
第3条 |
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第1条の定めによって開発が不可能な場合において、内閣は鉱物資源の調査、探査、又は開発ライセンスを制限又は取り消すことができる。 | |
第4条 |
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第1項 | 第1条の定めに違反した場合は、罰金等の処置を講ずる。 |
第2項 | 会社等(法人格)は、刑法第5編の規定に基づき刑事責任を負う。 |
第3項 | グリーンランド議会法にて発令された行政規則において、規則内の規定に違反した場合の処置としては罰金を定めることができる。 |
第4項 | 罰金は財務省に帰属する。 |
第5条 |
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第1項 | このグリーンランド議会法は、公布の翌日より施行される。 |
第2項 | このグリーンランド議会法は、施行した日より後に発行されたライセンスに適用する。 |
出典:NUNA, Greenland Parliament Act to ban uranium prospecting, exploration and exploitation, etc.よりJOGMEC訳出3
3.ウラン規制法成立後のKvanefjeldレアアースプロジェクトの動向
Kvanefjeldレアアースプロジェクトは、年間を通してロジスティクスの確立が容易なグリーンランド南部に位置しており、豪Greenland Minerals社によって2007年から本格的にプロジェクトが始動している。同プロジェクトは、過アルカリ岩型レアアース・ウラン・亜鉛プロジェクトで、マインライフは37年(JORC2012基準で108百万tの鉱石埋蔵量)と推定されており、ネオジム、プラセオジム、テルビウム、及びジスプロシウム等を酸化物換算量で年間約32千t生産し、副産物としてウランの生産を計画している4。
「ウランの調査、探査、開発等を禁じるグリーンランド議会法」は、2021年12月1日に施行され、12月2日以降に発行される鉱業ライセンスに適用される。ウランの調査、探査、開発を禁止する同法について、Greenland Minerals社は、過去10年間にわたって歴代のグリーンランド自治政府が採用したイニシアティブ、政策、法律を覆すことを目的としているとコメントしている5。グリーンランドには、ウランの一次生産を計画しているプロジェクトがないことから、同社は、新法による認可済み鉱業ライセンスへの影響について、自治政府に説明を求めている。なお、Kvanefjeldレアアースプロジェクトにおいて、副産物であるウランは全体の収益の5%程度を占めている。
2021年12月15日、同社はグリーンランド自治政府との会談を実施したことを公表している。この会談の席において、自治政府は、認可済の探査ライセンス(exploration license El 2010/02)と、開発ライセンス申請(exploitation license application)は分離したプロセスであることから、プロジェクトの開発ライセンス申請は認可されない見解を明らかにした。その上で、Greenland Minerals社に対して、①現在の開発ライセンスの申請は維持し、不認可となる、または、②現在の開発ライセンスの申請を撤回し、新法おける100ppmのウラン閾値の制限を遵守できることを示した形で修正し再申請をする、という2つの選択肢を示した6。今後、鉱業大臣であるNaaja Nathanielsen氏との会談も予定しており、自治政府との交渉は継続する見込みとなっている。
同社は、新法より逆風(headwinds)に晒されていることを認め、事業に関する戦略的レビューを実施していることを明らかにしている。また、グリーンランドでのプロジェクトは維持する方針を示しつつ、地理的な多様化、重要鉱物サプライチェーンに関連する収益化できる取り組みを含めて事業活動の拡大を図ることを公表している7。経営層及び役員等の刷新も見込まれており、戦略的レビューの詳細は、今後公表される見通しとなっている。
おわりに
グリーンランドでは、図2のとおりTanbreezレアアースプロジェクト及びSarfartoqレアアースプロジェクトが進捗しており、両社とも先行しているGreenland Minerals社のプロジェクトへの規制法による影響を注視している。新法による解釈が今後確定し、より広い元素まで規制が及ぶ場合には、上記2つのプロジェクトの他、放射性物質が随伴する鉱業プロジェクト全般に大きな影響を及ぼすことなることから、豊富なポテンシャルを有する同地の動向は今後も注目を集めることになる。
なお、Kvanefjeldレアアースプロジェクトの概要については、2021年10月5日公開「カレント・トピックス21-14:2021年グリーンランド自治議会選挙後のKvanefjeld レアアースプロジェクトの動向」をご参照されたい。
- USGS, Mineral Commodity Summaries Rare Earths 2021
https://pubs.usgs.gov/periodicals/mcs2021/mcs2021-rare-earths.pdf
なお、図中のアメリカ合衆国の地図については、以下より引用しプロジェクト位置図として編集している。
https://www.freemap.jp/itemFreeDlPage.php?b=world&s=world1 - REUTERS, Greenland prepares legislation to halt large rare-earth mine
https://www.reuters.com/business/environment/greenland-prepares-legislation-halt-large-rare-earth-mine-2021-09-17/ - NUNA, Greenland Parliament Act to ban uranium prospecting, exploration and exploitation, etc.
https://www.nuna-law.com/wp-content/uploads/2021/11/pkt23_em2021_uranforbud_lov_da-eng.pdf - GREENLAND MINERALS LTD, Kvanefjeld Optimised Feasibility Study:Substantial 40% Capital Cost Reduction
https://wcsecure.weblink.com.au/pdf/GGG/02121821.pdf - GREENLAND MINERALS LTD, December 2021 Quarterly Report P4
https://wcsecure.weblink.com.au/pdf/GGG/02478635.pdf - 同上 P5
- 同上 P5
おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。