報告書&レポート
5th Latin America Energy Summit参加報告
はじめに
2022年4月20~21日の2日間、首都SantiagoにあるDouble Tree by Hilton Hotel Santiagoにおいて5th Latin America Energy Summit(LAES)が開催された。前回のLAESは、コロナ禍により2020年12月1~3日の3日間でオンラインにて開催された一方で、今回のLAESは対面のみの参加とされた。
本LAESは、南米を中心とするエネルギー、エンジニアリング、インフラ、投資家及び政府関係者が集まり、南米のエネルギー、電力及び水素・アンモニアに関する様々な話題について講演が行われた。特に、南米では太陽光、風力、水力発電等の再生エネルギー(再エネ)の普及が進んでおり、またチリを筆頭に再エネを利用したグリーン水素・アンモニア開発が進められ注目を浴びる中、南米各国のエネルギートランジションにおける様々な課題や今後の見通しについて言及がなされた。
本稿では、LAESの主要な基調講演及びパネルディスカッションの概要を紹介する。
1.The Energy Transition Challenges & Opportunities
1.1.Where is the electricity sector going in Chile?
Speaker:Alex Santander, Ministry of Energy, Government of Chile
チリの電力構成は、2004年まで石炭火力、天然ガス、水力発電が主力であったが、2004年に天然ガスの価格低下を受け、2013年には天然ガスの割合が約40%まで増加した。2014年から再エネ分野の技術向上により、2021年には全体の約4割が再エネ由来となっている。2030年には太陽光発電27%(2020年は10%)、風力発電26%(同7%)、集光型太陽光発電13%(同0%)となり、電力構成全体の約80%が再エネ由来になると予測されている。
チリ政府は、(1)脱炭素に向けたエネルギー転換、(2)エネルギーに関するセキュリティ確保、(3)地方分権化、(4)フェミニズム、(5)エネルギーのインフラと脆弱性、を優先事項として考えており、「Agenda de Energía 2022-2026」という短・中期ロードマップを作成中である。本ロードマップは、2040年のカーボンニュートラル(CN)の目標に向け、5年毎にアップデートされる。今後、チリ及び南米で課題となるのは、電力部門の脱炭素化、エネルギートランジションに関するインフラへの投資、南米の新たなエネルギーフロンティアの開拓である。
1.2.The challenges of the electricity sector in Chile
Speaker:Juan Carlos Olmedo, President, Coordinador Eléctrico Nacional(Chile)
世界では2017~2019年にかけてCNに関し824bUS$の投資が行われてきた。また2050年ネットゼロに向け必要な投資は、2021~2050年にかけて39,849bUS$になると予測され、チリのエネルギー消費量(TFEC)に関する構成は、再エネ由来が90%まで上昇する。また水素利用が進むことでTFEC全体の12%まで上昇する。
チリの電力部門の課題は、インバータ連系電源(Inverter-Based Resources)の統合、需給バランスを正確に把握かつ最小のコストで維持するためのネットワークサービスの構築、分散型エネルギープラットフォーム(DER)の構築、及びDERと系統連系の接続ないし安定性をもたらすためのモデリングと分析の実施、である。チリでエネルギー転換に必要とされる政策は、構造変更と公正な移行、電気システムへの再エネの統合、再エネの開発促進、電力エネルギー貯蔵システムの技術開発、エネルギー転換のための技術革新等の支援である。
1.3.Reinventing the business model of the electricity sector
Speakers:Axel Leveque, CEO, Engie Chile
Aurelio Bustilho, CFO, Enel Américas
Daniel Cámac, VP Comercial, Engie Perú
Alfredo Solar, CEO, Atlas Renewable Energy Chile
Mauricio Raby, Country Manager Chile, Cox Energy
チリのCNの取り組みについて、電力エネルギー貯蔵と伝送速度の問題に直面している。チリ北部では、太陽光発電の電力を送電する時にロスが生じており、スムーズに電力が送れるよう送電網を拡張する必要がある。再生エネに関しては、手続き上の問題によりプロジェクト開発が遅れることで投資コストが上昇しており、投資家の撤退が相次いでいる。投資コストを下げるために電力エネルギー貯蔵技術を必要とする。結果としてチリは、CNを早く達成するための準備が整っていない。
1.4.Distributed generation
Speakers:Carlos Cabrera, President, Acesol
Nicola Borregaard, General Manager, EBP Chile
Patricio Salazar, CEO & Founder, GPG Group Ecuador
エクアドル政府は、多くの水力発電プロジェクトに巨額の投資を行った一方で、現在問題となっているのは配電インフラに投資しなかったことである。
GPGグループは、エクアドルのエビ産業のエネルギー転換を支援している。エクアドルのエビ産業は進化しており、2021年に世界第1位のエビ輸出国となっている。輸出総額は5,323mUS$(エクアドルのGDP 5%)に相当する。エビ産業の課題は、より良い労働条件を目指す、生産性、収益性及び競争力を向上させる、輸出量の増加、GHG排出量の削減である。他方、エビの養殖場が位置する地域ではインフラの欠如により、エビ養殖事業に必要な電力が供給されていなかった。今般、民間企業が電力インフラに投資できるよう法的枠組みの確立を支援したことで、エビ養殖事業におけるエネルギー転換を実現するための民間部門と公共部門を結びつけることに至った。
2.Infrastructure for the Energy Transition
2.1.Fuels market outlook for the power generation sector
Speaker:Arthur Deakin, Co-director Energy Practice, Americas Market Intelligence
将来的にバイオ燃料の需要は急増すると予測されている。2026年のバイオ燃料の地域別需要は、北米40%、南米27%、アジア17%、欧州16%と予測されている。南米では、ブラジルのエタノールとバイオディーゼルの需要拡大により高い水準となる。バイオ燃料価格は70~130US$/bbl(バレル)と予測される。
南米では電気自動車(EV)の成長が非常に遅い。理由の1つとしては、EV充電インフラの普及が進まないことであり、輸送用燃料の需要が高くなり続けている。南米は米国からのLNG輸入が2021/2020年比で102%成長しており、今後も増加すると予測される。
2.2.Renewable projects in Latin America
Speakers:Gustavo Anbinder, Power Business Manager, Gennia
Alberto Solís, Head Latin America, Elecnor
Camila Manzano, Country Head, EDC
アルゼンチンの再エネの現状と将来の見通し
大規模な電力需要が満たされていない状況であり、供給不足に陥る可能性がある。理由としては、送電インフラが整っておらず新規プロジェクトの開発ないし生産が促進されないこと、外資獲得の難しさ、カントリーリスク等が挙げられる。現状の課題としては、外資獲得に向けた新しいビジネスモデルの構築(グリーン水素等)、統合デジタルシステムの構築(技術の促進)、新規事業の立ち上げである。
チリの再エネの現状と将来の見通し
太陽光と風力発電が継続的に成長する。市場規模拡大や技術者の能力がありコスト競争力が高いことから、エネルギー販売価格が低下する。従って、チリの再エネは外資にとって非常に魅力的な市場であるとともに、グリーン水素・アンモニアの新しい事業展開及び技術促進が期待される。チリの電力需要は、年間平均3%の増加が期待されている。
2.3.Opportunities and challenges for renewable and storage investments in Chile, Colombia and Peru
Speakers:Sylvain Rouzeyre, AFRY
コロンビアの再エネの現状と将来の見通し
コロンビア国内の電力構成のうち水力発電が約4分の3を占める。水力発電は、エルニーニョ現象による降雨不足で水力発電の出力が低下し発電量が変動することが課題となっている。一方、2050年までに太陽光及び風力発電が普及し、それらが占める割合は40%を超えると予測され、水力発電の発電量及び電力価格の変動を軽減させる。将来的にコロンビアでは、堅調な需要増加(平均年間成長率2%)が期待される。他方、コロンビアでは大規模な水力発電(Hidroituangoプロジェクト)を開発中である。Hidroitangoプロジェクトは、2026年にフル操業を目指しており、発電容量は2.4GWに相当する。
ペルーの再エネの現状と将来の見通し
ペルーでは、ガス価格の自由化が再エネの普及を加速させる可能性がある。歴史的に、非常に低いガス入札により均等化発電原価(Levelized cost of energy: LCOE)が低く、再エネのLCOEをはるかに下回っていたため、再エネ開発の促進が制限されていた。ペルーは再エネポテンシャルが高く、陸上の風力稼働率は最大50%に達する可能性があり、またペルー南部には広大な太陽光ポテンシャルがある。ペルーの電力需要は、年間平均4%の増加が期待されている。
チリの再エネの現状と将来の見通し
チリの系統連系は、北部、北中部、中南部、南部の4系統に分かれていたが、2017年に北部と北中部の系統が接続され、北部、中部、南部の3系統となった。また、2030年までに北部と中部の系統が接続される予定である。
北部では太陽光発電の開発が促進しており、太陽光発電容量が2.3GW以上となっている。一方で、北部で大量に太陽光発電が稼働することで余剰電力が発生し市場価格が下がっている。2030年に予定される北部と中部の系統が接続されると、送電量が増加し市場価格が上昇するだろう。
チリでは、2025年までに国内全ての石炭火力発電所を廃止し、また2040年までに国内全てのコンバインドサイクル発電所(CCGT)を廃止する予定である。一方、石炭火力発電所を閉鎖すると国内の電力需要に対応できず供給不足に陥る可能性があるため、ガス火力発電またはバイオマス発電への変換が必須となる。電力需要ピーク時間をカバーするためにより多くのガス火力発電またはバイオマス発電の稼働が必要となるため、電力価格は2025年に最大24%上昇することが予測されている。
2.4.Energy storage
Speaker: Álvaro Hernández, Business Development Manager LATAM, Canadian Solar
南米は法的枠組みと化石燃料からの脱却政策の欠如がエネルギー貯蔵電池の発展を遅らせてきた。一方で、南米のエネルギー貯蔵市場は貯蔵技術が少しずつ向上していることから、今後数年間で急速に成長すると予測される。2020年、中南米のエネルギー貯蔵は224MWであり、2030年までに9GWに達する可能性がある。これは主に、2025年以降ブラジルの市場拡大によるものである。
リチウムイオン電池(LIB)は、商業的および技術的に成熟しており、エネルギー密度が高く耐用年数が長いため、実用規模の貯蔵プロジェクトに使用される最も一般的な技術である。2021年の実用規模の貯蔵プロジェクトに利用されるバッテリーは、LIB 80%、その他20%となっている。
コロンビアでは、Barranquilla市で45MW/45MWhの蓄電プロジェクト(南米初)がある。2023年6月までに商業運転予定である。このプロジェクトにより、コロンビア北部の送電網が強化され、将来的な電力供給不足が回避される。
チリでは、Maule州に80MW/240MWh蓄電プロジェクト、またAntofagasta州で250MW/750MWh蓄電プロジェクトがある。いずれも2025年に商業運転予定である。
チリ、メキシコ、ブラジル、コロンビア4か国のエネルギー貯蔵市場の推進力と障壁について、チリはバッテリーをグリッドから充電できるようにする法案がある。新しい容量報酬スキームは、短期的にエネルギー貯蔵システムの促進を後押しする可能性がある。メキシコは、政治情勢が短期的にバッテリーを配備する上での主要なリスクとなっている。また、課題としては法的枠組みとインセンティブが挙げられる。ブラジルは、バッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)と均等化発電原価(LCOE)が課題となっている。コロンビアは、エネルギー貯蔵システムを市場に組み込むためのガイドラインを公開し、中期的には送電インフラの混雑を緩和する可能性がある。
3.Latin America and The Green Hydrogen Revolution
3.1.Welcoming remarks
Speaker: María Paz de la Cruz, CEO, H2 Chile
H2 Chile社は、チリBío Bío地域でConcepción大学が主導し、企業、市民社会、政府が参加するグリーン水素技術開発を支援している。Bío Bío地域とチリ中央南部におけるエネルギー転換とグリーン水素の開発を促進および加速することを目的する。チリでは21のグリーン水素及びアンモニアプロジェクトの開発が進められている。
チリ国家水素戦略の目標
- 2025年に南米の中で最もグリーン水素への投資を誘致し、5GWの電解槽の開発を目指す。
- 2030年までに2.5bUS$/年の投資を行い、地球上で最も安価なグリーン水素生産(<1.5US$/kg)、25GWの電解槽の開発を目指す。
- 2050年のチリのグリーン水素生産量は300GW(33bUS$相当)、チリ国内需要は2050年に81GW(9bUS$)と予測される。残り70%相当のグリーン水素は世界へ輸出する。2050年までに約74万人の雇用を創出する。
チリ政府のグリーン水素開発のマイルストーン
- 10MWを超える電解槽設備を計画するグリーン水素プロジェクトに資金50mUS$を支援する。投資前調査に340kUS$、パイロットプロジェクトへ360kUS$を支援する。
- シンガポール、韓国、オランダ、英国、フランス、ドイツ、オランダ(Rotterdam)とのMOUを締結。
- 265mUS$を投資し、クリーンエネルギーと鉱業技術のためのオープンイノベーションプラットフォームを構築する。
- グリーン水素を鉱業へ輸送するプロセスを構築する。
- グリーン水素基準ガイドラインを作成する。
- ドイツないし海外間のサプライチェーンを構築する。
3.2.CAP:proyecto H2 Verde
Speaker:Álvaro Castellón, Project Head H2 Plant Project, CAP
鉄鋼業界は世界全体のCO2排出量の7%を占めている。同業界のCO2排出量が多い理由は、世界のスチール生産の82%が鉄鉱石と冶金用石炭を使用しているためである。石炭は鉄から酸素を抽出し、CO2として大気中に放出するために使用される。CAPのHuachipato精錬所もこの製造プロセスを採用している。CAPグループは約220万t/年のCO2を排出しており、そのうちHuachipato精錬所が160万tを占めている。スチール生産1tあたりCO2を2.2t排出している。
CAPグループでは、グリーンスチールの生産に取り組んでいる。CO2排出量の少ないスチール生産技術と開発を促進するために、政府、産業界、学術界の間で共同作業が必要になる。CAPグループは、グリーンスチール生産目標を達成するために、H2Vパイロットプラント実証試験を行い、スチール生産におけるH2Vの使用の影響と適用可能性を判断し、それを工業レベルに拡大することを計画している。
グリーンスチール生産に関するロードマップ
- 2021/2022 製鋼プロセスでH2Vを使用する可能性を検討する。
- 2022/2024 パイロットプロジェクトの設計と実行を行う。
- 2026 小規模グリーンスチール生産を行う(25kt/年)。
- 2026/2029 ビジネスモデルと市場を確保する。
- 2030 プロセスの工業化(200~300kt/年)を行う。
グリーンスチールを開発するための課題は、経済的に競争力のあるH2Vを生成、電解槽の設備投資の削減、Huachipato精錬所の製造プロセスへのH2Vプロセスの適用、環境への配慮、製造工程の技術革新、グリーンスチールに割増料金を支払うことを躊躇わない市場の確保、である。
3.3.Engie’s H2 projects in Chile
Speaker:Asunción Borrás, Senior VP Business Development H2BU, Engie Chile
Engie社は、欧州に15件(実行フェーズ1件、開発フェーズ7件を含む)、アジア太平洋・中東・アフリカ(AMEA)地域に5~10件(開発フェーズ2件、実行フェーズ1件を含む)、米州に5~10件(開発フェーズ2件含む)、世界に延べ30件以上の水素プロジェクトを所有する。
Engie Chile社は、チリで3つの水素プロジェクトを所有し、500mUS$/年の投資を行っている。
Engieの水素開発の長期ロードマップ
2025年 | 2030年 | |
グリーン水素生産容量(GW) | 0.6 | 4 |
パイプライン(km) | 170 | 700 |
貯蔵(TWh) | 0.3 | 1 |
給油ステーション(箇所) | 50 | 100 |
チリではHyExプロジェクトの開発を進めている。目標は、2030年までにグリーンアンモニアを70万t/年生産することである。同プロジェクトは現在、政府から環境許認可を取得したところである。またチリ産業開発公社(CORFO)から9.5mUS$の支援を受けている。Engie Chile社はENAEX社と戦略的な商業パートナーシップを締結しており、ENAEX社がチリに所有する硝酸アンモニウムPrillexプラント向けに35万t/年のグリーンアンモニアを提供する予定である。残り35万tのグリーンアンモニア生産物は、鉱業用途と肥料のために地元市場へ供給、また海外のオフテイカーへ輸出することを検討している。
3.4.The Green H2 projects in Peru
Speaker:Daniel Cámac, CEO, H2 Peru
ペルーは2030年までにGHG排出量を40%削減する目標がある。エネルギー部門では、2030年までに再エネが電力構成全体の20%に達すると予測している。また、EVの普及ないしH2Vの技術開発、使用、生産を促進するためのロードマップを作成している。
ペルーの電力構成は、主に水力発電(57%)、再エネ(5%)及び天然ガス(37.7%)とGHG排出量が少ない。世界全体では石炭と石油の火力発電量が39.5%であるが、ペルーは1%未満となっている。
ペルー南部は、地球上で最も日射量が多い(5.5~6.5kWh/m2)。しかしながら、現在までのところ十分に活用されていない。また、ペルーには高い風力ポテンシャルがあり、再エネポテンシャルはおよそ16GWと推定されている。
世界で最も古いグリーン水素プラントの1つがペルーにあり、現在も稼働している。ペルーのグリーン水素プラントの所有者はIndustrias Cachimayo社(Enaexグループの子会社)であり、1962年に建設プロセスを開始、1965年から電気分解で水素を生産し水素からアンモニアを製造している。従って、ペルーはグリーン水素産業のパイオニアであり、将来的にリーダーになる可能性がある。
3.5.TCI-Gecomp projects in Latin America
Speaker: Mario Gómez, President, TCI-Gecomp
TCI-Gecomp社はチリでHoasis水素プロジェクトを進めている。これは、Bío Bío州の競争力を強化する基金によって、プロジェクト資金が提供されている。同プロジェクトは、グリーン水素のバリューチェーンへの投資を容易にするための研究、技術革新、人的資源の強化ないし共同イニシアチブを促進させることで、競争力、エネルギー効率の向上、GHG排出量削減に貢献することを目的とする。
湾岸産業が存在するBío Bío州は、国内使用するグリーン水素の生産と製造技術開発の中心地となり得る可能性がある。Hoasis水素プロジェクトは、3GWの太陽光発電と2GWの電解プラントを設置し、102千t/年のグリーン水素を生産することが目的である。また、地元の作物を生産するために2千haの温室を建設する。この目的は、グリーン水素の利用だけでなく電解プラントから生成された酸素を利用するためである。このように、サーキュラーエコノミーの概念下で様々な産業から生み出せる相乗効果が期待される。グリーン水素及び酸素を生産し利用することで、生産コストを相殺し、地域経済を活性化するビジネスエコシステムの開発を目指している。
3.6.Hydrogen within Ecopetrol’s agenda
Speaker: Katherine Orozco, Hydrogen Lead, Ecopetrol
現在、Ecopetrol社の水素生産量能力は13万t/年(グレー水素90%、ブルー水素10%)である。Ecopetrol社の2040年までの目標は、1百万t/年の水素(グリーン水素40%、ブルー水素30%、ホワイト水素30%)を生産することである。
2040年までのEcopetrol社の戦略
- 高成長市場で新しい事業を展開する。2040年までに低炭素排出の水素を生産する。
- 2024年までにプロジェクト研究開発などへ2bUS$を投資する。また2040年までにさらに2.5bUS$を投資する。
- 2050年までにGHG排出量を削減するというコロンビア産業の脱炭素化促進に貢献する。具体的には、Ecopetrol社のGHG排出量を9~11%削減を目指す。
- 収益性と競争力のある事業を統合する。2040年までに年間EBITDAを400mUS$増加させる。
3.7.Offtakers, the market and financial considerations for the development of green hydrogen in Latin America
Speaker: Alejandro Pérez, Senior Investment Officer, IFC
国家戦略または水素ロードマップのある国は、アルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、コスタリカ、パラグアイである。また整備中の国は、ボリビア、エルサルバドル、パナマ、ペルー、トリニダード・トバゴ、ウルグアイである。
世界の海運業界を例に挙げると、同業界は世界のGHG排出量の約3%を占める。国際海事機関(International Maritime Organization: IMO)の戦略は、2050年までに海運業界のGHG排出量の50%を削減することである。潜在的な解決策として特定されたアンモニアや合成メタノールなどのグリーン水素燃料を使用することである。
南米でグリーン水素プロジェクト開発に必要な資金調達のための要件
- 場所:豊富な再エネ資源があり低価格でグリーン水素を生産可能な地域。グリーン水素開発に沿った政策のある国、インフラ及び法律等が整備された地域。
- プロジェクト:国内需要と輸出先の確保、既存の用途と新しい用途(肥料、工業用途等)の把握、スケーラビリティまたは再現性の検討。
- バイヤー(オフテイカー):長期契約の実現、価格設定の可能性の検討。
- パートナー:技術的能力、資金調達能力及びCNに向けて戦略的事業計画を持つ企業。
おわりに
南米各国ではCNに向け化石燃料から天然ガス、再エネ及びバイオ燃料等のクリーンエネルギーへの転換が活発に行われており、数年後には電力構成の内容が顕著に変化することが想定される。他方、エネルギートランジションに関し共通する課題はインフラへの投資であり、新たなビジネスモデルを構築しつつインセンティブを与え外資を誘致することが非常に重要であると感じた。さらに、安定した電力を供給するには電力エネルギー貯蔵技術の進展が1つの鍵となり、コロンビア及びチリでは蓄電プロジェクトが商業稼働予定であることから今後の動向が注目される。
チリでグリーン水素・アンモニアプロジェクト開発を進めている企業は、小規模なパイロットプラントスケールで徐々に技術開発を進めている一方で、将来的なグリーン水素・アンモニア市場の需要が不透明のため大規模な投資判断が難しい状況であり、どこか歯がゆさを感じた。
おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
