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報告書&レポート

2022年7月14日 シドニー 事務所 片山弘行
22-07

豪州連邦政府の政権交代による資源政策への影響

<シドニー事務所 片山弘行 報告>

はじめに

2022年5月21日、豪州連邦議会選挙が実施され、労働党(Australian Labor Party)が政権を奪取、9年ぶりに政権交代が実現した。前回、労働党が政権与党であった2007年12月から2013年9月までの間には、資源超過利潤税(Resource Super Profits Tax; RSPT)の導入検討に端を発した混乱、その後の鉱物資源利用税(Mineral Resource Rent Tax; MRRT)の導入、また気候変動対策として炭素税の導入など、資源業界にとっては風当たりの強い政権であったことは記憶に残る。今回の労働党政権がどのような資源政策をとるのか、業界にとっては強い関心事であるところ、選挙後1か月が経過し、担当大臣も任命され、政策の方向性も見えてきたことから、選挙前の公約と合わせて資源政策の動向について概観する。

1.連邦選挙前の状況

自由党(Liberal)と国民党(The Nationals)による保守連合(Coalition)は2013年から政権与党の座にあり、この間、自由党内の混乱など幾たびかの危機は迎えたものの、Abbott政権、Turnbull政権、Morrison政権と3名の首相による政権運営がなされた。最大の危機は前回2019年の連邦選挙であり、事前の下馬評では労働党の勝利が確実視されていたものの、労働党は50%の再生可能エネルギー目標を始め野心的な気候変動対策を政策として掲げるなどしていたこともあり、景気や経済への影響を懸念する特にQLD州の資源労働者からの反発などにより地方票が離反、結果的に保守連合が政権を維持した。

2019年及び2020年の東部諸州での大規模な山火事被害、2021年及び2022年の東部諸州での豪雨及び洪水被害は、オーストラリアの都市部住民にとって気候変動問題がもはや他人事ではないことを再認識させた。また、世界的な脱炭素の潮流の中、2021年11月に英Glasgowで開催された第26回気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)において、主要先進国の中で最後までネットゼロコミットを行っていなかった豪州連邦政府が2050年までのネットゼロを正式に宣言したことで、豪州国内での脱炭素の流れは決定的なものとなった。

義務投票制を採用する豪州連邦選挙では無党派層の動向が選挙において大きなカギを握ると言われており、このような背景の下、都市部無党派層の関心の高い気候変動に関する政策が今回の連邦選挙では争点の一つに挙げられていた。労働党は、保守連合政権がコミットした2050年までのネットゼロは堅持するも、2030年までに対2005年比で温室効果ガス排出量を43%削減することを中間目標として掲げるなど、気候変動に対して消極的な政策に終始する保守連合との差別化を図った1。一方で、2019年の連邦選挙での土壇場での敗北の反省から、石炭をはじめ化石燃料に対する政策は公約としてほとんど打ち出さず、あえて言及しないという姿勢で臨んでいた。穏健な環境政策の労働党に対して、石油、石炭、ガスの新規開発の凍結を公約に掲げる緑の党や同様に強力な気候変動政策を主張するTealと称される環境派の独立系候補は、特に災害の被害を被った都市部において一定の訴求力を見せた。

新型コロナウイルス対策などへの政権与党に対する不満から保守連合への支持は低迷、労働党が優勢なるも単独過半数の獲得は厳しく、緑の党などの環境派がキャスティングボートを握るのではないかと目されていた連邦議会選挙は2021年5月21日に投票が開始された。

2.連邦選挙結果

今回の選挙では、下院151議席の全議席、上院76議席のうち40議席(各州12議席のうち6議席及び北部準州と首都特別地域のそれぞれ2議席)の改選がなされた。豪州選挙委員会による正式な開票結果は以下の通りである。

表1.各政党の州別獲得議席数(下院)2
政党 NSW VIC QLD WA SA TAS ACT NT 改選後 改選前
Coalition
(保守連合)
Liberal(自由党) 9 8   5 3 2     27 44
Liberal National Party of Queensland
(クイーンズランド自由国民党)
    21           21 23
The Nationals(国民党) 7 3             10 10
小計 16 11 21 5 3 2     58 77
Australian Labor Party(労働党) 26 24 5 9 6 2 3 2 77 68
The Greens(緑の党)   1 3           4 1
Centre Alliance         1       1 1
Katter’s Australian Party     1           1 1
Independent 5 3   1   1     10 3
合計 47 39 30 15 10 5 3 2 151 151
表2.各政党の州別獲得議席数(上院)3
政党 改選 非改選 改選後合計議席 改選前合計議席
NSW VIC QLD WA SA TAS ACT NT 小計 NSW VIC QLD WA SA TAS 小計
Coalition Liberal 2 1   2 3 2     10 2 3   3 3 2 13 23 27
Liberal National
Party of Queensland
    2           2     3       3 5 4
Country Liberal Party               1 1             0 1 1
The Nationals 1 1             2 1           1 3 3
小計 3 2 2 2 3 2   1 15 3 3 3 3 3 2 17 32 35
Australian Labor Party 2 2 2 3 2 2 1 1 15 2 2 1 2 2 2 11 26 26
The Greens 1 1 1 1 1 1     6 1 1 1 1 1 1 6 12 9
United Australia Party   1             1             0 1 0
Pauline Hanson’s One Nation     1           1     1       1 2 2
Jacqui Lambie Network           1     1           1 1 2 1
Centre Alliance                 0             0 0 1
Independent             1   1             0 1 2
合計 6 6 6 6 6 6 2 2 40 6 6 6 6 6 6 36 76 76
 図1.各選挙区での議席獲得政党(下院)

図1.各選挙区での議席獲得政党(下院)

中道右派の保守連合は、資源産業に雇用や地域経済を依存する地方部において幅広い支持を集めたものの都市部で大幅に議席を失い、58議席まで減少した。一方、中道左派の労働党は、下院では都市部で大きな支持を集め、過半数である76議席を超え、単独で77議席を獲得した。しかし、緑の党や無所属議員も都市部で議席を獲得しており、既存政党への一定の批判票が現れている。また、上院では非改選議席合わせて改選前と同数の26議席と過半数には及ばず、政策の一致をみる無所属議員を取り込んでも過半数には至らず、法案を可決するためには12議席に躍進した緑の党の協力を得るか、保守連合からの支持を得る必要があり、特に議会の承認が必要となる法律に基づく政策の実現には困難が伴うことが予想される。

3.労働党政権の資源政策

3.1.全般

労働党政権は、気候変動政策を重視した省庁再編を7月1日付で実施した4。従来、エネルギー部門はその他資源部門と同様に「産業・科学・エネルギー資源省(Department of Industry, Science, Energy and Resources)」の傘下にあったが、今回の再編で環境・気候変動部門に編入され、「気候変動・エネルギー・環境・水省(Department of Climate Change, Energy, the Environment and Water)」となった。一方で資源部門は引き続き産業・科学部門と同じ管轄下に留まり、「産業・科学・資源省(Department of Industry, Science and Resources)」となった。

気候変動とエネルギー政策についてはChris Bowen下院議員が気候変動・エネルギー大臣に、資源政策についてはMadeleine King下院議員が資源大臣に、それぞれ野党時代の影の大臣からそのままスライドして就任している。両大臣とも気候変動政策に基づくエネルギートランジションは重要としつつも資源産業の重要性についても言及していることなどから資源産業に対する支援姿勢は明確であり、例えばKing資源大臣は緑の党が訴える新規の化石燃料資源開発の停止に関しても否定している。

3.2.鉱物資源政策

結論から述べると、鉱物資源政策については特に大きな政策の変更はない模様である。豪州連邦憲法上、天然資源政策は州の管轄にあり、連邦政府が採用できる資源政策としては、連邦憲法第51条に列挙されている連邦管轄権のうち、第1項の国際間/州間通商、第3項の製品生産/輸出に対する統一的な報奨金、に属する事項のみであることから5、必然的に輸出促進のための助成金を主体とする政策となる。

労働党政権では、気候変動対策として需要が急増するバッテリーなどで用いられる鉱物資源の重要性や、これらいわゆる重要鉱物についてのサプライチェーンに問題が残ることは認識しており、サプライチェーン強化のための国内製造業の強化を謳っている。労働党の選挙前の公約としては、総額15bA$のNational Reconstruction Fundを設立し、うち3bA$は再生可能エネルギーを用いた製造業や温室効果ガス低排出技術の展開を支援することとし、また1bA$のValue-Adding in Resources Fundにより出融資・債務保証を通じた資源産業における高付加価値ビジネスの創出を図るとしている6。これらのことから、前政権に引き続き、特に中国に加工工程を依存している重要鉱物のサプライチェーンの国内回帰を図る政策がうかがえる。

前政権が設けた重要鉱物に対する支援策、ワンストップの連邦機関Critical Minerals Facilitation Office(CMFO)や豪州輸出金融公社(Export Finance Australia; EFA)による2bA$の融資枠Critical Minerals Facilityはそのまま堅持する意向であり、特にCritical Minerals Facilityについては、既に前政権時にIluka Resources社のEneabbaレアアースプロジェクトの分離精製プラント建設を含むStage 3プロジェクトに最大1.25bA$のノンリコースローンを提供7するなど既に非常に手厚い支援を実施し、継続的な支援の必要性が求められていることから、拡充も検討されている。

2022年3月に前政権の保守連合政権は、連邦機関である科学産業研究機構CSIRO、地質調査所Geoscience Australia、原子力科学技術機構ANSTOの3者で国家重要鉱物研究開発センター(National Critical Minerals Research and Development Centre)を設立、重要鉱物に関する研究、評価を実施することとした8。労働党政権においても、この3者による重要鉱物に関する評価は継続するとのことであり、例えば新たに豪州にとっての重要鉱物として分類された金属シリコンの豪州国内のポテンシャル評価/サプライチェーン分析、鉱業の拡大に伴い必要となる物資の輸入依存度なども含めたクリティカリティの調査を行うとしている。

上院で多くの議席を獲得し、キャスティングボートを握る緑の党は、2010年に労働党が導入を意図した資源超過利潤税に類する40%ものCorporate Super-Profits Taxを鉱山会社含め大企業に対して課税することを公約として掲げているが、労働党は超過利潤税などの資源分野に対する課税強化については今のところ強く否定している。

3.3.気候変動政策

気候変動政策について労働党は、2021年に前政権の保守連合政権がコミットした2050年までのGHG排出ネットゼロの方針は堅持し、より積極的な目標として2030年までにGHG排出対2005年比43%削減を掲げている。この目標を確実なものとするため、労働党政権は7月26日から開会する第47議会で法制化を目指すとしているが、上院での法案採決のカギを握る緑の党はより高い中間目標値の設定や新規の化石燃料開発の(COP27開催までの)6か月間のモラトリアムを賛成の条件としており、労働党はこれを拒否するなど、法制化に向けては不透明である。

前政権の保守連合政権は、排出削減の方策として課税ではなく技術による削減を中心政策として掲げ、ブルー水素/アンモニアも含むクリーン水素/アンモニアや二酸化炭素回収貯留(Carbon Capture and Storage; CCS)に対する助成金を充実させるとともに、CCSを炭素クレジット(Australian Carbon Credit Units; ACCUs)の対象とするなど、排出削減につながる技術の開発・導入にインセンティブを与える方法を取っていた。さらには、既存排出源からのGHG排出量を抑制することを目的に、年間GHG排出量が100千t以上(CO2換算)の大規模排出源に対する排出抑制策としてセーフガードメカニズムを導入、排出源ごとに定められたベースライン以下にGHG排出量を抑制させることとしていた。一方で労働党は、セーフガードメカニズムが排出削減に結びついていないことから、Business Council of Australiaが2021年10月にまとめた提言書Achieving a net zero economy9に則った形、すなわち対象施設の拡大(年間排出量100千tから年25千t以上の施設への拡大)、ベースライン以下の排出量に応じたクレジットの創出、ベースラインの年毎の低減、等を採用することで改善・強化することを打ち出している。

保守連合政権が推進していたクリーン水素(グリーン、ブルーの両者を含む)については、特にグリーン水素に重点を置いた支援策を示しており、ブルー水素やCCSについては2021年の公約集National Platform10には支持を謳うも、政権獲得後の施策については特段の言及がない。

労働党が掲げる2030年までのGHG排出43%削減という中間目標を達成するためには、2030年時点での電源構成に占める再生可能エネルギーの割合を82%にまで高める必要があると労働党の試算11では示されている。これは新たに26GWの再生可能エネルギーによる発電が必要となり、そのためには再エネのポテンシャル地域である内陸部などの再エネゾーンと消費地である都市部、また州間連携系統などの電力網の近代化、強化が必要としている。この電力網の近代化、強化を目的に20bA$の投資を公約に掲げており、そのための政府支援機関としてRewiring the Nation Corporationを設立、低利融資による電力網に対する民間投資を促すとしている。再エネのより一層の普及については、コミュニティベースの太陽光発電設備の展開支援に100mA$、バッテリーストレージの展開支援に200mA$の投資を行うとしている。

豪州での電気自動車(EV)に対する政府支援は貧弱であり、普及も低調である。2021年の豪州でのEV販売台数は前年から約3倍と大幅に増加したものの20,665台にとどまる12。広大な国土であるが故、航続距離が短いEVの普及には他国以上に充電インフラの充実が不可欠であり、公約では500mA$の基金Driving the Nation Fundを設立して充電インフラの全国展開を図ることとし、またEV購入補助金や優遇税制の導入による普及促進を図るとしている。

おわりに

新たな労働党政権は気候変動を政策の柱の一つとすることは間違いないものの、資源産業の競争力を損なうような急進的な政策は採用せず、現実的なエネルギートランジションを目指すものと思われる。バッテリーなどに使用される重要鉱物については、今後ますます重要性が高まることから、大きな政策の変更はなく連邦政府の管轄権の範囲で支援を継続していくことは間違いないだろう。一方で都市部において大きな支持を集めた緑の党をはじめとする環境保護派に対しては、ハングパーラメント状態となった上院の議会運営上、難しいかじ取りが予想され、何らかの妥協が必要となる場面も出てくると考えられ、動向を見守る必要がある。


  1. https://www.alp.org.au/policies/powering-australia(2022年6月29日最終アクセス)
  2. https://tallyroom.aec.gov.au/HouseDefault-27966.htm(2022年6月29日最終アクセス)
  3. https://tallyroom.aec.gov.au/SenateStateResultsMenu-27966.htm(2022年6月29日最終アクセス)
  4. Administrative Arrangements Order; Commonwealth of Australia; 23 June 2022;
    https://www.pmc.gov.au/sites/default/files/publications/administrative-arrangements-order-23-June-2022.pdf(2022年6月29日最終アクセス)
  5. https://www.aph.gov.au/About_Parliament/Senate/Powers_practice_n_procedures/Constitution/chapter1/Part_V_-_Powers_of_the_Parliament#chapter-01_part-05_51(2022年6月29日最終アクセス)
  6. https://www.alp.org.au/policies/powering-australia(2022年6月29日最終アクセス)
  7. Transforming Australia’s critical minerals sector; EFA; 4 April 2022;
    https://www.exportfinance.gov.au/newsroom/transforming-australia-s-critical-minerals-sector/(2022年6月29日最終アクセス)
  8. https://www.csiro.au/en/news/news-releases/2022/national-critical-minerals-research-and-development-centre(2022年6月29日最終アクセス)
  9. Achieving a net zero economy; Business Council of Australia; 13 October 2021;
    https://www.bca.com.au/achieving_a_net_zero_economy(2022年6月29日最終アクセス)
  10. https://alp.org.au/media/2594/2021-alp-national-platform-final-endorsed-platform.pdf(2022年6月29日最終アクセス)
  11. THE ECONOMIC IMPACT OF THE ALP’S POWERING AUSTRALIA PLAN, Summary of modelling results; RepuTex Energy; December 2021;
    https://www.alp.org.au/policies/powering-australia(2022年6月29日最終アクセス)
  12. State of Electric Vehicle; Electric Vehicle Council; March 2022;
    https://electricvehiclecouncil.com.au/wp-content/uploads/2022/03/EVC-State-of-EVs-2022-1.pdf(2022年6月29日最終アクセス)

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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