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報告書&レポート

2022年8月25日 サンティアゴ 事務所 兵土大輔
22-09

Mining Survey 2022参加報告

<サンティアゴ事務所 兵土大輔 報告>

はじめに

2022年8月2日、BNamericas社主催の「Mining Survey 2022」Webinarが開催された。同社は、南米における鉱業の投資環境に関する鉱山会社等へのアンケ―ト調査を毎年実施しており、今般「Mining Survey 2022」と題した調査報告書を公表している。なお、2022年の調査は、Deloitte社と共同で実施された。本稿は、Mining Survey 2022の概要について紹介する。

1.調査内容

2022年5月30日~6月21日にかけて、2022年鉱業の投資環境に関する鉱山会社等へアンケート調査を行い、207件の回答を得た。回答者の内訳は、図1のとおり。

 図1.アンケート回答者

図1.アンケート回答者

なお、回答者が活動する国別の割合(重複を含む)は、ペルー:51%、チリ:43%、ブラジル:41%、コロンビア:25%、メキシコ:23%、アルゼンチン:20%、エクアドル:15%、ボリビア:9%、パナマ:8%、及びその他:5%となっている。

2.新規プロジェクトへの投資計画

今後12か月における新規プロジェクトの計画及び承認に関しては、「加速する」が全体の34%で前年の45%から減少する結果となった(図2)。2021年はCOVID-19の影響から回復傾向にあり、新規プロジェクトへの投資を促進するという回答が多かった。また、南米の政権交代等による政情不安、ロシア・ウクライナ紛争、中国経済の鈍化、インフレの進行、先進国の不況といった世界的な現象が新規プロジェクトへの投資を鈍化させている。

 図2.今後12か月における新規プロジェクトの計画及び承認に関する調査結果

図2.今後12か月における新規プロジェクトの計画及び承認に関する調査結果

3.ESGへの投資計画

鉱業にとって、ESG(環境・社会・ガバナンス)の問題は益々注目を集めている。ESGに関する調査の結果、全体の62%が企業戦略としてESGを強化する計画であるとしている(図3)。また鉱山会社では、全体の71%が企業戦略としてESGを強化するとしている(図4)。銀行や投資ファンドは、人権、生物多様性、気候変動リスク、エネルギー転換等あらゆる分野でESGの課題について注視していることから、今後もESGへの取り組みが加速すると考えられる。

図3.今後24か月の鉱山会社等の企業戦略におけるESGへの関心度合い

図3.今後24か月の鉱山会社等の企業戦略におけるESGへの関心度合い


図4.今後24か月の鉱山会社等の企業戦略におけるESGへの関心度合い (鉱山会社と非鉱山会社の詳細比較)

図4.今後24か月の鉱山会社等の企業戦略におけるESGへの関心度合い
(鉱山会社と非鉱山会社の詳細比較)

4.脱炭素化及びデジタルトランスフォーメーションへの投資計画

脱炭素化への投資について、2022年の結果は「増加させる」が前年から増加し全体の47%となったことから、脱炭素化への投資においても注目を集めている(図5)。他方、「変更なし」と回答した各社の多くは、現在ケーススタディ中で数年後には投資を増加させる可能性がある。

パンデミックは1つの発端となり、鉱山操業の自動化やリモートオペレーション(リモート化)などが促進された。その結果、DX(デジタルトランスフォーメーション、デジタル化) への投資について、2021年は「増加させる」が62%に増加している(2020年は同37%)。2022年は、2021年に引き続きデジタル化への投資を増加させる傾向が認められた(同65%、図6)。理由としては、操業の最適化に注目が集まっていること、またパンデミック以降リモート化が促進されていることが挙げられる。

図5.脱炭素化に関する投資(2021年対2020年)

図5.脱炭素化に関する投資(2021年対2020年)


図6.今後12か月における鉱山操業のDXに関する投資

図6.今後12か月における鉱山操業のDXに関する投資

5.南米の鉱業部門における最大の脅威

鉱業部門における脅威については、政治または法律の不確実性が全体の37%を占め、またカントリーリスクまたは資源ナショナリズムが急増し全体の27%となり、2021年に引き続き両者が全体の60%以上を占める結果となった(図7)。カントリーリスクまたは資源ナショナリズムの増加は、チリ、ブラジル、メキシコなどにおける税負担の増加及び資源国有化の動きを反映している可能性が高い。鉱山会社では、コミュニティ関係のリスクが全体の12%となっており、前年から増加している。ペルーにおいては、Las Bambas銅鉱山等でコミュニティによる抗議デモにより操業を一時停止する事象が発生しており、益々コミュニティや先住民問題が重要視されている。

図7.2022年における南米の鉱業部門の最大の脅威(鉱山会社のみの回答)

図7.2022年における南米の鉱業部門の最大の脅威(鉱山会社のみの回答)

6.南米における鉱業への投資環境

2022年、南米における鉱業の投資環境において、中期的にチリが「最も安定」していると評価されているが、前年に対し著しく減少する結果となった(図8)。一方、鉱業会社の回答では、チリはブラジルに1位の座を譲りエクアドルと同率2位の22%であった(図9)。チリは、2019年にデモと暴動を発端に、新憲法制定を進めるため2021年7月から制憲議会を発足、2022年7月に新憲法草案が完成した。新憲法草案の是非を問う国民投票は、2022年9月4日に行われる予定である。また、2022年3月にBoric大統領就任ならびに新政権が発足、新政権の政策として2022年7月に新鉱業ロイヤルティ法案を含む税制改革案が発表された。これらの不確実性がチリの減少理由とされる。

他方、全体の12%を集め3位にランクインしたエクアドルは、鉱業会社の支持が大幅に増加しており、政治環境とコミュニティに課題があるにもかかわらず、鉱業投資に対する政府の支援、資源ポテンシャルの高さが主な上昇の要因とされる。

図8.中期的に南米で鉱業の投資環境の良い国(2021年対2020年)

図8.中期的に南米で鉱業の投資環境の良い国(2021年対2020年)


図9.中期的に南米で鉱業の投資環境の良い国(鉱山会社と非鉱山会社の詳細比較)

図9.中期的に南米で鉱業の投資環境の良い国(鉱山会社と非鉱山会社の詳細比較)

おわりに

チリは、南米の中で投資環境の良い国として圧倒的人気を誇っていたが、その構図に変化が生じている。チリでは、新憲法制定や新鉱業ロイヤルティ法案の不透明感が投資判断の鈍化を誘発していると考えられるため、今後の動向に注目が集まる。一方、チリを投資環境の良い国として選んだ各社は、これらの課題を認識したうえで、優れたインフラ、脱炭素化(グリーン水素及びアンモニア事業)を含む資源ポテンシャルがあるとしており、引き続き一定の人気があることも事実である。

ブラジルでは、2022年10月2日に大統領選挙が開催される予定であり、世論調査1の支持率の中間結果では、左派Lula元大統領が一歩リードしており、次いで右派Bolsonaro大統領が追っている。Bolsonaro大統領は、金の違法採掘の合法化を主張しており、また先住民人口に対し先住民保護区の面積が広すぎるとし、資源開発に充てるため先住民保護区は合理的な方法をもって、その境界線を見直すべきと主張している。一方、Lula前大統領は、先住民保護区で商業的農業、鉱業、石油探査を許可する計画に反対しており、また違法採掘を止めることを表明している。従って、同年10月のブラジル大統領選の結果次第では、南米の投資環境の構図が再び変化する可能性がある。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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