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報告書&レポート

2022年11月10日 ジャカルタ 事務所 白鳥智裕、金属企画部調査課 五十畑樹里
22-11

Nickel Producers, Processors & Buyer Conference 2022参加報告

<ジャカルタ事務所 白鳥智裕、金属企画部調査課 五十畑樹里 報告>

はじめに

2022年7月13~14日にかけて、JakartaにおいてNickel Producers, Processors & Buyer Conference 2022が開催された。本会議では、インドネシアにおけるニッケル産業と製錬の最新情報、インドネシアの電池産業と電気自動車(EV)の将来に対する期待やインドネシアの役割等が発表された。

本稿では、発表されたプレゼンテーションのうち、インドネシア投資調整庁による「同国における投資状況」、インドネシアニッケル鉱業協会(APNI)の「インドネシアのニッケル産業の現状と期待」、国営企業Indonesia Battery Corporation(IBC)の「インドネシアのEVバッテリー産業の発展」、PT Indeks Komoditas Indonesiaの「インドネシアのニッケル製錬所の状況」、国際ニッケル研究会及びShanghai Metals Marketによる「世界のニッケルの需給動向とその中におけるインドネシアの影響」について紹介する。

1.Indonesia Investment Update

講演者:Heldy Satrya Putera – Acting Deputy Minister for Downstream Strategic Investment, Ministry of Investment/BKPM.

2021年インドネシアの投資額(石油・ガスの上流部門及び金融部門を除く。以下同じ)は、国内資本の投資額と外国資本による投資額を合計すると、2021年は901tIDR(インドネシアルピア:約57.6bUS$)であった。前年比、9.0%の増加率であり、2021年の目標投資額の100.1%となった。2022年第1四半期については前年同期比28.5%増と順調に増加している。

2022年3月までの投資額を部門別にみると、外国資本による投資額は、金属・金属製品(機械を除く)・機器産業部門が37.3tIDR(約2.4bUS$、投資額中25.1%)と最も多く、次いで鉱業部門が17.2tIDR(約1.1bUS$、同11.4%)であった。また、国内資本による投資額は、輸送・倉庫・通信部門が27.0tIDR(約1.7bUS$、同19.9%)、次いで鉱業部門18.4tIDR(約1.2bUS$、同13.6%)であった。

国別にみるとシンガポール3.6mUS$(投資額中34.8%)、香港1.5mUS$(同15.0%)、中国1.4mUS$(13.2%)、日本0.8mUS$(同8.0%)、米国0.6mUS$(同6.1%)であった。

第一次産業から高付加価値(下流)部門をベースとした産業への経済政策により、金属・金属製品(機械を除く)・機器産業部門の投資額は、2019年には、61.6tIDR(約4.0bUS$)だったが、2021年には117.5tIDR(約7.5bUS$)と90.7%の増加となった。

2017年から2022年第1四半期のニッケルに対する投資額は、国内外合わせて16.3bUS$であった(表1参照)。ニッケル加工部門(フェロニッケル、ニッケル銑鉄(NPI)への加工)への外国資本による投資は2018年以来上昇傾向にあり、2021年には、ニッケル加工部門への投資額は、2018年の投資額(846mUS$)の6.5倍の5,536mUS$となった。ニッケル加工部門への外国資本による投資額は、ニッケル鉱業部門(探鉱や鉱山)への投資額(2021年:183mUS$)より、はるかに大きい。

ニッケル鉱業部門への国内資本による投資は、2018年をピークに低下傾向にある。他方でニッケル加工部門への国内資本による投資は、2020年を除き、年間100mUS$で安定している傾向にあり、国内資本による投資もニッケル鉱業部門より、ニッケル加工部門への投資が大きい傾向にある。

表1.インドネシアにおけるニッケル産業への2017年以降の投資額
    2017 2018 2019 2020 2021 2022
第1四半期
合計
外国資本による投資 ニッケル鉱石
(採掘、探査)
5 71 75 191 183 56 581
ニッケルのフェロニッケル、NPI、製錬所等 1,305 846 1,582 3,621 5,536 1,962 14,852
合計額 1,310 917 1,657 3,812 5,719 2,018 15,433
国内資本による投資 ニッケル鉱石
(採掘、探査)
0 62 31 9 28 7 137
ニッケルのフェロニッケル、NPI、製錬所等 274 134 139 52 200 12 811
合計額 274 196 170 61 228 19 948

(単位:mUS$)

2.Indonesia Nickel Mining

講演者:Meidy Katrin(Secretary General of APNI(Indonesia Nickel Miners Association)

インドネシアは、世界最大のニッケル埋蔵量を誇っている。現在、インドネシアには合計で338件のIUP(鉱業事業許可)が交付されており、建設中、計画中含めて81件の製錬所が存在している。これらに伴うニッケル鉱石の総需要量は、サプロライト鉱石で約180百万t、リモナイト鉱石で約7千9百万tと見込まれている。

また、PT Halmahera Persada Legend、PT Gebe Industry NikelのHPAL製錬所(高圧硫酸浸出法)が既に稼働しているが、現在計画しているものと建設中を含めると、10件のHPALプロジェクトが進行中である。

現在、ニッケルの用途として70%がステンレスで、バッテリー用途は5%ほどであるが、2030年には、バッテリー需要が2020年時点と比較してニッケルは9倍になるとの分析もある。

インドネシアでは酸化鉱のうち、比較的品位の高いサプロライト鉱石をもとにNPI(ニッケル銑鉄)やマットを製錬しているが、さらに品位の低いリモナイト鉱石も有効活用することで、世界トップのニッケルサプライヤーになるとしている。

一方、同国では年間22百万t(2020年)のスラグが発生しており、ESG(環境・社会・ガバナンス)の観点から環境に配慮した廃棄物の処理が課題となっている。現在、海洋投棄については生物多様性を脅かすとして、国際社会から批判的に捉えられ、代替策としてダムの建設やドライスタックが挙げられる。ダムについては、地震や豪雨による事故が懸念点としてあり、ドライスタックについては、コストや大気汚染の問題がある。いずれもメリット、デメリットがあり、各関係者は最善策を模索している。

インドネシア政府は、鉱業ガバナンス、財政的・非財務的インセンティブの改善により、国内の鉱物の付加価値を向上させるよう努めており、インドネシアが将来、世界にとって主要なバッテリー投資国になることを期待している。

3.Global Nickel Market Outlook

講演者:Paul White(Secretary General of International Copper, Nickel and Lead and Zinc Study Groups)

世界のプライマリーニッケル需給バランスについて、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大による需要の落ち込みから2021年は復活し、167.7千tの供給不足となった。2022年はインドネシアを中心に供給が増加する見込みから、66.2千tの供給過剰と予測している。

インドネシアにおける増産の背景として、中国企業によるNPIの増産が顕著であることや一部HPAL製錬所が稼働を開始、生産能力を増強していることがある。PT Halmahera、PT QMB New Energy、Huaqaiは現在進行中のHPALプロジェクトである。

NPIについては2022年にインドネシアと中国の両国の生産量を合わせて、1.6百万tとなることが予測されており、世界のプライマリーニッケルのうち、50%以上を占めることになる。

インドネシアは、プライマリーニッケル生産量が世界第1位で、世界生産量のうち39%を占めている。次いで中国が24%となっている。2019年までは中国の方がNPIの生産量が多かったが、2020年に、インドネシアが鉱石輸出を禁止したことを機に、中国のNPI生産量は減少を続け、今後も減少傾向は続くものとみられる。

需要面について、ニッケルの最大用途とされているステンレス分野は、今後インドネシアにおいても拡大を続ける見通し。近年成長が著しいバッテリー分野は、用途全体のうち11%ほどの割合を占めているが、中国を中心に今後ますます増加する。中国は最大消費国であるが、EV販売についても、同国は世界全体の売上のうち49%を占めている。2021年は世界全体で6.47百万台のEVが販売され、中国は前年比で152%増の販売台数となった。

これらの状況から、NPIやフェロニッケルからニッケルマットを製造し、硫酸ニッケルやバッテリーの生産に繋げる動きもでてきており、EV需要を背景としたニッケル動向が注目を集めている。

4.Indonesia Battery Corporation in The development of integrated EV Battery Industries

講演者:Toto Nugroho, President Director of Indonesia Battery Corporation (IBC)

環境問題に対する世界的な取り組みはEV及び新再生可能エネルギーの利用を加速させることになる。インドネシアは2060年までにネットゼロ・カーボンを達成するために、新再生可能エネルギーの利用増、化石燃料利用の縮小(炭素税と排出権取引、新再生可能エネルギーによる混焼火力発電所の利用、石炭火力発電所の廃止)、輸送部門におけるEVの利用、家庭や産業における電化の促進、二酸化炭素貯留(CCS)の利用がある。EVの推進は炭素の排出量削減と世界的なバッテリー需要を加速させる。

EVには様々な原料が使用される。2020年のEVバッテリー1つに使用される平均的な金属量は、ニッケル29kg、アルミニウム35kg、グラファイト52kg、銅20kg、鉄鋼20kg、リチウム6kg、鉄5kg、マンガン5.4kg、コバルト8kgであった。

インドネシアは、バッテリー産業を統合するのに非常に優位な立場にある。例えば、最も大きな経済力を持った国の一つ(2020年には世界で第20位、2045年には第5位を目標としている)であり、鉱物資源の上流部門において優位な立場(EVバッテリーの主要原料のニッケルについて、世界第1位の生産量と埋蔵量、銅・マンガン・アルミニウムはそれぞれ第6位)、自動車販売ではASEANで最も大きな市場であり、第2位の自動車生産能力(2025年には二輪車8.8百万台、四輪車は2百万台の販売の見込み、EVバッテリーの世界需要のうち10%を満たす潜在的なEVバッテリーの輸出力)、競争力のあるサプライチェーン(供給網)(インドネシアでのバッテリー生産によりEVコスト35%削減の可能性)である。

2035年には世界全体で、ニッケル純分で1,086千tの硫酸ニッケルの供給が、需要が2,595千と約1,600千tが不足することが見込まれる。そして、世界的には硫酸ニッケルの供給不足は2025年から始まる。他方で、ASEAN(特にインドネシア)においては、硫酸ニッケルは供給過剰となり、世界の硫酸ニッケルの需要を満たすために、ASEANから硫酸ニッケルを輸出する潜在的可能性が生じる。

特にインドネシアでは、計画的にニッケルの製錬能力が増加することに伴い、中国に代わって、インドネシアは硫酸ニッケルの生産者NO.1になりうる。IBCは、2025年以降、毎年310千tの硫酸ニッケルを供給する見込みである。

もし、インドネシアが世界的なバッテリー・プレイヤーになったとしたら、インドネシアのGDPは、2030年までに2.6bUS$に達するだろう。

5.Update-Projection Development Nickel Smelter

講演者:Head of Market Research of PT Indeks Komoditas Indonesia (IKI)

(1)インドネシアでのニッケル産業に対する投資

インドネシア投資省によれば、2021年以来、インドネシアではベースメタルへの投資が他のどの分野よりも高い。2022年第1四半期のベースメタル部門における実際の投資額は、2.76bUS$で、前年同期比で37.3%増の伸びを見せると共に、インドネシアにおける総投資額の14.1%を占めた。

ニッケル部門における最も大きな投資先は、Morowali工業団地、北Morowali県及び中部Halmahera県である。中国からの投資が59.4%と最も大きく、次いでシンガポール(28.8%)、ケイマン諸島(2.0%)、日本(1.4%)、韓国(0.8%)からの投資であった。

(2)ニッケルの輸出量

ニッケル製品の輸出量は、2014年には39.1千t/月(純分)であったが、2022年5月までに417.7千t/月(純分)となった。2022年におけるニッケルは、フェロニッケル(424.1千t)、NPI(5.36千t)、ニッケルマット(13.75千t)及びニッケル・コバルト混合水酸化物(MHP)(28.5千t)である。ニッケル製品(純分ベース)の約93%が中国に輸出されており、残りはインド、韓国、台湾、日本及びマレーシアに輸出されている。

しかし、それは、欧州諸国、タイ、ベトナム、米国及び南アの市場を失ったことも意味する。失った理由は、ニッケル製錬所で生産された製品が中国に対してのみ販売されること、輸出されるニッケル製品のニッケル品位が低いこと、ニッケル製品生産時の二酸化炭素の排出量が多いこと等による。

(3)ニッケル産業のインドネシアへの貢献

2022年における、5月までのニッケル鉱石の販売による非税収入(PNBP)は、4.18tIDRで前年同期と比較して111.1%増となった。また、ベースメタルの販売収入は4月までで11.67tIDRで前年同期比99.67%増となった。

輸出量の増加、貿易収支の改善、外貨準備高の増加と国内消費量の増加及びインドネシア東部における投資活動の増加により、ニッケル産業は、インドネシア経済の成長に貢献している。更に、遠隔地におけるインフラ整備(港、道路、発電所、空港、家屋、水道設備等)への貢献もある。

また、今後5年間おける地元住民に対する雇用の確保、教育センターの建設・運営等と言った技術移転への貢献も期待できる。

6.New Driving Evolution Trend of Nickel Structural Supply

講演者:Shirley Wang(Big Data Director and Nickel Analyst lead of Shanghai Metals Market, SMM(上海有色金属網))

ニッケル価格動向は、2022年3月に異常な変動を起こし、波乱の幕開けとなった。LMEの価格維持機能が破綻した際も、SMMニッケル市場のバッテリーグレードの硫酸ニッケル価格は上昇を続けた。NPI価格は大幅な値下げとなっており、背景にはインドネシアの増産がある。同国のNPI生産量は2025年に年間で2,147千tに上ると予測している。

中国とインドネシアでは操業コストのギャップが顕著であり、2022年第1四半期の時点で、ロータリーキルン電気炉(RKEF)の操業コストはMorowali県で10,793US$/t、山東省で17,949US$/tと、インドネシアが優位である。

中国の300系ステンレスの生産量は今後も増加する見通しだが、伸び率は鈍化すると思われる。一方、インドネシアの生産量は成長する見通しだが、その他の生産地域については減少傾向となる。また、NPIは安価な原料なため、将来的にフェロニッケルの市場を圧迫することが予想される。

硫酸ニッケルの生産量についてはMHPやニッケルマットの生産量が増加することに伴い、徐々に供給過剰傾向となる。MHPについては、Class1ニッケル(ブリケット)と比較して、中国国内でコスト競争力があり、生産量増加を後押ししている。

中国を除いた世界の高品位ニッケルの供給量は、2022年比で2026年にはCAGRが3%、中国は10%と大幅な増産は見込まれていないが、今後数年間は、大幅な需要増加はなく需給バランスは、供給過剰となると予想する。

おわりに

インドネシアは、世界的にもニッケルの埋蔵量と生産量が最も大きいが、その資源によって得られる利益を国に還元するために、高付加価値政策を進めている。未加工鉱石の輸出を禁止する2009年の鉱物資源石炭法の制定後、紆余曲折を経ながらも、2020年1月からニッケル鉱石の輸出が全面的に禁止となった。インドネシア国内では中国を中心とした投資によるフェロニッケルやNPI、最近ではEVバッテリーの原材料となる硫酸ニッケルを生産するためのMHPを生産するニッケル製錬所が建設され、2009年には2つだったニッケル製錬所は、APNI(Indonesia Nickel Miners Association)によると、2022年7月13日時点で29のニッケル製錬所が操業しており、ニッケル鉱石の加工産業は拡大している。

また、近年では、世界的にEVが自動車の潮流となっているところであり、EVバッテリーに必要なニッケルが重要な資源の一つとなってきている。世界的にもニッケルの埋蔵量と生産量が最も大きく、資源の高付加価値政策を進めてきたインドネシアにとっては、これを好機と捉えている。その一環として、ニッケル鉱石の生産から、加工、バッテリーの生産及びバッテリーのリサイクルまでをインドネシア国内で行うEVエコシステムを構築しようとしている。

更に、ボーキサイト、錫及び銅の今後の輸出禁止政策についてJoko大統領等が語るとき、ニッケル鉱石の輸出を禁止したことは成功であると語られるほど、ニッケル産業に対するインドネシアの期待は大きい。

現在でも、ニッケル品位50%以下のニッケル製品に対して、輸出禁止若しくは輸出課税するという動きがあり、引き続き、インドネシアのニッケル産業に対する動向に注目していきたい。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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