報告書&レポート
2022年 金属鉱物資源をめぐる動向
はじめに
JOGMEC金属企画部調査課では、2022年の金属鉱物資源分野における主な出来事を振り返り、その動向を以下のとおり解説した。未だ「コロナ禍」の影響を引きずる中、ロシアによるウクライナ侵攻など、今年の前半から鉱物資源のサプライチェーンに影響を与える数々の出来事があった。各鉱種によって、その挙動や課題を捉えるには、個々の精緻な分析が必要である。今回、当課の各地域及び鉱種の専門家が注目したトピックを選んで解説した。本レポートが金属資源情報を整理する上での一助になれば幸いである。
◆ バッテリーメタル市況動向:ニッケルが3月暴騰、リチウムは中国のLFP拡大で唯一の高値
ニッケルの価格動向で特筆すべきは、3月のLME価格の暴騰と取引停止である。1月のLME月間平均価格は22,326US$/tであったが、2月24日にロシアによるウクライナ侵攻が始まると、主要生産国の1つであるロシアからの供給懸念が生じ上昇、3月7日にLME現物価格は42,995US$/tとなり、年内最高値となった。翌8日、LME価格は暴騰、先物価格が一時100,000US$/tに達する異常事態となったため、LMEはニッケルの取引を停止した。中国青山集団が大量の空売りを行っていた中、ロシアからの供給懸念に加え、一部の企業が買いに走ったため、ショートスクイーズ(踏み上げ)が発生したことによる。現在、8日の取引は無効となっており、値幅制限が上下15%で課されている。そのため、暴騰の一件以降は、以前の10,000US$/t台からは高値であるが、概ね安定的に20,000US$/t台を推移した。しかしLMEの取引停止後、同取引所での取引量が減少し、流動性の低下が価格変動を起こしやすい状況ではあったため、12月は一時、投機筋の一時的な参入等で現物価格が4月ぶりに一時30,000US$/tに上昇、比較的高値で越年した。
コバルトは、3月、2018年に次ぐ80,000US$/t台の高値となったが、中国で新型コロナウイルス(以下、コロナ)感染が再拡大したため5月から下落傾向に転じた。一時40,000US$/t台まで下落し、8月には電気自動車(以下、EV)需要の回復等で50,000US$/t台まで価格を戻したが、中国を中心に電子機器用のリチウムイオン電池(LIB)の需要が弱く、市場も供給過剰気味となっていたため、その後50,000US$/t台を超えることはなかった。
LIB正極材向けが用途の大部分を占めるリチウムは、EV及びエネルギー貯蔵市場での想定以上の需要の増加に対し供給が逼迫したことから、記録的高値を更新する1年となった。3月、指標となるバッテリー向け炭酸リチウム中国スポット価格が一時50万元/t(約1,000万円/t)超となり最高値を更新、その後は市場過熱の反動で夏場は一服感が見られていた。しかし夏以降、中国における低価格帯のEV需要の伸びや、10月の豪州産精鉱の対中国スポット価格が高騰したことで更に高値圏に達し、11月に57万元/t(約1,100万円/t)に迫り再び史上最高値を更新した。リチウムはEV販売台数首位である中国で需要が急拡大している低価格帯EVに用いられるリン酸鉄(LFP)系LIB正極材の材料ともなるため、他の電池材と比較し需給が引き締まる状況となっている。
2022年のレアアース市況は、脱炭素化へ向けた風力発電やEV等に使用されるNdFeB磁石の大幅な需要増が見込まれる中で、中国やミャンマーにおけるコロナ対策の動向、および半導体不足によるEV等生産鈍化により、主にネオジム、ジジム(Pr-Nd)、ジスプロシウム等のNdFeB磁石関連の品目において大きく変動した。コロナ感染拡大の影響を受け、2021年12月末に再び始まったミャンマーから中国へのレアアース製品輸入禁止を契機に上昇、3月上旬には酸化ジジムの中国輸出価格は年初比約1.3倍に達した。その後、4月下旬の輸入再開、半導体不足によるEV等の生産鈍化や世界経済の停滞を背景に需給が緩み、9月上旬には2021年7月以来の安値となった。その後はスポットでの取引に支えられ比較的安定して推移していたが、11月中旬の中国政府・中国五鉱集団による備蓄買入、および11月末の中国ゼロコロナ政策の事実上の破綻から世界経済回復が期待され、価格上昇傾向のまま2022年末を迎えた。
◆ ベースメタル市況動向:露宇侵攻により第一四半期高騰も、中国需要低迷から下落
2022年の銅価格は、継続的な脱炭素社会向けの需要増への期待感とLME在庫の低水準が価格を下支えする一方、欧米での高いインフレ率や最大消費国である中国の経済活動停滞が価格の下落要因となった。需給の観点では、ペルーQuellaveco銅鉱山の生産開始やDRコンゴKamoa Kakula銅鉱山の生産量増加が供給量を増やしたが、チリでの低品位鉱や水不足による生産量減少や、ペルーでの地域住民による抗議活動等が影響し、年間を通じ供給不足の観測となった。結果として上半期は約9,000~11,000US$/t台で推移、2月のロシアによるウクライナ侵攻発生を受けた対露制裁の影響でロシア産金属の供給懸念が高まったことも価格を押し上げ、3月7日には2021年5月の史上最高値を更新し10,730US$/tに達した。他方、下半期は7,000~8,000US$/t台前半での推移となった。中国でのコロナ再拡大による都市封鎖措置などによる経済活動停滞、米FRB(連邦準備制度理事会)による利上げ観測によるドル高が実需・投機共にマイナスに作用した。
亜鉛は、製錬に電解工程を含むことから、他の鉱種と比べてエネルギー・電力価格上昇の影響を受けやすいと言われる中、年初より仏Auby製錬所などの欧州9箇所の製錬所で生産停止または10~50%の生産量削減という事態に陥った。ロシアによるウクライナ侵攻もあり年前半は高値で推移し、4月19日、史上最高値4,620US$/tに迫る年内最高値4,530US$/tを付けた。8月にも中国四川省・雲南省の一部精錬所が、9月は蘭Budel製錬所が操業停止するなど、断続的な電力不足・高騰による減産が年を通じて相次いだ。高騰が続く電力価格によるコスト高を受けた更なる製錬所停止で2022年は前年に続く供給不足となり、比較的高値で推移したところ、2023年も供給懸念が強まっている。
鉛は、ウクライナ侵攻と世界経済低迷により同様の推移をした一方、7~9月の猛暑により自動車交換用バッテリーの需要が増加したことで、供給タイト感が増し下落幅は小さかった。
ベースメタル各鉱種のLME価格概要を、表1ならびに図1で示す。
鉱種 | 年初価格 | 年末価格 | 最高値 | 最安値 | 年平均 |
---|---|---|---|---|---|
銅 | 9,660.0 | 8,387.0 | 10,730.0 (3月7日) |
7,000.0 (7月15日) |
8,797.0 |
鉛 | 2,327.0 | 2,335.0 | 2,513.0 (3月7日) |
1,754.0 (9月27日) |
2,150.2 |
亜鉛 | 3,602.0 | 3,025.0 | 4,530.0 (4月19日) |
2,682.0 (11月3日) |
3,478.3 |
ニッケル | 20,730.0 | 30,425.0 | 42,995.0 (3月7日) |
19,100.0 (7月15日) |
25,604.5 |

図1.2022年ベースメタル(LME)月平均価格の指標推移
(2022年1月=1.00)
◆ 貴金属市況動向:金は米高金利政策が重しに、パラジウムは露情勢で史上最高値を更新
金は、中国のゼロコロナ政策等で世界的に景気が減速、米FRBが高インフレ抑制を目的とした高金利政策を実施したのに加え、ドル高・現地通貨安で、8月にユーロが米ドルに対してパリティを割り込む等、金にとっては重しとなる経済情勢が目立った。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻の戦況悪化で、3月上旬、一時的に2,000US$/ozを超える高値も付けた。
プラチナは、工業用途としてはディーゼル車の排ガス触媒等に使用され、新用途として燃料電池車の触媒や、ガソリン車の触媒におけるパラジウムからの代替といった、需要の増加が期待される報道もあったが、2022年も前年に引き続き、中国をはじめとする世界的な景気の減速や、半導体不足による自動車減産で1,000US$/oz前後と価格低迷が継続した。
パラジウムは、プラチナとは異なり、世界の供給量の8割を南アとロシアの2か国で担っていることから、プラチナよりも一層ロシア情勢の影響を受けやすい。1月からロシアとウクライナの緊張関係を受けて上昇し、2月24日にウクライナ侵攻が始まると急上昇、戦況の悪化を受け、ロシアからの供給不安が高まった結果、3月7日に3,117.0US$/ozと史上最高値を更新した。結果的にその後もロシアからの供給は継続し、中国にてコロナ対策の都市封鎖による経済活動の停滞もあり、急落した。更に、2018年以後の高値継続を受け、パラジウムの主用途であるガソリン車の排ガス触媒向けにはより安価なプラチナによる代替が一部で進み、パラジウムの需要が減少したことも、ロシア・ウクライナ情勢の混乱の中でも高値を継続しなかった一因となった。
貴金属各鉱種のLBMA価格概要は、表2のとおりである。
鉱種 | 年初価格 | 年末価格 | 最高値 | 最安値 | 年平均 |
---|---|---|---|---|---|
金 | 1,810.2 | 1,812.4 | 2,023.0 (3月8日) |
1,624.7 (11月3日) |
1,800.5 |
プラチナ | 969.0 | 1,065.0 | 1,150.0 (3月8日) |
834.0 (7月14日) |
961.2 |
パラジウム | 1,881.0 | 1,788.0 | 3,117.0 (3月7日) |
1,658.0 (12月23日) |
2,110.7 |
◆ ロシアのウクライナ侵攻による金属市場への影響、一部で制限も市場影響は寡少
2022年2月24日、ロシアはウクライナへの軍事侵攻を開始した。これに伴い、欧米諸国や日本によるロシアに対する制裁は著しく強化された。パラジウムやニッケル等のロシアからの供給量の多い金属は供給不安が発生し、侵攻開始後、一時的に価格が高騰した。また一部需要家は自発的にロシア産金属の購入を停止し、他国産金属に切り替える動きも起こった。ロンドン貴金属市場協会(LBMA)は3月7日、ロシアの貴金属精錬業者6社の認定を停止した。一方、ロンドン金属取引所(LME)は11月11日、ロシア産金属の新規供給禁止を見送ることを決定した。欧米諸国や日本はウクライナに侵攻したロシアに幅広い制裁を科しているが、LMEで取引される金属は概ね一律の制限措置から外れている。一部需要家は自発的にロシア産金属の購入を拒否しており、その結果、LMEでは安値で売られ、価格が歪められるのではないかとの懸念があった。現在はロシアの精錬業者締め出しによる市場への影響はほとんどなく、ロシア産金属は中国や中東などで依然として買い手が見つかっている状況にある。
◆ 日本にて経済安全保障推進法が成立、米国でも重要鉱物確保政策を強力に推進
中国依存度の高いバッテリー鉱物やレアアースのサプライチェーン強靭化が強く意識され、重要鉱物確保政策が一段と推進された。日本では、経済安全保障推進法(経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律)が5月に成立し、特定重要物資に係る民間プロジェクトについて、国の認定を前提として、助成金等の支援を政府系機関から受けることができるようになる。特定重要物資としては、35鉱種が重要鉱物として指定され、現在、これらの安定供給確保を図るための取り組み方針が手続き中である。本方針の中に、当面の間、LIBの原材料となるマンガン、ニッケル、コバルト、リチウム及びグラファイト、永久磁石の原材料となるレアアースを支援策の対象とする旨が盛り込まれており、2022年度以降にこれらの鉱物に関連した開発事業への助成金支援が始動する。
米Biden政権下においても、具体的なプロジェクトへの補助金交付やファイナンスの資金拠出先が続々と決まっている。米Albemarle社のリチウム鉱山選鉱施設建設への補助金149.8mUS$など総額7bUS$以上の交付決定を10月に行ったのもその一環である。それ以前には、米MP Material社(2月)や豪Lynas社(6月)の重希土類の分離処理施設建設へのファイナンスも国防省が行うことを決めた。IRA(Inflation Reduction Act、通称インフレ抑制法)の中でも、クリーン自動車向け税額控除の条件が規定された。バッテリーについて、使われる重要鉱物のうち米国国内又は自由貿易協定国にて採掘やプロセシングされたものが一定割合を占めること、また、北米で製造又は組み立てられたものの割合が控除条件として明記されており、北米でのサプライチェーン強靭化を強力に進める意志が示された。
◆ EV化とバッテリーメタル資源確保、自動車OEMによる直接的確保が急速に拡大
2022年は引き続き世界のEVの販売台数が著しく増加した。上半期の世界のEV及びプラグインハイブリッド車(PHEV)の販売台数は約430万台となり、前年同期比62%増となった。カーボンニュートラル実現に向け、自動車OEM(Original Equipment Manufacturer)各社はEV生産台数の増産を相次いで発表した。これまでEV向け電池の原料であるバッテリーメタルの確保については、電池メーカーや商社等が主に行っていたが、EV生産台数増加に伴うバッテリーメタルの将来の需要増も予想されることから、2022年は自動車OEM各社が直接、バッテリーメタル確保を急速に実施したことが特筆される。2022年に発表された主な案件を表3に示す。
会社名 | 鉱種 | 資源確保の動き | 発表日* |
---|---|---|---|
トヨタ (PPES) |
Ni | BHPとMOUを締結。 | (2021年) 10月4日 |
Li | 豪ioneer社と拘束力のあるオフテイク契約を締結。 | 8月1日 | |
Ford Motor | Ni | Vale Canada社、Vale Indonesia社と中・浙江華友コバルト業股分有限公司(Zhejiang Huayou Cobalt社)、BHPとそれぞれ拘束力のないMOUを締結。 | 7月21日 |
Li | Rio Tinto:拘束力のないMOUとオフテイク契約を締結。 米Compass Minerals社:拘束力のないMOUを締結。 豪ioneer社:拘束力のあるオフテイク契約を締結。 |
7月21日 | |
豪州のバッテリー用金属探査・開発企業Liontown Resources社とオフテイク契約および資金調達に関する契約を締結。 | 6月29日 | ||
General Motors (GM) |
Ni | 豪州でニッケル製錬事業を計画する豪Queensland Pacific Metals(QPM)社と提携すると発表。 | 10月11日 |
Li | 米Livent社が南米で保有するリチウムかん水事業で採掘したバッテリー品位の水酸化リチウムを、2025年から6年間に亘りGM社に供給。 | 7月26日 | |
Volkswagen (VW) |
Ni | 原材料に焦点を当てたEV用バッテリーサプライチェーンに関し、カナダ政府とMOUを締結。 | 8月23日 |
Huayou Cobalt社および青山集団と共同で、バッテリーに必要なニッケルとコバルト原材料を供給する上流の合弁会社をインドネシアに設立。 | 3月21日 | ||
Li | 豪Vulcan Energy社と水酸化リチウム供給に関する拘束力のあるオフテイク契約を締結。 | (2021年) 12月8日 |
|
Tesla | Ni | Valeと同社のカナダ事業で生産された低炭素ニッケル製品の供給に関する長期契約を締結。 | 5月6日 |
加Talon Metals社の子会社であるTalon Nickel社とニッケル精鉱に関する長期供給契約を締結。 | 1月10日 | ||
Li | 年次報告書「2021 Impact Report」によると、すでに鉱山会社や化学会社9社と取引しており、これら企業がリチウムの95%以上、コバルトの半分以上、ニッケルの3分の1以上を供給しているという。 | 5月11日 | |
Stellantis | Ni | 豪州を拠点とする探鉱・開発会社GME Resources社と非拘束のMOUに署名。 | 10月10日 |
Li | 豪Vulcan Energy Resourcesに50m€を出資し、EV用バッテリーの原材料となる水酸化リチウムの長期調達契約を10年間に延長すると発表。 | 6月24日 | |
ホンダ | Ni | 電動車に必要なバッテリー用レアメタルの安定調達に向けて、資源調達に強みを持つ大手商社の阪和興業と戦略的パートナーシップを締結。 | 9月6日 |
Li | |||
Volvo | Li | Rio Tintoと戦略的パートナーシップを構築するMOUを締結。 | 9月16日 |
Mercedes-Benz | Li | カナダ政府とMOUを締結したことを受け、加リチウム開発会社Rock Tech Lithium社と戦略的提携契約を締結。 | 8月23日 |
* 年の記載のないものは2022年
◆ 中国、コロナ禍で進むEV化の進展と非鉄産業への影響、レアアース産業の統合加速
コロナ禍にも関わらず、中国におけるEV化の進展は大きく、2022年1~11月におけるEV生産台数は前年同期比91.2%増、全自動車生産におけるEVの生産割合は25.4%であった。EV化の進展の裏には中国駆動用電池メーカーの世界的な躍進があり、2022年1~10月の中国における駆動用電池生産量は前年同期の2倍以上と大幅増産、メーカー別生産割合は、5年連続世界最大の駆動用電池メーカーとなった寧徳時代新能源科技股份有限公司(CATL)が第1位で48%、比亜迪股份有限公司(BYD)が第2位で23%であった。
一方、3月末~5月に起こった中国国内でのコロナ感染拡大を受け、都市封鎖など厳格な防疫管理が継続、物流の停滞や工場の操業停止等、経済活動への影響が報告された。リチウム関連では電池産業や新エネルギー産業が感染拡大のみられる長江デルタ地域に集中しているため発注が減少、鉛関連では広東省、上海市などの封鎖管理により物流輸送が停滞、使用済鉛蓄電池の回収が滞る等、リサイクル原料の調達にも支障が出た。しかし、11月末より発生した各地での暴動を受け、ゼロコロナ政策は徐々に緩和、事実上の破綻に追い込まれたことで、世界経済の回復が期待されるとともに、その後の感染再拡大の影響が心配される状況となった。
レアアース業界においては、2021年末に3社の戦略的再編により発足した中国希土集団有限公司1が10月31日に広東省広晟控股集団有限公司と戦略的協力協定を締結、さらに11月30日には湖南省人民政府と戦略的協力協定に調印するなど、中国国内レアアース産業の統合が加速している。供給面では、2022年の軽希土の採掘割当量が前年比28.2%増となる一方、中・重希土は2019年から4年連続で増減が無く、需要増に対応した増産が厳しい状況が推察された。
◆ 中南米、左派政権が戦略的資源の管理強化を遂行も、困難が露呈
2021年は南米諸国で左派政権が誕生し、2022年は政策や公約を実行する年であった。鉱業分野では、リチウム等戦略的資源の国有化等といった「囲い込み」、つまり国の資源管理強化の動きであるが、このような政策の実現は容易ではないことが露呈した。
チリでは3月、Gabriel Boric新大統領が就任し、憲法改正を推し進めた。しかし、当初の公約でもあった、リチウムを含む戦略的資源の開発および探査に関わる民間企業の国有化は、制憲議会や大統領自身への不信感等から4月の制憲議会本会議で否決された。一方、2021年の資源価格高騰で議論が再燃した、増税を目的とした新鉱業ロイヤルティ法案は上院での審議が進められているが、鉱業界からの反対が強く、政府修正案を審議中のまま、結論は2023年に持ち越された。
ペルーでも、鉱業分野での増税案等が当初心配されたが、Pedro Castillo大統領就任後計5度もエネルギー鉱山大臣が交替、大統領自身も2度弾劾裁判を受け、3度目の12月には罷免された。こうした政権運営の不安定さから、鉱物資源政策を遂行する状況ではなくなっている。
一方メキシコは、Andres Manuel Lopez Obrador(AMLO)大統領がリチウム資源の国有化を強行、4月、憲法改正案は否決されたが、それを見越して用意していた鉱業法改正案が国会を通過、成立した。そして8月、リチウム国営企業(LitioMx)を創設した。リチウムの国内資源を開発前に囲い込む政策を、AMLO大統領が高い支持率を背景に強硬に実現した形であるが、これらの詳細は明かされていない。2023年はこうした資源政策をより具体化に遂行していくであろう。
ブラジルでも11月の大統領選挙で、左派のLula元大統領が現職Bolsonaro大統領を破り当選した。Lula大統領は、アマゾン資源開発や金の違法採掘を容認していたBolsonaro前大統領とは真逆の鉱業政策を執る可能性があり、その詳細が待たれる。
◆ インドネシア、さらなる高付加価値化推進のためClass 2ニッケル輸出税等に向けて始動
インドネシア政府は、資源の高付加価値化政策を達成すべく原料の輸出規制を行い、国内企業は中国企業などと共同でバッテリー向けの原材料の製造プロジェクトに注力している。
2020年に政府はニッケル鉱石の輸出を禁止したが、欧州連合(EU)が世界貿易機関(WTO)に異議申し立てを行い、11月21日、WTOは規定違反と結論付けた。Arifin Tasrifエネルギー鉱物資源大臣は、この結論に対し上訴を示唆しており、高付加価値化政策に変更はないとしている。
加えて、Class 2ニッケル(フェロニッケル、ニッケル銑鉄)への輸出税課税、銅精鉱・ボーキサイト・錫の輸出禁止が検討されている。Class2ニッケルの輸出税課税は、当初2022年第三四半期に実施する予定とされていたものが、2022年中に実施と後ろ倒しになった。新鉱業法に基づき2023年に銅精鉱・ボーキサイトは全面輸出禁止となる予定で、錫は、政府が別途政策を起案している。また、エネルギー鉱物資源省は今後、比較的低品位なClass 2ニッケルの新規製錬所建設も認めないことを検討している。
PTVI(PT Vale Indonesia)は、2022年に中Zhejiang Huayou Cobalt社とバッテリー向け原料のプロジェクトのMOUを2件締結している。そのうちの1つであるPomalaaプロジェクトは、HPAL(高圧硫酸浸出)製錬によって120千t/年のMHP(NiCo混合水酸化物)を製造する予定で、2022年11月27日に起工式を開催した。2025年末までの完成を目指すとされている。なお、米Ford社もPTVIとHuayou社の協定に基づき、パートナーシップ協定を結んでいる。
◆ アフリカ諸国、国内鉱山事業を巡る外国企業との係争続く
2022年、アフリカ各国において外国企業と国有企業間で顕在化したトラブルは、進展・膠着交々の様相を見せた。
DRコンゴは2019年のTshisekedi政権発足後、鉱業セクターの改革に注力しており、前政権において構築された中国との関係性の見直しが図られているなか、Tenke Fungurume銅・コバルト鉱山を巡る紛争は未だ解決していない。同鉱山の80%シェアを有する中CMOC Group2には、20%を有する国有鉱山会社Gecaminesに支払うロイヤルティを減額するため同鉱山の埋蔵量を過小評価したとの疑惑がかけられており、2月、裁判所はGecaminesに有利な判決を下し臨時管理者を置きCMOCから管理権限をはく奪した。その後、一時は解決に向け進展しているとの報道が見られたものの交渉は難航、7月以降、臨時管理者の指示による輸出停止が続いている。また、中国企業グループとGecaminesとのJV事業であるSicomines銅・コバルト鉱山プロジェクトを含むインフラ・鉱山開発事業も、プロジェクトの得た超過利潤を巡り契約の見直しが議論されている。
他方ザンビアでは、Konkola Copper Mines(KCM)社を巡る係争に進展が見られた。2019年来、政府と所有者の印Vedanta Resources社との間で法的紛争が生じていたが、10月、紛争の審理を6か月間停止し法定外での和解を目指すことで合意した。本件は、前政権がKCMを暫定清算人に引き渡したことに端を発しており、政府はVedanta Resources社がライセンス条件を遵守しなかったと非難、同社はこれを繰り返し否定してきた。
中央アフリカには銅やバッテリーメタルのポテンシャルがあり、近年バッテリー正極材製造への外資導入に積極的である。例えば12月にはDRコンゴのN’samba鉱山大臣が訪日し、投資環境の整備を積極的に行っているとの情報提供があった。
◆ 新生JOGMECの始動
5月、法改正によるJOGMECの機能強化が図られ、水素・アンモニア、洋上風力発電などの業務が新たに追加され、それに伴い名称も「エネルギー・金属鉱物資源機構」に変更した。既に世界的にも定着している「JOGMEC」の呼び名は、これまでどおりとした。
金属部門に限って言えば、この法改正において出資業務の支援対象範囲を拡充している。これまで海外での選鉱・製錬案件が支援対象であったが、改正後は国内事業も支援対象となった。これまでも国内製錬所は金属サプライチェーンの要に位置付けられてきたが、各種レアメタルの回収やリサイクルの点で、益々その重要性が認識された結果である。スキームの拡張は法改正だけではない。その前の4月には、レアアースやバッテリーミネラル、白金族といった電動化・グリーン化のカギとなる鉱種について出資比率の上限を従前の50%から75%まで拡充を公表している。
また、2022年の出資実績としては、豪レアアース生産者Lynas社の探鉱事業への追加出資を決めたことが挙げられる。9月、日本の商社双日とJOGMECが9mUS$を出資した。両者は2011年から同事業への出融資を行い、磁石を含めた様々な用途にレアアースを安定供給している。今回は、出資による資金のみならず、JOGMECの地質技師やエンジニア派遣による人材面でも支援している。本事業を拡充していくことで、今後のレアアース資源安定供給への寄与が期待される。
おわりに
最後のJOGMEC関連のトピックを加えると11テーマになり、当初予定の10テーマより増えてしまった。トピックが多く、編集会議で絞り込むのに苦労した結果である。今年のトピックの多さは、それだけ世の中の鉱物資源への関心増の表れと考える。また、鉱物資源の動向が注目を集める中、サプライチェーンの課題やカーボンニュートラルなどの環境問題など分析内容も多岐にわり、より精緻な情報収集・発信が求められるようになってきたことを日々実感する。本レポートにて取り上げたテーマについては、今後も引き続きフォローしていく必要があるものばかりであり、当課のレポートやセミナー等で、より深堀りしてアウトプットしていく所存である。
- 2021年末、中国アルミ集団、中国五鉱集団有限公司(中国五鉱)、贛州市人民政府(南方希土)の戦略的再編により発足した。
- 2022年6月30日、China Molybdenum社から英語名を変更した。
おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
