報告書&レポート
Copper 2022参加報告
はじめに
「Copper」は銅に焦点を当てた国際会議であり、選鉱・乾式製錬・湿式製錬・電解製錬など銅の生産に係る幅広いテーマを取り扱っている。1987年にチリで開催された第1回以来、チリ、カナダ、米国、ドイツ、日本の5か国が持ち回りでホストを務めてきた。11回目となる「Copper 2022」は、2022年11月13~17日の会期でチリSantiagoにて開催された。
本稿では、選鉱・湿式製錬・乾式製錬の3分野に焦点を当て、筆者らが特に注目した講演について紹介する。

写真1.講演会場の様子
筆者撮影
1.【選鉱】新型浮選機の現場実装に係る取り組み
選鉱については、現場改善の取り組みに係る様々な講演があった。中でも本項では、比較的新しい浮選機であるHydroFloatやDFR(Direct Flotation Reactor)の現場実装に係る講演に焦点を当てて紹介する。
1.1.チリEl Soldado鉱山におけるHydroFloatの現場実装に係る取り組み
チリのEl Soldado鉱山において、2021年の第1~3四半期に実施したHydroFloatの試運転の成果について、Anglo AmericanのArburo氏から紹介があった。
HydroFloatはEriez社が開発した粗粒の回収に有効な浮選機であり、ここ20年間で工業的に利用されているものの、ベースメタル鉱山への導入事例が出てきたのは最近である。HydroFloatは比重分離と浮選分離の二つを備えた浮選機であり、鉱石は浮選機上部から給鉱され沈降するが、浮選機下部から上部に向けての水流があることから、沈降速度が抑制される。加えて、気泡の注入により、疎水性の鉱石粒子は気泡との接触によって一度滞留した後、度更なる気泡の付着によって浮遊することで、粗粒であっても浮選機上部から回収が可能となる。他方、親水性の鉱石粒子は、気泡と接触しないため浮選機内で滞留することなく沈降し、浮選機下部から排出される。
ベースメタル鉱山におけるHydroFloatの導入事例は、最終尾鉱に含まれる粗粒の片刃粒子の回収を目的としたものが主体である。これにより、3~6%の選鉱実収率の改善や磨鉱粒度が上昇可能となることによる電力消費量の削減などといった実績が示されている。しかし、El Soldado鉱山では今までの事例とは異なる目的でのHydroFloatの導入を検討している。具体的には、HydroFloatを磨鉱工程と粗選工程の間に組み込むことによる粗選前段階での粗粒の脈石の除去を目的とする。このようなHydroFloatの実装事例は世界初となる。
El Soldado鉱山では、磨鉱工程を経た鉱石はまず2連直列のサイクロンによって分級され、細粒分は粗選工程へ、粗粒分はHydroFloatに送られる。HydroFloatの浮鉱は再磨鉱工程を経て粗選工程へ送られ、沈鉱は最終尾鉱となる。これによって、粗選前に粗粒の脈石除去が可能となり、この結果、磨鉱工程の負荷が軽減し、電力消費量や水使用量を低減できた。
1.2.加Copper Mountain鉱山におけるDFRの実導入
カナダBC州に位置するCopper Mountain鉱山において、新型浮選機DFRを最終精選工程に導入した操業が行われている。当講演ではDFRの効果及び最適化について、三菱マテリアルテクノ株式会社の高次氏から紹介があった。
Copper Mountain鉱山は、Copper Mountain Mining社が75%、三菱マテリアル株式会社が25%の権益を保有、2020年の実績では銅78百万lbs、金19,000oz、銀39,200ozを生産している。同鉱山の浮選プロセスでは、まず160m3のタンク型浮選機による粗選が行われ、浮鉱はボールミルによる再磨鉱工程へ送られ、沈鉱は最終尾鉱となる。再磨鉱工程における磨鉱及び分級後、カラム浮選機による精選が行われ、DFR導入以前ではカラム浮選の浮鉱は最終精鉱となっていた。カラム浮選機の沈鉱は70m3のタンク型浮選機に送られ、清掃選が行われる。清掃選の浮鉱は再磨鉱工程に戻され、沈鉱は最終尾鉱となる。なお、精選工程の負荷軽減のため、再磨鉱工程では分級後の粗粒群を対象としたフラッシュ浮選機が導入されており、浮鉱は最終精鉱、尾鉱は再磨鉱工程に戻される。
同鉱山では、選鉱場の処理量増加の計画に伴い、精選工程の更なる負荷増大が見込まれることから、カラム浮選の浮鉱を対象とした二次精選のため2020年にDFRの最終精選工程への導入を開始した。DFRの浮鉱は最終精鉱となり、沈鉱は再度カラム浮選に戻される。
DFRはWoodgrove Technologies社が開発した新型浮選機であり、同社開発の浮選機であるSFR(Staged Flotation Reactor)の後継機となる。SFRは3つの機構に区分され、最初の区画で鉱物粒子を気泡に吸着、次の区画で対象鉱物を浮上させて脈石と分離、最後の区画でフロスの洗浄及び回収を行う。この機構により、従来型の浮選機よりも高効率な浮選分離が可能となる。DFRはSFRの設計コンセプトを維持しつつ、従来のタンク型浮選機のような一体構造とすることで、更なる省スペース化を可能とした。
DFRは完全密閉構造のため、フロスの様子等を視覚的に確認できないものの、空気や電力の消費量削減が可能である。DFRは浮選機の内圧、精鉱及び尾鉱の品位、給鉱タンクの液面レベル等を操業指標とし、精鉱及び尾鉱の排出バルブ、空気の吹込み流量、洗浄水の水量調整により操業が行われている。特に、精鉱の排出バルブの開閉による精鉱排出量の調整により精鉱品位を制御可能である点が、従来の浮選機と比較して特徴的であると言える。
講演では、DFR導入前後2か月間の操業成績の比較を行い、DFR導入によって精選工程における回収率を維持しつつ、最終精鉱中の銅品位の平均値を23.4%から27.4%にまで改善することができたとの紹介があった。他方で、装置内が密閉されているため浮選の視覚的な情報が得られないことから、給鉱品位や量の変化への対応が難しく、操業が不安定になる事象が発生したとの報告もあった。そのため、フロス中の空気割合やフロスレベルを測定可能な装置を新設し、操業指標を増やすなどの対応を行い、問題への対処を行っているとのことである。筆者の所感としては、給鉱品位・量の変動が小さく、集中管理室を保有し自動化のプラットフォームが整った選鉱場であればDFRの導入障壁は比較的低いと見られるが、オペレーターがフロスの状態を確認しながら操業管理するような従来の選鉱場や給鉱品位・量の変動が大きい現場においては操業の安定化に苦労しそうな印象を受けた。
2.【湿式製錬】黄銅鉱を含む銅原料の浸出技術
湿式製錬については、Plenary LectureでDavid Dreisinger氏(METSOC)より「Hydrometallurgy of copper: Progress report and future prospects」と題して、銅の湿式製錬技術の紹介と将来に向けての提言が行われた。
銅の湿式製錬にて銅浸出の阻害要因は、黄銅鉱(CuFeS2)の不働態化である。黄銅鉱から効率よく銅を抽出するため、黄銅鉱の不働態化を抑制する手法が開発されている。具体的には、触媒を用いたJettiプロセス、ヨウ素を利用したJXヨウ素法、黄鉄鉱と黄銅鉱間や活性炭によるガルバニック反応を利用したGALVANOXプロセス、Isa millによる微粉砕を活用したGlencore Albion™プロセス、メカノケミカルを利用したFLSmidth® Rapid Oxidative Leach(ROL)プロセスが挙げられる。主にJettiプロセス、JXヨウ素法は、黄銅鉱を含む鉱石からの銅浸出で用いられる。GALVANOX™プロセス、Albion™プロセス、ROLプロセスは、銅精鉱からの大気圧浸出で用いられる。Jettiプロセス、JXヨウ素法は、Copper 2022のTechnical Program内で詳しい紹介があったため、後ほど紹介する。
本講演では、これらの技術をはじめとした銅湿式製錬に係る新技術の開発には、産学の連携が重要であるとの言及があった。これらの技術は、非常にユニークでそれぞれに得意不得意があるので、鉱床に合わせて豊富な選択肢から技術を選択できることが望ましいと述べられていた。
2.1.Pinto Vallay鉱山における低品位黄銅鉱からの浸出へのJetti触媒の導入
講演者:Nelson Mora氏(Jetti Resources)
講演名:Implementation of Jetti Resource Catalytic Technology at Pinto Vallay Mine to Leach Low-Grade Chalcopyrite Ore
Jettiプロセスは、黄銅鉱を多く含む鉱石からの銅浸出で使われる。この技術のキーは、Jetti触媒と呼ばれる触媒で、黄銅鉱からの銅浸出の阻害要因である不働態膜を破壊し、初期形成を防止する効果がある。
今回のケーススタディの対象となったPinto Vallay鉱山は、米AZ州Miamiに所在する斑岩銅鉱床であり、生産量の9割以上が選鉱処理されている。一部の低品位銅鉱石に対してはダンプリーチングが行われている。近年ダンプリーチングで得られるPLSの銅濃度が低下傾向にあり、改善が求められていた。そこで、Pinto Vallay鉱山へのJettiプロセスの適用可能性を調査するため、ダンプリーチングパッドから採取したサンプルからJetti触媒を用いて銅のカラム浸出試験を行った。ダンプリーチングパッドから採取されたサンプル中の銅の形態は94%が黄銅鉱で、残り6%のうちほとんどが銅藍であった。カラム試験では、最初からJetti触媒を加えたもの、浸出開始から350日後にJetti触媒を加えたもの、Jetti触媒を加えなかったものの3条件を比較した。終了時の銅浸出率は、最初からJetti触媒を加えた場合と浸出開始から350日後にJetti触媒を加えた場合では40.3~40.9%であったのに対し、Jetti触媒を加えなかった場合は21.0%であった。Jetti触媒を加えないと銅の浸出は200日付近で停止したが、350日目にJetti触媒を加えると銅の浸出が増加し始めた。これらのことからJetti触媒の銅の浸出促進効果と、銅浸出が停止した場合でもJetti触媒を加えることにより銅浸出が復活することが確認された。
カラム試験での結果を踏まえて、2019年よりPinto Vallay鉱山にてJettiプロセスの導入が行われ、以降、単位パッド当たりの銅生産量が2倍以上に増加した。加えて導入に当たって新規に建設したのは、Jetti触媒の注入設備のみで、それ以外は、以前のSx-Ewの設備と変わりはなかった。生産される電気銅はLMEグレードAであり、Jetti触媒添加による電気銅の品質悪化も確認されなかった。
2.2.様々な鉱石に対するJXヨウ素法による黄銅鉱の浸出
講演者:三浦 彰氏(JX金属)
講演名:Chalcopyrite leaching with iodine(JX Iodine Process) for various ore types
JXヨウ素法は、ヨウ素と鉄の酸化還元反応を活用した黄銅鉱の浸出促進プロセスである。従来の鉄の酸化還元を利用したフェリックリーチングでは、鉄がFe3+からFe2+に還元されるときに黄銅鉱が酸化されて浸出が促進される。Fe2+はバクテリアによる酸化でFe3+に酸化され、再び黄銅鉱の進出促進に働く。JXヨウ素法では、下記の反応機構で銅の浸出が進む。
- CuFeS2 + 2I2 → Cu2+ + Fe2+ + 2S0 + 4I– (1)
- 2Fe2+ + 1/2O2 + 2H+ → 2Fe3+ + H2O (2)
- 2I– + 2Fe3+ → I2 + 2Fe2+ (3)
(1)式より黄銅鉱はヨウ素で銅浸出が促進され、S0とFe2+が生成する。(2)式では、バクテリアによる酸化でFe2+がFe3+へ酸化される。(3)式では、Fe3+が還元される際にヨウ化物イオン(I–)が酸化されヨウ素となり、再度(1)式で示す反応に利用される。
今回の報告では、チリにある12の鉱山から17種類の粗鉱を入手し、JXヨウ素法を用いたカラム銅浸出試験を実施し、鉱石のタイプによるJXヨウ素法への適用可能性を調査した。カラム試験では、各鉱石について従来のフェリックリーチングとJXヨウ素法を行い、銅の浸出率を比較した。ほとんどの鉱石で、JXヨウ素法によって銅の浸出率が9~25ポイント向上した。鉱石の特徴別に銅浸出率を確認すると一次硫化鉱を多く含む鉱石では14~25ポイント向上した。25ポイントも向上した鉱石は、セリサイトとカオリナイトの変質が見られる柔らかくポーラスな鉱石であった。この鉱石では、JXヨウ素法による浸出後、鉱石粒子の中心近くまで元素硫黄が見られた。これは、JXヨウ素法では黄銅鉱の浸出に伴い元素硫黄が発生するため、粒子中心まで反応が進行したことを示している。銅浸出率が高くなかった鉱石については、鉱石粒径を小さくすると浸出率が向上することを確認した。
JXヨウ素法の課題としてヨウ素の殺菌効果があげられる。殺菌効果があるため、バクテリアを用いる(2)式の前にヨウ素を一度固定化する必要がある。そこでPLSから活性炭カラムでヨウ素を回収した後、PLSから銅を溶媒抽出で回収し、(2)式で鉄を酸化し、ラフィネートとして再利用する試験を行った。6mカラムを用いて行ったところ、銅浸出率が従来のフェリックリーチングでは40%付近で停滞したのに対し、JXヨウ素法では80%近くまで向上した。さらにチリValparaíso州Petorcaにてヒープリーチングでトライアルテストを行った。263日後の銅浸出率は、従来のフェリックリーチングで17.8%であったのに対し、JXヨウ素法では22.8%に向上した。
2.3.筆者の所感
今回のCopper 2022では、新たな黄銅鉱からの銅回収に係る湿式製錬技術は見られなかったが、各手法の導入事例が紹介されていた。
Jettiプロセスは、大きなプロセス変更を伴わずJetti触媒の導入だけで黄銅鉱からの銅浸出を改善できる有意なプロセスであると感じた。今後導入される鉱山が増えていく中でJettiプロセスの特徴がさらに明らかになることを期待したい。また、JXヨウ素法はヨウ素を用いるユニークなプロセスであり、ヨウ素の特性を理解して使用する必要がある。講演で述べられたようにヨウ素には殺菌効果があるため、バクテリアを活用する鉄酸化工程前に一度ヨウ素の固定化工程が必要であり、加えてヨウ素は揮発性が高いため、揮発によるロスも発生する。ヨウ素使用の課題がある一方で、今回の講演で様々な鉱石に対応できることが明らかとなり、プロセス選定時の選択肢の一つになったと感じた。
湿式製錬技術は、選鉱・乾式製錬のコンベンショナルな銅回収技術と比較して生産時の低炭素化を達成しやすい技術である。特に銅は、電気自動車(EV)関連部品に使われることが多く、銅生産時のCO2排出削減は、自動車メーカーの関心が高いと言われている。
今後、導入事例が多く報告され、各プロセスの特徴が明らかになり、銅回収方法の選択肢が増えることに期待したい。
3.【乾式製錬】中国における連続銅製錬技術の動向
近年、中国の銅製錬事業は急速に拡大している。同国の電気銅の年間生産量は1990年に56.1万tであったが2020年には1002.53万tまで飛躍的に増加し、現在では世界最大の銅生産国である。本カンファレンスのPlenary Lectureにて、中国瑞林工程技術股份有限公司(NERIN)のWei Wang氏より近年の中国の乾式銅製錬についての講演が行われた(題目:Development of Copper Pyro-Metallurgy Technology in China / 中国銅製錬の発展と今後の展望)。乾式銅製錬は一般的に熔錬工程、転炉工程、精製工程の3工程からなる。熔錬工程では銅精鉱とフラックスを酸化溶融して銅マットとスラグに分離、転炉工程では銅マット中の鉄を酸化除去してブリスター銅を得る。さらに、精製炉において不純物を除去し、銅アノードとする。中国では、独自の製錬技術として底吹炉(Bottom Blowing Furnace)と横吹炉(Side Blow Furnace)を開発し、熔錬工程に使用している。どちらの炉も転炉工程にはPeirce-Smith型転炉(PS転炉)などの既存技術を採用し、運用してきたが、それぞれのプロセスに適した転炉工程を開発し、連続製錬プロセスの構築を進めている。本講演では、中国の独自製錬技術である底吹炉と横吹炉を用いた連続製銅プロセスの現状と今後の展望について報告された。
本項では、Wei Wang氏の講演を中心に各技術のTechnical Programでの報告をまとめて紹介する。
3.1.底吹炉法
底吹炉法は、湖南水口山有色金属集団有限公司(Hunan Shui Kou Shan nonferrous metals group Co.,Ltd)が開発したことからSKS法と呼ばれている。底吹炉は、円筒型の炉の底部から酸素富化空気をランスによって導入し、炉内を強攪拌することが特徴である。底吹炉を用いた連続製銅プロセスは、(1)Bottom Blowing Smelter(BBS, SKS, SKS-smelter)+Bottom Blowing Converter(BBC, SKS-converter)プロセス(以下、BBS+BBCプロセス)と(2)Submerged Lance Smelting Furnace(SLSF)+ Submerged Lance Converting Refining Furnace(SLCR)プロセス(以下、SLSF+SLCRプロセス)の二種類に分けられる。
(1)BBS+BBCプロセス
BBS+BBCプロセスはYuguang製錬所にて2014年3月に初めて工場が稼働した。本プロセスは、BBSにてマットを製造し、BBCではマットを溶体のまま受け入れてブリスター銅を製造する。さらに、ブリスター銅は溶体のまま精製炉に導入され銅アノードとなる。このような連続製銅プロセスであったが、マットを直接BBCに導入した際に熱過剰の問題で連続製錬が困難となる事例が報告された。実際にはBBSで製造したマットを一度冷却したのちBBCに供給するプロセスで運用する製錬所が多く、立ち上げに苦労しているとのこと。なお、本プロセスで処理されている銅精鉱は年間500~700千t程度である。
Yuguang製錬所の操業状況については、中国恩菲工程技術有限公司(ENFI Engineering Corporation)のLiang Shuaibiao氏よりTechnical Program内にて報告された(題目:Operation and improvements of the first industrialized bottom blowing continuous furnace / 初めて産業化された底吹連続炉の操業と改善)。Yuguang製錬所は、2017年まではBBCでの熱過剰問題により連続製錬ができていなかったが、2018年より冷材(銅含有スラグ、スクラップ等)を投入することで溶銅マットを直接BBCにフィードし連続製錬が可能となっている。さらに、操業改善を重ねることで、年々冷材に対する溶銅マットの比率を上げている。足元、溶銅マット460t/dに対して冷材を186t/d程度のバランスでBBCに供給している。BBSはΦ4.4m×18m、BBCはΦ4.1m×18mの設備規模である。BBCの内部は、底部にブリスター銅が約700mm、上部にスラグ(品位:Cu 約10~12%)が約300mm、その中間にwhite copperが約100mmの量比の三層状態となっている。なお、BBCの不純物除去能が低く、ブリスター銅の銅品位が98%を下回ることが課題となっている。
(2)SLSF+SLCRプロセス
SLSF+SLCRプロセスは、基本的な炉構造が底吹炉と同一の2つの炉からなるプロセスであり、2015年10月にFangyuan製錬所にて最初に稼働した。BBS+BBCプロセスと異なるのは、精製炉が不要な点である。SLSFに銅精鉱とフラックスを添加しマット(品位:Cu 73%以上)を製造、マットは溶体のままSLCRに送られる。SLCRでは転炉工程と精製炉工程を1つの炉で実施し、マットから直接銅アノードを製造する。このような2ステップで銅アノードを生産可能であるという特徴から、Fangyuan two-step copper smelting processとも呼ばれている。BBS+BBCプロセスはBBSとBBCが1基ずつの構成であるのに対し、SLSF+SLCRプロセスではSLSF1基に対して2基のSLCRで構成されている。SLCRではマットをチャージ後、まずは転炉工程を行い銅マットからブリスター銅を生産し、生成したスラグの抜出を行う。その後、酸素吹込みランスからの供給ガスを精製工程用に変更し銅アノードを精製する。この転炉工程と精製工程を実施している間に、もう1基のSLCRにマットのチャージを行うことで連続的に銅マットを処理している。SLSFはΦ5.5m×28.8m、SLCRはΦ4.8m×23mの設備規模であり、年間銅精鉱処理量は1,500千tである。
本技術は、Wei Wang氏より順調に稼働していると言及があったものの、最新の操業状況を報告する講演は無かった。
3.2.横吹炉法
横吹炉(Side Blow Furnace-SBF)とMTC炉(Multi Lance Top Blowing Convert)を組み合わせたプロセス(以降SBF+MTCプロセスと呼称する)を導入した製錬所は良好な立ち上がりを示している。SBF+MTCプロセスの詳細はNERINのBin Tang氏より報告された(題目:Development and Industrial Application of “SBF+MTC” Continuous Copper Smelting Technology / SBF+MTC 連続製錬技術の開発と産業への応用)。横吹炉は直方体型の固定床炉であり、炉の側面から80~90%程度の酸素富化空気を吹き込み、スラグ中のFe/SiO2が2程度で溶錬を行う。SBFではマット(品位:Cu 約75%)が生産され、溶体の状態でMTC炉に導入される。MTC炉は、三菱連続製銅法のC炉に似た構造の炉である。楕円形ないしは円筒形の炉体で、6~8本のランスが炉頂からスラグ層の上部に浸漬しない位置に設置されている。加えて炉頂には、陽極スクラップ等を投入する投入口と、石灰石などのフラックスの投入口がそれぞれ設置されている。酸素富化率は25~30%程度であり、ブリスター銅の銅品位は約99%である。
SBF+MTCプロセスによる銅精鉱の年間処理量は600千tから1700千tまで増加している。計画上は2025年までにSBF+MTCプロセスを採用した製錬所がさらに6か所完成する。最大の製錬所では2500千tの銅精鉱年間処理量となる見込みであり大型化も進んでいる。
3.3.筆者の所感
現在の中国の年間銅生産量のうち、自溶炉(Flash Smelting Furnace)技術による生産は約34%、SBF技術による生産は約25%である。しかし、今後SBF+MTCプロセスを用いた複数の製錬所が新たに立ち上がることで、5年後には自溶炉技術による生産量を上回ると予測されており、SBF技術の急速な拡大が印象的であった。一方で、底吹炉は、BBS+BBCプロセスにおいては連続製銅プロセスを実現しているものの、新規の建設や大型化の計画がなく、普及に足踏みをしている状況である。
日本の銅製錬技術は依然として金属実収率や副産物の回収において優れているものの、世界最大の銅生産国である中国の動向が製錬業界に与えるインパクトは非常に大きく、今後も中国銅製錬の最新動向には注目すべきであると考えられる。
おわりに
当国際学会では、SDGsの実現に向けた取り組みの重要性や、持続可能な開発のための関係者間の協力及び技術開発の必要性などが強調されていた。また、ヒ素、アンチモン、ニッケルなどの不純物対策を念頭に置いた講演や現場の操業改善に係る講演が多くみられた。特に、ヒ素に関する講演は数多く、参加者の関心を集めていたことから、ヒ素の対策は今回のメイントピックスの1つだったと言える。
JOGMECも平成29年度から実施してきた「銅原料中の不純物低減技術開発事業」に係る成果を総括した講演を当国際学会で行った。当講演は銅原料からのヒ素の除去に焦点を当てた講演であることから、多くの聴講者が訪れた。当講演に関連する内容をより詳細に紹介した資料がJOGMECのHPにおいて公開されているので、興味のある方は以下のURLから是非ご覧いただきたい。
当国際学会の所感として、前回のCopper 2019と比べてSDGsなどに対する関心は高くなったものの、新技術の話題は出てきておらず、現場の操業改善や技術のブラッシュアップを図っているような印象を受けた。
令和4年度第5回JOGMEC金属資源セミナー「カーボンニュートラル社会実現への貢献:銅、コバルト、レアアースの確保に向けた新しい鉱山技術」
- 銅原料からのヒ素低減技術開発事業の成果:
https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/uploads/2022/12/mrseminar2022_05_03.pdf - ヒ素鉱物を分離する新浮選剤の開発:
https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/uploads/2022/12/mrseminar2022_05_04.pdf
おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
