報告書&レポート
サウジアラビア鉱物資源未来フォーラム(FUTURE MINERALS FORUM)2023
参加報告
はじめに
サウジアラビアは、金属鉱物資源分野を石油及び天然ガスに次ぐ経済の第三の柱とするべく、産業鉱物資源省及び政府関連機関が様々な取り組みを進めている。この取組はサウジアラビアのみならず中東・アフリカ及び中央アジア地域の金属鉱物資源開発をリードすることを目指している。この一環として、サルマン国王の名の下、2022年に同国初となる金属鉱物資源フォーラムとしてRiyadhで開催されたものが「The Future Minerals Forum」である。本フォーラムは、中東・アフリカ・中央アジア地域の金属鉱物資源開発に向けた投資環境を紹介し、海外からの適切な投資家、開発企業及び技術を呼び込むことを目指すものである。
本稿では、2023年1月10~12日に通算第2回として前年同様Riyadhで開催された「The Future Minerals Forum 2023」での発言・講演内容について紹介する。
1.フォーラム概要
- (1)開催日:2023年1月10日(火)~12日(木)
- (2)開催地:サウジアラビア Riyadh
- (3)会場:King Abdul aziz Conference Center(アブドルアジズ国王国際会議センター)
- (4)主催:サウジアラビア産業鉱物資源省(MIM)
- (5)テーマ: 責任ある鉱業及び強靭な金属鉱物資源の供給能力とバリューチェーンの構築
- (アフリカ、中央・西アジア地域)
- (6)主なプログラム:
1月10日 1月11日 1月12日 午前 閣僚級ラウンドテーブル 開会式 講演 午後 閣僚級ラウンドテーブル 講演・パネルセッション 講演・パネルセッション 夜 閣僚級歓迎レセプション ― ―
2.フォーラム参加結果
(1)閣僚級ラウンドテーブル(1月10日、招待者のみの非公開会合)
サウジアラビア(産業鉱物資源大臣)、南ア(産業鉱物資源大臣)、ザンビア(鉱山鉱物開発大臣)、DRコンゴ(ハイドロカーボン大臣)、バーレーン(産業通商大臣)、豪州など60か国のほか、国際連合(UN)、世界銀行(UMIDO)など10の国際組織が出席し、COVID-19下での開催であった2022年よりも盛大であった。ただし、米国・インド・ブラジルは不参加、中国は地質調査所、仏・韓国は現地大使館員の参加に留まった。一方、アフリカ、中東(パキスタン以西)、一部CIS諸国(イスラム圏)からは多くの閣僚が出席しており、米中露ではない地域の中心としてサウジアラビアの地位が形成されつつあるように感じられた。なお欧州からは次官(英)等、多くの国の参加があり、発言も多く、地理的・政治的近さをうかがわせた。初日にBandar bin Ibrahim Alkhorayef産業鉱物資源大臣が会談したと報道された閣僚は、南ア産業鉱物資源大臣、エジプト石油鉱物資源大臣、アルゼンチン鉱業大臣、バーレーン産業通商大臣である。
ラウンドテーブルは4つのテーマに分けて行われた。
- 第1テーマ:開発が促進される世界のクリテイカル・ミネラルのバリューチェーンにこの地域が貢献できる可能性。
- 第2テーマ:責任ある鉱業開発及びサプライヤーに選択されることによって我々の地域の鉱物資源賦存の価値を高めること。
- 第3テーマ:グリーンメタル生産の将来的なハブとしてのこの地域の地位。
- 第4テーマ:この地域の金属産業の可能性を切り開くための「高度技術センター(Centers of Excellence)」創設のための協力。
全テーマに「この地域」「我々の地域」という句があるが、フォーラムのメインスクリーンには世界地図に「この地域」を図示したものが常に表示されており、アフリカ全土、中東(インド以西)、旧CIS諸国の一部(いわゆる「スタン」国)から構成されていた。
進行は国際機関(世銀、国際鉱業金属評議会(ICMM)、バッテリー生産者協会)やフィンランド地質調査所・南ア鉱業研究所といった公的機関が各テーマに関する発表をし、これに各国代表がコメントするという形で行われた。発表内容は一般的なものであり、各国のコメントは自国の資源ポテンシャルや技術、SDGsへの取り組みを紹介するものがほとんどであった。その中で特筆すべきは、世銀が世銀による鉱業開発支援について説明した際、「この地域」の各国から、世銀によって供給される資金量は不十分であるとのコメントが出されたこと、そしてAlkhorayefサウジアラビア産業鉱物資源大臣が最後の挨拶で「この地域の鉱物資源産業の発展のためにサウジアラビアは支援する」と発言した際に大きな拍手が起きたことである。

写真1.ラウンドテーブル集合写真

写真2.ラウンドテーブル会場
(2)一般フォーラム(1月11日及び12日)
サウジアラビア国家ファンドと鉱山公社によるJV設立発表(1月11日)
サウジアラビアの鉱山公社Ma’aden社とサウジアラビアの国家ファンド(Public Investment Fund:PIF)が戦略鉱物の国際的投資のため新会社を設立する、との発表が1月11日のフォーラムであった。数百兆円の資金規模をもつといわれるPIFはサウジアラビアの皇太子の財布ともよばれる巨大ファンドで、これまでは鉱物資源への投資実績はほとんどなかったが、これからは鉄、銅、ニッケル、リチウムをターゲットとし、最大SAR11.95b(3.2bUS$相当)出資するとの発表があった。PIFはオペレータにはならず、マイノリテイシェアで参画しオフテイクをとる戦略であり、アフリカ中東中央アジアでのメタルのハブとなるという構想の具体的手段になるとの印象を受けた。PIF資金力がもつ魅力のためか、本フォーラムにはBHP、Rio Tinto、Ivanhoe社等の大小様々な鉱山会社の幹部がフォーラムに参加していた。
なお、Future Minerals Forumの期間中、ルクセンブルクに本拠地を持つEurasian Resources Group(ERG)は、鉱物需要を持続的に満たすために同国内での探査を加速させる内容のMOUをMa’aden社と締結している。

写真3.フォーラム会場のアブドルアジズ国王国際会議センター

写真4.会場内の様子
<FMF 2日間の主な要人の発言内容および発表事項(各種報道から一部引用)>
(1)Bandar bin Ibrahim Alkhorayef産業鉱物資源大臣
アフリカ~アジア地域で全世界の33%の鉱物資源を供給しており、サウジアラビアは地理的に見ても非常に重要な役割を持つ。今回は130か国から約12,000名の参加者があり、GCC(UAE、サウジアラビア、オマーン、バーレーン、カタール、クウェートの6カ国による経済協定)地域の鉱業セクターの活性化を目指す。ネットゼロを目指し、社会貢献を行うためには、持続可能な鉱物や金属が重要である。1月10日のラウンドテーブルを含む会合では、16か国の代表と協議を行った。会期中に投資とパートナーシップを活性化し、新たなビジネスの創出を目指す。今後鉱物・金属資源は量だけでなく質も重要であり、同時に強靭なサプライチェーンも重要となる。サウジアラビアでは既にアルミ最終製品・完成車・食品製造を行なっており、市場としても輸出国としても非常に重要な存在である。
(2)H.E. Eng. Khalid bin Abdulaziz Al-Falih投資大臣
サウジアラビアは、今後数週間でローンチされる経済特区において、世界の産業を誘致するための財政的なインセンティブを提供する。経済特区は、鉱物を製錬・加工・製造し、最終製品または素材として国際的なサプライチェーンに輸出するため、各セクターのニーズを満たすよう設計されている。GCC地域全般、特にサウジアラビアは、世界が直面している課題へのソリューションの一部となる可能性を秘めている。また、エネルギーソリューションを含む全ての必要なケイパビリティを持っており、エネルギー、ロケーション、資金調達、法律の面でセーフティバルブとなる。サウジアラビアは鉱業部門で最も急速に経済的成長を達成し、石油やガスと同様に鉱物からも恩恵を受けるだろう。
(3)H.R.H. Prince Abdulaziz bin Salman bin Abdulaziz Al-Saud石油大臣
世界はよりサステナブルになるべく変化しており、その中でサウジアラビアはクリーンエネルギー生産と循環型炭素経済への移行に関して地域をリードする態勢を整えている。鉱物の持続可能な開発には、クリーンエネルギーと同等の使用と高効率の生産が必要である。グリーン水素に加えて、サウジアラビアには代替エネルギー源、クリーンな再生可能エネルギー、原子力技術の平和的利用のプログラム、世界で最も有望な太陽エネルギーと風力エネルギープロジェクトがある。エネルギー省と鉱物資源、クリーンエネルギーが協業する様々なイニシアチブにより、サウジアラビアは二酸化炭素排出量の削減に関するクリーンエネルギーのハブとなる。企業がサステナビリティを達成し、特に鉱業及び金属セクターでサプライチェーンを発展させることで、石油化学分野でも恩恵を受けることが可能となる。サウジアラビアは、石油とガスのジャイアントとして、またグリーン水素を含むクリーンエネルギーの分野で、世界のリーダーとなることを目指す。
(4)MOU発表及び交換会
Ma’aden社51%とPIF49%のJV設立を含む、25のMOU締結が発表された。
(5)その他(一部セッション抜粋)
パネルディスカッション:Lands of Opportunity – Supply Chain Resilience
- Falihサウジアラビア投資大臣:サウジアラビアは、コンベンショナルなエネルギーと再生可能エネルギー、アンモニア、水素等の新たなエネルギーの両方に恵まれている。エネルギーソリューション、地理的優位、投資環境も揃っており、GCC地域のEnablerである。サウジアラビアでは、経済社会改革「Vision 2030」発表以降、非常にマルチタスキングな社会となっている。様々なコラボレーションやJV、鉄道等のインフラや経済特区/工業特区も設立された。重要なのはプライベートセクターの各企業であり、政府はそのサステナブルな成長のためのエコシステムを提供する。2023年の展望について、短期で重要なのは、①国際的なプライベートセクターを誘致・拡充し投資機会を広めること、②Global Stabilityである。
- Dominic Barton氏(CEO、Rio Tinto):鉱物というと石器時代のイメージがあるが、我々の生活には鉱物資源が必要不可欠である。ネットゼロだけでなく、産業革命レベルのエネルギー転換を実現させるためには鉱物産業業界と政府の協力が重要である。
- Marna Cloete氏(President、Ivanhole Mines社):女性の業界進出について、泥臭いイメージを持たれがちな鉱業業界だが、従業員のコミュニティに傾聴し、ESG(環境・社会・ガバナンス)とテクノロジーを追求し、業界イメージをアップデートし、優秀な人材を採用し続けることが業界全体にとって必要である。
- Robert Wilt氏(CEO、Ma’aden社):女性の業界進出について、同社では、Women in Mining Forumを開催し、社内の管理職にも女性が増えてきている。2023年の展望について、今はまず人材育成が重要な時期である。
- Jeremy Weir氏(Chairman&CEO、Trafigura Group):2023年の展望について、短期で見ると露ウクライナ紛争や中国と米国等、政治的課題もたくさんあるが、我々は長期で活動する業界であり、長期視点で計画し、できることを遂行していくことが重要だと考える。
パネルディスカッション:The role of government in making the region an investment destination for mineral production
- H.E. Tarek El-Molla エジプト石油鉱物資源大臣:政治的・経済的・安全保障的に安定した国を見極めることが重要である。また、政府の制定するレギュレーションは普遍ではないため、もし変更が生じても大きな影響を受けない特別な契約を結ぶことも有効である。政府は常に適切なインフラ投資を行い、投資の誘致活性化を行う必要がある。
- Mohammed Al-Jadaanサウジアラビア財務相:投資を誘致するためには、政府の方向性を見極め、安定的に収益をあげられるかを見極めることが重要である。また、市場動向・レギュレーションの変更を常に把握し、提供されているインセンティブを有効活用することも重要である。今後は、データドリブンな情報の提供、政府としてのコミットメントを以って、国内外の投資家を支援していく。
- Andrew Southam氏(CEO、 Kaz Minerals社):時にインフラの欠如により採掘が阻害される場合がある。政府は交通や輸送などのインフラに公的資金を注入して、鉱物業界を後押しすべきである。
パネルディスカッション:G20 Countries can support critical mineral supply chain development
- Grant Shapps英国ビジネス・エネルギー・産業戦略大臣:サウジアラビアでは既に48種類の鉱物資源が発見されており、もはや魅力は石油だけではない。またその地理的優位性は非常に有効である。今後のサウジアラビアと英国の協業は、2度目の産業革命となるだろう。
- Alkhorayefサウジアラビア産業鉱物資源大臣: 政府と企業が分離しないことが重要。政府は事業ラインセンスを供与し、企業は活動を続ける。英国のこれまでの調査や様々な活動は非常に参考になっている。英国のサウジアラビアへの投資は理にかなっているといえる。
パネルディスカッション:Developing and drawing investment in minerals value chains
- H.E. Eng. Saad Alkhalb氏(CEO、Saudi EXIM):今後は輸入だけでなく、輸出に関する支援も積極的に行っていきたい。企業によるESGの推進も継続的にモニタリングしていく。
- Farah Ismail氏(Sectoral and Regional Development Affairs次官(経済企画省傘下)):サウジへの投資獲得は「Vision2030」のために大きな役割をもっており、GDPの目標達成にも必要不可欠である。外国直接投資額(FDI)として3.2tUS$が各政府系ファンドによって準備されている。鉱業もGDPと雇用の創出に向けて大きく寄与する産業多角化の要素のひとつである。「Vision2030」までの8年間で大きく成長する業界の一つだろう。失業率も7%台に下がり、女性の就業率も37%まで上昇しており、サウジアラビアでは多分野において「Vision2030」達成に向かってダイナミックに推進している。
- Dr. John Sfakianakis氏(Gulf Research Center):サウジアラビアでは今後20年で人口も所得も増加が見込まれ、10数年後の刈り取り時期を見据え、今鉱業業界を活性化させるのは非常に重要なことである。サウジアラビアは少しずつ輸出を強化しており、直近ではLucid Motorsに資本したことで、EV業界にも参画した。EVのバッテリーには鉱物資源が必要不可欠であり、非常に理にかなった投資であると言える。今後地質調査もより盛んになり、投資家が増え、商品・ポートフォリオが増え、輸出が増える好循環が続くと考える。
パネルディスカッション:Looking beyond the horizon – New Energy Metals
- Dr. Don Sadoway氏(Prof. of Materials Chemistry、MIT):サプライチェーンの適正化には色々な方法がある。例えば個別に採掘しない方法があり、サウジアラビアではリチウム単体ではなく石油に含まれたリチウムを抽出している。EVのバッテリーに使用されるマグネットはレアアースから作られ、中国が埋蔵量の多くを占めるため調達しづらいが、そういった素材は代替品で対応する方法を確保しなければならない。「Vision2030」について、最新のテクノロジーを持ち、資源も豊富にあるサウジアラビアに対しての欧米の懐疑的なステレオタイプは払拭すべきである。
(協力:一般財団法人中東協力センターサウジアラビア統括事務所)
おわりに
サウジアラビアがその豊富な資金力を背景に地域の中心としての地位を形成しようとしていることが窺われた。即ち、鉱山開発は地域内の資源国でサウジアラビアの支援を受け行い、精錬以降(バッテリーや電気自動車(EV)製造も視野)はサウジアラビアのグリーンエネルギーを使ってサウジアラビアで行う、という構想である。そしてそこに技術的な関与の可能性を模索している欧州勢という構図であろうか。この取り組みが今後どう進展してゆくのか、引き続き注視が必要であると考える。
なお、来る2023年5月31日(水)~6月2日(金)にかけて、サウジアラビア投資省、同産業鉱物資源省、中東協力センター及び幣機構共催による「サウジアラビア鉱業投資フォーラム(仮称)」を東京で開催すべく計画中であることを申し添える。
(参考:FMF公式ホームページURL)
https://www.futuremineralsforum.com/?utm_source=hs_email&utm_medium=email&utm_term=&utm_content=235259711&utm_campaign=&actioncode=
おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
