閉じる

報告書&レポート

2023年6月2日 金属企画部 調査課 原田武
23-09

OECD責任ある鉱物サプライチェーンに係る2023フォーラム参加報告

<金属企画部調査課 原田武 報告>

はじめに

例年行われているOECD主催の「責任ある鉱物サプライチェーンに係るフォーラム」が、今年は2023年4月26~27日に対面の開催と併せてWebでの中継で開催された。鉱物サプライチェーンのデューデリジェンスを行う上での課題を、資源国の政府機関や業界団体、NGO等のステークホルダーがそれぞれの立場から発表しており、責任ある鉱物調達の最近の議論の動向を伺うことができた。ここでは、数あるスピーチの中から代表的なトピックを取り上げた。


まず、冒頭のキーノートスピーチでは、OECD事務局長Mathias Cormann氏からのスピーチにはじまり、アフリカ大湖地域国際会議ICGLR、DRコンゴの鉱山省や国連専門家グループからの報告が続いた。DRコンゴからのスピーチでは、東部の武装勢力の活動が活発化する中、依然として武装勢力に支配される生産現場があり、利益を生み出している旨が報告された。鉱業が戦争の資金源になっている実例としては、コロンビアの金の零細採掘も挙げられた。

近年は、紛争鉱物3TG(タンタル、タングステン、錫、金)以外の鉱種にも目が向けられており、今回のフォーラムにおいては、レアアースに関する報告もなされた。国際的なNGOのGlobal Witnessからは、ミャンマーにおけるレアアースの小規模採掘の問題1が報告された。ミャンマーの北東部カチン州、中国雲南省に接する国境付近は、重希土類のポテンシャルが高いことで知られ、重要な重希土類のソースになっている。民兵が支配する地域でもあり、ここで採取されたレアアースが中国に輸出されている。中国南部に分布するイオン吸着型鉱床と同タイプの鉱床であり、硫酸アンモニウムを使ったIn-situでの採取が行われ、環境負荷が高いとされる。中国南部での環境問題に対する規制が強化される中で、ミャンマーでの採掘が増えた経緯もあるとされている。

鉱物資源が注目される一方で、腐敗のリスクの増加が危惧される。フォーラムの中でも腐敗防止のデューデリジェンスについて議論され、今回のフォーラムの中で1つのセッションが設けられていた。従前より、腐敗は、OECDガイダンスのAnnexⅡにて人権侵害や武装集団への支援と並び項目出しされている。腐敗の問題が、生産地における社会的・環境的被害の根本的な原因となっているケースが多くあるとTransparency InternationalのClancy氏は語った。同氏によると、バリューチェンの中で最も腐敗しやすいのはライセンス取得の段階であるという。バッテリーミネラルやレアアースなどの鉱物資源は腐敗リスクの高い地域に多く賦存している。また、地域への投資の増加、プロジェクトを急進させるためのFast-tracking、鉱業への国の関与強化など腐敗リスクがより高まる環境にあるとされた。

これら高まる腐敗リスクに対して、資源国の税収の透明性を図るEITI(採取産業透明性イニシアティブ)からは、鉱業に関連するガバナンスのリスクを解説したレポート「Mission Critical」2やNRGI(天然資源ガバナンス協会)等による腐敗防止策を整理した「Preventing Corruption in Energy Transition Mineral Supply Chain」3が有効なツールとして紹介された。

企業がデューデリジェンスの過程で業界スキームに依存しすぎるために、実際のリスクが見逃されていることを指摘する声も聞かれた。その例として、人権NGO Human Rights Watchからは、エチオピアの金山周辺における化学物質の汚染による周辺住民の環境被害に関連する報告がなされた。問題の鉱山から、スイスの金精錬所が鉱石を調達していた時期があり、この調達に際して、監査や認証機関による認証がなされていたとされる。デューデリジェンスにおいて、監査や認証といった業界スキームに頼りすぎると、企業による十分なリスク評価ができない可能性がある。企業が積極的なリスク評価を行うべきであるという発言が展開されていた。

自動車会社Volkswagen社からは、同社の人権・環境デューデリジェンスの手法と内容を記した「責任ある原材料レポート」4が紹介された。OECDデューデリジェンスの5Step Frameworkの5番目に相当するアニュアルレポートの手本になるものと考えられる。同社のティア1サプライヤーの数は65,000にのぼり、OECDに準拠した責任ある原材料管理システム(RMDDMS)を構築し、AnnexⅡリスクだけでなく、社会・環境リスクに取り組んでいる。報告書の中では、管理システムで特定された16種類の高リスク原材料(リチウム等のバッテリーミネラルや3TGなどを含む)について社会・環境リスクの状況を整理している。こうしたレポートを公開することで、透明性を図りつつ、関連するサプライヤーの責任をより明確できるし、問題が発生したときの協力もできるとした。

BHPのAndrew Jacob氏(ESG(環境・社会・ガバナンス)基準とデューデリジェンス担当Global Manager)が、鉱山会社の立場から、最近のデューデリジェンスについて語った。デューデリジェンスの対象が、人権からより広範囲なESGへと拡大しつつある。規制当局や監査人による解釈には幅があり、ニュアンスに違いもある。さまざまな基準に準拠しようとすると、ESGリスクは増加の方向を辿り、解釈や報告に多大な時間と労力を費やしてしまうことになる。トレーサビリティのデジタル化を活用するなど、デューデリジェンスのツールを合理化することで、より迅速な運用を可能にし、透明性の向上に繋げる必要がある。デューデリジェンスの合理化は、大企業だけでできる話しでなく、中小企業、公的機関、すべての参加者の協力が必要であるとした。


  1. Myanmar’s poisoned mountains, https://www.globalwitness.org/en/campaigns/natural-resource-governance/myanmars-poisoned-mountains/
  2. https://eiti.org/documents/mission-critical
  3. https://resourcegovernance.org/sites/default/files/documents/preventing_corruption_in_energy_transition_mineral_supply_chains.pdf
  4. https://www.volkswagenag.com/presence/nachhaltigkeit/documents/supply-chain/Volkswagen-Group-Responsible-Raw-Materials-Report-2021.pdf

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

ページトップへ