閉じる

報告書&レポート

2023年6月8日 ロンドン 事務所 遊佐茂雄
23-10

2023年春季国際非鉄研究会(INSG、ILZSG、ICSG)参加報告

<ロンドン事務所 遊佐茂雄 報告>

はじめに

2023年4月24日~28日にかけて、ポルトガルLisbonにおいて国際非鉄研究会が開催された。ニッケル、銅、鉛・亜鉛の各研究会のほか、ベースメタルマイニングへの投資インセンティブと題したジョイントセミナーも開催された。需給予測について議論が行われたほか、非鉄研究会事務局やゲストスピーカーによる講演が行われた。需給予測や主なゲストスピーカーによる講演内容は次のとおり。

次回は2023年10月2~6日にLisbonで開催予定である。

1.需給予測

1.1.ニッケル:2023年は239千tの供給過剰

  • 歴史的にニッケルの供給過剰はLMEのデリバラブル/クラスⅠニッケルとリンクしてきたが、2023年の供給過剰の原因は主にクラスⅡニッケルとニッケル化学物質(主に硫酸ニッケル)である。
  • 供給面では、一次ニッケル生産量は、2022年の3.060百万tから2023年は3.374百万tに増加すると予測した。中国ではニッケル銑鉄(NPI)が減少する一方で、インドネシアではNPI生産が拡大を続けるとともに、NPIからニッケルマットへの転換についても成長し、MHP(ニッケル・コバルト混合水酸化物)生産のためのHPALプラントが生産増強を続けている。
  • 需要面では、一次ニッケル消費量は、2022年の2.955百万tから2023年は3.134百万tに増加すると予測した。ステンレス部門は緩やかな増加にとどまる見込みである一方、EVバッテリー向けが増加している。
      表1.世界のニッケル需給バランス(2022~2023年)      (単位:百万t)
2022年 前年比 2023年予測 前年比
一次ニッケル生産 3,060 17.2% 3,374 10.3%
一次ニッケル消費 2,955 6.3% 3,134 6.1%
需給バランス 105 239

出典:INSG会議資料より作成
※需給バランスについて、正数は供給過剰、負数は供給不足を示す。以下同。

1.2.鉛:2023年は20千tの供給不足

  • 供給面では、2023年の鉛鉱石生産量は、対前年比2.8%増の4.56百万tと予測した。主に豪州において豪Galena Mining社のAbra鉱山における年間95千tの生産が開始したことに加え、中国、インド及びカザフスタンにおいても増加が見込まれる。
  • 2023年の鉛地金生産量は、対前年比2.8%増の12.51百万tと予測した。主に豪Trafigura社のStolberg製錬所が2021年の洪水被害による閉鎖から再開したことによるものである。このほか、豪州、インド、カザフスタン、韓国、メキシコ、台湾及びアラブ首長国連邦(UAE)においても新規生産開始により増加が見込まれる。一方で、ブルガリア及びイタリアでは減少が見込まれる。
  • 需要面では、2023年の鉛地金消費量は、対前年比1.7%増の12.53百万tと予測した。欧州ではイタリアの需要減少が見込まれるものの0.4%増、中国でも需要が0.7%増の見込みであるほか、インド、日本、韓国、メキシコ及び米国でも増加が見込まれる。
表2.世界の鉛需給バランス(2023年)    (単位:百万t)
2023年予測 前年比
鉛鉱石生産 4.56 2.8%
鉛地金生産(供給) 12.51 2.8%
鉛地金消費(需要) 12.53 1.7%
需給バランス -0.02

出典:ILZSG会議資料より作成

1.3.亜鉛:2023年は45千tの供給不足

  • 供給面では、亜鉛鉱石生産量は、2022年の対前年比2.5%減から転じて、2023年は同3%増の12.86百万tと予測した。ブルキナファソ及びカナダでは生産減の見込みである一方、中国では1.5%の増加が見込まれるほか、欧州においてポルトガル、アイルランド、スウェーデン及びボスニア・ヘルツェゴビナで増加が見込まれる。
  • 亜鉛地金生産量は、2022年の対前年比3.8%減から転じて、2023年は同3.1%増の13.76百万tと予測した。中国において4%と大幅な増加が見込まれるほか、豪州、カナダ、インド、カザフスタン及びメキシコにおいても増加が見込まれる。一方で日本及び韓国では減少が見込まれる。欧州では2022年にエネルギー価格の上昇により多くの製錬所が生産を削減したが、2023年には2.3%増と回復が見込まれる。
  • 需要面では、亜鉛地金の消費量は、2022年の3.9%減ののち、2023年は2.1%増の13.80百万tと予測した。中国での消費量は2022年に4.9%と大幅な減となったが、2023年は2.1%の増加が見込まれる。インド、韓国、トルコ及び米国では増加が見込まれる一方で、欧州では0.5%減の見込みである。
表3.世界の亜鉛需給バランス(2022~2023年) (単位:百万t)
2023年予測 前年比
亜鉛鉱石生産 12.86 3.0%
亜鉛地金生産(供給) 13.76 3.1%
亜鉛地金消費(需要) 13.80 2.1%
需給バランス -0.04

出典:ILZSG会議資料より作成

1.4.銅:2023年は114千tの供給不足、2024年は298千tの供給過剰

  • 2023年は114千tの供給不足、2024年は298千tの供給過剰と予測する。
  • 供給面では、銅鉱石生産量は、2023年は対前年比3%増、2024年は同2.5%増と予測した。2023年には主にDRコンゴ、ペルー及びチリにおける鉱山の拡張による生産量増加が見込まれるほか、多くの国で新型コロナウイルス関連の制限からの回復が見込まれる。2024年にも生産量の増加が見込まれるが、2024年に生産を開始する鉱山の多くは年後半の開始となる見通しである。
  • 銅地金生産量は、2023年は対前年比2.6%増、2024年は同4.4%増と予測した。主に中国における電解生産能力拡大の継続やDRコンゴのSxEw事業の新設・拡張にけん引されると見込まれる。
  • 需要面では、銅地金消費量は、2023年は対前年比1.4%増、2024年は同2.8%増と予測した。中国におけるゼロCOVID政策からの再開や、他国でも2022年における需要の縮小からの回復が見込まれる。
表4.世界の銅需給バランス(2022~2024年)    (単位:千t)
2022年 前年比 2023年予測 前年比 2024年予測 前年比
銅鉱石生産 21,922 3.0% 22,578 3.0% 23,153 2.5%
銅地金生産(供給) 25,641 2.8% 26,317 2.6% 27,480 4.4%
銅地金消費(需要) 26,072 3.4% 26,431 1.4% 27,183 2.8%
需給バランス -431 -114 297

出典:ICSG会議資料より作成
※上記の計数は所要の調整後であり、表5の計数とは一致しないことがある。

表5.世界の地域別生産・消費(2022~2024年)      (単位:千t)
鉱石生産 地金生産 地金消費
地域/年 2022 2023 2024 2022 2023 2024 2022 2023 2024
アフリカ 3,252 3,501 3,756 2,163 2,291 2,487 177 181 193
北米 2,514 2,483 2,610 1,633 1,594 1,705 2,267 2,265 2,320
中南米 8,542 9,284 9,680 2,581 2,431 2,608 385 372 391
ASEAN10か国 1,078 1,083 1,088 494 462 582 1,193 1,249 1,309
CIS諸国 948 964 995 515 514 549 107 106 107
ASEAN・CIS以外
アジア
2,685 2,827 3,019 14,130 14,638 15,212 18,012 18,220 18,762
EU 786 788 794 2,569 2,697 2,757 3,101 3,159 3,194
EU以外欧州 1,223 1,269 1,477 1,156 1,356 1,428 827 872 902
オセアニア 895 931 965 401 435 445 5 5 5

出典:出典:ICSG会議資料より作成

2.主な講演等の概要

2.1.INSG

安泰科(ニッケル市場アップデート)
(中国市場)
  • 中国は自国の鉱山で需要を賄えず、ニッケル鉱石、精鉱、MHP、マットなどを輸入する必要がある。特に硫酸ニッケルの需要の伸びが大きい。
  • 中国の2022年ニッケル消費量は1.54百万tでこれは世界の57.6%を占める。2023年は2.3増の1.71百万tの見通しである。
  • 中国はNCMバッテリーの主要生産国であり、2022年は618千tで60%超のシェアであった。中国でのNCM(三元系正極材)バッテリー前駆体の2022年生産量は対前年比38%増の822千tであった。2023年は20%増の見通しとなっている。
  • LFPバッテリーは市場シェアを増やしてきたが、LFP対NCMの割合は安定傾向にある。NCMの中ではハイニッケル製品がその性能の良さから需要が増加している。
(インドネシア市場)
  • インドネシアは世界の一次ニッケル生産量の50%を占めており、今後はバッテリー原材料の主要供給者となると考えられる。
  • インドネシアのMHP年間生産能力は1.03百万tであり、主要プレーヤーは中Zhejiang Huayou Cobalt社(浙江華友鈷業股份有限公司)(52%)、Legend(12%)、GEM(7.1%)となっている。マットは百万tに達する見込みで、主要プレーヤーは中Tsingshan(青山集団)(28%)、CNGR(27%)、Weiming(5%)となっている。
(米国インフレ抑制法)
  • 米国インフレ抑制法(Inflation Reduction Act; IRA)に関して、現在のリチウムイオンバッテリー(LIB)サプライチェーンにおける中国の支配的地位や米国国内の状況を踏まえると、米国は短期的には自由貿易協定(FTA)に大きく依存することとなる。将来的には、中国企業が米国からの承認を受けた国においてコアな重要原材料の加工能力を実装する可能性がある。
  • 現在、アルゼンチン、ボリビア、インドネシア、DRコンゴはリチウム、ニッケル、コバルトの主要生産国であるが、米国とFTAを締結していない。豪州、カナダ、メキシコ、イスラエル、シンガポール、チリ、韓国は米国とFTAを締結済みである。英国、日本、EUは米国とFTAを締結していないが、鉱物資源安全保障パートナーシップ(Minerals Security Partnership, MSP)の下でIRAのインセンティブを享受する可能性がある。
  • 中国企業は近年フィンランド、韓国、モロッコ、インドネシアでのプロジェクトに参画している。
(炭素削減)
  • 中国は2021年9月に国外石炭プロジェクトへの投資を止めると発表し、この結果、2022年4月までに15プロジェクトがキャンセルされた。
  • インドネシアにおける中国企業のニッケルプロジェクトの大半は石炭を利用している。下流ユーザーの注目も高く、天然ガスや水素に切り替える中国企業も見られるが、完全に置き換わるまでには長い道のりと考えられる。
Benchmark Mineral Intelligence(バッテリーサプライチェーン)
  • リチウム価格は2023年第1四半期に14%下落した。リチウム需要は特に中国において弱含みである。
  • ニッケル価格は同時期に5.1%下落し、コバルトも2.1%下落した。
  • 他方、2035年時点で電気自動車(EV)向けバッテリーに必要な原材料が、現時点の投資では賄えない。こうした状況を受け、自動車企業は直接上流投資する動きがあり、これは避けられなくなる可能性もある。
Eurometaux(欧州金属部門のエネルギーコストの影響)
  • 風力、水素、原子力からの電力の不足やガス・石炭価格の上昇、さらに排出量取引制度(ETS)の影響も受け、電力価格が高騰した。この結果、EUではアルミ・亜鉛の50%、シリコンの30%の生産能力が稼働できなくなった。
  • 欧州も電力価格はピークを越えたが、高騰以前よりも高水準である。また、ガス価格も同様である。
  • 欧州(EU+英国)の2022年における天然ガス輸入先は、米国44%、ロシア13%、カタール10%であった。
  • こうした状況を受け、2023年3月には欧州重要原材料法案、ネットゼロ産業法案を提出したほか、電力市場デザイン改革の素案についても公表された。
その他
  • World Stainless(世界ステンレス市場アップデート)、Meta Nickel(トルコのGordesプロジェクト)、Glencore(バッテリーパスポートの概要)、CRU(ベースメタルの炭素排出量モデル)、Nickel Institute(ニッケルのライフサイクル評価)が講演を行った。

2.2.ILZSG

Wood Mackenzie(金属生産に伴うカーボンエミッション分析)
  • ベースメタルの採掘・精錬におけるScope1・2排出量比較の紹介がなされた。総量ベースでは、鉄鋼生産(1.6十億t)、アルミ製錬(694百万t)、アルミ精錬(195百万t)、ニッケル(108百万t)である一方、単位重量当たりでみるとニッケル(29,600kg)、リチウム(6,700kg)、アルミ製錬(6,500kg)、ほか1,000kg以上のものとして鉄鋼生産、銅鉱山、亜鉛製錬、鉛製錬・精錬が続くとしている。
  • 金属分野の脱炭素化では鉄鋼・アルミに議論が集中し、ソリューションの検討がなされている一方、銅・亜鉛・鉛の脱炭素化については(総量・単位当たりいずれも低い銅製錬・精錬なども含め)、化石燃料に依存しており、また脱炭素化への取組が遅れている。
BNP Paribas(亜鉛市場の中期的な機会と懸念)
  • エネルギー価格高騰に伴う精錬所の閉鎖があった一方で、鉱石生産は継続していたため、在庫が積みあがっている。一方、建設・自動車市場は減速している。太陽光・風力発電などでの需要増は想定されるが短期的なインパクトは小さく、当面は供給過多、価格押し下げ局面である。
  • 中長期的にも、欧州中心に自動車材料のアルミニウムへの転換が進んでおり、めっき鋼板需要が減少傾向であるため亜鉛需要に影響を与えるおそれがある。

2.3.ICSG

China Nonferrous Metals Industry Association(中国銅市場の動向)
  • 中国は銅鉱石生産の8.6%を占め、順調に拡大中である。銅精錬は43%を占め、向こう1、2年は拡大傾向である。
  • 2022年銅消費量は14.15百万tで前年比4.8%増加した。電力・交通部門がけん引もする、短期的には中国銅消費の大幅な増加は見込まれない。
International Wrought Copper Council(EU銅市場の動向)
  • EUの銅消費は2022年3百万tで、2024年には3.1百万t近くまで回復する見込みである。他方、環境規制との関係で鉛含有銅製品の需要が減少していく見込みである。
  • 一方、EUの半製品生産について2022年は約4百万tであり、供給過剰であった。このため、半製品メーカーの中には、米国への進出に関心を持つ企業もあるが、顧客面を考えれば進出はないと思われる。
  • アルミへの代替率は現状2%程度であるが、EV化が進む中で、自動車分野でのアルミ転換が進んでいく可能性がある。
Citi(銅のリサイクルと最終消費)
  • 構造的な脱炭素需要の後押しにもかかわらず、今後6か月間は弱含みである。
  • 2022~2030年の需要について、ベースケースでは5.2百万t(年間2.3%)の増加と見ている。世界が脱炭素により真剣になれば、これを上回り7.2百万t(年間3.1%)の増加が見込まれる。
  • 鉱山からの供給は2025年までは増加傾向だが、2026~2030年は大幅に鈍化が予想される。2022~2030年の間は年間3.6百万t増加と予測する。
  • スクラップ(リサイクル)を求める声が大きくなり、2022年時点では5.1百万tであったところ、ベースケースでは最大6.8百万t、ブルケースでは最大8.8百万tになると予測する。
その他
  • PJ Mackey Technology(銅品位変化の影響)、Macquarie group(銅の長期需要見込み)、Amalgamated Metal Trading(銅の長期供給見込み)が講演を行った。

2.4.ジョイントセミナー(ベースメタルマイニングへの投資インセンティブ)

DRコンゴ鉱山省
  • DRコンゴの輸出額の約9割を鉱物資源が占める。保有する資源からの経済的利益を国内にもっと還元していく必要がある。この観点から、①鉱山規制当局のキャパシティ強化、②地質調査の強化(SGN-C、MRAC、フランス地質調査所(BRGM)、JOGMEC等との連携)とリサイクルの検討、③ローカルコンテンツを活用した責任・競争力があり雇用創出につながる鉱業の発展、④魅力的な鉱山投資先としての認知向上、⑤違法採掘・小規模鉱業への対応、の5本柱の戦略をまとめている。
  • 特に国内での付加価値化(中間品生産)を進めるため、2018年鉱山法改正にて、以下の規定を設けている。
    • 国内需要を踏まえた鉱石輸出可能量を国が決定できる、その前提の下で輸出が認められる
    • 国内販売が義務付けられる量については、産業化プランで示す需要量を考慮し、鉱山省及び産業省が決定する
米商務省
  • MSPや各国との重要原材料パートナーシップ締結の動き等を紹介し、日本との協定合意についても触れた上で、EUとも同様の協定を結ぶことになると説明がなされた。
その他
  • Anglo American、スウェーデン地質調査所(SGU)、ポルトガルエネルギー地質局(DGEG)等が講演を行った。

おわりに

国際非鉄研究会は国連の下部組織として、半年に一度会合を開催し、需給予測等についての議論を行うほか、政府関係者のみならず業界各方面の企業も参加し、様々な講演が行われている。需給予測においては、2022年までは新型コロナウイルスの影響が大きく見られたが、2023年にはその影響がほぼなくなり、生産・消費ともに回復し、増加基調に転じている。

本研究会において公表する需給予測は短期的なものに限られているが、長期的な将来需給は、脱炭素政策のスピード次第ではあるが、特に脱炭素に必要とされる鉱種の需要が大きく増加すると予想されることが多い中、これを賄うための投資が十分ではないとの指摘も見られた。本研究会のジョイントセミナーにおいても、昨秋は「グリーンエネルギートランジションにおける金属の役割」、今回は「ベースメタルマイニングへの投資インセンティブ」、そして次回はリサイクル関連の議題が検討されているが、こうした金属需給に大きな影響を及ぼす脱炭素政策に本研究会も大きな関心を有していることが見て取れる。

本研究会は、全ての生産国・消費国が加盟しているわけではないという課題はあるものの、各国代表が一堂に会し、産業目線での議論が行われる貴重な場となっている。足下の需給のみならず、脱炭素実現を踏まえた長期見通しにおいても本研究会の議論を注視していきたい。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

ページトップへ