報告書&レポート
Indonesia Miner 2023参加報告
はじめに
毎年ジャカルタで開催されているIndonesia Minerカンファレンスが、2023年6月6~8日に、Westin Hotel Jakartaにて開催された。
会場の参加者人数は、1日あたりおよそ200人で、3日間全体では500人ほどの参加登録があったものとみられる。インドネシア政府関係者や企業で賑わっていた。
1日目は主に銅、金、錫、2日目はニッケルと電気自動車(EV)、3日目は石炭について講演が行われた。本稿では、3日間のカンファレンスの中で印象的だったトピックスをいくつか紹介する。
1.Realizing Sovereignty Over Natural Resources For Indonesia Economic Growth(Arifin Tasrifエネルギー鉱物資源大臣)
インドネシアの鉱物埋蔵量と生産量は、ニッケルが埋蔵量と生産量ともに第1位を誇っており、錫についても埋蔵量では世界1位、生産量では2位である。ボーキサイトについては、埋蔵量が6位、生産量が5位、金は埋蔵量が6位、生産量が12位、銅は埋蔵量が10位、生産量が7位である。
豊富な資源を背景に、インドネシアではさらに国内で鉱物に高付加価値をつけようと2020年に鉱物の高付加価値化に関する法律を成立させた。2009年の鉱業法(Law No.4 /2009)を改正したものである。もともと2009年の鉱業法で、鉱業事業許可を持つ事業者に、インドネシア国内での製錬加工を義務付けた。2020年の改正では、銅やボーキサイトについて、2023年6月までの輸出緩和を定めた。この高付加価値化政策によりインドネシア経済に大きな効果をもたらした。
また、Joko大統領は、鉱物の輸出制限について、ボーキサイトを2023年6月から輸出禁止とすることを決定し、国内の製錬を推進することとした。
インドネシア国内にはGreenFieldの投資機会が数多く存在しており、銅・金、クロム、マンガン、レアアースなどあわせて、現在31の鉱区を認識している。
2.The Power of Copper(Harry Pancasakti政府関係・製錬所技術サポート担当PT Freeport Indonesia副社長)
PT Freeport Indonesia(PTFI)は、インドネシアの銅生産鉱区のうち、51.2%を所有している。1998年からPT Smelting Gresikを創業しており、現在新しい製錬所も建設中である。2021~2041年で投資額は18.6bUS$(15.6bUS$は鉱山投資、3bUS$は製錬所投資)にのぼる。
Gresik Special Economic Zone(SEZ)に建設中の新しい製錬所は、1.7百万dmt/年の処理能力を計画している。2023年12月に建設完了し、2024年5月まで試運転、2024年12月にはフル稼働を行う。2023年4月の時点では、建設作業は約60%進捗している。
3.Returning Tin into a Strategic Mineral(Suganda P.Pasaribu Bangka Belitung州知事)
Bangka Belitung州では、17世紀から錫産業が開始されている。同州の輸出品目のうち88.83%が錫であり、錫産業はBangka Belitung州にとって重要な産業である。
世界の錫消費量が379,485MT、生産量は379,681MTと需給はバランス状態であるが、このうち消費量、生産量ともにアジアが、7割以上を占めている。
錫は1960年代にインドネシアでは戦略的鉱物として分類された。戦略的鉱物の定義としては、いくつかあるが、①軍事・産業もしくは、経済・医療・物流・情報・エネルギー・航空等に不可欠な、その他商業的な目的で必要とされる鉱物、②国家の利益を満たすのに十分な鉱物が確保できておらず、それらを購入、輸入しなければならない、等の定義ができる。
錫は米国や中国など複数の国で戦略的鉱物として定義されている。またレアアースも錫の関連鉱物としてほとんどの国で戦略的鉱物となっている。
4.The Outlook of Bauxite Industry-Post Indonesia’s Export Ban(Djoko Widajatnoインドネシア鉱業協会事務局長)
2023年6月10日からのボーキサイトの輸出禁止に伴い、国内のボーキサイト鉱業企業は下流産業への参入を強いられている。製錬所の建設は企業にとって重いタスクとなる。またボーキサイトの輸出禁止については、インドネシア国内市場でボーキサイトが消費できるか、また国としてはロイヤルティ収入の減少という点にも注意が必要である。
2020年のインドネシアのボーキサイト生産量は、25.9百万tだった。そのうち、23.21百万tは輸出され、残り1.74百万tは国内のアルミナ精錬所で精錬された。アルミナの生産量は1.17百万t、アルミニウムの生産量は250千tであった。インドネシアでは、1百万tのアルミニウムの生産量を必要としており、250千tの国内生産では賄えず、残りの748千tは輸入しているのが現状である。
現在では、ボーキサイトの生産量は年間27.74百万tで、PT Well Harvest Winning Alumina Refinery(WHW)、PT Bintan Alumina Indonesia(BAI)、PT Indonesia Chemical Alumina(ICA)、PT WHW ekspansiの4件のアルミナ製錬所によって、インドネシア国内の処理能力は13.88百万tにのぼる。ただし、残りは輸出禁止となるため、ロイヤルティとしては34.6mUS$、輸出額494.6mUS$の損失が想定される。
5.Accelerating Investment in Higher Value-Added Economic Activities(Hasyim Daeng Barang 投資省鉱物石炭下流担当長官)
2021年のインドネシアの投資目標は900tIDR(インドネシアルピア)だったが、2023年は1,400tIDRに増加した。特にニッケルについては近年下流化が成功し、2017年に3bUS$だった輸出額は、2022年には29bUS$に増額した。また、2019年のニッケル鉱石の輸出額は1.10bUS$だったが、フェロニッケルでは2.60bUS$、2021年には7.11bUS$となった。
インドネシアのバッテリー産業については、“Indonesia Downstream Nickel Electric Vehicle Ecosystem Development”を開発中で、国営鉱業持株会社MIND ID(Mining Industry Indonesia)、PT Aneka Tambang(Antam)、韓LG Chem社、仏Eramet社、独BASF社、中Zhejiang Huayou Cobalt社(浙江華友鈷業股份有限公司)、中CATL社(寧徳時代新能源科技股份有限公司)、韓Hyundai社が参入している。
6.Indonesia Nickel Opportunities and Challenges(Meidy Katrin Lengkey インドネシアニッケル鉱業協会事務局長)
現在、インドネシアのニッケル企業は328件存在している。最も多い地域はSulawesi島で170件である。
インドネシアでは品位:Ni 1.8%のニッケル鉱石に対してベンチマーク価格(HPM)を設定しており、この価格で鉱山から製錬所までの鉱石の取引を行っている。ニッケル製品を対象としたインドネシア独自の価格指標については、まだ検討段階である。インドネシアは、現在、SMM(Shanghai Metals Market)を利用しているが、インドネシア政府はLMEやSMMと協力してインドネシア独自の価格指標を作成するための公式(Formula)を策定する必要がある。
ニッケル銑鉄(NPI)の電気炉の数は、2022年12月に155、2023年4月には170、NPI製錬所の数は59件となっている。ニッケル全体の製錬所の数は、138件となっており、操業中が62件、建設中が31件、計画中が52件である。
MHPの製錬所については、3件の高圧酸浸出(HPAL)製錬所が稼働中である。2023年1~3月でMHP生産量は、あわせて32,250MTである。インドネシアにおけるHPALのCAPEXは、他国のHPALのCAPEXと比較して安価であり、コスト競争力がある。
今後、ニッケルはEVに使用される重要な鉱物であるが、EVのコストのうち35%をバッテリーが占めており、そのバッテリーについても、三元系正極材(NCA、NMC811)では、8割をニッケルが占めるとされている。
7.Project Showcase – Supporting the Global Energy Transformation(Stan Wu, Head of Investor relations PT Merdeka Battery)
Merdeka社は、金・銅、ニッケル、コバルトのプロジェクトを保有している。ニッケルについては、Mine & Downstream ProcessingプロジェクトをSulawesi島で開発中である。HPALとRKEF(ロータリーキルン)・マット製錬所建設する。PT Merdeka Batteryは、中国青山集団と鉱山についてはJV開発中で、HPALについては中CATL社と開発中である。
なお、PT Merdeka Batteryの株主としては、PT Merdeka Copper Goldが50%近くを保有し、残りを中Huayou社、その他株主が保有している。
開発中のRKEF製錬所について、2023年下半期には稼働予定としており、50千t/年のNPIが生産される予定である。これにより、同社のNPI生産能力は既存の製錬所と合わせて88千t/年となる。
HPALの開発については、120千t/年のMHPの生産を予定しており、原料となるリモナイト鉱石は、同社が保有するSCM鉱山から供給する。SCM鉱山は世界でも有数のニッケル鉱山であり、ニッケル資源量は13.8百万t、コバルトは1.0百万tの資源量をもっている。
8.Missing Pieces of EV battery puzzle:Sustainable nickel(Bernadus irmanto PT Vale Indonesia部門長)
EV生産で排出される二酸化炭素のうち50~60%がバッテリー生産からのものであり、低炭素ニッケルはEV生産において重要である。
自動車OEM(Original Equipment Manufacturers)各社は、ESG(環境・社会・ガバナンス)に配慮し責任ある調達を意識しており、米Tesla社、独Mercedes Benz社、独BMW社、独Volkswagen社は、IRMA(責任ある鉱物保証のためのイニシアチブ)・GBA(Global Battery Alliance)・SDGs(Sustainable development Goals)と、それぞれのESG基準を満たす調達を行っている。
現在、同社では新しいプロジェクトを3件開発中であるが、そのうちPomalaaとBahodopiについては、石炭を使用しない予定である。2050年にはネットゼロエミッションを達成する目標で、2030年までに、電気炉の化石燃料をLNGに切り替える。
9.Integrated Mining & Downstream On West Obi Island(Tonny gultom PT Trimegah Bangun Persada健康、安全、環境担当部門長)
PT Trimegah Bangun Persadahaは、2023年4月に新規上場した企業であるが、2009年からObi島で鉱山開発を行っている。2021年にはPT Halmahera Persada Lygendとして、HPALの第1開発段階を完了させ、2023年4月には硫酸ニッケルのトライアル生産を開始した。今後は硫酸コバルトの生産も行う予定で、2023年第3四半期の終わりには、フルの生産能力で稼働する。
最終的にはObi島で、上流から下流(ステンレスやリチウムイオンバッテリー(LIB)生産・リサイクル)までを行うため、下流産業用の工業団地の開発(Obi Industrial Area)を計画中である。
10.Development of Nickel-Based EV Battery Ecosystem(Dolok Silaban PT Antam事業開発担当ディレクター)
2023年までに世界では14百万台以上のEV販売が予測されており、バッテリーの需要では2050年までに7TWh以上になると予測している。また、バッテリーを1GWh生産するのに対して、1,300tのバッテリー原料、もしくは780tのニッケルが必要である。インドネシアの国内バッテリー需要に対しては、年間160~400千tのニッケルが必要である。
PT Antamは2030Visionの一環として“EV Battery Ecosystem”の開発を行っており、2022年4月に国営International Battery Corporation(IBC)、PT Ningbo Contemporary Brunp Lygend(CBL、中CATL社子会社)、韓LGES社と枠組み協定を締結した。2023年には本プロジェクトの一部であるEast Halmahera島の工業団地の開発にあたって、CBL社と条件付き株式売買契約を取り交わした。
おわりに
世界的に新型コロナウイルス感染拡大前の社会活動を取り戻しつつある中、今回Indonesia Miner2023では多くの参加者が現地に集っており、改めてインドネシアの鉱物資源国としての注目の高さを伺うことができた。
各プロジェクトの進捗状況だけではなく、高付加価値化政策など、インドネシア政府の動向にも世界中から注目が集まっているが、銅の輸出禁止が先延ばしとなったこと等からも先行きが不透明であることが多い。
特に豊富なニッケル資源を背景に、脱炭素・EV普及を目指す同国の動向について、今後も一層注目していきたい。
おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。