閉じる

報告書&レポート

2023年7月12日 ロンドン 事務所 横手広樹
23-13

欧州RM Summit2023参加報告

欧州重要原材料法案に対する産業界等の見解について

<ロンドン事務所 横手広樹 報告>

はじめに

2023年5月16~17日にかけて、EIT Raw Materials主催のRM Summit2023がベルギーBrusselsで開催された。本カンファレンスでは、2023年3月16日の欧州重要原材料法案(European Critical Raw Materials Act)の公表を受け、同法案を前提とした講演・ディスカッションが行われたところ、登壇したステークホルダーの受け止めや見解等について紹介する。

1.カンファレンスの位置づけ

同カンファレンスを主催するEIT Raw Materialsは、EU内の重要原材料関係イノベーションプログラムの橋渡しをする機関として、欧州委員会(EC:European Commission)の運営支援のもと設立された団体であり、2020年の欧州重要原材料アクション・プランに基づき設立された官民アライアンスである欧州原材料同盟(European Raw Materials Alliance、以下ERMA)の事務局も務めている。こうした位置づけから、同カンファレンスは、例年、欧州委員会や加盟国政府関係者、欧州内の金属事業者やユーザー企業、金融機関など、欧州重要原材料法案に関連する主要なステークホルダーが一同に会する場となっている。

本カンファレンスは、欧州重要原材料法案が公表されたこともあり、前年比2割増の約850人が参加しており、同法案に対する関心の高さが見て取れた。他方、同法案に対する満足度に関する会場アンケートでは、4段階評価(very satisfied, satisfied, in-between, not satisfied)で2段階目(in-between)が50%、3段階目(satisfied)が50%との結果であり、法案に対する不満も見て取れた。

2.法案に対する登壇者からの主な指摘

EIT Raw Materials/ERMAをはじめ産業界側の登壇者からは、総論として歓迎も、不十分な点が多々あるとの反応であった。主に、①新規の予算措置が盛り込まれていないこと、②許認可プロセス迅速化の実効性・運用の一貫性が担保されるのか不透明であること、③アルミが重要原材料に位置付けられていないこと、④ベンチマークの達成度合いをどのように評価するのか不透明であること、⑤ソーシャルライセンス(Public Acceptance)がボトルネックであること等の指摘がなされた。EIT Raw Materials/ERMAとしても、こうした改善点について今後の法案プロセスにてインプットしていく意向である。

一方、備蓄やリサイクルについては、義務的な措置の是非等も含め主要な論点とはならなかった。

以下、特に興味深かった指摘について紹介する。

(1)法案全体に対する説明・指摘

欧州委員会・欧州議会等関係者
  • 欧州委員会成長総局Kerstin Jorna総局長は、重要原材料のビジネスケースの創出が不可欠であり、本法案は、そのための土地、スキル、ファイナンス、市場へのアクセスを改善するものと説明。米インフレ抑制法(the Inflation Reduction Act、以下IRA法)との比較では、オフテイカーを巻き込み、需要・供給の双方にアプローチしている点が特徴と説明。
  • また、欧州委員会成長総局Joaquim Nunes De Almeida局長は、本法案の要は戦略的プロジェクトの概念であると指摘。承認を得るのに通常10年程度を要するところ、本法案ではプロジェクトの承認デッドラインとして厳格な期限を設定し、例えば採掘では最長24か月以内とした点を強調。一方で、環境影響評価(EIA)基準を緩めることはしないと説明。住民等による訴えによりプロジェクトが中断することは避けられないが、規制審査としての予見可能性が高まることで、ファイナンス面が前進することを期待しているとした。
  • この点、成長総局Peter Handley課長も、許認可プロセスの柔軟化は米IRA法にはない強みとし、欧州ソブリンファンド(European Sovereignty Fund)の創設は引き続き検討中としつつも、既存ツールに加え、仏独のような追加的な各国支援措置を組み合わせることで対抗可能であると説明している。
  • なお、リサイクルに関しては、域内リサイクルを15%とするベンチマークが低すぎるとの指摘は承知しているものの、多くの戦略的重要鉱物においてリサイクル率は1%未満にとどまっており、域内リサイクル率を高めていくためにも、使用済バッテリー製品等のアジア等への域外流出を食い止めていかなければならないと指摘している。
  • 欧州議会Hildegard Bentele議員は、法案には少なからず改善すべき点があるが、比較的満足しており、法案プロセスを2023年内に終え、具体的な戦略的プロジェクトを2024年の早い段階に開始することが非常に重要であると説明。そのうえで、許認可プロセスを一貫性をもって運用ができるかが課題であると指摘。
  • 独Sandra Detzer議員は、公的資金を組み合わせた具体的なビジネスケースを早急に立ち上げることが必要と指摘。他方、中国が巨大な市場を有し、原材料採掘や精錬を低価格で実行可能である中、欧州内で同様のことを実現するのは極めて困難で長い道のりであることを認識すべきと指摘。
EIT Raw Materials Bernd Schäfer CEO
  • 欧州原材料法案により設定された目標に向けて共同して努力することに完全にコミットする。ERMAは15b€を超える潜在的な投資額を有し、15件以上の投資案件を特定している。また、レアアースに次いで第2弾となるエネルギー貯蔵と転換に関する電池ストレージのアクション・プランを公表したところ。
  • 他方、ベンチマーク、戦略的重要原材料リスト(アルミが入っていないこと)、ソーシャルライセンス、EUレベルでのファイナンス、認証規準、スキル、研究開発、ガバナンス等について、更なる明確化や改善が必要である。
  • スピード感と実行が重要であり、戦略的プロジェクトに係る許認可は最速で行わなければならない。カナダや豪州では許認可が2~3年で行われているのに欧州では10~15年を要している。主な利害関係者、オフテイカー、消費者、顧客も巻き込み、産業とファイナンスを組み合わせることが重要である。
独BMWK Franziska Brantner政務次官
  • 本法案において重要なのは、戦略的プロジェクトを特定し、迅速な手続きを経てファイナンス支援を実施すること。我々は高いESG(環境・社会・ガバナンス)基準を持っているため他国よりも安価な生産は出来ないかもしれないが、平等な条件で競争できるように、企業のためにレベルプレイングフィールドを作ることが可能である。
  • 我々は真に必要なプロジェクトの受容性を高め、地域で受け入れ、採掘、精錬、リサイクルを行いたいという雰囲気作りに取り組む必要がある。ただし、ESG基準を下げることはあってはならない。問題は基準を下げることなく手続きを迅速化させる必要がある点。そのためには手続きに何が必要かあらかじめ提示されるべきである。
  • 本法案ではEU自体に資金はなく、基本的には各国の資金が必要である。しかし、我々は欧州復興開発銀行(EBRD)や欧州投資銀行(EIB)ともっと協力できるようになることを願っている。また、国家補助金規制(State aid rules)をより明確化すべきである。
仏Benjamin Gallezot重要鉱物担当省庁間政府代表
  • 資金調達において重要なのは、EIBなどの既存の融資スキームのプロセスを合理化することであり、そのアクセス方法を明らかにすることである。仏政府は5月8日の週に2b€の新たなファイナンスイニシアティブを発表、これは上流、中流、リサイクルのために民間セクターに提供するもので、オフテイクの獲得を目指している。また、仏政府は、政府補助金や税額控除も提供する。
  • 仏政府は最近採掘規制をアップデートしており、次のステップはこれらのタイムフレームを提供すること。許認可の迅速化には政府側と企業側との関係性が重要で、政府側が質問し企業側が回答するプロセスを合理化する仕組みを導入しなければならない。

(2)戦略的重要原材料リストに対する指摘

  • 戦略的重要原材料リストに関しては、EIT Raw Materialsや独Airbus社等が、アルミニウムを追加すべきと指摘。アルミニウム製錬のキャパシティはこの2年で50%減少しておりハイリスクセクターと認識すべきであり、重要原材料の代替としての役割等も踏まえ、法案により支援していくべきとしている。
  • また、独Airbus社からは、航空機向けのニッケルについても戦略的重要原材料に追加すべきとの指摘。加えて、戦略的備蓄は企業ベースで管理すべきであり、競争性を損なうべきではないとした。

(3)レベルプレイングフィールド確保(ファイナンス支援、ESG基準)に対する指摘

  • 多くの産業界登壇者より、米IRA法と比較して、ファイナンス支援が不十分との指摘があった。リチウム精錬企業の米Albermarle社は、米国や欧州でのプロジェクトは2~3倍のCAPEX、OPEXが必要であるが、米IRA法により、米国は現在バッテリー工場建設には最良かつ最も競争力のある場所となっていると指摘。また、豪Sunrise Energy Metals社は、中国が過去10年で、インドネシアでのニッケル生産能力増強に40~50bUS$を費やしていると指摘。企業の動機は利潤であり、欧州企業は中国とのサプライチェーンをより緊密にしていることを認識すべきであり、中国と上流開発競争をするのであれば、欧州政府の相応のコミットメントが求められるとした。
  • 金融機関サイドも同様の立場であり、BMO Financial Group、ING、DGWAが、欧州の競争力に対する疑義を表明。投資家はグローバルスケールで見ており、欧州には鉱山開発の経験が乏しく、コスト競争力もないほか、米IRA法との比較でファイナンス支援も不十分であると指摘。またドイツ銀行は、debt providerとしては、①許認可・ソーシャルライセンス、②パフォーマンスリスク、③価格・量の観点から融資判断を行うが、欧州重要原材料法は①にしか対処しておらず、当面はエクイティ・ファイナンスから入らざるをえないと指摘。
  • なお、ESG基準に関しては、フィンランドFinnish Mineral Group社等の上流開発企業は、追加コストが生じるとしても高いESG基準を維持していくことが必要との立場。なお、ユーザーサイド側の意見として、伊Enel社は既にレアアース調達の3割は価格以外の観点で調達しており、高いESG基準等を満たしているなら許容可能であると指摘。
  • また独Aurubis社からは、銅をタクソノミーに追加すべきとの指摘もあった。

(4)許認可の迅速化に対する指摘

  • 産業界からはスピード感をもって一貫性ある運用ができるかが鍵であると指摘がなされた。
  • 独Aurubis社は、規制部局がサポーティブに対応しない限り、まったく実用的でない規定となってしまう。加えて、相反する規制の問題を克服できるかどうかが課題で、仮に欧州化学品規制庁が鉛の生産と取扱の禁止の議論を続けるならば、これは明らかに大きな問題であると指摘。
  • スウェーデンBoliden社は、企業と政府の関係が良好なスウェーデンであっても、7、8年にわたり所有する銅鉱山の開発手続きが進展していない事実を説明。許認可手続きの迅速化を歓迎しつつ、申請プロセスや要件、欧州他法令や加盟国法令との関係性を明確化し、許認可プロセスの予見可能性を高めることが不可欠と指摘。

(5)国際連携に対する主な説明・指摘

  • 欧州委員会国際パートナーシップ総局Cecile Billaux課長は、EUはカザフスタン、カナダ、ウクライナ、ナミビアとパートナーシップを締結しているほか、ノルウェー、グリーンランド、DRコンゴ、チリ、アルゼンチン、アフリカ五大湖地域とも交渉中と説明。戦略的パートナーシップは原材料バリューチェーン全体を対象とし、相手国の特に域内加工・精錬能力開発にも配慮をするとしている。
  • この点、欧州委員会貿易総局Leopoldo Rubinacci総局長代理は、貿易協定の締結には時間がかかるため、より早くできるMOU、パートナーシップの手法を活用しているとした。ビジネス面でも、バリューチェーンの持続可能性を確保する必要性が高まっていることから、パートナー国と協力して、規格、認証、仕様、バリューチェーン全体を一緒に開発していくことが重要と説明。なお、非パートナー国を排除するつもりはなく、あくまでパートナー国に対してwin-winの関係を提供していくもので、単に採掘や輸出を行うだけではなく、相手国内での付加価値化を目指していくとしている。
  • また、欧州議会Henrike Hahn議員は、Critical Raw Material Clubの創設は同じ考えを持つ(Like minded)パートナーとともに基本的な民主主義の規範を守っていくとともに、コラボレーションのプラットフォームとして、知識の共有や責任ある調達を共に行っていくと説明。規制の枠組みを支援し、EUを超えて持続可能で責任あるプラクティスを促進し、ベストプラクティスを共有することを目指すとした。
  • 一方、豪Sunrize Energy Metals社は、EUの目標は非常に野心的だが、現在欧州には原材料のベースがなく、リサイクルも今後数十年は非常にわずかな割合を占めるに過ぎないと指摘。欧州でのプロジェクトは非常に高コストのサプライチェーンになるかもしれず、この点で、欧州にソリューションを提供できる豪州やカナダ、南米諸国とのパートナーシップは非常に重要になるとした。
  • 米Albermarle社は、貿易阻害的な施策(Trade distortion method)については、中国くらい力があれば、いかようにも対応可能なため、望ましくないと指摘。

3.法案制定に向けたタイムライン

本カンファレンスでは、欧州議会議員や欧州委員会より、法制化に向けたタイムラインが説明されており、2023年上半期のEU議長国であるスウェーデンのイニシアティブの下、2023年内の法定化を目指してプロセスを進めるとの説明がなされた。

実際に、2023年5月下旬より、欧州議会、欧州理事会における法案審議プロセスが開始されており、また欧州委員会側でも、法案に対する意見募集を行っているところである。今後、夏頃には欧州議会及び欧州理事会のポジションを固めた上で、秋以降、欧州委員会も交えた三者協議にて必要な修正作業を行っていく見込みである。

おわりに

本カンファレンスでの意見を踏まえれば、米IRA法と対抗できるだけのファイナンスサポートが措置されるのか、サポーティブな規制運用が一貫性のある形で提供されるのか、という点が産業界の共通的な関心事項となっている。他方、加盟国間で産業構造や地質条件、社会的受容性の状況も多様である中、どこまでの措置をEUとして組織的に行い、どの部分は個々の加盟国政府の措置に委ねるのかという点が、今後の三者協議の最大の争点となってくると見込まれる。実際に、独仏が独自のファイナンスサポートを準備しており、欧州委員会からは、こうした加盟国措置と組み合わせることの意義を強調していたところである。いずれにせよ、2022年9月の欧州委員会Ursula von der Leyen委員長一般教書演説で言及された欧州ソブリンファンドの創設検討の行方を含めて、注視していく必要がある。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

ページトップへ