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報告書&レポート

2023年9月4日 金属企画部 酒田剛
23-22

リチウムイオン電池、日本の非鉄各社が進めるリサイクルへの取り組み

<金属企画部 酒田剛 報告>

はじめに

電気自動車(EV)の急速な普及に伴い、生産競争が激化する車載用リチウムイオン電池(LIB)の循環利用への関心が高まっている。

LIBは、正極、負極、セパレータ、それらの間を埋める電解液から構成され、正極にはリチウムを含む金属化合物、負極にリチウムイオンの貯蔵に適した炭素などを使用するものが主流であるが、用途の7割は自動車向け1とされる。

EVに欠かせないLIBの主な課題として、リチウムやコバルトなど重要金属(原材料)のコストが高いこと、それらの供給を特定国に依存していること、そして性能と安全性の両立が難しいこと、などが挙げられている。

本トピックスでは、LIBリサイクルの事業化に取り組んでいる非鉄各社の動向を紹介したい。

1.資源循環の可能性

LIBの資源循環に係る手法は、大きく以下の3つに分けられる2

  1. (1)車載用電池パックをそのまま定置型蓄電池など別用途に使うリパーパス(Repurpose)
  2. (2)電池パックを分解して選別したセルを再度電池パックに使うリユース(Reuse)
  3. (3)電池を材料にまで再資源化し、新規の電池製造に利用するリサイクル(Recycle)

非鉄各社は、金属鉱物の製錬事業で培ってきた技術や知見を活かし、再資源化やプロセスの有効性を確認するなど、リサイクル技術の開発を積極的に進めている。

2.各社の取り組み

各社は、使用済みLIB(廃LIB)の電池パックやセルを解体・焙焼・粉砕など中間処理することで得られる「ブラックマス」を出発原料として再資源化する事業を検討している。

JX金属と住友金属鉱山は、それぞれ「グリーンイノベーション基金(NEDO)事業」のプロジェクト(クローズドループ・リサイクルによる車載LIB再資源化、蓄電池リサイクルプロセスの開発と実証)に採択され、研究開発計画などの事業戦略ビジョン3 4を提示していることが特記される。

JX金属では、ブラックマスを硫酸で浸出し、溶媒抽出によるコバルトとニッケルの抽出後、晶析化を経てバッテリーグレードの硫酸コバルトと硫酸ニッケルに再生(マススケールでの実証)しており、炭酸リチウムの回収設備も導入中である。さらに、高ニッケル系LIBに使用される水酸化リチウムの直接回収技術の開発も進めている。

住友金属鉱山では、パイロットプラントにてブラックマスを乾式製錬工程で溶融還元して銅、ニッケル、コバルトを含む合金とリチウムを含むスラグに分離し、合金を硫酸で溶解して高純度の硫酸ニッケルと硫酸コバルトの混合液を回収することに成功。2023年6月、電池メーカー(PEVE社)が本混合液を原料とした正極材を用いて電池を作製・評価し、天然資源由来と同等であることが製品レベルで実証された5。リチウムの再資源化(スラグを化学処理して回収)については関東電化工業と協業している。同社は、NEDO事業で設置するプレ商業実証設備を経て商用規模プラントを建設する構想である。

三菱マテリアルでは、エンビプロ・ホールディングスが生産するブラックマスからコバルト、ニッケル、リチウムなどを回収する湿式製錬技術開発に共同で取り組んでいる。

DOWAホールディングスでは、既存の大型熱処理設備を用いて電池パックを解体せずにそのまま熱処理を行う、感電・発火リスクを抑えたより安全な方法でブラックマスを製造しており、国内2工場と同様の設備を有する海外拠点(東南アジア)への展開も視野に入れている6。これまで外販していたブラックマスを正極材に繰り返して再利用するDirect Recycleの技術を秋田大学と共同で開発した。

表.非鉄各社のLIBリサイクル事業への取り組み状況
企業名 再資源化 処理規模
(t/年)
事業化時期 備  考
JX金属 硫酸Co
硫酸Ni
炭酸Li
不明 25年度
(準商業実証)
・35年頃に年間30千tの目標
住友金属鉱山 Ni・Co混合液
(硫酸Ni・硫酸Co)
A:10,000 次期中計(25年度~)期間
(プレ商業実証)
・28年度に100%達成の方針
・Liは関東電化工業との協業
三菱マテリアル Co、Ni、Li B:6,000
(30年度)
25年度末 ・エンビプロ・ホールディングスとの協業
DOWAホールディングス Co、Li、Ni A:1,000 25年度以降 ・商業プラントは廃LIBを回収しやすい地域への立地を考慮

A:LIBスクラップ量、B:ブラックマス量
出典:各社HP、報道情報等を基に筆者作成

住友金属鉱山は、事業戦略ビジョンの中で「廃LIBが海外に流出することで国内には残らず、調達が困難になる」ケース等を中止の判断基準としている。同様にJX金属は、以下のケース等に対して十分な対策を講じつつも、自社のみでの対応が困難かつ影響が甚大なリスクが現実化した場合には中止も検討するとしている。

  • 廃LIBが回収できない
    →関係省庁や団体とも連携し、適正な回収スキームの確立に取り組む
  • 欧州や中国で同様のリサイクルシステムが先行して確立し、同市場へ参入できなくなる
    →当社における技術開発を効率的に推進することで、海外企業に先んじた技術確立に努める。当社の欧州・中国拠点等とも連携し、現地での最新情報を入手する。

おわりに

海外流出などによって廃LIBが回収不能な事態が生じると、国内で再資源化のサプライチェーンを構築することは困難になる。そのため、全国で排出される廃LIBの効率的な回収システムの検討が重要であり、中間処理(ブラックマス生産工程)を行う施設の場所が輸送コストを左右する。

一方で、精製施設(ブラックマスの処理工程)では、処理量に応じてスケールメリットが生じると考えられ、大規模集約化がコスト低減の要とされる。

2023年2月、北米でLIBの資源回収を行う加Li-Cycle社7の「Rochester Hub開発」プロジェクトが、米エネルギー省の融資プログラムに採択された8。同社の「スポーク&ハブ」構想9を体現するプロジェクトで、同精製施設がフル稼働すれば35千t/年のブラックマスを処理し、炭酸リチウム、硫酸ニッケル、硫酸コバルトをそれぞれ8.5千t/年、48千t/年、7.5千t/年生産可能とされる。同社は米国上院EPW(環境公共事業)委員会が2023年7月26日に開いた公聴会“Electronic Waste Recycling and Reuse”で、米国のリサイクル産業を強化するためにE-Wasteの輸出を制限すべきとの立場から、「アジア地域へのスクラップ材料の流出に対処することでLIBリサイクル産業を支援する」ことの重要性を指摘した10。同年8月3日にはドイツで欧州初のブラックマス生産施設11稼働を開始(処理能力10千t/年)し、第2拠点となる精製施設をイタリアにあるGlencoreの拠点を活用して処理能力50~70千t/年を整備する予定とされる12

現在、リサイクルに供されているLIBの多くは、セルやモジュールなどの工程内スクラップがほとんどとされるが、そのリサイクル事業で10年以上の実績を有する欧州のトップランナー、ベルギーUmicore社では粉砕工程を経ない乾式製錬へのスクラップの直接投入プロセスを導入している。同社は、2026年を目途に欧州内にLIBスクラップ処理量150千t/年の施設を建設する計画であり、欧州の再資源化政策に基づく電池規則案で課されている金属毎の一定以上のリサイクル率への対応を目指している。

世界のLIB需要が今後急拡大し、いずれ大量の廃LIBが出回り始めることになるが、中国を除くアジア地域の本スクラップ市場は大きくないと見られる中、非鉄各社による独自の技術・事業基盤を生かしたLIBリサイクル事業の進展に注目したい。


  1. 1.次世代電池 開発競争の行方を読む – KPMGジャパン
  2. 2.リチウムイオン二次電池 リサイクル事業への参入進む:日経ビジネス電子版(nikkei.com)
  3. 3.vision-jx-nmm-001.pdf(nedo.go.jp)
  4. 4.vision-smm-001.pdf(nedo.go.jp)
  5. 5.リサイクルニッケル・コバルトを使用した正極活物質がリチウムイオン二次電池のユーザー実証試験に合格 | ニュース | 住友金属鉱山株式会社(smm.co.jp)
  6. 6.for_shareholders_fy2022_fullyear.pdf(dowa.co.jp)
  7. 7.Lithium-ion Battery Recycling – Li-ion Battery Resource Recovery | Li-Cycle
  8. 8. 金属資源情報 2023年3月1日付 ニュース・フラッシュ:
    米:加Li-Cycle Holdings社、北米初の商業用湿式製錬の資源回収施設であるRochester Hub開発用に米エネルギー省より融資を受ける
  9. 9. スポーク工程とは、LIBを安全に処理・粉砕し、ブラックマスを生産する施設を多数設置。ハブ工程とは、ブラックマスを湿式製錬で精製する大規模・集約化した施設を指す。
  10. 10.E-scrap exports discussed at US Senate hearing (resource-recycling.com)
  11. 11. 仏やノルウェーでも建設を計画、米国では4か所操業している。
  12. 12.Li-Cycle Starts Operations at its First European Lithium-Ion Battery Recycling Facility, One of the Largest on the Continent | Business Wire

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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