報告書&レポート
鉱業フェアMINPRO 2023参加報告
はじめに
2023年6月27~28日、ペルー共和国Lima市において鉱業フェアMINPRO 2023(VIII Encuentro de Mineros y Proveedores)が前回から4年振りに開催された。会場内では鉱業セクターのサプライヤーや鉱山企業による展示や商談会が行われ、同時に、鉱山企業によるプロジェクト進捗状況や今後の見通しに関する講演が実施された。本稿では講演5件の概要を紹介する。
政府側からOtarola首相(左から3人目)、Veraエネルギー鉱山大臣(左から2人目)が参列し、業界関係者の前でのスピーチで鉱業推進の方針を説明した。
1.Antamina銅鉱山拡張プロジェクト
<Victor Gobitz、Minera Antamina社 GM>
(1)操業概要
Antamina銅鉱山は大規模なスカルン鉱床であり、1990年代の困難な国内政治・経済状況1の中、民営化により開発された。Minera Antamina社の権益はBHP、Glencore、Teck、三菱商事の4社が保有する。これら企業のうちどれか1社だけが主導権を持ちMinera Antamina社をコントロールしているのではなく、独特なガバナンスに基づいて運営されている。
本鉱山はAncash州に位置し、操業に由来する所得税の50%は鉱業Canonとして同州の自治体や国立大学等に交付されている。影響エリアは標高3,400~4,700mの高地から沿岸部まで3つの郡や30以上のコミュニティにわたり、精鉱輸送パイプラインは全長300km以上におよぶ。なおパイプラインの大部分は地中に存在する。
亜鉛と銅の精鉱を生産していることから、精鉱輸送パイプラインでは、例えば亜鉛精鉱を輸送したならば、一度水を通して洗浄を行ってから銅精鉱を輸送しなければならない。Huarmey港に到着した精鉱は、ろ過等により水分を除去し、水分量を8~9%まで減らしてから出荷する。発生する排水は処理した後に、近隣の土地の灌漑に利用しており、小さな森が形成されている。Antamina鉱山で利用される水資源は98%が再利用水であり、外部からの取水は2%のみとなっている。
(2)地域社会との関係
地域社会との関係は非常に重要であり、Minera Antamina社の場合、影響下地域を対象に常設の対話協議会(Mesa de Diálogo Permanente)を設置している。対話は地域の人々の懸念や期待をより早い段階で把握・対処し争議や通常の操業を困難にする暴力的な事態を未然に防ぐための最良の方法である。
鉱山企業の活動に由来の財源が現地で適切に活用されるよう、近年当社は官民連携公共事業(OxI)を積極的に実施してきた。一方で理想的なのは地方政府自らが公共事業を実施できるようにすることであるため、当社はその実現に向けてAncash州政府への協力を行っている。
(3)拡張プロジェクト
Antamina銅鉱山拡張プロジェクトでは、既存設備の改善によりマインライフを2028年から2036年まで8年間延長することが計画されている。本プロジェクトについては、2019年に持続可能環境投資許可庁(SENACE)に対してエンジニアリング調査を提出し、SENACEから指示されたTOR(必要事項)に基づき8,000ページから成る環境影響調査修正書(MEIA)を作成、2022年4月に完成したMEIAを提出した。操業エリア拡大や生産能力増加は計画されていないため審査は比較的簡単なはずだが、実際には制度上のMEIAの審査期間はとうに過ぎている。なお本日のMINPRO開会式で、Otarola首相は本プロジェクトのMEIAは2023年末までに承認されると述べられた。その言葉が実現することを期待している。
MEIA等の環境影響調査に規定以上の時間がかかるのは、審査機関が実際にはSENACEだけでなく水資源庁(ANA)、森林・野生動物庁(SERFOR)、文化省等多岐にわたるためだ。環境影響調査審査の遅延問題はAntamina鉱山をはじめとする鉱業セクターだけでなく、交通や医療インフラなどあらゆるプロジェクトで発生している。ポイントなのは誰も審査の水準低下は望んでいないが、迅速化を求めているということだ。国全体の利益を考えた場合、環境影響調査の審査・承認を担う唯一かつ首相府直属の機関を設立することが望ましいと考える。
(4)今後の課題
露天掘りのため日々ピットの形状は変化し深くなっていく。20年前に操業を開始した当時はトラックによる鉱山内の鉱石やズリの運搬距離は平均2~3kmであったが、現在は平均14kmである。そしてこの距離は日々長くなっていく。従い、非生産的な時間をできるだけ削減するための様々なプログラムを実施している。
例えば、トラック運転手の休憩時間にも輸送を継続するため、代理運転手を導入することによって生産性が向上した。また、現在は容量320tのトラックを利用しているが、ウルトラクラスと呼ばれる容量約400tのトラックへの変更を検討しているところである。
様々な鉱物が存在するスカルン鉱床であるため、機械学習で蓄積されたデータを活用し、鉱石の種類や硬さに応じて最適な鉱物処理量や化学物質の融剤の取り扱い、ポンプ速度をリコメンドしている。
2050年のカーボンニュートラル実現を目指し温室効果ガスの削減に取り組んでいる。本鉱山から排出される温室効果ガスの76%は鉱石輸送トラックによるものであることから、2028~2036年の間にコンベア輸送を導入することでトラックの台数を削減することが提案されている。また先に説明したウルトラクラスのトラックについては将来的にトロリー充電タイプに変更できることを条件としている。
2.Zafranal銅プロジェクトの進捗
<Mario Baeza、Minera Zafranal社 GM>
本プロジェクトはArequipa州に位置し、Minera Zafranal社の権益は加Teckが80%、三菱マテリアルが20%を保有している。
本プロジェクトは2004年にスタートし、この10年間に探鉱、概念設計、PFS、FS、環境影響詳細調査(EIAd)を実施し230mUS$を投資した。投資総額は1,263mUS$にのぼる見通しである。またEIAdは約1か月前にSENACEによって承認された。
現在は詳細エンジニアリングへの移行期であり、EPCの業者選定プロセスを実施中である。2023年第3四半期に詳細設計を開始し、2024年末から2025年にかけて取締役による最終的な投資承認を得て、2025年に鉱山建設許可を取得し初期工事に着手、2028年に商業生産を開始したい考えである。
なお鉱山建設に3年、操業に19年、閉山に3年、閉山後のモニタリングに5年の合計30年間の活動を計画している。
本件は中規模のプロジェクトであり、シンプルかつコンパクトな設計の鉱山となる予定である。2つのピットから採鉱予定で、Zafranalピットでは生産1~15年目、Victoriaピットでは15~19年目に操業する計画である。2019年に完了したFSに基づく生産量見通しは、操業開始後最初の5年間が128千t/年、その後10年間が101千t/年で、マインライフ全体の平均生産量は約76千t/年となっている。硫化鉱の採鉱量は合計370百万t、ズリは502百万tと見込まれる。生産物は鉱山アクセス道からパンアメリカンハイウェイ経由でMatarani港まで輸送し出荷する計画である。
本プロジェクトの特長は、既存インフラへのアクセス条件が良い上に、最寄りの集落まで20kmと人里離れた砂漠に位置し、自然保護区や源流域、農地や先住民コミュニティからも離れていることである。また水資源はMajes草原の下方に存在する汽水を利用する計画である。この汽水は飲用水や農業用には利用不可能だが、19年間の操業での使用量は汽水全体の10%以下に留まる。
鉱山サイトの地表の利用権は既に取得済みであるが、送電線やアクセス道等の通過エリアについては地権者との契約がペンディングである。
Minera Zafranal社はマネージャークラスのジェンダー比が男性60%、女性40%であり、女性マネージャーの割合はペルー平均の7%未満を大きく上回っている。従業員全体でも、ジェンダーだけでなく年齢層も18歳から50代までバランスがよい。変化していく今日の世の中では様々な価値観や考え方が必要なため、ポジティブなことだと考えている。
3.San Gabriel金プロジェクト、Yumpag銀プロジェクトの進捗
<Renzo Macher、Minas Buenaventura社 プロジェクト・イノベーション担当副社長>
(1)Buenaventura社紹介
Buenaventura社は70年の歴史を持つペルー企業であり、Cerro Verde銅鉱山(Arequipa州)等の部分的権益参加も含めて全国8州に8件の鉱山と2件のプロジェクトを保有する。多くが金の鉱山だが銅の案件の割合が増加傾向にある。Buenaventura社の最初の鉱山はJulcani銀鉱山(Huancavelica州)で、1953年に開山され現在も操業が続く。
(2)ESGの取り組み
Buenaventura社はグッドプラクティスや環境資産の形成等にポイントを置いた活動を実施している。7つの州に貯水池を建設し合計108百万m3を貯水し、露天掘り鉱山では98.8%、坑内掘り鉱山では83.4%の水を再利用している。またHuanza水力発電所(Lima州)は地域住民の電力需要の74%に対応している。
2022年からはカーボンフットプリントとウォーターフットプリントの測定を開始した。なおペルーの鉱業セクターのカーボンフットプリントは、他国の鉱業セクターや国内のその他産業に比べて非常に低いといえる。
社会的包摂や機会への平等なアクセスを重視している。当社の従業員の64%は全国8州に存在する鉱山やプロジェクト所在地出身の住民である。また地域のサプライヤーから調達する財やサービスは135mUS$/年にのぼる。様々な取り組みにより、Buenaventura社は優れたESG(環境・社会・ガバナンス)指標を有する企業によって構成されるLima証券取引所のESG Indexに参加している。
(3)San Gabriel金プロジェクト
Buenaventura社が全権益を保有する。14年分の埋蔵量が存在するほかCAPEXは420~470mUS$と見込まれる。金の生産量は平均125千oz(3,888kg)/年で、銀も生産する計画である。
S-K 1300に基づく技術レポートを提出済みのほか、必要となる土地の購入、環境許認可承認、先住民事前協議が完了している。2022年3月に鉱山建設許可を取得済みである。詳細エンジニアリングは80%の進捗状況であり2023年8月 に完成を見込んでいる。
本プロジェクトの歩みを振り返れば、鉱山開発にどれだけの時間が必要かよく理解できる。2003年に踏査を開始し2008年の試錐で最初の金の鉱化を確認、2012年には露天掘りを想定した探鉱を実施したが成果が得られなかった。当初本プロジェクトの権益は南アGoldfields社等の他企業も保有していたが、その後Buenaventura社は全権益を取得した。2017年に最初の環境影響調査が承認され2022年に先住民協議を実施、鉱山建設許可を取得した。ここまでに20年を要したv地域住民の主な懸念は水である。本プロジェクトはTambo流域の中の小さな沢に位置している。Buenaventura社は750m3のダムを建設する計画で、このうちプロジェクトで利用されるのは4m3、残りは地域社会に利用されることになるv教育、インフラ、農業、保健等様々な分野での社会対策や支援活動を行っている。先に述べたとおりBuenaventura社の従業員の64%が地域社会の出身者であることから、人材教育は不可欠である一方、閉山後も地域が発展していけるよう農業等の他分野における支援を実施しているvこのような20年間の地域社会への協力の結果、プロジェクト開発に必要な158haの土地を購入することができたv建設期間に2千人、操業期間に500人の雇用を見込んでおり、これらの人々にはBuenaventura社の既存鉱山で実地研修を行ってもらうことになるv本鉱山には2つの鉱体が存在し、坑内掘り採掘で主要坑口は2か所、立坑は7か所となる予定である。プラント類は未だ建設されていないが土台の整備は開始している。破砕、摩鉱、比重選鉱、タンクリーチング等を経てドーレを生産する計画であるv鉱山建設は2023年2月から開始された。最初の生産物は2025年第3四半期に、商業生産は2026年第1四半期に開始する予定となっている。
(4)Yumpag銀プロジェクト
Yumpag銀プロジェクトはUchucchacua銀鉱山(Lima州)近隣のブラウンフィールド案件であり現時点で7年分の埋蔵量が存在する。Buenaventura社が100%の権益を保有しCAPEXは80~110mUS$と見込まれる。資源量は40百万oz(1,244t)で、さらに200百万oz(6,221t)のポテンシャルが存在する。TomasaとCamilaの2つの鉱脈が存在する。
環境許認可は提出済みであり、必要な土地の購入や詳細エンジニアリング調査は完了している。廃滓堆積場やプラントはUchucchacuaの既存設備を利用する予定である。従い、新規建設するのは採鉱を行う鉱山の部分だけである。鉱山開発期間に500名、操業期間に350名の雇用を見込む。
4.Falchaniプロジェクトとリチウム開発
<Ulises Solis、Macusani Yellowcake社 GM>
(1)事業概要
プロジェクトが位置するPuno州は現在国内で最も多くの社会争議を抱える地域だが、リチウム採掘そのものに反対しているのではないのが救いである。先住民Aimara族の団体は、リチウム採掘に由来する利益を同州内の13の郡に対し分配するよう要求している。しかし当社はこの要望を拒絶し、あくまでも憲法や法に基づく活動を行う方針であること、また利益の配分を行うのは企業ではなく国だと返答した。幸いなことに本プロジェクトはAimara族のエリアではなく、Quechua族のエリアであるPuno州北部に位置している。Quechua族は、本エリアで長年活動している加Bear Creek Mining社の対境活動のおかげで鉱業に対し協力的であり、我々も地域社会による合意を得ている。
Falchaniリチウムプロジェクト内にウランが存在すると取り沙汰されているがこれは事実ではない。確かにMacusani Yellowcake社は元々2006年にウラン探査を実施していた。当時は当社だけでなくVena Resources社、Frontier社等合計7社がウランを探査していた。その後当社は各社が手放したエリアを含めた多くの鉱区を取得したため、当然ウラン鉱区を入手することとなった。
(2)リチウムプロジェクト
FalchaniリチウムプロジェクトはPuno州Carabaya郡Corani区Chacaconisaコミュニティに位置する。環境影響調査(EIAsd)の住民説明会は7月2日に実施予定で、本調査では420孔の試錐を実施し炭酸リチウム換算4.7百万tの資源量を埋蔵量に変換することを目的としている。
Quelcayaリチウムプロジェクトは、5月4日に環境影響申告(DIA)が承認された。DIAをはじめとする許認可の審査に時間がかかることに関しては、先のPDACにおいて首相や大臣に加American Lithium社(Macusani Yellowcake社の親会社)幹部も交えた面談で改善を申し入れ、その際に大臣からは対応するとの返答をもらい、DIA承認に至ったことに感謝している。一方で本件は、探鉱開始前に放射性物質防護プロトコルの提出を求められている唯一のプロジェクトである。本DIAの審査には2年を要したが、当時の鉱山副大臣が試錐により放射性物質が地表に露出することを懸念していたために本プロトコルが求められることとなった。
FalchaniおよびQuelcayaプロジェクトでは、現時点の4.7百万tの資源量は2023年末までに大きく増加する見通しとなっている。
Falchaniのボーリングコア分析結果を見ればウランはほぼ不在であることがわかる。ペルー原子力研究所(IPEN)は80ppm以上のウランが確認された場合報告を求めているが、分析結果の数値はその半分以下である。一方でカリウムは2~4%と非常に高品位であり、これはカリウムの鉱床でもあるともいえる。
既に炭酸リチウムの生産試験を行っている。一般的に99.5%以上でバッテリーレベルの炭酸リチウムであるとみなされているが、当社は99.8%の純度の炭酸リチウム生産を実現した。現在も改善の取り組みを続けている。
(3)コミュニティとの関係
コミュニティごとに特徴もアプローチの方法も異なる。良い関係性を築く方法の1つが生活を共にすることである。テントなどを持ち込まず、地域に残る住居を建設し、住民と共存する意図がある姿勢を見せることが重要だ。また教育や保健などは国の役割だが、このような分野に協力することも重要である。
最後に言いたいのは、先に激しい反政府デモを行ったPuno州の人々に悪人、共産主義者などのレッテルを貼るべきでないということである。コミュニティの人々は、大統領や議員等の候補が票と引き換えに様々な約束をし、当選後にことごとくその約束を忘れコミュニティを裏切ることに疲れ果てている。今我々はそのつけを払っている。Puno州の元知事から「Limaの人々はPuno人を嫌っている。Punoで商店を開けば密輸業者だと言い、農家には麻薬栽培業者だ、鉱業活動をすれば違法鉱業従事者だと言う。」との苦言を聞いた。争議の現状を改善するには、我々全てが考え方や先入観を変えることが必要だ。
5.クリティカルミネラルとしての銅と、ペルーの銅クラスターの可能性
<Benjamin Quijandria、アンデス鉱業クラスター(SAMMI)ダイレクター>
(1)銅生産とプロジェクト、南部銅クラスター
2022年のペルーの銅生産量2.43百万tのうち65%が南部の銅クラスター(Cuajone、Toquepala、Cerro Verde、Las Bambas、Mina Justa、Antapaccay、Constancia、Quellaveco鉱山)で生産されたものである。中部(Antamina、El Brocal、Toromocho、Yauricocha、Condestable、Cerro Lindo鉱山)では34%が生産され、このうち半分以上はAntamina鉱山によるものである。一方、北部では銅を生産するのはCerro Corona鉱山のみでまだクラスターとは呼べず、1%が生産された。
ただしこれは現時点の状況であり、今後のプロジェクト開発により生産分布は変化が見込まれる。現在実施中の鉱業プロジェクト47件のうち27件(76%)はグリーンフィールド、24%はブラウンフィールド案件である。なお、銅プロジェクトは27件で全体の57%を占める。そしてプロジェクト投資総額約53.7bUS$のうち銅プロジェクトが占める割合は72%にのぼる。
プロジェクトは南部の14件に投資額の40%が集中しており、本地域における銅の操業鉱山は8件から20件以上に増加する見込みである。従い今後も南部が銅の生産地の中心であり続けることが予測される。中部はAntaminaやToromochoなど既存鉱山の拡張案件が中心であり、今後も操業鉱山の数に変化はない見込みである。一方、今後大きな変化が見込まれるのは北部で、実施中の8件の銅プロジェクトの大部分がグリーンフィールド案件であるほか、銅プロジェクト投資額合計の半分が北部に集中している。これはCajamarca州を中心とする北部の州にとって紛れもなく好ましい状況である。これらの案件が前進・開発されるようモニタリングしなければならない。
ペルーにある3つの銅クラスターとそれぞれの生産量を説明した。
(2)銅とエネルギー転換
現在、世界的なエネルギー転換や気候変動対策の取り組みの中で銅の重要性はいっそう高まっている。再生エネルギーでは銅が非常に多く使われ、例えば1MWの発電に必要な銅は太陽光発電で5t、陸上風力発電で4.5t、洋上風力発電で9.6tだと言われている。同様に2030年には欧米で流通する車の半分が電気自動車(EV)になる見込みだが、1台のバッテリーの生産には銅20kgが必要だとされる。このような背景から、今後数十年間に銅需要の大きな伸びが見込まれている。
この状況はペルーにとっては明らかにチャンスといえる。現在ペルーはチリに次ぐ世界2位の銅生産国だが、DRコンゴや中国などが追い上げてきている。また現時点では銅をほぼ生産していない国や中南米域内のアルゼンチン、エクアドル、コロンビア等も銅の生産国となることを目指している旨注視しなければならない。
ペルーが銅生産で世界2位なのは、大規模鉱山の数が多いからだ。大規模銅鉱山のトップ10内にAntamina鉱山(4位)とCerro Verde鉱山(5位)がランクインしているほか、トップ20には4鉱山(上記2鉱山に加えLas BambasとToromocho各鉱山)、さらにトップ30では7鉱山(上記4鉱山に加えToquepala、Antapaccay、Cuajone各鉱山)が入る。2024年にはQuellaveco鉱山やMina Justa鉱山もランクインすることが見込まれる。我々は、世界有数の銅鉱山を持つことを、世界のベストレストラン50へのランクインと同様に誇りと思うべきだと考える。
(3)短期・中期・長期的な目標
プロジェクトの開発計画に基づく銅生産見通しによると、2026年にはペルーは2.8百万tの銅を生産しているはずである。また、2030~2031年には5百万tの銅生産を達成する可能性がある。ペルーはこれを国家的な目標としてその達成に取り組むべきだ。
一方、これからは単なる開発ではなく「どのように」生産するか、つまり環境やコミュニティと調和した生産への取り組みが一層重要となる。生産過程での温室効果ガス削減や効率的な水利用に配慮し、デジタル化やトレーサビリティ、廃棄物の削減や再利用に取り組むグリーンマイニングやグリーン銅等に係る取り組みの中でも、特に世界の銅生産企業が具体的な達成目標とするのがカーボンニュートラルである。本件については国際銅協会(ICA)や国際金属鉱業評議会(ICMM)、世銀や国際金融公社等の国際機関も、銅生産におけるネットゼロを目標に掲げこれに向けたロードマップやプロトコル等を示している。
(4)グリーン鉱業とその他鉱業国の取り組み
銅生産各国はこのような情勢に対応すべく動いており、豪州やカナダ政府はクリティカルミネラルや水素に関するロードマップを策定したほか、業界団体もデジタルマイニングへの移行による気候変動対策計画を定めている。中南米域内ではチリの取り組みが進んでおり、2年前にグリーン水素国家戦略が、最近ではリチウム国家戦略が策定されたほか、官民団体からもリチウムやグリーン鉱業に係るマイニング4.0 実現に向けたロードマップが示されている。
ペルーでは、2022年にペルー水素協会(H2 Perú)が水素国家戦略策定に向けたリコメンデーションを提示した。本件については既にエネルギー鉱山省(MINEM)に対応チームが立ち上げられたと理解しているが、迅速な戦略策定が行われることを望む。リチウムについても同様である。
しかしペルーはまだ他国のレベルから相当遠く、国としての鉱業のビジョンや戦略、明確なリーダーシップ、その他色々な面が不足しているというのが正直なところである。確かにペルー国内で活動する主要企業は各社ロードマップを策定し取り組みを行っており、それは素晴らしいことではあるが、国全体として競争力を高めるための次の一歩が必要だ。チャンスはいつまでもある訳ではないため、迅速に行動を移すべきだと考える。
おわりに
Castillo前大統領の罷免・逮捕(2022年12月)を機に始まったCastillo支持層による反政府デモは2023年2月には落ち着き、本イベントが行われた頃は、鉱業セクターが平常を取り戻した後であった。そのせいもあってか、会場は活気に満ちていたように感じられた。
開会式でスピーチしたOtarola首相、Veraエネルギー鉱山大臣は、経済復興のため鉱業セクターの発展は重要であり、Boluarte大統領の現政権下では鉱業を積極的に推進しているとアピールした。一方で、開会後の民間企業からの講演では、政府の推進策はまだ不十分であるとの言及があったほか、鉱業プロジェクト実施に対する許認可について、政府が約束したタイミングで発給されることを期待する、と釘をさすようなコメントが発せられたことが印象的であった。
- 1.左翼武装組織Sendero Luminosoの活動が過激化し治安が大きく悪化した。
おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。