閉じる

報告書&レポート

2023年10月16日 ジャカルタ 事務所 Fajar Malik
23-27

国際会議「Nickel and Battery Summit 2023」参加報告

<ジャカルタ事務所 Fajar Malik 報告>

はじめに

2023年8月10日、インドネシアBaliでNicke and Battery Summit 2023“Driving a Sustainable World”(主催者:Tambang Magazine)と題して、ニッケルと電気自動車(EV)バッテリーに関するセミナーが開催された。世界一のニッケル生産国であるインドネシアは、ニッケルを原材料とするEVバッテリー生産の東南アジアにおけるハブになるための政策を進めており、業界関係者の関心も高い。本セミナーに、ジャカルタ事務所からも参加し、興味深い発表についてまとめたので、次のとおり報告する。

1.Mr. Tubagus Nugraha,  Assistant Deput/年 Mining – Coordinating Ministry for Maritime & Investment Affairs
「ニッケル川下開発」

  • インドネシア経済を変革する主な原動力は、川下開発である。ニッケルをガバナンスするために、優先とする課題は3つある。1つ目は、国内付加価値の向上させること(インドネシアのニッケル埋蔵量の付加価値の最大化)、2つ目は、埋蔵しているニッケルの回収力を向上させること(ニッケル埋蔵年数を考慮した政策)、3つ目は国家収入と投資に対する貢献を増加させること(付加価値製品からの増税又は輸出関税による川下からの国家収入への増加)である。
  • ニッケル製品に輸出税を課すという政策はまだ実現していない。ニッケル銑鉄(NPI)及びフェロニッケル(FeNi)製品輸出に対する課税は、ニッケル価格が好況の時に実施される。しかしながら、現在、国際市場におけるニッケル製品の価格は、我々が期待しているものではない。
  • 2026年までに予定しているインドネシアのニッケル加工・精製産業の総設備と生産量は次の通りである:

表1.2026年までに予定しているインドネシアのニッケル加工・精製産業の総設備と生産量

表1.2026年までに予定しているインドネシアのニッケル加工・精製産業の総設備と生産量

出典:カンファレンス資料

  • 市場へのニッケル製品の供給過剰を回避し、埋蔵量に対して採掘年数に低下させることになるために、インドネシアのニッケルの製錬能力の拡大は抑制されなければならない。ニッケル鉱石の推定消費量は年間360~390百万tである。
  • 現在、インドネシアでは111のニッケル鉱石精錬・加工施設/製錬所が操業中である。ニッケル製錬所は乾式製錬と湿式製錬の2種類である。
  • 2022年のニッケル製品の輸出量は、2017年と比較して43%増加した。現在、政府が力を入れているのは、バッテリーとEV産業の発展である。
  • Verdhana社の調査によると、川下のNPIとニッケル中間製品の付加価値は、その64~90%を地元企業が吸収している。
  • インドネシア政府は、原料だけでなく、NPIやFeNiの川下製品から、さら他のニッケル製品への投資を奨励する。
  • インドネシアは、様々な産業分野でグローバルプレイヤーとエンドツーエンドのEVバリューチェーン開発に取り組んでいる。
図1.インドネシアとセグメント毎のEVバリューチェーン

図1.インドネシアとセグメント毎のEVバリューチェーン

出典:カンファレンス資料

  • EV開発は、供給の課題(国内のEV生産能力の低さ、大規模な投資)、需要の課題(価格の高さ)に直面している。
  • 他国とEV開発するという点について、政策、規制及び競争力の準備状況をみると、インドネシアにはEV生産能力やロードマップを含めて、未だ競争力がある。インドネシアのEVに対する優遇措置も他国よりはるかに魅力的である。
  • ESG(環境・社会・ガバナンス)に関する取り組みとして、環境分野においてESGを実施するため、政府企業業績評価プログラム(環境林業省)、インドネシアの金融機関による財務報告書、工業省によるグリーン産業賞がある。
  • 規制の枠組み内で、資源関係の規制の違反に対する刑事制裁がある。
  • 省庁間鉱物・石炭情報システム(SIMBARA)を通じた鉱物・石炭商品デジタル化プログラム(現在SIMBARA第1及び第2段階)が稼働中。SIMBARAは、現在第3段階に移行するところで、対象は範囲をニッケルやボーキサイト等に拡大するところである。2023年10月1日、全ての石炭商品取引に販売の割当を実施する。

2.Mr. Hansyim Daeng Barang, Director for downstream mineral and coal – Ministry of Investment / BKPM
「政策とガバナンス」

  • ニッケル政策の実施には、国内の川下産業の設備の利用が可能かを検討しなければならない。川下産業で、国内のニッケル製錬所で生産された製品の利用、さらにEVバッテリーのような最終製品に加工する。もし、設備が整っていないとなれば、国内ニッケル産業の発展を妨げることになりかねない。
  • インドネシアにおける実現投資額と目標投資額は2021年900tIDR(インドネシアルピア)、2022年1,200tIDR、2023年(目標)1,400tIDRである。
  • インドネシアには、8つの優先部門における21品目に対して2040年までに、545.3bUS$の投資を行う戦略的投資ロードマップがある。
  • 2017年にニッケル川下製品の輸出収益は3bUS$であったが、2022年には29bUS$と成功を収めている。
  • IBCは、LG Energy Solution社等、中・寧徳時代新能源科技股份有限公司(CATL)、台湾Foxconn社とそれぞれJVを組み、総投資額は23bUS$。2024年に140GWh/年(2030年時点)のを西Java州Karawang及び中部Java州Batangで、正極前駆体産業(NCM 811の生産)を開始する。

3.Dr. Herry Permana ST. MSc, Coordinator for planning and report mineral and coal – Secretariat Directorate General Mineral and Coal(ESDM)
「ニッケル政策及びガバナンス(機会と課題)」

  • エネルギー鉱物資源省地質庁の2022年データによれば、インドネシア国内のニッケル資源・埋蔵量は、ニッケル鉱石は17,3335,660,041t、鉱石埋蔵量は5,028,909,381t、2022年の鉱石生産量は、99,803,435t。
  • ライセンスは、計4,356(鉱業事業契約(COW)31、特別鉱業事業契約(CCOW)59、鉱業事業許可(IUP)4070(内金属資源は、849)、特別鉱業事業許可(IUPK)9、小規模鉱業事業許可(IPR)82、岩石採掘許可(SIPB)105等)が発行された。
  • ニッケル製錬所数は、111件。そのうち、鉱業事業許可(IUP)エネルギー鉱物資源省管轄下のIUPに基づく乾式冶金製錬所は、操業中が5、建設中が2、計画中が2である。また、工業省管轄下のIUPに基づかない102(乾式冶金製錬所:操業中28、建設中34、計画中26。湿式冶金製錬所:操業中4、建設中3、計画中7)である。111製錬所のニッケル鉱石処理量は、年間438.4百万tである。
  • インドネシアにおける高圧酸浸出(HPAL)製錬所プロジェクトは、次のとおりである。9つの製錬所の投資額の合計は、6,253bUS$、必要とするニッケル鉱石は49,7百万t/年である。
表2.インドネシアのHPAL製錬所
NO Name of Company Input Output Status
1 PT Kolaka Nickel Industry 2.3百万t/年 MSO 70.800t/年

FS

2 PT Huayue Nickel Cobalt 11百万t/年 MHP 70.000t/年

Construction(※)

3 PT Fajar Metal Industry 8百万t/年 Nickel metal 60.000t/年

FS

4 PT Teluk Metal Industry 8百万t/年 Ni metals 60.000t/年

FS

5 PT QMB New Energy Materials 6.4百万t/年 NSO4 136.36t/年

Construction

6 PT Halmahera Persada Lygend 7.8百万t/年 NiSO4 246,000t/年、
CoSO4 32,000t/年

Operations

7 PT Gebe Industry Nickel 1.32百万t/年 MHP 34,000t/年

Operations

8 PT Smelter Nickel Indonesia 0.6百万t/年 MHP 24,000t/年

Construction

9 PT Ceria Nugraha Indonesia 6百万t/年 MHP 103,000t/年

FS

出典:カンファレンス資料

※セミナー資料では、「Construction」となっていたが、2022年2月8日に中国にニッケルコバルト混合水酸化物(MHP)を輸出したという報道があったので、「Operations」と修正した。

・Bloombergによれば、2040年における世界のEV需要は、55百万台。

4.Meidy Katrin Lengkey, Secretariat General of Indonesia Nickel Miners Association(APNI)

  • ニッケルの川下分野を奨励し、地域と国の経済を活性化させるのがインドネシア政府の政策。ニッケル製品の輸出と川下分野への投資は近年急速に増加している。
  • APNIは、インドネシア政府に対し、国家の損失の原因となる管理上及び操業中の不正を避けるため、鉱業作業計画および予算(RKAB)の提出期間を3年に1回に延長するよう、エネルギー鉱物資源省に要請した。
  • 鉱業事業を行う場合RKABの提出時に森林地域借用及び使用許可が必要である。
  • フィリピンは、採掘業者に加工への投資を促すため、ニッケル鉱石輸出税の賦課を検討中である。

5.Mrs Sufen Triantio, President Director of PT GAG Nickel(Antam Group)
「インドネシア・ニッケル産業の強化: EVバッテリーシステムへの原動力」

  • インドネシアは2030年には、EVバッテリーの世界市場シェアのうち7~19%(112~380GWh)となる。
  • PT GAG Nickelは、西Papua州に位置している。同社は、IUPを2つ保有(PT Sumber Daya Arindo(PT SDA)、MKA:PT Musa Karya Arindo(PT MKA)経由)しており、総土地面積6,000m2、権利は600m2、生産量3百万wmt、埋蔵量63百万tである。
  • 生産したニッケル製品の80%を中国、ヨーロッパ、米国に販売している。
  • PT GAG Nickelの株式は、BHP APN(豪州)(75%)、PT Antam(25%)によって所有されている。
  • PT GAG Nickelは、現在採掘ライセンスを得るためのデータを収集中。PT Antamが保有するリモナイト鉱石の採掘について、政府の規則に従うよう調整中である。現在、新たなリモナイト鉱石価格がサプロライト鉱石の価格と同じになるよう、エネルギー鉱物資源省で議論されている。PT Antamと国営企業Indonesia Battery Corporation(IBC)は、非常に意欲的に取り組んでいる。
  • PT GAG Nickelは政府の一部として政府プログラムを支援している。

6.Mr. Tony Gultam, Director of PT Harita Nickel Group

  • PT Harita Nickel Groupは4つのIUP、①PT Trimegah Bangun Persada(4,247ha、1.5%、ニッケル鉱石生産量7,461,758wmt、サプロライト及びリモナイト鉱石)、②PT Gane Permai Sentosa(1,276.99haリモナイト鉱石1.5%、生産量3,770,253wmt、サプロライト及びリモナイト鉱石)、③PT Obe Anugerah Mineral(探査)、④PT Jikodolong MegahPertiwi(探査)を持つ。
  • RKEF製錬所は、PT. Megah Surya Pertiwi(フェロニッケル生産量25千t/年、)、PT Halmahera Jaya Feronikel(フェロニッケル生産量95千t/年)、PT Karunia Permai Sentosa(建設中、目標フェロニッケル生産量185千t、2025年半ばに試運転開始予定)を保有する。
  • HPAL製錬所は、PT Halmahera Persada Lygend(MHP生産量55,000t/年、硫酸ニッケル37,000t/年、硫酸コバルト4,500t/年)、PT Obi Nickel Cobalt(建設中、MHPの設計生産能力65,000t/年、2024年第2四半期に試運転開始予定)。
  • 2023年4月にインドネシア証券取引所(IDX)に上場した。インドネシアで初めてMHPを生産する企業である。2023年1月、同社は3ラインでMHPを年間55千t生産した。
  • HPALのライセンスは、有害物質関連のカテゴリーB3(GR 22/2021)に分類される。
  • ESG関連:HPAL製錬所操業に関わる地表水及び廃棄物管理は、政府の決定書No. 639/MENLHK/SETJEN/PLA.4/6/2023に基づいて行われている。PT Trimegah Bangun Persadaは、RKEF製錬所のニッケルスラグを処理し、Obi島で使用される建築材料を生産している。

7.Mr. Agus Superiadi, President Director of PT Sulawesi Cahaya Mineral
「世界的エネルギー・トランスフォーメーションにおいて、PT Merdeka Battery Materialsの成長を支える最大のニッケル鉱石サプライヤーへの道のり」

  • PT Merdeka Battery Matarials(MBM)は、PT Sulawesi Cahaya Mineralの主要株主の1つである。
    株式所有権:51%(中Zhejiang Huayou Cobalt社(浙江華友鈷業股份有限公司)、PT Merdeka Copper Gold、Pt Meldeka Battery Materials)、49%(中国青山集団)。
  • PT Sulawesi Cahayaが保有するSCM鉱山は、13.8百万tのニッケルと1.0百万tのコバルトを含む11億dmtのニッケル鉱石が賦存する。鉱石の内訳は、リモナイト鉱石が77%とサプロライト鉱石が23%で、年間鉱石生産量65百万t。2023年に操業開始。操業ライセンスの有効期限は2037年9月までである(2×10年間の延長が可能)。2023年7月のSCM鉱山の状況は、リモナイト鉱石2.53百万wmt(1.20%Ni)、サプロライト鉱石は、0.90百万wmt(1.80%Ni)である。
  • PT Huayue nickel cobaltの原料生産プラント(Feed Preparation Plant)が、インドネシアMorowali工業団地にあるPT Huayue Nickel CobaltのHPAL製錬所向けの鉱石スラリーを生産するためにSCM鉱山内で建設されている。
  • SCM鉱山が最大のニッケルラテライト鉱山となるための計画は次のとおり。
    2023年:Morowali工業団地へ道路による鉱石供給
    2024年:HPAL製錬所の建設
    2026年:HPAL製錬所へ鉱石を供給
    2027年及び2028年:50~65百万tの鉱石を生産
写真1.鉱山用運搬道路と原料生産プラント

写真1.鉱山用運搬道路と原料生産プラント

出典:カンファレンス資料

8.Mr. Tri Wahono Brotosanjoyo, Hyundai Motor ASEAN

  • 2023年にはASEANでの売上高の47%を目指す。
  • HyundaiのインドネシアでのEV協力は、LG Electronics社と協力して、2024年上半期に西Java州Karawanで開始される。インドネシアで直面している問題は、生産コストが高いために市場標準価格が比較的高いこと。国産バッテリーの使用により生産コストを削減でき、将来EVはより手頃な価格になる可能性がある。
  • ネットゼロ・エミッションに関連し、Hyundaiは2024年末にバッテリー生産を開始する予定。

9.まとめ

  • 化石エネルギーから環境に優しいエネルギーへのシフトに伴い、EVバッテリーの原料としてのニッケル需要量が増加している。当時は国内市場よりも魅力的であった市場価格の上昇に伴い、企業関係者は国内市場よりも輸出市場を選択する傾向にあった。政府は、投資の機会を提供し、NPIやFeNiのような川上活動から得られる原料にとどまらず、他のニッケル派生製品への投資を奨励しようとしている。
  • SIMBARAを通じたシステム間のデジタル変換は、鉱物及び石炭商品の管理である。
  • ニッケル製品、すなわちNPIとFeNiの輸出に対する課税を実施する計画は、現在まだ検討段階である。
  • 付加価値を高めるインドネシアの川下政策は、フィリピンやアフリカが模倣している。
  • RKABの更新は年1回ではなく、3年に1回毎に提案されている。
  • インドネシア独自のニッケル価格指数の導入は最終決定段階にある。
  • インドネシアはニッケルの上流にも投資を行っている。
  • インドネシア・ニッケル川下開発はPT IMIP(Morowali工業団地)、PT Virtue Dragon(Konawe工業団地内)、PT IWIP(Weda Bay工業団地)、GNI社(北Morowali)によって行われている。

おわりに

Nickel & Battery Summit 2023に参加したことで、多くの情報を得ることができ、一般的なニッケルの開発とインドネシアの現在のバッテリー需要に関する最新情報を得た。ニッケルはEVバッテリーの製造プロセスで使用される主要成分の1つであり、正極材料としての金属である。ニッケルを使用する理由は、エネルギー密度が高く、耐食性があり、他の原料に比べて比較的安価であるため。直面すべき課題として、インドネシアのニッケル鉱石の種類がラテライト鉱石であること、その加工プロセスには大量の電気エネルギーと大規模な他の材料の存在が必要である。インドネシアは依然としてEVバッテリーの生産には課題がある。

電池産業の発展はインドネシアに多大な利益をもたらし、外国投資家を誘致する機会にもなるが、適切な規制と環境保護とのバランスをとる必要がある。

本レポートの原文は英語であり、「はじめに」の作成と翻訳はジャカルタ事務所 白鳥智裕が行った。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

ページトップへ