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報告書&レポート

2023年10月18日 金属企画部 調査課 五十畑樹里
23-28

IEA Critical Minerals and Clean Energy Summit

<金属企画部調査課 五十畑樹里 報告>

はじめに

国際エネルギー機関(IEA)は2023年9月28日、クリーンエネルギー社会への移行に伴う重要鉱物について、安定的な供給と持続可能かつ責任ある調達を促進するため、国際サミットをParisで開催した。サミットには、50か国以上から政府閣僚のほか、ビジネスリーダー、投資家、国際機関の代表らが参加した。

IEAは、2021年に報告書『The Role of Critical Minerals in Clean Energy Transitions』の分析に基づき、重要鉱物供給の透明性と安全性を向上させるための新たな検討を開始し、2023年7月に『Critical Minerals Market Review 2023』を発表したばかりである。また、IEAは、2023年5月のG7の気候・エネルギー・環境大臣会合で、重要鉱物に関する支援を提供するよう要請された。本サミットはこれらの流れを受けて開催されたものである。

サミットでは、主に3つのセクションに分けて議論が進められ、①鉱物サプライチェーンの多様化、②技術革新とリサイクルの加速化、③市場の透明性の向上、持続可能で責任ある開発の推進について、参加国同士でコンセンサスを形成することを目的とした。

本稿では、本サミットで抽出された重要事項としてIEAが掲げる「重要鉱物の持続可能な責任ある調達を安定的に行うための6つのポイント(Six key actions to ensure that critical mineral supply chains are secure, sustainable and responsible)」と、その背景や関連動向を概説する。

1.Accelerate progress towards diversified minerals supplies―鉱物サプライチェーン多様化の促進

リチウム、コバルト、グラファイト等の電気自動車(EV)に重要な鉱物が一部の国からの生産に偏在している。IEAのデータによれば、リチウム鉱石、コバルト鉱石は80%、グラファイト、レアアースの加工は90%の供給が一国からの生産に偏っている。

この状況を緩和するために、供給源の多様化のための投資を促進する必要がある。2022年6月に米国主導で始まった『Mineral Security Partnership(MSP)』は、豪州、カナダ、フィンランド等(日本も含む)13か国で、鉱物サプライチェーンの多様化と持続可能な開発を各国政府と産業界で活性化させる協力フレームワークだが、このようなフレームワークを通じて、生産国と消費国両者の立場から、連携を強化していくことで新たなプロジェクトの投資につなげる試みがなされている。鉱物サプライチェーンを一国ではなく、多様化させる上でMSPのようなイニシアティブは重要であるとされており、今後プロセッシングや製錬分野においても多様化を促進することが期待されている。

2.Unlock the power of technology and recycling―技術とリサイクルの力を解き放つ

供給源の確保と市場における競争力を向上させるため、技術とリサイクルの可能性を最大限に活用する必要性が欧米諸国を中心に訴えられている。EUは、2023年8月にバッテリー規則を施行した。電池のライフサイクル全体を可視化し、カーボンフットプリントやリサイクル回収率、使用率の向上を目的としている。重要鉱物原材料法案も審議されており、同法案でもリサイクルの促進が含まれている。

バッテリー製造企業としては、バッテリー中のニッケルやコバルトなどのクリティカルミネラルの使用量を削減し、代替する技術の開発も進んでおり、今後もより効率的な鉱物の使用方法が研究されていくだろう。

また、採掘現場や製錬現場のデジタル技術、自動化、ゼロエミッション化も進んでいる。新技術は、採掘と加工に必要なエネルギーと水の削減、トレーサビリティの技術開発等を改善する可能性がある。

3.Promote transparency in the market―市場の透明性を促進する

一部の重要鉱物市場では価格の透明性が低く、これがボラティリティをもたらし、新規投資の妨げとなっている。消費者側は、サプライチェーン全体のリスクについて、より多くの情報を求めるようになっている。特に今後需要が増加するとみられる重要鉱物については、LMEのような国際指標となるマーケットがないものが多く、市場が不透明なところも多いため、原材料へのアクセスに関する透明性をもった方針が必要である。

IEAは、『重要鉱物セキュリティのためのG7の5ポイントプラン』で需給予測を含む市場モニタリングの役割も求められており、2023年にCritical Minerals Market Reviewを公開した。

4.Enhance the availability of reliable information―信頼できる情報へのアベイラビリティの拡張

正確な公開データは、市場が十分に機能し、企業や政策立案者がリスクに対処するために不可欠である。しかし、現状、投資、貿易フロー、ESG(環境・社会・ガバナンス)パフォーマンスに関する情報は限られているため、長年エネルギー市場に関する情報を蓄積してきたIEAが、鉱物においても定期的な市場評価を実施するよう、サミット参加者はIEAの役割強化を求めた。各国は利害関係者がリスクを測定し、ボトルネックを特定できるようなIEAデータの利活用を高める努力をする一方で、データ共有のための国際的なメカニズムの両方を検討すべきであるとしている。

5.Create incentives for sustainable and responsible production―持続可能で責任ある生産のインセンティブの創造

今回のサミットの参加者は、ESGに関する取り組みに最も関心が高かったように思われる。前述の投資促進や技術開発においても、重要鉱物の調達におけるESGの向上は、切っても切り離せない関係のようだ。特定国からの供給集中を多様化させるための新たな付加価値として、ESGを活用することを模索している最中とみられる。

サミットでは、資源保有国や地域社会が恩恵を受けるだけでなく、ESGリスクを軽減することで、供給の途絶を減らし、新たな生産を促進することができるため、重要鉱物の供給における安全保障上の利益をもたらすことができるとの意見で一致した。ESGへの配慮を政策や投資の意思決定に組み込み、法的保護のもと、優れたESGパフォーマンスを奨励するメカニズムの必要性を強調した。今後、IEAとしては、各国の政策動向のモニタリング(Critical Mineral Policy Tracker)をはじめ、各国政府や企業と新たなガイダンスを作り上げる検討を始めている。

6.Foster efforts on international collaboration―国際協力への努力の育成

重要鉱物の需要増加に伴う課題は、特定の国や企業が解決できるものではなく、政府、市場参加者、市民社会、国際機関の間の協力は、極めて重要である。IEAは、データの共有、供給の安全保障、精製・加工における競争力、持続可能で責任ある慣行、長期的な戦略計画について、すべての利害関係者が相互に努力する新たな機会を模索するよう呼びかけた。加えて、自主的な備蓄を含むメカニズムを模索することにより、供給の安全性を強化する方法を検討している。

おわりに

IEAは、2024年2月に閣僚会議を開催する。この閣僚会合では、G7サミットの『重要鉱物セキュリティのためのG7の5ポイントプラン』の5つ目のポイントにも含まれている、IEA Voluntary Critical Mineral Security Programmeも発表される予定だ。重要鉱物において、安定的に持続可能かつ責任ある供給を確保するため、今回会合でIEAは、エネルギー安全保障と気候変動に関する国際協力の中で中心的な役割を果たす意思表示を示した。今後、IEAによって各国の重要鉱物に関する政策提言がどのようになされていくか注目される。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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