報告書&レポート
2023年 金属鉱物資源をめぐる動向
はじめに
JOGMEC金属企画部調査課にて2023年内の鉱物資源分野の主要トピックを抽出した。以下に通常のリサーチ業務の中で注視してきた内容を簡潔にまとめた。今回は、重要鉱物をめぐる各国の政策に関連した話題が多くなっているのが特徴であった。気候変動対策やエネルギートランジションを進める上で、重要鉱物の重要性が急速に高まったことと併せて、重要鉱物のサプライチェーンについて経済安全保障という観点を各国が強く意識するようになったことが要因である。そうした背景から、例年にも増して、多くの話題があった年であったが、今後の動向を注視するために重要トピックを振り返る機会として活用していただければ幸いである。
◆ バッテリーメタル(ニッケル、コバルト、リチウム)・レアアース市況動向
2023年のニッケルは、インドネシアの増産を背景に世界的な供給過剰となり、価格は軟調に推移した。年初は30,000US$/t台であったが、12月は16,000US$/t台で越年した。2022年3月にLME先物価格が暴騰し、一時的に取引が停止した一件後、LMEでは取引量が減少し、投機筋による一時的な参入で価格が上昇しやすい傾向であったが、2023年は世界的な供給過剰で、基本的に通年下落傾向となった。ニッケルの2023年のトピックとしては、1月に中国青山集団が中国国内の銅製錬所をニッケル製錬所に転換する計画を発表したほか、インドネシアでは6月にPT Halmahera Persada Lygendが国内初の硫酸ニッケル生産を開始した。また、インドネシアは、ニッケル生産国が最適な利益を受けられるよう、具体的な国名は公表していないが、ニッケル版OPEC(石油輸出国機構)の設立を3か国と協議していると公表した。
コバルトも中国の需要減を背景に価格は低迷した。年初は50,000US$/t台であったが、中国の景気が低迷していたため、民生用リチウムイオン電池(LIB)需要を中心に需要が回復しない中、DRコンゴMutanda鉱山の生産回復や、同国Tenke Fungurume鉱山の輸出禁止の解除、インドネシアでのニッケル副産物としての生産増から需給が緩和し、12月は28,000US$/t台で越年した。
2022年史上最高値を更新したリチウムは、2023年に入り下落基調に転じ、1年を通じ下落が続いた。2022年末で中国での電気自動車(EV)購入補助金が打ち切られたのを発端にEV需要が減退したことの他、前年の高騰時に各正極材メーカーが抱えた在庫を放出したこともリチウム需要減、価格下落の要因となった。しかし、リチウムは正極材に様々にタイプがあっても一様に使われる原料であり、更に中国では比較的安価なEVに搭載されるLFP(リン酸鉄リチウム)の正極材が普及、長期的な需要は底堅く、むしろ増加の一途との予測がある。2022年は市況が混乱したが、2023年はむしろ本来の適正価格に戻る動きだったとも捉えられる。
レアアースは、全体として2022年より変動は小さかったものの、主にネオジム、ジジム、ジスプロシウム等のNdFeB磁石関連の品目において変動があった。2022年11月末からの中国コロナ対策緩和による世界経済回復の期待感や酸化物原料の継続的な不足が影響し、越年後も2月上旬まで価格上昇傾向で推移した。しかし、2022年末で中国の新エネルギー車(NEV)補助金政策が終了したことをきっかけに磁石需要が失速、加えて酸化物等原料の供給安定により下落傾向となり、5月上旬にかけてネオジム、ジジム等の磁石向け軽希土類は年初比約4割安、ジスプロシウム等の磁石向け重希土類は同比約2割安となった。その後、磁石向け軽希土類に関しては需要供給共に大きな変動要因はなく小幅な上下を繰り返して2023年末まで停滞が続いた。一方で、磁石向け重希土類は、8月末~9月初旬に起きたミャンマーから中国への一時的な製品輸出停止、国内査察に伴う鉱山採掘停止の影響が懸念され、12月上旬に2022年6月以来の高値(年初比約104%)まで上昇、そのまま高値安定で越年した。
◆ ベースメタル市況動向:需要不振が依然として重し
2023年のベースメタル価格も、2022年から続く中国の需要不振や米国の金融引き締め政策がもたらす影響が重しとなった。
銅は、2023年に入った直後、中国のゼロコロナ政策が事実上の終了を迎えたことで中国需要の増加期待が高まり、9,500US$/tに迫る勢いで上昇した。一方、中国において実需回復の遅れが懸念されていることや、米連邦準備制度理事会(FRB)におけるインフレ抑制の金融引き締め政策継続によって価格は下落し、10月には8,000US$/tを下回った。その後も、中国当局が発表した多数の景気刺激策は市場が期待する具体的な内容を含んでおらず、需要増加への手がかりに欠けた。また米政策金利の利上げも、上昇の勢いは市場予測に収まるものの高止まりが見込まれたことで、上値を抑制した。一方、加First Quantum社のCobre Panama銅鉱山をめぐる問題により鉱石の供給懸念が高まったことが、価格を押し上げた。依然マイナスのマクロ経済要因が重しとなっているが、期末は8,200~8,500US$/t付近まで上昇した。
亜鉛も、1月に中国需要増加期待により3,500US$/tを突破したが、その後下落に転じ5月の終わりには2,200US$/t付近まで落ち込んだ。しかしこの価格低迷を受けて、収益性が悪化した亜鉛鉱山が次々と操業停止に陥った。最初はスウェーデンBoliden社のアイルランドTara鉱山で、6月にケア&メンテナンスに移行した同鉱山を含め、半年で6つの鉱山の操業が停止された。これらの鉱山操業停止によって世界全体で300千t近い鉱石生産量が失われたとみられており、鉱石市場における供給懸念の高まりが価格の下支えとなって2,600US$/tまで回復した。一方、期を通して実需の低迷継続が強く意識されているほか、中国において需要減退にもかかわらず地金生産が増強された。市場に需給逼迫感は少なく、下半期は2,500US$/t付近を推移した。
鉛は、需要減退による圧迫が続き、1,900~2,300US$/tの狭いレンジで推移した。需要懸念に押され、自動車バッテリー交換需要という季節的要因の影響はさほど大きくなかったとみられる。
鉱種 | 年初価格 | 年末価格 | 最高値 | 最安値 | 年平均 |
---|---|---|---|---|---|
銅 | 8,390.0 | 8,476.0 | 9,436.0 (1月18日) |
7,812.5 (10月5日) |
8,477.8 |
鉛 | 2,322.0 | 2,031.0 | 2,331.0 (1月4日) |
1,985.0 (12月11日) |
2,138.2 |
亜鉛 | 3,004.0 | 2,640.5 | 3,509.0 (1月27日) |
2,224.0 (5月25日) |
2,646.6 |
ニッケル | 31,200.0 | 16,300.0 | 31,200.0 (1月3日) |
15,885.0 (11月27日) |
21,473.9 |

図1.2023年ベースメタル(LME)月平均価格の指標推移
(2023年1月=1.00)
◆ 貴金属市況動向:金は経済情勢不安・地政学リスクでたびたび上昇、パラジウムは大幅下落
2023年の金価格は、米国のインフレ抑制に向けた利上げ政策が継続する中、1月と5月には米国のデフォルト(債務不履行)リスク、3月には米銀行大手の破綻、停戦の様相が見えない露宇情勢、そして10月にはイスラエル軍のGaza地区侵攻と、経済情勢不安や地政学的リスクの高まりでたびたび上昇し、1年を通じて高値で推移した。11月に2,000US$/ozを突破、年末の12月28日に史上最高値を更新する2,078.1US$/ozをつけた。
プラチナの工業用途は従来から主にディーゼル車触媒であるが、これまでのパラジウムの高値や露宇侵攻によるロシアからのパラジウム供給不安により、この1年でガソリン車触媒の原料もパラジウムからプラチナへの置き換えが進展した模様である。これによってプラチナ需要は増加、水素吸蔵合金などの新エネルギー車に関する新規用途への需要増への期待もあるが、自動車需要の減少やEVシフト等に相殺され、これまでどおり1,000US$/oz前後で推移した。
世界の供給量の8割を南アとロシアが担うパラジウムは、露宇侵攻の始まった2022年3月、一時的な供給不安で3,117.0US$/ozの史上最高値を付けたが、その後は下降の一途を辿り、2023年も下落基調が続いた。用途の8割がガソリン車触媒のところ、2021年以降、半導体不足による自動車生産減少でパラジウムの需要も弱まり、2023年に自動車生産量は回復したものの減産中に余った在庫の消化等で新規パラジウム需要が引き続き乏しい上、EVの普及によりガソリン車の将来が先細る中、新規需要も無いため上昇要因に欠けた。12月中に一時1,000US$/ozを割り、プラチナとほぼ同額レベルにまで下落した。
貴金属各鉱種のLBMA価格概要は、表2のとおりである。
鉱種 | 年初価格 | 年末価格 | 最高値 | 最安値 | 年平均 |
---|---|---|---|---|---|
金 | 1,839.2 | 2,062.4 | 2,078.1 (12月28日) |
1,813.85 (2月27日) |
1,941.6 |
プラチナ | 1,084.0 | 1,006.0 | 1,113.0 (5月10日) |
851.0 (11月13日) |
965.3 |
パラジウム | 1,799.5 | 1,119.0 | 1,811.5 (1月9日) |
949.5 (12月11日) |
1,336.3 |
◆ 中国による各種鉱種に対する規制強化(ガリウム、ゲルマニウム、グラファイト 他)
2023年は中国による希少金属に対する規制強化が相次いだ一年であった。7月3日に「ガリウムおよびゲルマニウムに関連する品目の輸出管理についての公告」が、続いて10月20日に「グラファイト品目の臨時輸出管理措置の最適化についての公告」が公布された。一連の規制強化の起点が何かを判断するのは難しいところであるが、ひとまず2023年中の出来事を回想すると、6月30日にオランダが半導体に係る追加の輸出管理規制を発表したことや、7月7~9日に米Yellen国財務長官が訪中会談を企図したことであろうか。
突然発表されたと思われがちな一連の輸出規制強化であるが、その実、輸出許可証の取得が義務付けられた品目の一覧を掲載した輸出許可証管理貨物リストは2005年から存在していた。ガリウムおよびゲルマニウムに関しても、2009年輸出許可証管理貨物リストが初出となって以来、14年間にわたって掲載されていたにもかかわらず、特段注目されてこなかったようだ。上述のように、2023年ガリウムおよびゲルマニウムもデュアルユース品目として正式に指定され、輸出規制が強化されるまでは毎年のこの輸出許可証管理貨物リストに掲載されている状態であった。突発的な事態が外交関係を悪化させた例は過去の世界史を顧みても枚挙に暇がなく、2024年も些細な出来事を契機として新たな規制強化が施行されないとも限らない。しばらくは2023年に施行された規制強化による貿易への影響を注視する必要があるだろう。
◆ 欧州、域内原材料確保をコミットする重要原材料法に合意
欧州委員会から重要原材料法(European Critical Raw Materials Act)が提出されたのは3月、その後の審議を経て11月には議会と加盟国の合意にまで達しており、重要原材料への関心の高さが現れている。同法によって、重要原材料の域外依存を引き下げることを狙いとしており、そのためのベンチマークとなる目標値が設定されている。最終的には、指定した戦略的重要原材料について、域内消費量の10%を採掘、40%を原料加工、25%以上をリサイクルと設定した。また同法には、許認可プロセスの迅速化やファイナンスへのアクセスの改善、サプライチェーンのモニタリングなどのセキュリティ強化、レアアース磁石のリサイクル義務などのサステナビリティの促進も含まれる。欧州における重要鉱物に関連する規制としては、8月のバッテリー規則の施行もある。バッテリー製品の原材料調達からリサイクルまでを規定し、サプライチェーンの透明化や強靭化を計る。環境・人権等に配慮した原材料の調達、温室効果ガス排出量の表示義務、EVバッテリー等の情報をQRコードから読み取れるバッテリーパスポートの普及、リサイクル材の使用義務、これらバッテリー・サプライチェーンの管理を強化するための取り組みが盛り込まれており、EU市場のみならず、今後の世界の取り組みにどのように影響していくかが注視される。
◆ 米国、電池サプライチェーンに影響を与えるIRA法
2022年8月に成立したインフレ抑制法は、電池製造に係る税額控除(Section 45X)とEV購入者への税額控除(Section 30D)が含まれる。電池サプライチェーン構築に大きな影響を与え、これらの税額控除が北米での現地工場建設のインセンティブになっている。EV購入者への税額控除は、北米で組み立てた車両を前提として、それに加えて電池製造に係る2つの要件がある。それぞれの要件を満たすことで3,750US$の控除となり、最大7,500US$の控除となる。1つの要件は、電池製造の一定割合を北米で行うこと、もう1つは電池製造に使われる重要鉱物に関する要件となっている。重要鉱物に関する要件については、米国とそのFTA国を中心とした原料サプライチェーン構築が意図されただけでなく、中国企業をはじめとする「懸念のある外国事業体」(FEOC)からの調達を排除する要件が盛り込まれている。3月には、日本で採掘・原料加工された重要鉱物が要件を満たす旨の協定が締結された。12月には米エネルギー省(DOE)がFEOCに係るガイダンスを発表した。法案の成立から1年が経過し、米国内で電池製造工場への投資が活発化する一方で、自動車メーカーは、条件を満たすサプライチェーンを構築する難しさに直面している。
◆ G7先進国サミット「重要鉱物セキュリティのための5ポイントプラン」とIEA
4月15~16日、G7広島サミットに関連して札幌で開催された「G7気候・エネルギー・環境大臣会合」にて、鉱物資源のESG(環境・社会・ガバナンス)や透明性のある市場の確保等について、各国の協力を促すアクションプラン「重要鉱物セキュリティのための5ポイントプラン」(長期的な需給予測、責任ある資源・サプライチェーンの開発、リサイクルの促進、技術による省資源、供給障害への備え)が合意された。これを受けて、IEA(国際エネルギー機関)は9月、仏IEA本部にてサミットを開催し、重要鉱物の安全保障に関する国際協力の中で中心的な役割を果たす意思を示した。サミットでは、「重要鉱物の持続可能な責任ある調達を安定的に行うための6つのポイント」(鉱物サプライチェーン多様化の促進、技術とリサイクルの力を解き放つ、市場の透明性確保、信頼できる情報へのアベイラビリティの拡張、持続可能で責任ある生産のインセンティブの創造、国際協力への努力の育成)を重要事項として掲げた。
また、IEAは、2024年2月に開催されるIEA閣僚会合で、IEA Voluntary Critical Mineral Security Programmeとして、G7サミットで合意された「重要鉱物セキュリティのための5ポイントプラン」に対応する一つの提言を公表する予定である。
重要鉱物の安定的な供給確保と安全保障が各国の課題となっている現在、世界的に鉱物を石油と同様、エネルギーコモディティの一つとして捉える傾向が強く、IEAは今後鉱物の分野でも国際的イニシアティブを取っていく方針だ。
◆ 西側諸国で軽希土類・重希土類分離案件が活性化
2023年は米国での新規軽希土類分離精製が開始される等、レアアース業界において新たな幕開けを迎えた1年であった。米MP Materials社は、9月末に希土抽出分離プラントのテスト生産を終え、CA州Mountain Pass鉱山山元でのNdPr(Di)酸化物の商業生産を開始、これまで中国企業へ販売してきた精鉱の一部を自社で処理するルートを確立した。これにより第3四半期に生産されたNdPr酸化物製品50tは、金属化のため東南アジアに向けて初出荷された。また同社は、次の段階として米国防総省と35mUS$の契約を結んだ中重希土類の抽出分離工程の確立に向けて注力していく見込みである。豪Lynas Rare Earths社は、8月に子会社Lynas USA社が米TX州希土抽出施設の重希土類向け設備の建設に関し米国防総省と契約を更新したことを発表、2022年時点では国防総省が約120mUS$を拠出することが発表されていたが、詳しい設計作業とコストのアップデートを受け契約が更新され、補助金は約258mUS$に増額された。本施設からは米国防総省と民間顧客の両方に供給を行う予定で、2025年7月~2026年6月の操業開始を目指している。この他、豪Ionic Rare Earths社において2023年6月に英国北アイルランドBelfastの実証プラントにおける磁石リサイクルからのNd酸化物、Dy酸化物の生産開始が発表される等、西側諸国において一次原料および二次原料からの軽希土類・重希土類分離精製プロジェクトが多く発表されており、2024年以降のさらなる進展が待たれている。
◆ チリ、次世代のリチウム開発の指針となる「国家リチウム戦略」を公表
4月、チリBoric大統領は「国家リチウム戦略」を発表した。同大統領は2022年の選挙期間中から国営リチウム企業(Empresa Nacional del Litio)の創設を公約のひとつに掲げ、1年かけてその準備を行ってきた。もとより、リチウムは鉱業法で鉱区の設定ができない鉱種とされ、開発する場合は国と特別操業契約(CEOL)を結ぶ必要があったが、この戦略で、民間企業が新たなリチウム開発に参入するには、CODELCO(チリ銅公社)もしくはENAMI(チリ鉱業公社)と共同調査することや、2024年以降に国が開発対象とした塩湖に対し探査に関するCEOL入札を行う予定であり、その権利を落札すること、あるいは国営リチウム企業設立には国会の承認に時間を要するため前身の組織となるリチウム技術研究所と共同調査することが謳われた。この戦略は資源ナショナリズムの強化、ひいてはリチウムの国有化とも捉えられたが、チリ政府は国有化の方針を否定している。1年中降雨が無く、水資源が貴重なチリ北部の乾燥地帯において、現在採用されている塩湖かん水の天日乾燥ではなく、直接抽出技術(DLE)ほか環境に配慮した次世代の新技術によるリチウム生産を想定し、政府は技術力ならびに高付加価値化の観点で民間企業の支援や参入を求めている。この大指針から、開発や将来の生産に具体的にどう結び付けていくのか、2024年もチリ政府側、企業側による動向が期待される。
◆ 産油国サウジアラビア王国の脱石油化
2023年下半期以降、サウジアラビア王国政府系ファンドPublic Investment Fund(PIF)の活動が目覚ましい。特に7月の同国国営鉱山会社Ma’aden社とPIFの合弁企業であるManara Minerals社による、非鉄メジャーValeグループの持株会社Vale Base Metals社の一部権益取得は鉱業界に驚きをもって迎えられた。1932年の建国から91年、一般に多様な産業の育成が困難とされるモノカルチャー経済ながら、一大産油国として繁栄してきたサウジアラビア王国であるが、特にここ数年は国内の銅・金等の非鉄金属鉱業分野への投資を王国一丸となって活発に呼び掛けている印象があり、産業構造の大きな転換期を迎えようとしている。その背景には、欧州を中心とした各国が求めている近未来の低炭素排出社会の実現に向けて、同国も難しいかじ取りを求められているという事情がある。PIFの2022年次報告書によると、運用資産額は2021年の1,980bSAR(サウジアラビアリヤル:約527.9bUS$)から、2022年には10%以上増加し、2,230bSAR(約594.6bUS$)を超えた。豊富な資金力を背景に、同国は今後ますます非鉄産業への参入の動きを加速していくと思われる。従来からの一部西側諸国との協調に加え、11月にはアフリカ諸国との間で2bSAR(約0.53bUS$)相当の協定にも調印した。相対的に資金余力はないものの豊富な金属資源を抱えるアフリカ諸国と、金属資源には乏しいものの豊富な原油と資金を有するサウジアラビア王国との協調は双方にこれまでにない繁栄をもたらすかもしれない。2022年から同国の首都Riyadhで開催されているFuture Minerals Forum(FMF)も2024年1月には第3回目となり、ますます注目されることになるだろう。
◆ 銅鉱石生産国の動向:DRコンゴ、伸び悩むチリとペルーを猛追
銅鉱石生産量において首位を独走してきたチリに、鉱石品位の低下や干ばつなどの影響で陰りが生じている。COCHILCO(チリ銅委員会)が発表した2022年の生産量は5,330.5千tと前年比5.2%減となり、この10年間で最低の水準となった。特にCODELCOの同生産量は1,552.7千tと同比10.1%減となり、四半世紀ぶりの低水準に落ち込んだ。CODELCOは経営上の問題と多額の負債に苦しんでおり、Fitch RatingおよびMoodysは同社の信用格付けを引き下げた。Chuquicamata、El Teniente銅鉱山の拡張はコスト高などで難航しているほか、5月に決定したロイヤルティ引き上げへの警戒から新規プロジェクトへの投資にも圧力がかかり、同社は2023通年の生産量見通しを引き下げている。チリ全体でも1~9月累計生産量は前年同期比1.9%減の3,827.3千tとなり、唯一の明るいニュースとしてQuebrada Branca IIプロジェクトが開山したが、生産量が伸び悩む現状は続いている。
また、チリに追随する生産国にも変化がある。長年にわたって生産国第2位の座を守ってきたペルーだが、その地位がDRコンゴに脅かされている。国際銅研究会(ICSG)によると、2022年の生産量はペルーが2,445.3千tで前年比5.0%増、DRコンゴが2,294.6千tで同比22.9%増となり、DRコンゴはペルーにほぼ匹敵する規模となった。ペルーでは、2022年9月にQuellaveco銅鉱山の生産が開始されるなど堅調に増産しているものの、2023年の新規開山は無くチリと同様に新規プロジェクト不足に直面している。一方DRコンゴでは、加Ivanhoe社がKamoa-Kakula銅鉱山を拡張しているほか、中CMOCグループがTenke Fungurume銅鉱山を拡張、2023年にKisanfu銅鉱山操業開始など、増産の動きが加速している。銅の供給国として同国に対する企業投資も高まっており、2020年代後半にはDRコンゴがペルーの生産を上回り、チリとの差も縮まることが予想されている。
◆ JOGMECで重要鉱物の助成支援制度が開始
2022年5月に『経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(経済安全保障推進法)』が公布、その後段階的に施行され、同年12月には特定重要物資を指定する政令が公布・施行された。特定重要物資に指定された金属鉱産物(以下、『重要鉱物』)並びに可燃性天然ガスについては、安定供給確保支援業務を行う法人としてJOGMECが指定され、2023年3月、JOGMECは安定供給確保支援基金(重要鉱物:1,058億円、可燃性天然ガス:236億円)を造成した。
重要鉱物に関しては、我が国の重要鉱物の安定供給確保を図る上で効果的と認められる探鉱・FS、鉱山開発、製錬等、技術開発に係る取組を行うとして経済産業大臣に計画が認定された供給確保事業者に対し、当該取組に係る申請者負担額の2分の1を上限に助成金を交付することが可能となった。支援対象鉱種は政令にて35鉱種が対象指定されているが、経済産業大臣が策定した安定供給確保取組方針に則り、当面はバッテリー原材料となるマンガン、ニッケル、コバルト、リチウム及びグラファイト、永久磁石の原材料となる希土類金属が支援対象とされている。
また、案件の認定においては経済安全保障の観点から供給途絶リスクが大きいと国が判断した重要鉱物のサプライチェーンにおいて特定国の依存度を低減させ、日本への供給力向上につながる事業が認定対象となる。
重要鉱物助成金交付事業の制度概要については、JOGMECホームページ(https://www.jogmec.go.jp/metal/metal_10_00001.html)に掲載されている。
おわりに
これらのトピックをまとめていると、今後もサプライチェーンのリサーチの重要性が増してくると再認識された。欧州をはじめ多くの国々で、重要鉱物の安全保障のために、サプライチェーンのモニタリングや中長期の需給予測を議論する場面が増えてきた。鉱物のマーケットなど、他のエネルギー資源とは大きな違いがあり、種々の政策を考える上で、複雑なサプライチェーンを捉えることの難しさが顕在化している。我々も、サプライチェーンの動向に影響を与える各種情報のリサーチを強化していく必要があるが、サプライチェーン全体をより俯瞰的に見ていくことも併せて必要になってくると考えている。
おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
