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報告書&レポート

2024年2月15日 リマ 事務所 村井裕子、初谷和則
24-03

ペルー政府による鉱業関連手続簡素化の現状と、その他の鉱業関連制度改正案

<リマ事務所 村井裕子、初谷和則 報告>

はじめに

ペルーでは2022年末から2023年初頭にかけて、反政府デモや道路封鎖により複数の鉱山が操業を停止する事態となった。2023年第2四半期以降、政情は概ね落ち着き通常の鉱業活動が再開されたが、Quellaveco銅鉱山(Moquegua州)の生産開始による初期投資終了や新規の大規模案件の不在、景気減速等の様々な要因により2023年の鉱業投資は前年比16%減、2024年はさらに7%減少する見通しである 。一方で鉱業関連の手続の複雑さ、許認可の遅さは探鉱から採掘のあらゆるフェーズで指摘されており、投資減退や競争性低下の一因とされる。このような中、2023年に政府は鉱業関連手続き簡素化のための制度改正を度々発表したが、改正に至ったものもあれば未だ発表段階のものもあるため、現状を整理した。なお、年の記載のないものは全て2023年の出来事である。

1.手続簡素化に関する制度改正案と実行状況

1-1.探鉱における環境許認可の審査と水関連許認可の同時申請 <現状:改正実施済み>

11月23日、政府は大統領令028-2023-EM1を公布し探鉱活動における環境保護規則を一部改正、鉱業権者は環境許認可の審査と水関連許可をエネルギー鉱山省(MINEM)に対して同時に一括申請できるようになった。改正前は環境許認可の承認後、水資源庁(ANA)へ水関連許可を申請する必要があった。また環境許認可の審査プロセスが改善された。(詳しくは2023年11月29日付 ニュース・フラッシュ:政府、探鉱環境保護規則を一部改正、水関係許可申請を簡素化等参照)

1-2.デジタル単一窓口(VUD) <現状:探鉱フェーズ開設>

10月2日、政府は大統領令017-2023-EM2を公布、鉱業関連手続きのワンストップサービスを目的として、MINEMと許認可審査に関与する合計9つの政府機関をつなぐデジタル単一窓口(VUD)設置を発表した。VUDは2018年に設置が発表されたがその後進展せず、今回は焼き直し的な発表であった。本件について12月2日付MINEMプレスリリース3は、前述の1.1の制度改正に伴い、VUD運用開始の一環としてMINEMとANAのプラットフォームを繋いだと発表した。さらに2024年2月2日に探鉱フェーズのVUD4を開設したほか、今後VUDが繋ぐ9機関の内部規定改正を進め、採掘や鉱物処理フェーズを含むVUDを2024年に完成予定であるほか、2025年に鉱業関連手続きに必要な期間は現在の2年間から6か月間に短縮すると説明した。

1-3.閉山計画書の審査プロセス簡素化 <現状:改正案公表/パブリックコメント受付中>

11月28日、MINEMは閉山法施行細則の改正案5を公表し、現在制度上で最大160営業日かかる閉山計画書の審査プロセスの簡素化を提案した。具体的には、MINEMが計画書の受領後に計画書の構成や内容の形式的なチェックを行うための初期技術評価(Evaluación técnica inicial、40営業日)の廃止、当局からの指摘に対する鉱業権者の回答実施期間の40営業日から10営業日への短縮等が提案されている。

1-4.環境影響調査の内容簡素化 <現状:環境調査票(FTA)改正案公表/パブリックコメント受付中>

 12月2日、MINEMはプレスリリース6で、環境影響調査の構成や内容に関する規定の改正を間もなく公表予定であるとし、現在要件にしている、技術的評価と無関係な情報の提出を廃止する方針を明らかにした。そして12月21日環境調査票(FTA)の改正案を公表し、従来の試錐座20か所までのFTAとは別の、試錐座10か所までの簡易型FTA導入を提案したほか、これらFTAの構成や提出すべき情報について示した。(詳しくは2024年1月15日付 ニュース・フラッシュ:エネルギー鉱山省、環境調査票(FTA)の改正案を公表参照)

1-5.環境影響評価プロセス改善 <現状:大統領令公布済み>

12月30日、政府は環境影響評価プロセス改善を目的とする大統領令013-2023-MINAM7を公布し、持続可能環境投資許可庁(SENACE)が審査する環境影響詳細調査(EIAd)や同修正書のうち投資額等やエリア等の基準から特に優先度が高い案件について、審査に関与する様々な政府機関の代表者による委員会を立ち上げ、SENACE主導の下で各委員が連携しながら審査を行うことが定められた。また環境許認可のベースライン調査における水生生物のサンプル採取に必要であった生産省の許可制度廃止等の改正が発表された。

1-6.その他政府関係者による発表 <現状:一部改正済み、大部分は具体案未発表>

11月、政府は経済対策を発表し、鉱業については投資促進を目的とする合計13件の施策実施の方針を明らかにした。特に探鉱に関しては環境許認可や先住民事前協議に関する要件の改善、また鉱山操業に関しては労働安全・衛生や鉱区関連規則の改善に取り組むほか、探鉱・操業の両フェーズにおいて、遺跡関連や環境適正化、国境エリアの鉱区に係る規則の改善を行う計画を示した。さらに、許認可審査に関与する文化省(MINCUL)やSENACE、ANA等複数の公的機関の機能強化を目的として、合計623mPEN(ソーレス)の予算を拠出すると発表した。また12月、経済財務大臣は環境影響申告(DIA)で設置可能な試錐座数を40か所から80か所に増加すること等を検討中である旨明らかにしたほか、一連の提案のうちMINEM単独で実施可能な改正は比較的早期に実現できるが、他省庁との折衝が必要な案件については調整中であるとコメントした8

2.鉱業にマイナスな制度改正案

上述のとおり、政府からは鉱業投資縮小に歯止めをかけるべく手続き簡素化に取り組む姿勢が見られる一方、必ずしも鉱業に裨益しない制度改正案が政府自身や国会、地方自治体から提出されており、業界団体が懸念を表明している。主な案件は以下のとおり:

2-1.鉱業ロイヤルティ改正 <現状:委員会審議中>

3月と8月にAccion Popular党が個別に提出した2つの鉱業ロイヤルティ改正法案9は、いずれもロイヤルティの大幅な増加が提案されている。ただしいずれも現在までに委員会審議は進んでいないほか、政府は当面鉱業税制の変更は行わない方針を示している。

2-2.国土整備法案 <現状:委員会審議中>

8月に政府が国会に提出した「国土整備及び国土整備国家システム設置」法案10に対して、業界関係者は、本法案が成立すれば州政府が鉱業をはじめとする経済活動の制限エリアを設置できるようになるほか、州政府の決定は、企業が活動に必要な許認可を取得済みのエリアをも対象に含めることができるとし、鉱業投資がリスクに晒される危険があると警告した。さらに国土整備に関しては他にも法案が提出されており、このうち1件11が12月4日に委員会承認を得て、今後国会本会で審議される予定である。

2-3.鉱業合法化登録(REINFO)再開 <現状:委員会承認、国会本会審議前>

国会が既に登録期間が終了した鉱業合法化登録(REINFO)への登録を90日間再開する法案12を本会で審議予定であることに関して、業界団体や環境特化検察庁は、本法案は違法鉱業に裨益し正規の鉱業セクターにとって悪いサインであると表明した。なおMINEMは、12月にMinera Poderosa社の従業員10名が違法鉱業関係者によって殺害されたことを受けて(2023年12月7日付 ニュース・フラッシュ:Minera Poderosa社、違法鉱業関連の犯罪集団の襲撃を受け従業員10名死亡参照)、12月21日に法令1607を公布し、要件の不備等でREINFOに登録資格停止中となっている業者について、90日以内に要件履行できない場合REINFOから除名すること等を明らかにした13

おわりに

このような状況の中で業界団体や関係者は、政府による手続き簡素化の取り組みに一定の評価をしつつも、例えばVUDに関しては開設だけでなく順調な運用が行われるかどうか見届けなければならないとコメントしている。また、政府は鉱業プロジェクトの行き詰まり打開を唱えながらも、一番ステージの進んでいるTia Maria銅プロジェクト(Arequipa州)にほぼ言及しないことは矛盾であると指摘している。さらに、必ずしも鉱業に裨益しない提案が複数存在するほか、石油セクターで公社が入札を経ず(民間企業を排除し)石油鉱区を落札するなど、民間投資にとって不穏なサインが存在するとし、政府にはより一貫性ある鉱業推進の政策や方針が求められると表明している14


  1. 1.https://busquedas.elperuano.pe/dispositivo/SE/2209826-1、15ページ
  2. 2.https://www.gob.pe/institucion/minam/normas-legales/4880965-028-2023-em
  3. 3.https://www.gob.pe/institucion/minem/normas-legales/4894168-017-2023-em
  4. 4.https://www.gob.pe/institucion/minem/noticias/876258-minem-establece-medidas-para-el-destrabe-de-la-exploracion-minera
  5. 5.https://www.gob.pe/institucion/minem/ventanilla-unica/1-sector-mineria
  6. 6.https://www.gob.pe/institucion/minem/normas-legales/4900418-484-2023-minem-dm、具体的な内容はhttps://cdn.www.gob.pe/uploads/document/file/5496030/4900418-exposicion-de-motivos.pdf?v=1701267052
  7. 7.https://www.gob.pe/institucion/minem/noticias/876258-minem-establece-medidas-para-el-destrabe-de-la-exploracion-minera
  8. 8.https://www.gob.pe/institucion/minam/normas-legales/4985762-013-2023-minam
    https://www.echecopar.com.pe/publicaciones-nuevas-medidas-para-agilizar-los-procedimientos-de-evaluacion-ambiental.html
  9. 9.Panorama económico – Abril (iimp.org.pe)
  10. 10.https://wb2server.congreso.gob.pe/spley-portal/#/expediente/2021/5738
  11. 11https://wb2server.congreso.gob.pe/spley-portal/#/expediente/2021/5723
  12. 12.https://wb2server.congreso.gob.pe/spley-portal/#/expediente/2021/5960
  13. 13.https://wb2server.congreso.gob.pe/spley-portal/#/expediente/2021/5171
  14. 14.
    https://www.gob.pe/institucion/minem/noticias/886439-comunicado?filter%5Bterms%5D=&amp;filter%5Btype%5D=&amp;sheet=2
  15. 15.
    “La Edición 158 de la Revista Minero”https://online.flippingbook.com/view/445004159/

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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