報告書&レポート
「The 3rd Nickel Producers, Processors & Buyers Conference」参加報告
はじめに
世界的に多くの産業で脱炭素化への取り組みが進む中、自動車産業においては、ガソリン車から電気自動車(EV)への転換が進む。EVへの転換が進む中、EVバッテリーに使用される原料の動向がこの数年注目を浴びている。ニッケルもその1つである。インドネシアは、世界で有数の鉱物資源国であり、特にニッケルは埋蔵量及び生産量ともに現在、世界一である。そのため、世界中がインドネシアのニッケルに注目している。他方で、インドネシアは、高付加価値政策、資源の下流部門の強化・発展のための政策を進めており、EVバッテリーにニッケルが必要であることを好機ととらえ、ニッケルの採掘から、EVバッテリー生産までを自国内で完結させるバッテリーエコシステムの構築に取り組んでいる。これによって、東南アジア又は世界でのEVバッテリー生産のハブになるよう取り組んでいる。同時にインドネシアは、2060年のカーボンネットゼロエミッションに向けた脱炭素化に向けて、インドネシア国内でのEV普及を重視している。
2024年5月7~8日にかけて、The 3rd Nickel Producers, Processors & Buyers Conferenceがジャカルタで開催された。本カンファレンスでは、インドネシア国内外のニッケル産業関係者(政府、業界団体、鉱山会社、製錬会社等)が集まって、インドネシアのニッケル産業における将来の見込みや課題、企業を紹介する場として開催されたものである。本レポートでは、同カンファレンスでの発表から、興味深かったものについて、次のとおり報告する。
1.Ministerial Keynote Address(Mr. Ridwan Ali, Special staff, Ministry of Energy and Mineral Resources)
現在、ニッケルを取り巻く状況はダイナミックである。インドネシアは、米国や欧州と頻繁にコミュニケーションをとっている。先日も、ポルトガルで開催された国際ニッケル研究会(INSG)でもニッケルについての議論が進められた。
鉱業活動と原料加工活動に係るIUPの操業ライセンスは、2つの省庁が許認可にかかわってくる。鉱業活動→加工→販売までを一貫したプロセスとして行う場合には、エネルギー鉱物資源省がIUPを付与する。また、鉱業事業者が鉱業活動のみを行い、鉱石を加工施設に販売し、加工施設がスタンドアローンで鉱石を加工する場合、鉱業活動に係るIUPはエネルギー鉱物資源省が、加工施設の操業に係るIUPは工業省が付与する。
インドネシアのニッケル資源は17,330百万t、埋蔵量は5,030百万tで、ニッケル生産国としては、世界最大である。2021年のニッケル供給量は1,350千t(世界での割合36%)であったが、2023年には1,800千t(同55%)、2030年には3,700千t(同81%)になる見込みである。
2022年のデータ(鉱物・石炭・地熱資源センター(PSDMBP)、2023年1月)によると、品位1.5%以上のニッケル埋蔵量は3,688.6百万tで鉱石需要は584.9百万t/年(2029年には枯渇の見込み)、品位1.5%未満のニッケル鉱石埋蔵量は1,554.9百万t、品位1.5%未満のニッケル鉱石埋蔵量は150.3百万t/年(2033年には枯渇の見込み)であるため、特に品位1.5%以上のニッケル鉱石の消費量をコントロールする必要がある。
ニッケル産業の発展に向けたロードマップとして、埋蔵量の増加(Increased Reserve Resilience)と鉱石生産の最大化、加工・精錬施設の改良・適正化・効率化、ローカルコンテンツによる生産の発展と改良、国内製品利用の最大化及びリサイクリングシステムの立ち上げである。
2.Update on the potential of nickel greenfield I Indonesia – What is the prospect of low-grade laterite reserves and update on the current exploration activities(Mr. Muhammad Wahid, Head of the Geological Agency at the Ministry of Energy and Mineral Resources)
鉱物資源の戦略的課題は5つある。
(1)鉱物資源の状況と国家のマイニングビジネスと国家埋蔵量(鉱物資源探査データ)の改訂
(2)再生可能エネルギー産業及び高技術産業のための原料支援となる、資源セキュリティのためのレアアース金属、クリティカルミネラル、戦略鉱物及び鉱物埋蔵量の調査
(3)探鉱・生産割り当て予定地域、鉱業事業許可地域、国の埋蔵地域及びコミュニティの鉱業地域のデータ準備
(4)国内資源量と鉱物資源埋蔵量のバランスデータの質の改善
(5)鉱物資源の付加価値を高めるために、探鉱の最適化と資源評価の特徴づけを実施すること
今後数十年間、資源需要の増加は、インドネシアにおけるエネルギートランジション、人口増加、中流階級の増加と結びつく。

図1.2050年までのインドネシアの人口、中流階級、ネットゼロトランジションの見込み
出所:カンファレンス資料より
国家産業開発マスタープラン2015-2035(RIPIN, Rencana Induk Pembangunan Industri Nasional)の優先事項の1つとしてクリティカルミネラル(アルミニウム、ニッケル、レアアース)産業の発展がある。また、2024年のエネルギー鉱物資源省令(69.K/MB.01/MEM.B/2024)で、ニッケルを含む22のインドネシアの戦略鉱物を指定した。戦略鉱物は、増加する世界的な貿易競争力、国家収入、国家経済を助ける国家戦略産業開発のため、国内鉱物資源の下流部門を最適化するための原料としての戦略的価値を有する資源である。また、2023年には、ニッケルがクリティカルミネラルとして指定された47のうち1つとして、指定されている(エネルギー鉱物資源省令(296.K/MB.01/MEM.B/2023))。
インドネシアのニッケル資源量は世界一であるため、ニッケルの需給にインドネシアは大きな役割を演じている。2022年には、インドネシアは、1,600千t(純分)のニッケルを生産した。
2026年にニッケル製錬所(乾式)が全て稼働し、年間468百万wmtのニッケル鉱石を消費すると仮定する。製錬所の増加がないと仮定すると、ニッケル品位1.7%以上のニッケル鉱石は、2028年に枯渇するし、また、1.5%以上のニッケル鉱石は2031年には枯渇する。
また、ニッケル品位1.5%未満のニッケル埋蔵量は、1,674百万tであり、計画されているHPAL(高圧酸浸出)製錬所が建設され、2026年にフル稼働すると仮定した場合、年間150百万wmtの鉱石を消費するとなると、2036年までの鉱石の生産が可能となる。
ニッケルの長期的かつ持続可能な供給を確保するためのニッケル探鉱を加速していく必要がある。
3.Indonesia’s Nickel Strategy: Navigating price Challenges and Sustaining Industry Growth(Mrs. Meidy Katrin Lengkey, Secretary General of Indonesia Nickel Miners Assocation(APNI))
インドネシアには、117億tものニッケル資源を有するが、ニッケル資源を新たに開発する場合、特にインドネシア東部での開発は困難である。困難な理由は、ローカルコミュニティーとの関係である。ニッケルの埋蔵は中部スラウェシ州、南スラウェシ州、南東スラウェシ州及び北マルク州に集中しているが、さらに東部のパプアで、ニッケル資源を探し求めることは難しい。
ニッケルの鉱石消費量は、2021年のニッケル鉱石輸出禁止以降、増加しており、2021年は65.5百万tだったが、2023年には193,5百万tとなった。しかし、最終消費から計算すると、2023年の鉱石消費量は200百万t以上であることから、違法採掘者がいるとみられる。製錬所の処理能力からすると、2024年のニッケル鉱石消費量は、260百万tとなる見込みである。ただし、ニッケルの埋蔵量が45億tであることからすると、今後ニッケルの探鉱を続けていかなければならないが、特に環境林業省の許認可の関係で、新たな探鉱エリアを開発することは難しい。
インドネシアは、ニッケル産業の下流化に成功している。中部スラウェシ州、南スラウェシ州、ジャワ島も含めて、雇用や州の収入やロイヤルティがどこから得ているかを考えても明らかである。
現在、インドネシアのニッケル鉱石生産能力は全世界の60%に至る。つまり、インドネシアは世界をコントロールできるということだ。2024年、これをどのように管理していくかが重要であり、さらに来年以降、インドネシアニッケル鉱業協会(APNI)としては政府に乾式製錬所に対する外国からの投資を停止するよう要求している。また、インドネシアのニッケル埋蔵量が枯渇することを懸念している。
その他に、長期的なリスクとして、廃棄物の処理、脱炭素化がある。EVメーカーは、インドネシアでのスラグや尾鉱の排出管理を懸念しており、EVを販売するときにも、消費者に炭素排出量を報告しなければならないことが課題となっている。
ESG(環境、社会、ガバナンス)に対する関心も高まっている。APNIは、Tesla社やMercedes-Benz社と米国で議論する機会があった。鉱山に対しては、IRMAやニッケルマークといった基準があり、製錬所に対してはRMIやRMAPといった基準がある。これらの基準がインドネシアの状況に適合するか明らかでないが、今後インドネシア政府と議論を行い、政府が関連する法規則を策定したい場合は、その法規則の基準に準拠することになるだろう。
加えて、OEMからは、インドネシアのニッケル業界に対して、脱炭素化、鉱山跡地の再生においてベストプラティクスとなる鉱山へのガイダンスの策定、テーリングマネージメント、責任ある水管理のガイダンスの策定、労働者の健康や安全に関するガイダンスの策定、FPIC(Free, Prior and Informed consent)に関するガイダンスの策定について求められている。
4.Exploring the role of foreign investments in shaping Indonesia’s EV landscape(Mr. Rahul Gupta, McKinsey)
EV産業は、インドネシアの「2060年までにネット・ゼロ・エミッションの達成」、「NDC(国が決定する貢献)に記載上の2030年までに32%(国際支援がある場合は43%)のCO2排出削減の達成」、「JETP(公正なエネルギー移行パートナーシップ)の下で2030年までに250百万t/年の脱炭素及び44%再生可能エネルギーの達成」に向けた手段として、「電動モビリティの加速」、「バッテリーバリューチェーンの構築」で寄与する。
交通部門での電化によって、2050年までに電動2輪車は最大100%、電動4輪車は最大50%のシェアとなり、その結果2040年までに最大36%のGHG(温室効果ガス)を削減することになる。
インドネシアは、EV市場の巨大なバリュープールを持つ。2024~2030年までのインドネシアのEV市場の年平均成長率は39%(2030年のバリュープールは27.6bUS$)と東南アジアでは第2位の成長が見込まれる(1位は、フィリピンの58%)。
インドネシアはEVに対するアドバンテージを有する。バッテリー需要が大きく見込まれること(2030年までに最大15GWhの需要)、恵まれた資源(世界のニッケル埋蔵量の21%がインドネシア)、政府支援(EV購入助成、ニッケル鉱石輸出禁止、製造に対する税優遇)にある。しかし、現在、インドネシアでは、バッテリーに対する需要が限られていること、バッテリーグレードのニッケル加工のためのノウハウ及び現地での(生産)能力の欠如、地元の設備業者が限られているため、設備投資に多額の投資をしなければならないこと、法規制の不安定さと製造業者との合意形成する際の透明性が欠如していること、海外や自動車メーカー(OEMs)から要求される鉱業活動におけるESG基準の達成に遅れていることが、インドネシアの課題である。
インドネシアは投資環境を整えつつあり、海外からの投資も増加している。インドネシア国内のEV産業関係の能力、事業活動のし易さ、ESG基準への関わり、ロジスティクスインフラが整えれば、インドネシアのEV産業への外国投資はより進む。
5.Beyond Uncertainty: Seizing opportunities in battery value chain amid rising competition(Ms. Linda Zhang, Battery Materials APAC Lead, CRU)
バッテリー原料の供給側は、バッテリーサプライチェーンにおいて、バッテリー原料(炭酸リチウム、硫酸ニッケル、硫酸コバルト)の利益率の縮小、供給過剰、競争の激化、地域保護主義といった困難に直面している。中国の自動車メーカー及びバッテリーメーカーは、中国政府の補助金制度が終了したことにより、費用対効果を検討するともに、中国内での競争が厳しくなったことから、世界への市場拡大とその戦略を変化させている。
中国企業は、コスト(米国、EU、韓国と比較した場合、特に労働力)、生産規模、技術(サプライチェーン構築による効率性)面において、他国と比較して、優位性を有する。また、リチウム、コバルト、ニッケルの採掘から、バッテリーセル、BEV生産までのサプライチェーンを中国内外で垂直統合することにより、中国企業は、バッテリー生産サプライチェーンの費用対効果が高くなっている。
中国以外の国のバッテリー生産の競争力は、各国の政策(保護主義、補助金、許可制、貿易バートナーシップ、ESG等)及び技術力(イノベーション、中国企業との協力、他のオペレーションの知見・経験)に依拠している。
バッテリーの前駆体正極活物質(p/CAM)製造者は、バッテリーに対する政策とコストアドバンテージから、北米(米国、カナダ)、米国のFTA対象国(日本、韓国、モロッコ)、欧州(スウェーデン、フィンランド、ドイツ、ハンガリー、フランス、ベルギー、ポーランド)、インドネシアへと投資を進めており、特に韓国と中国の製造業者が先陣を切って投資している。
インドネシアのHPAL製錬所のアドバンテージは、インドネシアにおける鉱山の操業コストが安価であることとNPI製錬所や他国のHPAL製錬所と比較してCO2の排出量が低いことである。(インドネシアの脱炭素排出量は、世界のニッケル製錬所の中でも50パーセンタイル以下)
インドネシアのバッテリーサプライチェーンの優位点は、北米と欧州でニッケルが希少であること、豊富なニッケル資源と既に建設された(ニッケル製品の)工業団地を有すること、鉱石から製錬までを統合したことによるコストアドバンテージを有すること、HPAL製錬所は低炭素排出であること(これは、インドネシアのニッケルは「汚れたニッケル(ダーティ・ニッケル)」という固定観念に対抗しうるものである)である。他方で、米国インフレ抑制法(the Inflation Reduction Act:IRA)のFEOC(懸念される外国の事業体)規則が中国の所有率を精査すること、カーボン・エミッション以上にESGに対する懸念、ニッケルベースのEVバッテリーの購入者が限られていること、EVを運用するのにインフラが十分に整っていないことは、インドネシアのリスクである。
6.From Mine to Market: Merdeka Battery Material’s Journey to Becoming a Vertically Integrated battery Materials Leader(Mr. Stan Wu, Head of Investor Relations of PT Merdeka Battery Materials Tbk)
Merdekaグループは、36.4百万ozの金、8.5百万tの銅、1.0百万tのコバルトの資源を持つ、世界的な資源企業グループである。Merdeka Battery Materials社(MBM)は、Merdeka Copper Gold社の傘下にあり、EVバッテリーサプライチェーンにおけるグローバル・リーダーズと強力戦略的に協力している。
Merdeka Copper Gold社は、Tujuh Bukit銅プロジェクト(100%権益、資源量:銅8.2百万t、金27.9百万oz)、Tujuh Bukit金鉱山(権益100%、金100,000~120,000oz)、Pani金プロジェクト(70%権益、資源量:金6.8百万oz)、Weter銅鉱山(100%、銅カソード14,000~16,000t)といった資産を有する。

図2.Merdekaグループの資本関係
出所:カンファレンス資料より
MBMの資産は、インドネシアのバッテリー原料ハブである中部スラウェシ州に戦略的に位置している。
(1)SCM鉱山
13.8百万tのニッケル(内77%がリモナイト)と1.0百万tのコバルトを含む110百万dmtの資源を有する。SCM鉱山は、MBMが51%の権益を持ち、49%を青山集団が保有する。最大稼働で、65百万t/年の見込み。
(2)HPAL製錬所(建設中)
中GEM社及びCATL社とともに、HPAL製錬所の開発を行っている。GEM社と開発中のHPAL製錬所(IKIP(Konawe工業団地)内)は、MBMが67%の権益を持ち、生産能力は、MHP60千t/年(Ni)。2026年末に操業開始予定である。GEM社とのHPAL製錬所は、IMIP(Morowali工業団地)内に建設中で、MBMが55%の権益を保有し、生産能力はMHP30千t/年(Ni)。2024年末に操業開始予定である。
(3)ロータリーキルン電気炉(RKEF)工場
3つのニッケル製錬所を有し、NPI(ニッケル品位12%以下)の生産能力は計88,000t/年となる。MBMの権益は50.1%(残りは青山集団)。Morowali工業団地に位置する。
(4)ニッケルマットコンバーター
低品位ニッケルマットを年間平均50千tの高品位ニッケルマットに加工するニッケルマットコンバーター操業中。ニッケル品位20%以下の低品位ニッケルマットを、ニッケル品位70%以上の高品位ニッケルマットへと加工する。MBMの権益は60%(残りは青山集団)であり、Morowali工業団地に位置する。
(5)酸鉄金属(AIM)プロジェクト
HPAL製錬所で使用する酸と蒸気、鉄鉱石ペレット、銅、金、銀を生産。最大20年間、Weter銅鉱山の高品位パイライト(FeS2)を投入する。2024年商業生産開始予定。Morowali工業団地に位置する。
ESGは、MBMの長期戦略の中心である。ESGに取り組んだことにより、MSCI ESGレーティングでは“A”、SustainalyticsのESGでは上位4分の1、IDX Kehatiセクターリーダー指数(※)の対象銘柄となっている。
※インドネシア生物多様性財団(KEHATI)とインドネシア証券取引所(IDX)によって策定され、IDXの業界区分に基づいた業界平均を上回るESGパフォーマンス評価結果を持つ銘柄を含む指数
7.Unveiling Nickel Industries’ Role in Eco-Friendly Nickel: Efficient Practices and Rich Resources for Green Production(Muchtazar, Head of Sustainability of Nickel Industries ltd)
Nickel Industries社は世界的に重要なニッケル銑鉄(NPI)生産者としての地位を確立しており、最近では現行生産の一部を転換することでクラス1ニッケルを利用したEVバッテリーのサプライチェーンにも参入した。これによって、ニッケルマットへの加工を行うほか、HuayueニッケルコバルトHPALプロジェクト(HNC)の権益も獲得した。最近、ExelsiorニッケルコバルトHPALプロジェクトへの最終投資決定を発表し、EVバッテリーサプライチェーンに必要となる原料(ニッケル・コバルト)の生産量の増大と多角化を図っている。
Hengjaya Nickel (HNI) | Ranger ickel (RNI) |
Angel Nickel (ANI) |
Oracle Nickel (ONI) |
Huayue Ni-Co (HNC) |
Excelsior Ni-Co (ENC) |
|
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Location | IMIP | IMIP | IWIP | IMIP | IMIP | Morowali (near IMIP) |
Ownership | 80% | 80% | 80% | 80% | 10% | 55% |
Plant | RKEF (2 lines) | RKEF (2 lines) | RKEF (4 lines) | RKEF (4 lines) | HPAL (4 autoclaves) | HPAL |
Product Capability | NPI/matte | NPI | NPI (matte from 2024) |
NPI | MHP | MHP/sulphate/ cathode |
Currently Producing | matte | NPI | NPI | NPI | MHP | n/a |
FY23 Production (t) | 20,539 | 19,550 | 49,058 | 39,112 | 28,679 (16 August to 31 December) |
n/a |
出所:カンファレンス資料より
Nickel Industries社のサステナビリティ戦略は、環境ステュワードシップ、社会的責任、経済発展の3つを柱としている。そのための取組として、Nickel Industries社の最も新しい第三世代のHPALプロジェクトを採用、他のHPAL製錬による製品と比較してもエネルギー消費量が25%以下、炭素排出量は20%以下となる計画である。また、Nickel Industries社のHPALプロジェクトは、ニッケル製品1t当たり、10CO2t以下の排出量で、2030年までにカーボンニュートラルを実現するためのさらなる炭素排出削減計画を実行する。また、炭素削減に向けて、操業に再生可能エネルギー源を使用する。
Nickel Industries社は、世界でもトップ10位以内に入るニッケル生産者である。現在、稼働しているニッケル製錬所と、開発中のExceisior Ni-Co(ENC)ニッケルHPAL製錬所が稼働すれば、ニッケル製品の生産量は117千tから156千tに増加する見込みである。HPAL製錬によるニッケル生産ユニットが増加することによって、Nickel Industiries社の炭素集約度は減少する。Nickel Industries社の場合、HPAL事業において、乾式スタック尾鉱によって、業界でもベストプラクティスとなる尾鉱貯蔵施設を有する。
Nickel Industries社の取組として、熱回収(RKEF加工工程での石炭の消費量を減らすためにキルンからの廃熱を利用)、未来エネルギープロジェクト(25年以上のマインライフを持つHengjayaニッケル鉱山で、31百万Lのディーゼル消費を減らすために、250kWhの蓄電池を付随するソーラーパネル(396kWp)の設置)、バイオ液体燃料(マイニングサイトにおける操業でディーゼルの消費をバイオ燃料に転換)を採用している。
その他に、地域コミュニティとの良好な関係を維持するため、Nickel Industries基金や大学奨学金プログラムを準備している。
8.Leveraging Foreign Investment in promoting advanced technology for Nickel Industry Advancement in Indonesia(Mr. Stevaus, Director of Public Affairs Huayou Indonesia)
Huayou社は、インドネシア(ニッケル及びコバルト)、アルゼンチン(リチウム)、コバルト(コバルト、リチウム、銅)、ジンバブエ(リチウム)での資源開発を展開している。
インドネシアでは、Huayouは、2018年3月に青山集団とWedabay工業団地(IWIP)に関する包括的な戦略的協力を締結して、インドネシアのへの参入を図って以来、PT Vale Indonesia(PTVI)との協力関係も構築しながら、各地でHPAL製錬所を中心にインドネシアでのプロジェクトを進めている。インドネシアでの進行中のプロジェクトは次のとおり。
【Morowali工業団地(Indonesia Morowali Industrial Park)】
Huayue HPAL Project(操業中)、Huayue FPP(Feed Preparation Plant) Project(操業中)
【Pomalaa、Kolaka県】
Indonesia Pomalaa工業団地(計画中)、KNI(Kolaka Nickel Indonesia) HPAL Project(計画中)
【Wedabay工業団地(IWIP)】
Huafei HPAL Project(操業中)、Huaxiang Refining Project(建設中)、Huaneng Precursor Project(建設中)、Huake Smelting Project(操業中)、Youshan Smelting Project(操業中)
Huayou社のHPAL技術は、第3世代及び第4世代の先進的なHPAL技術であり、先進的なグリーン生産技術を用いることによって、低炭素排出となっていることが特徴的である。また、他の同様のHPALプロジェクトと比較して70%以下の電力消費量、雨や廃水の利用、酸工場での廃熱の利用、先進的な技術を取り入れている。
おわりに
2024年5月3日の当地での報道によると、インドネシアが世界のニッケル市場での存在感を高める方法を模索する中、INSGの招待を受け、同研究会への再加盟を検討しているとのことである。インドネシアは、1990年のINSGの設立当初に加盟していたが、東ティモールをめぐる問題でポルトガルと対立したことにより、2006年に脱退している。
こうしたインドネシアのニッケル市場での存在感が高まっていく中、同国内でもニッケルに対する課題が表面化してきている。特に本カンファレンスで、印象を受けたのは、ニッケル埋蔵量の枯渇についての懸念とインドネシアへのニッケル産業界で、脱炭素及びESGへの取組が進められていることである。
ニッケル埋蔵量の枯渇については、これまでの報道やカンファレンスでも言及(ニュースソースによって、その埋蔵量の期間は様々)はあったが、今回はより強調されていた。特に、フェロニッケル、ニッケル銑鉄(NPI)、ニッケルマットへの加工に使用される品位1.7%(あるいは1.5%)以上のサプロライト鉱石の埋蔵量が、現在のインドネシアの製錬能力から見積もった場合、5~6年程度と試算されていることはインドネシアにとって、喫緊の課題であろう。また、現在、世界的なEV潮流の中で、EVバッテリーに使用される品位1.7%(若しくは1.5%以下)のリモナイト鉱石についても、13年程度としているのは、プレゼンテーションの中で強調されなかったが、短いと感じる(これまで、数十年等とする報道や業界のプレゼンテーションが見受けられた)。
主に中国企業による投資により、この10年インドネシアのニッケル加工部門の開発が進められ、同時に鉱山からの生産量も増加してきた。しかし、インドネシアは、石炭火力発電への依存による森林の減少、鉱山廃棄物による汚染、高炭素排出であるとして環境保護団体からの批判が高まっている。これに対し、インドネシア政府は環境基準の監視を強化することを約束している。インドネシアのニッケル生産者に対する環境侵害の告発を受けて、BHPやFortescue等の世界的な鉱山会社は、LMEに対し、インドネシアの「汚れたニッケル(Dirty Nickel)」と「きれいなニッケル(Clean Nickel)」を分類するよう圧力をかける動きもある。
インドネシア政府は、国内のEVバッテリーサプライチェーンの構築を推進し、EVバッテリー生産のハブになるとしている中、米国のIRA法により、インドネシアのEVバッテリーやその材料が米国のEV販売時の税額控除の対象にならない場合、米国市場における競争力を損なう可能性もある。そのため、インドネシアのニッケルをIRA法の対象となるよう、FTA(自由貿易協定)の締結をインドネシア政府は求めていたが、報道によれば、2023年11月のJoko大統領と米Baiden大統領との会談後の共同声明では、「国際的な鉱業分野では、搾取を防ぎ持続可能性を促進するための強力な労働者と環境の保護の重要性」と「米国の重要な鉱物サプライチェーンの完全な発展に対するバイデン政権の公約」への言及を含むことで妥協せざるを得なかった。さらに、豪Wyloo社のLuca Giacovazzi CEOが、「米国が、インドネシアとの議論の中で、自由貿易協定の締結には、厳格なESG基準に基づく要件を考慮しなければならないことを明らかにしたことは、喜ばしい」と評した。また、会談の直前には、複数の米国上院議員によって、米通商代表部等の米国機関に、インドネシアの労働者保護の脆弱性、採掘・精錬における中国の支配的地位、露天掘りの環境への影響、豪州やカナダと比較して炭素集約等といったインドネシアがIRA法の対象となることに反対する書簡が発出されている。
インドネシアは、ニッケルの埋蔵量、生産量で世界第1位であるが、同国の課題も浮き彫りになってきている。今後の動向に注目したい。
おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
