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報告書&レポート

2024年7月25日 サンティアゴ 事務所 兵土大輔
24-14

チリAtacama塩湖におけるSQM社及びCODELCOの提携

<サンティアゴ事務所 兵土大輔 報告>

はじめに

2023年12月27日、SQM社及びCODELCOは、Atacama塩湖の共同開発における官民パートナーシップに関する覚書(MOU)締結を発表した(2024年1月24日 カレント・トピックス24-02:チリAtacama塩湖におけるSQM社及びCODELCOのMOU締結参照)。このMOUにより、両当事者は、遅くとも2024年3月31日(締結期限)までに、提携の目的と目標、提携実行にあたっての課題と作業スケジュール、権利、義務、表明保証、役割、各当事者の寄与に関する約束、提携、提携実行、合併会社について記述する正式な契約(Partnership Agreement)に署名するよう努めることが定められていた。一方、本MOUに対してAtacama先住民が反対し、SQM社が操業するAtacama塩湖付近の道路を封鎖し抗議を行った。Atacama先住民の要望は、Boric大統領がSQM社の操業現場を訪問し、リチウム生産が先住民居住地区に与える影響を理解し、将来のリチウム増産を再検討してほしいという内容であった。また、Atacama先住民は以前からCODELCOが操業する銅鉱山の環境問題が原因でCODELCOに対して不信感を示しており、SQM社とCODELCOの提携に反対していることも要因の1つであった。さらに、SQM社の株主である中Tianqi Lithium(天斉鋰業股份有限公司、以下、Tianqi)社が本MOUに反対を声明する等の問題が生じた。これに対して両当事者は、提携契約の締結期限を2024年5月31日まで延長することとした。

この期限とされた2024年5月31日、SQM社及びCODELCOはAtacama塩湖における鉱業、生産、商業、地域社会及び環境に関する提携契約を締結した1。本稿では、提携契約のうち主要な条項内容について抜粋して紹介する。

1.SQM社とCODELCOの提携

2024年5月31日に発表された提携契約内容のうち、主要な目的及び条項内容を抜粋する。なお、詳細については、原文を参照願いたい。

提携の目的と目標

Atacama塩湖に存在するリチウム及びその他の鉱物資源を共同で探査、採掘、販売するため、SQM社とCODELCOは、提携契約を締結する。提携の目的の一つは、リチウム採掘における技術革新を実現し、Atacama塩湖での長期にわたる採掘の継続性を確保することを目指すSalar Futuroプロジェクトの設計と開発である。

SQM社とCODELCO(完全子会社のSalares de Chile(以下、SDC)社及びMinera Tarar社を通じて)の提携は、CODELCOが過半数の株式を保有する合併会社を通じて実施され、SQM Salar社の再編、CODELCO-SQM社間の事業提携開始に向けての前提条件の遵守を条件として、SQM Salar社がSQM Salar社及びMinera Tarar社の事業を継承する合併会社となることに、CODELCOとSQM社は合意する。前提条件が満たされれば、2025年に事業を開始する予定である。

<主要な前提条件>

  1. チリ産業開発公社(CORFO)が主導する先住民との事前協議の上での操業許可(提携契約発効日前に、先住民に直接影響を与える可能性が高いAtacama塩湖でのSQM社及びCODELCOの活動に関して、CORFOは現在の法律とILO第169号条約の原則に従って、先住民の協議プロセスを終了していなければならない)
  2. チリ原子力エネルギー委員会(CCHEN)からの許認可
  3. 共和国監査総監(Contraloría General de la República)の承認
  4. 国家経済検察庁及び海外の行政機関による自由競争の承認

第2条
共同提携

SQM社の再編及びSQM Salar社-Minera Tarar社合併の前提条件に準拠することを条件として、SQM社及びCODELCOは、SQM Salar社が合併会社となることに合意する。提携の発効日より、SQM Salar社は、新しい社名のもと、SQM Salar社及びMinera Tarar社の事業を継承する合併会社としての役割を果たす。SQM社とCODELCOは、合併会社の社名について合意しなければならない。

提携契約の発効日から、株主間協定に従って2031年にシリーズA及びシリーズBへの全ての配当が分配される日まで、合併会社の資本金は1億4株に分割され、次の5つのシリーズの株式に分配される。

  • シリーズA:50,000,001株
  • シリーズB:49,999,999株
  • シリーズC:2株
  • シリーズD:1株
  • シリーズE:1株

CODELCOは、SDC社を通じてシリーズA:50,000,001株、シリーズC:2株を所有することになる。SQM社は、直接または同社子会社を通じて、シリーズB:49,999,999株、シリーズD:1株、シリーズE:1株を所有することになる。各株式が一つの議決権を有する日である2030年12月31日までは、異なる議決権を有する。シリーズA及びシリーズBの経済的な利益を受ける権利は、2031年中に2030年に相当する配当が分配されるまで継続する。その日以降、シリーズAとシリーズBは、1:1の比率で普通株式となる。

シリーズC、シリーズD及びシリーズEは、優先順位の変更または削除に関する場合を除き、議決権を有していない。また、これらのシリーズの株は譲渡できない。

SQM社の再編成

SQM社及びCODELCOは、提携の目的を達成するために、提携契約発効日をもって、SQM Salar社が現在行っているものと同じ方法で事業を展開する合併会社となることに同意する。SQM Salar社は、CORFO-SQM社間の契約所有者であり、またCORFO-Minera Tarar社の契約の所有者となり、事業の発展に使用される事業資産、事業子会社、従業員及び認可をSQM Salar社に集結させるため、SQM Salar社及びその他の同社子会社の再編が必要である。

提携を実行し、SQM Salar社が事業を本格的に展開する合併会社となるため、提携契約発効日をもって、SQM社及び同社子会社は、SQM Salar社に非独占的、譲渡不可、永久かつ取り消し不能な権利を付与しなければならない。提携契約発効日以前または発効日をもって、SQM社は、上記に記載されている権利を付与するか、または、必要に応じて、SQM社または同社子会社とSQM Salar社の間で契約されるSQM社の知財ライセンスを通じて、同社子会社に付与させる。

SQM社の再編を実現するために、SQM社はその他の事業子会社に必要なすべての活動を実施させ、協定及び契約を締結させる。事業子会社は、合併会社の子会社である。基準日が設定されると、SQM社はSQM Salar社及び事業子会社に譲渡したものと同じ条件に基づいて、なるべく早く韓国での事業(リチウム製品)を合併会社に譲渡しなければならない。

第3条
SQM Salar社及びMinera Tarar社の合併

合併契約書では、合併によりSQM Salar社はMinera Tarar社を吸収し、消滅するMinera Tarar社の資産と負債をすべて受け入れることが定められている。SQM Salar社は、SQM Salar社の株主から合併の承認を得るため、株主総会を決算日に開催しなければならない。Minera Tarar社は、SQM Salar社と同じ日に株主総会を開催し、株主から合併の承認を得なければならない。合併契約により、合併会社における以下の株式保有を可能にする株式交換が行われる。

  • CODELCOは、SDC社を通じてシリーズA:50,000,001株、シリーズC:2株を所有する。
  • SQM社は、直接または同社子会社と通じて、シリーズB:49,999,999株、シリーズD:1株、シリーズE:1株を所有する。

カリウムのオフテイク契約

カリウムの抽出、生産、販売は合併事業の一部であり、この事業を通じて得た利益は、株式保有比率に応じて株主へ分配される。附属書(カリウムのオフテイク契約)に記載された基本原則に従って、SQM社及びCODELCOが合意したその他の条件に関して、提携契約発効日にSQM社(もしくは同社子会社)及び合併会社は、SQM社の合併会社が製造したカリウム製品の100%を購入できるオフテイク契約に署名する。

第4条
合併会社のコーポレートガバナンス

SQM社及びSDC社は、合併会社の株主として株主間協定を締結しなければならない。

第1期(提携契約発効日~2030年12月31日)取締役会は6名の役員で構成され、そのうち3名はCODELCOが、残りの3名はSQM社が任命する。取締役会長は、CODELCOが選出した役員の中から、取締役副社長はSQM社が選出した役員の中から選出される。どちらも決裁権を有さない。取締役会決議の結果、可否同数となった場合、会議に出席しているSQM社によって選出された役員の過半数をもって決定される。

第2期(2031年1月1日~2060年12月31日)、取締役会は7名の役員で構成される。株主総会の議決権規則に従って選出された7名のメンバーで構成される。CODELCOは役員4名を、SQM社は役員3名を任命する権利を有する。取締役会長はCODELCOに任命され、取締役副会長はSQM社に任命される。どちらも決裁権を有さない。

決定は、投票権を有する役員の過半数の賛成投票によって採択されなければならない。取締役会に決定が留保されている事項については、投票権を有する役員のうち少なくとも5名の承認を必要とする。継続的または断続的に、CODELCOまたはSQM社の取締役会メンバーとして10年以上務めた者は、取締役会のメンバーになることはできない。

第5条
先住民協議

CORFOは提携契約発効日前に、先住民に直接影響を与える可能性があるAtacama塩湖でのCODELCO及びSQM社の活動に関して、現在の法律とILO第169号条約の原則に従って、先住民への事前協議プロセスを終了していなければならない。

第10条
Maricunga塩湖の資産と知的財産

提携契約発効日に、SQM社及び同社子会社は、CODELCO(または同社子会社)と資産譲渡契約(Maricunga塩湖の外周から5km以内にある全ての採掘権とその他の資産)を締結する。Maricunga塩湖の資産譲渡契約が締結されるまで、SQM社はMaricunga塩湖の採掘権に課税したり採掘権を売却したりしないことを保証する。

提携契約発効日に、SQM Salar社または事業に関連する子会社に付与された事業ライセンスについて、SQM社と事業に関連する子会社は、使用期間の制限がなく取り消し不可能である。非独占的かつ譲渡不可能なサブライセンス、提携契約発効日に存在するSQM Salar社または子会社の事業ライセンスについては、永続的に利用でき、取り消し不可能で、非独占的かつ譲渡不可能なライセンスをCODELCOに付与する。

提携契約発効日に存在するSQM Salar社の知的財産について、SQM Salar社と事業に関連する子会社は、SQM社及び同社子会社に非独占的、譲渡不可能で、永続的に利用できる取消不能なライセンスを付与する。SQM社に非支配株主持分のあるAdionicの知的財産は、本提携契約の目的上、SQM社の知的財産の一部とみなされない。ビジネスに使用される場合、または、ビジネスに必要な場合、合併会社、子会社、CODELCOに無料で使用されない。

第15条
提携契約の解除

  1. (1)当事者の書面による合意によって提携契約を解約できる。
  2. (2)当事者が第7条に規定された前提条件のいずれかに違反し、かつ、前提条件が違反したとみなされる原因が是正できない場合、または、是正される可能性がある場合であっても、一方の当事者が他方の当事者に特定の前提条件及びその原因について通知した日から30日以内に是正されなかった場合、提携契約を解除できる。

その他
利益の分配

第1期:
CODELCO(株式シリーズAの保有者として)は、各会計年度に販売された炭酸リチウム33.5千t/年(2025~2030年の6年間で合計201千t)に対して、リチウム事業の調整後純利益のうち割合に相当する金額を受け取る。
SQM社(株式シリーズBの保有者として)は、シリーズA株式保有者に分配されなかったリチウム事業の調整後純利益の金額を受け取る。
なお、現在、SQM社はCORFOとのリース契約により、リチウムを165千t/年生産する権利が割り当てられている。将来的に合弁会社は、リチウム生産量を135千t/年増加させ、最大300千t/年生産できる権利を得る。追加で生産された最大135千t/年で得た利益は、株式保有比率に応じてCODELCO及びSQM社へ分配される。
第2期:
シリーズA及びBが普通株式に転換され、CODELCO及びSQM社は、株式保有比率に応じた利益を受け取る。

おわりに

Boric政権が公約の1つとして国営リチウム企業(Empresa Nacional del Litio)の設立を掲げてから約2年が経過し、紆余曲折ありながら2023年、国家リチウム戦略を発表した。これまでのBoric大統領の政策を見ると、憲法改正を目指して作成された新憲法草案が国民投票により2度否決され、また税制改革は停滞するとともに同大統領の支持率が低調であることから、国家リチウム戦略次第で政権の真価が問われると言えるだろう。本提携契約は、チリ政府ないしCODELCOのアクションを鑑みるに同戦略の中でも最重要ミッションと位置づけられ、また、チリ政府のリチウム開発への本気度がうかがえる。

将来的にCODELCOは、国家リチウム戦略に従いMaricunga塩湖及びPedernales塩湖の開発を担うこととなり、民間企業と共同で開発する方針であるが、それぞれ権益の半分を取得することになっている。そのため、両塩湖においてもSQM社とCODELCOの提携契約が1つの前例になるだろう。一方、Atacama塩湖に関しては、SQM社及びAlbemarle社がそれぞれCORFOとリース契約しており、両者はCORFOに対してロイヤルティを支払う特殊なケースがある。Maricunga塩湖及びPedernales塩湖に関しては、CODELCOがCEOL(特別操業契約)を所有しておりCORFOに対してロイヤルティの支払い義務は発生しないと推察されることから、Atacama塩湖よりコスト競争力は高くなる可能性がある。また利益については純粋に株式保有比率に応じた配分となるだろう。

本提携契約は前提条件を明確にする必要があり、また発効日まで時間があるため、株主のTianqi社や先住民による何かしらのアクションも想定されることから、引き続き注視したい。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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