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報告書&レポート

2024年10月17日 サンティアゴ 事務所 兵土大輔
24-20

チリの銅資源について(2024年現在)

<サンティアゴ事務所 兵土大輔 報告>

はじめに

銅はカーボンニュートラル(CN)に欠かすことのできない資源である。従来からチリは多くの銅を生産し市場に貢献してきた。一方、チリの銅生産量は2000年以降から伸び悩み、また近年ではアフリカ諸国をはじめとする他国の銅生産量が増加傾向にある中で、チリの新規銅鉱山開発に変化が生じている。本稿では、2024年現在におけるチリの銅資源についてまとめた。

1.チリの銅資源について

チリは斑岩型銅鉱床及び酸化鉄型銅・金(IOCG)鉱床等の銅ポテンシャルが高い地域として知られており、世界第1位の埋蔵量及び生産量を誇る銅産出国である。チリ国内においても銅は主要産業として位置づけられ、2023年のGDPのうち鉱業は全体の11.9%、銅は8.7%と約1割を占める(図1)1

米国地質調査所(USGS)によると、2022年チリの銅埋蔵量は190百万tであり、世界の銅埋蔵量の23.1%を占める(図2)2。チリの2000~2022年の銅生産量の累計は123百万tに達し、2000年に発表された埋蔵量88百万tを既に超えた量を生産している。一方、埋蔵量は2000年以降ほぼ横ばいとなっており、資源メジャーをはじめとする民間企業の探鉱により多くの大規模銅鉱床のディスカバリーがなされ、埋蔵量が積み増されてきたと推察される。他方、チリの銅生産量は20年間ほぼ横ばいである(図3)。このことは、新規大規模銅鉱山開発による生産量増加がありながら、既存鉱山の減産、操業停止及び閉山、また銅品位の低下や不純物の増加等による生産量低下によりバランスしていることが要因とされる。その結果、世界におけるチリの銅生産量シェアは2004年の37.1%をピークに足元23.6%まで減少している。すなわち、将来的にチリは新規大規模銅鉱山開発及び既存銅鉱山の拡張がなければ、銅生産量シェアが益々減退することを意味する。

図1.チリのGDP推移(2013~2023年)

図1.チリのGDP推移(2013~2023年)

出典:チリ中央銀行の情報を基にJOGMECにて作成

図2.世界及びチリの銅埋蔵量、世界におけるチリの埋蔵量シェア

図2.世界及びチリの銅埋蔵量、世界におけるチリの埋蔵量シェア

出典:USGSの情報を基にJOGMECにて作成

図3.世界及びチリの銅生産量、世界におけるチリの生産量シェア

図3.世界及びチリの銅生産量、世界におけるチリの生産量シェア

出典:USGSの情報を基にJOGMECにて作成

2.チリの銅プロジェクトの進捗状況

チリの銅プロジェクトのうち、PEAから建設ステージの代表的な銅プロジェクトは8件あり、いずれも2031年までに開発が計画されている(表1)。これら8つの案件を見ると、従来の高品位や大規模銅鉱床のような優良銅案件が少なくなっていることがわかる。

(a)2011~2023年までに開発された銅鉱山、と(b)2024年以降に開発が計画されている銅プロジェクトの銅品位及び生産量を比較したところ、全体的な銅品位は0.5%前後と大きな違いはなかった(図4)。一方で、(a)2011~2023年までに開発された銅鉱山は、一般的に銅生産量150~300千t/年規模に対し、(b)2024年以降に開発が計画される銅プロジェクトの銅生産量は10~150千t/年、特に50千t/年未満の小規模クラスが多くなっている。すなわち、大規模から中小規模銅鉱山開発へとシフトしていることが読み取れる。

新規鉱山開発のCAPEXに関して、(a)2011~2023年までに開発された銅鉱山、と(b)2024年以降に開発が計画されている銅プロジェクトを比較したところ、上述のとおり大規模から中小規模銅鉱山開発にシフトしていることで全体的にCAPEXが低くなっている(図5)。また、昨今では海水淡水化利用、CNに向けた取り組みが重要視される一方で、(b)2024年以降に開発が予定されている銅プロジェクトのCAPEXが極端に大きくなるわけではないことがわかった。大規模銅鉱山開発であれば、銅生産に大量の水や電力等を必要とし、鉱山開発と併せて設備投資を行うことがある一方で、中小規模銅鉱山開発であれば既存設備からの共用インフラによるシナジー効果を得ることでCAPEXを抑えられているのではないかと推察される。

表1.チリの銅プロジェクト一覧(PEAから建設ステージのみ抜粋)
プロジェクト名(州) 権益所有者(%) 資源量
(百万t)
銅品位(%) 銅生産量計画
(千t/年)
ステージ CAPEX
(bUS$)
Arqueros(Coquimbo) 日鉄鉱業 (80)、
Inversión Privado Talcuna (20)
26.6
(可採鉱量)
1.01 15 建設 396
Santo Domingo (Atacama) Capstone (100) 436 (PV+PM) 0.33 106 FS 2,300
Diego de Almagro(Atacama) COPEC (100) 銅量300千t
(酸化鉱)
0.6 37.3 FS 597
El Espino (Coquimbo) Pucobre (100) 135 (M+I) 0.52 26 FS 700
Nueva Unión (Coquimbo) Teck (50)、
Newmont Goldcorp (50)
190 PFS 3,500
Vizcachitas (Valparaíso) Los Andes Copper (100) 1,220 (PV+PM) 0.36 183 PFS 2,440
Costa Fuego Copper(Atacama) Hot Chili (100) 798 (M+I) 0.37 112 PEA 725
Escalones
(Región Metropolitana de Santiago)
World Copper (100) 426 (Inferred) 0.36 56 PEA 438

PV:確定埋蔵量(Proven Mineral Reserve/Ore Reserve)
PM:予定埋蔵量(Probable Mineral Reserve/Ore Reserve)
M:精測資源量(Measured Mineral Resource)
I:概測資源量(Indicated Mineral Resource)

出典:COCHILCO及び各社HP情報

図4.チリの新規銅鉱山開発における銅品位及び生産量トレンド

図4.チリの新規銅鉱山開発における銅品位及び生産量トレンド

出典:COCHILCO及び各社HP情報を基にJOGMECにて作成

図5.チリの新規銅鉱山開発におけるCAPEX比較

図5.チリの新規銅鉱山開発におけるCAPEX比較

出典:COCHILCO及び各社HP情報を基にJOGMECにて作成

3.チリ鉱業のトレンド

昨今チリでは、資源メジャーをはじめとする鉱山会社は、ESG(環境・社会・ガバナンス)、持続可能な鉱業及びクリーンな銅を生産することに重要視している。その結果、2021年以降に28件の主要銅鉱山がCopper Markを取得している3。具体的には、地域住民と共生するために大陸水の利用を削減し海水を利用すること、操業に利用する電力を化石燃料から再生可能エネルギーへ転換すること、バスや重機等の電動化、無人オペレーション等の最新技術による作業効率化及び人的被害の低減等が挙げられる。将来的に銅鉱山会社はクリーンな銅生産ないし地域共生への取り組みを一層強化することになるだろう。

COCHILCO(チリ銅委員会)によれば、2022年の大陸水と海水淡水化の比率は64:36であるが、10年後の2034年には30:70と逆転が予測されている4。すなわち、将来的に銅鉱山で使用される水は海水利用が主流となり、海水淡水化プラントの設備投資、同プラントから銅鉱山までのパイプライン、淡水製造に必要となる電力等の追加コストが発生することになる。

また、チリ鉱業において将来的に重要な課題としては、銅品位の低下及び不純物の増加が挙げられる。鉱山会社は銅生産量を維持するために従来以上の鉱石処理が必要となり、並行して海水淡水化利用量や電気消費量も増加する。いくつかの既存銅鉱山は、これらの課題に対応するための拡張プロジェクトを進めている。これにより、2011~2023年に実行された拡張プロジェクトより2024年以降に計画する拡張プロジェクトのCAPEXの方がより高くなっている(図6)5

図6.チリの銅鉱山拡張プロジェクトにおけるCAPEX比較

図6.チリの銅鉱山拡張プロジェクトにおけるCAPEX比較

出典:COCHILCO及び各社HP情報を基にJOGMECにて作成

4.チリ政府の政策及び目標

Piñera前右派政権は、2021年9月に国家鉱業政策2050(National Mining Policy 2050)6を発表し、銅生産量において、現在の5.7百万t/年から2030年までに7百万t/年、2050年までに9百万t/年に増加させる野心的な目標を立てた。表1に示すとおり、2031年までに開発が計画される8件全ての銅生産量は約0.7百万t/年であり、現在の銅生産量と加算して6百万t/年程度、さらに並行して現在計画されている既存銅鉱山拡張プロジェクトによる銅生産量が合計1.2百万t/年であることから、2030年の7百万tの目標に到達する可能性はあるが、到達するのは大半のプロジェクトが実行に至った場合に限る。一方、2030年以降の計画に関しては、楽観的な数値の積み上げにすぎず、再度精査が必要になろう。

同政策発表から3年経過した現在、Boric左派政権に変わり、政府主導による政策実行に向けた具体的なアクション及び支援策は認められない。むしろ、上記銅生産量増加の目標と相反して、2024年1月より新鉱業ロイヤルティ法が施行され、他国に比べ鉱業ロイヤルティが高くなり、相対的に投資環境を悪化させ、新規鉱山投資を抑制させるような政策を取っている(2023年8月22日付 カレント・トピックス23-18:チリの新鉱業ロイヤルティ法参照)。新鉱業ロイヤルティ法案が提案された当時の右派政権は、「政府が鉱業から歳入を増やすには、生産量を増やし、競争力を高めることだ」とコメントしており、新鉱業ロイヤルティ法による税率を上げることに反対していた。一方、チリでは従来から、鉱業による利益の分配が銅鉱山のある地方まで行き届いていない、と国民が不満を抱いており、持続可能な鉱業を目指すためには地域との共生が重要な課題であった。同法施行に関してBoric大統領は、「大手鉱山会社に対する新鉱業ロイヤルティ法は、歳入を増やすためだけでなく、チリ国民の利益に資するものである」とコメントし、同法がこの利益再分配の課題解決の糸口として期待されていると考えられる。このように、外資を呼び込む右派から国民寄りの政策を取り入れる左派政権に交代した場合に起こりうる銅鉱業への影響が表面化した1つの事例であり、一種の資源ナショナリズムと言えるだろう。

<国家鉱業政策2050の主要な内容>

(経済)
・世界の銅生産量のうちチリが占める割合28%を維持し、現在の銅生産量5.7百万t/年から2050年までに9百万t/年に増やす。
・2050年までに鉱業関連(商品やサービス)がGDPに与える貢献を20%増やす。
・2050年までに生産性(TFP)を50%向上させる。
・2030年までに、過去5年間の平均と比較して、グリーンフィールド探査への年間投資額を2倍にする。
(環境)
・2040年までにCNを達成する。
・2030年までに鉱業関係で使用される水のうち、氷河、河川及び湖からの総水量を約10%、2050年に5%まで削減する。
・氷河を保護する。
・2050年までに住民にとって危険な尾鉱ダムを放棄または所持しない。
・循環型経済を促進する。

おわりに

チリの新規銅鉱山開発は大規模から中小規模へシフトしており、また既存プロジェクトの拡張においては、地域共生やクリーンな銅生産を目指すためCAPEXが増加傾向にあると言える。チリは2031年までに大規模銅鉱山の開発計画がほとんどない状況であり、世界の銅生産量シェアは徐々に減少すると予想される。長年チリにおいて銅産業は経済を支える重要な役割を担ってきた。将来的に世界の銅需要が増加する見通しの中で、チリが今後も世界のトップサプライヤーとしての座を維持するためには、政府が探鉱やその先の新規銅鉱山開発を促進させるような、インセンティブを与える政策が必要なのかもしれない。

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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